蹂躙
なろうの規約違反にならないよう気を付けて書いたつもりですが、エロです。
もっときわどいお話もあるので大丈夫じゃろというラインにできたと思ってはおりますが、エロ苦手な方はご注意ください。
前話よりも女性が虐げられるシーンがあります。
エロ含めて苦手な方は、最後の段落まで飛ばして下さいませ。
多分、それで内容はご推察頂けるかと思います。
香を温めるちいさなオイルランプの炎以外に、この寝所に燈る灯りはない。
時折、人の動きで出来た空気の流れに煽られて炎が揺らめく。
炎が照らす人の影も、共に揺らめいた。
布同士が擦れる音、肌が滑る音、なにかを啜りあげる水気を帯びた湿った音。
沢山の種類の音は複雑に重なり合い、闇の中へと溶けていく。
速度を増す呼吸と、舌ったらずな甘えた声が交互に室内へ響き、昇り詰めていく足の指が、シーツを何度も擦っていく。
閨でのパススは、普段の笑い上戸な屑男というイメージからはほど遠く、傲岸で無慈悲な支配者であった。
細い女の腰を掴み、勝手に上下へと揺すり上げる。
慈悲を乞う声など聞こえないのか、薄笑いを張り付けた表情が変わることはない。
長い髪を掴み引き寄せ、顎の付け根に指を喰い込ませて強引に開いた唇から喉奥へと自身を捻じ込み、もうひとりの身体の芯の最奥を、長い指を一度に何本も使い蹂躙していく。
どこが、痛みを感じさせるほど稚拙ではない、というのか。
次兄というのは、これより酷いのか。
パススの自己評価は完全な己惚れではないのか。
彼女等の頭の中で、思考の断片が思い浮かんでは言葉になる前に消されていく。
言葉どころか呻き声すら発する余裕もないほどの蹂躙に、ピアとカロラインは翻弄されていた。
ふたりの身体で、パススの噛み跡がない場所の方が少なかった。
アズノルにはない、白い肌に赤い痕が重なりながら散らされていく。
血が滲む場所をねっとりと嘗め上げられ、大きな手で擦り上げられ、薄い唇で啜られていく度に、二人の身体に、ピリピリとした何かが刻まれていく。
作り変えられる。
自分が変わってしまう。
意味の分からぬ涙が顔を濡らし、涙以外のなにかで自分の身体のすべてが濡れていく感触に身体が震える。
不安であるということ以外、意味のあることが頭に浮かばなくなってきた頃。
「そろそろ、練れてきた頃だろう。本気を出すことにしよう」
その言葉に、全身の毛が逆立つ。
特に、カロラインは身体中の血が抜けていくような冷たさを感じていた。
ピアと違い、酔いに任せて身体を強引に暴かれたという設定の無かったカロラインは、普通にエスト・ゾールと初夜を迎えていた。
その後も、彼が両親の訃報を聞いて失神し、倒れた拍子に頭を打って意識不明に陥るというシナリオに進むまでは、賭博に負けた不満の腹いせを受けるような情交を強いられた。
演技とはいえ、その身を穿つ男性自身による圧迫感も不快感もすべてが現実だ。
不快な記憶しかないそれを持つが故に、カロラインはピアよりもパススの言葉に震えあがる。
思わず後退ったその足を掴んで引き摺り寄せられた。
「ひっ」
足首を片手で掴まれてぶら下げられる様は、まさに獲物だ。
「逃げることは無いだろう? 呼んでもいないのに、可愛がって欲しいと願い出たのはお前の方だというのに」
それは、普段の笑い転げる声とはまったく違う、支配者の声だった。
従わせるのが当然至極であり、歯向かわれるなど思いもしていない。
生まれながらの王族。アズノル王国第八王子パスス・デル・アズノル。
強い意志を感じさせるまっすぐの眉。高い鼻梁と酷薄そうな薄い、けれども形のいい唇は、いつだって愉快そうに弧を描いていた。
そうやって弛められた視線と頬により、王族らしい印象は薄められていた。
それが意図したものかどうかはわからない。
けれども彼の本性本質まで愉快なものではないのだと、今初めてカロラインは思い知った。
逆さ吊りにされて頭に血が溜まっていく。それと共にカロラインからは思考というものが奪われていく。
カタカタと小さく震えるカロラインから視線を外すことなく強い瞳で見つめているのは支配する者だ。
カロラインは支配を受けるもの。
それが自然で、当たり前のことだと。
言葉で言われた訳ではない。ただ思い知らされた。
この世界の理を。目の前の男に、ひれ伏し、その言葉を待ち、従う。
それがカロライン、いや207の幸せなのだと。
何も考えないでいいのだ。
自分は彼の欲を受け入れるだけの、肉の器――。
「今夜は、私とパスス様の初夜。さすがに愛する従姉であろうとも、それを譲る訳にはいきません」
凛とした声が、カロラインの思考を遮る。
