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神の裁きは待たない  作者: 喜楽直人
エピローグ
51/53

終結



 眼下で広がる戦場は、そろそろ終盤を向かえるようで、籠城戦の構えをとっていたゲイル王国がついに城壁を破られたようだった。


 ゲイル王国最大の穀倉地帯。

 温暖で水資源豊かであるこの土地は、だからこそゾール侯爵領から出回った薬入りの小麦とは無縁であった。


 だからこそ、ゲイル王国最後の兵力を結集する場所と成り得たのだ。

 

 そんな豊かな大地に広がる広がる小麦畑はとっくに火を付けられ焦土と化している。

 黒焦げの畑の中を、街から逃げ出そうとしている一般人の影はまるで人に巣を踏み荒らされ逃げ惑う虫けらのようだ。


 城壁の内側、瓦礫と化した街では未だ戦闘が続いているのか、人の泣き叫ぶ声や怒声や、金属がぶつかり合う衝突音が、わんわんと重なり合い遠くまで響いてくる。


 そんな地獄のような光景を、高台となる丘の上から、ふたつの影が見下ろしていた。 


 だが、見下ろしている筈の、四つの瞳はその悲劇に何の感慨も持っていないようだった。

 沈黙し、冷たく見下ろすばかりだ。



 中空にあった太陽の角度が落ち、明るかった日射しに陰りが見えた頃だった。


 司令部として陣取っていたこの街の荘園領主の邸から、兵士たちが誰かの首を槍の先へ刺して気勢を上げて出てきた。

 聞き取れないが、なにかを叫びながら、アズノルの司令官が陣取る後方へ馬を駆っていく。


 どうやら、最後の最後まで抵抗を続けていたゲイル王国王国騎士団団長であるレット・ワートが討取られたようだ。


 その言葉が届いたであろう周囲で起きていた小さな戦闘が、波のようになし崩しに終わっていく。

 跪いたところを斬られて死ぬ者。

 抵抗を続けていたが手の空いた者達に取り囲まれ命を断たれた者。


 だがそんな小さな抵抗も数を減らし、ついに戦闘は城壁の外から先頭を仕掛けていた側、アズノルの勝利で終わった。


 

 ぞろぞろと隊列を組み、アズノル軍が城壁内へ入る。


 先頭には、レット・ワートのモノと思わしき首級が今も槍の先へと掲げられている。

 そのすぐ後ろにはアズノルの将軍が誇らしげに馬上にあった。


 一団は、瓦礫と化した街の中央通りを抜けた先にある敵陣営であった荘園領主の邸へ向かっているのだろう。


 邸まで、もう少しという処まできた、そこで、丘の上にいたふたりの内の片方、男が動いた。


 大弓を引いて矢を射る。


 果たしてそれは、ごう、と唸りを立てて領主邸へと凱旋する一団の前を横切り、がちゃんと音を立てて地面へと突き刺さった。


 

 遠い場所からの攻撃に緊張が奔るも、騎士にも司令官にも誰にも当たらず地へ突き刺さった事に胸を撫で下ろしたところで、彼等は突然、胸を押さえて蹲った。


 バタバタと馬上から人が倒れ込む様子に、男は満足した様子で、手にした弓を解体し始めた。


 外れた一撃で十分だった。


 その一撃で、矢の先へ取り付けられていた瓶は壊れ、中に収められていた毒が辺りに広がっていく様が見て取れた。

 


「さぁ。風向きが変わって自分が毒の餌食になりたくなければ、移動を開始することにしよう」


 先ほど水源に同じ毒を流してきた。

 水の流れと風に乗って広がっていく毒はきっと、ピアの望んだとおりにこの地を汚し、人の住める場所ではなくなるだろう。



 いつか浄化できるかもしれないが、それが何時なのかなど、彼等の知る所ではない。




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