3.一目惚れ
「で、けっきょく学級委員やることになってさあ。なんで僕が・・・」
休み時間満守は律に、自分が学級委員になってしまった事を愚痴っていた。
「でも鈴木さんが委員長なってくれたんだろ?よかったな!」
「まあね。」
「で、あの子どうだった?」
一瞬あの子とはどの子だと思ったが、満守はすぐ転校生の和子のことだと気付いた。
「ザ・美人って感じ。大人しくてツンとしててお前とは真反対だな」
「俺さっき廊下歩いてるところ見てさあ!目があっちゃったんだよ。」
律は目をハートにして余韻に浸っている。
「何か似ているものを感じたというか、運命というかさ…」
「はいはい。美形同士だもんね」
すると談話している2人のところに、ねもティーがやって来た。
「お、また焼けたな天都。」
「ねもティーこそ、まぁた髭伸ばしてんの?それで元カノに振られたって言ってたくせに」
「うるせえやい。そんな事より寺内、お前帰宅部だったよな?」
何を企んでいるのかと疑問に思ったが、その質問に満守は恐るおそる首を縦に振った。
「奥敷の事なんだが、放課後に校内を案内してやってくれないか?もう1人の学級委員の鈴木はバレー部だし」
「おい、奥敷さんと仲良くなるチャンスだぞ!」
「なんで僕が…!好きなのはお前だろ」
「バカやろう、みっつーが仲良くなったら俺に紹介してくれよ」
「・・・わかったよ。先生やります」
ねもティーはサンキューと軽く言い残して去って行った。
「奥敷さんに手ぇだすなよ…?」
「お前が僕に頼んだんだろ!だいたい、僕は香ちゃんにしか興味ないし・・・」
2組の教室を覗くと、香が仲良く女子と話して笑っている。
「うんうん。香ちゃんはやっぱりボブが似合うな」
「変態みたいだな」
「うるさい!」
休み時間が終わると、また授業があった。
和子は変わらず上の空でノートもとっている様子がなかった。
お昼になると、購買組は急いで教室を出て廊下を走り抜いて行った。この時ばかりは争奪戦だ。
「よくやるよ…弁当持ってくればいいのに」
満守はそう言い鞄をあさった。しかし弁当はおろか、包みさえ見当たらない。
「マジか、忘れて来たあ・・・」
しぶしぶ購買へ行くと、争奪戦はすでに終わり食べ物が並んでいたであろうテーブルの上には『完売』の札が置いてあった。
「兄ちゃん悪いね、もう在庫も空っぽさ」
「そんなあ。おばちゃん隠し持ってたりしませんか?」
「そんなの無いよ。人気のないやつまで今日は完売なんだから」
購買のおばちゃんはせっせと片付けを始めた。肩を落とす満守。するとその隣にぬっと和子が現れた。
「カゴの中。そのカゴの中にまだある」
「えぇ?そんなはずないよ────」
和子が指差した、重なった青いカゴ。おばちゃんがひとつあげると、そこには購買で人気のたまごサンドがひとつ残されていた。
「ああ、ホントだ。兄ちゃんごめんね。これタダであげるよ」
「え、あ、ありがとうございます。奥敷さん」
満守が和子にお礼を言おうとすると、隣にはもう姿はなかった。