嫋やかな手がカロラインの足首を吊っていた逞しい腕に添えられている。
カロラインからは見えないが、花嫁は花婿と視線を絡めるようにして見つめ合っているようであった。
「……そうだったな。さすがに一国の最後の王族であるピリア・ゾール嬢と婚礼を迎えたその初夜に、花嫁からの贈り物であろうともそれに先を許すなど花婿として礼儀に反するところだった」
思いの外丁寧な手付きで乱れ切ったシーツの上に身体を下ろされると、カロラインは慌てて床へ降りて平伏した。
「お、お邪魔をするつもりではございませんでした。失礼致しました」
そんな震えるカロラインを一瞥もせず、パススがピリアの手を取り、細い腰に腕を回す。
頤を引き寄せ、その艶やかな赤い唇を貪った。
歯列を割り、強引に侵入してきた舌がピリアの歯を一本一本を確かめるように蹂躙していく。限界まで広げられた唇の端から涎が垂れ落ちるままに、奥へと隠れ潜んでいた小さな舌を絡めて吸い上げた。そうして隙間もないほどぴったりと合わされたそれが、にゅるりにゅるりと啜り上げられ擦られる度に、ピリアの頭はぼうっとしてくる。身体の奥に熱が溜まっていくのを、ピリアは無視しようと努めた。
だが、努めようと思えば思う程、そこに快感という熱があることを意識してしまうのだということが、ピリアには分かっていない。
ピリアの身体が小さく震え出したことに気が付いたパススが、パススの歯形がつけられたピリアの全身を、大きな手で隈なく撫で擦っていく。
噛み痕のひりつきが。
撫でていく手の熱さが。
ピリアの未発達な性を強引に目覚めさせていく。
拒否したくともどうすればいいのかわからないまま身体の奥へと溜まっていく熱に煽られて、撫でる手が生むむず痒いような微妙な感覚と噛まれた痕のひりつく痛みが複雑な模様に入り組み、脳がその刺激を痛みだと感じる余裕を失くす。
口腔内という敏感な箇所を蹂躙され、痛みと快感を同時に与えられ続けたピリアの身体に、溜まった熱からついに発火した。
口の端から零れた涎と涙で濡れた夜着は肌の色すらわかるほど張り付き、それを下から押し上げる胸の頂が抱き寄せられたパススの筋肉質な胸に擦れる。
その度に、これまで一度たりとも意識などした事の無かった下腹部にあるその部分に、直結しているような疼きが生まれるのだ。
水から揚げられたばかりの魚のように、ピリアは夢中でパススに自分を擦りつけた。
擦れる度に、捩られる度に。燃え上がるような脳が焼ききれんばかりの強烈な快感が生まれて消える。
生まれる傍から消えていく、身体の奥でスパークする快感に翻弄され朦朧としている身体が、強引に押し開かれた。
貫かれている。
いつの間にシーツの上に寝かされたのかもわからない。
だが、貫かれ、揺さぶられる度に、頭の中がチカチカと点滅するようだ。
快感というにはあまりにも強いその衝撃に、ピリアは言葉もなく空気を求めて喘ぐことしかできなくなっていた。
「解したつもりだが、さすがに中が硬いな」
囁かれたというより単なる品評を下しただけの言葉が、ピリアの耳元で呟かれたが、その意味するものすら理解できない。
「痛みを感じないのが不思議か? 感じすぎてしまうことの方が不思議か? どちらも、お前が自ら焚いた香の効果だ。俺達王族には効かんが、お前等には効果はあるだろう」
そんな疑問すら思い浮かんでいないということが、どうやらパススには分かっていないらしい。
実際、パススはピリアに教えてやりたかった訳ではない。
いきなり自分が持っていかれそうになったので、なにか喋って意識をそちらに移したかっただけだ。その為に選んだ話題が、ピリアよりも高みにあるのだという主張なのは男としてのプライド故かもしれない。
「くくくっ。もう言葉もでないか。だが、この宴は朝まで続く。続けるから覚悟しておけ」
興が乗ったのか、パススの動きが一層激しくなった。
その瞬間だった。
ちくん。
パススの後頭部に、痛みが走ったと思うと、そこから異質な冷たさが広がっていく。
快感に、脳内での血流が増えていたからだろうか。
快感物質が渦巻いていたからだろうか。
頭から始まった冷たさが、頸動脈を伝って、速やかに全身へと広がっていく。
「ぴ。ぴ、あ……ひ?」
自分を貫いたまま動かなくなった男の瞳の焦点が、完全に定まらなくなっていることを確認したピアが、にっこりと笑ってその腰骨に華奢な足を掛けると蹴とばすように突き放す。
ずるり、と不快な感触を残し、それはピアの身体から抜けるとそのまま後ろへ転んでいった。
その姿は、奇しくもゲイル王国王太子アルフェルトが薬で眠らされていた時のものにそっくりであった。




