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破滅の日・5

残虐なシーンがあります。

ご注意ください。




 騎士団長レット・ワート一行が王都に着く、その一週間ほど前。

 つまりは暴徒と化した民衆が王城を襲ったあの日。



「王の首を打ち取ったぞー! 一人で、隠し通路を抜けて逃げるところだった! 卑怯で矮小な小者だ!!」


 血が滴る首を掲げた男が王城の廊下を駆け抜けてゆく。


 髪を掴まれ振り回されているその生首が、本当にゲイル王国の国王のモノなのかはわからない。



 肌の色には血の気もなければ、瞳の輝きも失っていて、まるで蝋でできた作り物のようであり、ハッキリ言って不気味なものでしかなく、生前の面影など何所にも見つからなかった。


 けれども、そもそも民衆は国王の顔が分かるほど近くで、正面からその顔を見たことのある者などいないのだ。


 絵姿自体は国中で買える。だが、かなりの美化がされているそれは、描き手が違うだけでもかなり違った顔つき身体つきで描かれており、本人の証明になど使えるものではない。


 ただ王冠を被り、豪華な衣装と毛皮で縁取りされた真紅のマントを身に着けている偉そうな壮年の男性というイメージを持っているだけである。


 だから興奮状態にあった民衆は男の言葉を疑うことなく、投げ入れられた頭を奪い合うようにして王城のバルコニーへと運んで行く。

 もう、最初に掲げ進んでいたのは誰でどんな男だったかも分からない。


 目的地となるそこへたどり着いた民衆は、王族への不満や怨言を叫んで、手にしていた王の頭を、そこから投げ捨てた。


 わあわあと気勢が上がる中、周囲の熱気に煽られた一人が、地に墜ちて転がる王の首を蹴り飛ばす。

 ぐしゃりと蹴られる度に、まだ残っていた血が弾ける。

 その赤黒い血の色に向けて「青い血なんかじゃなかったな。悪魔のような男は血も黒い」と揶揄する声が上がった。


 正直にいえば、死者の遺体を玩ぶが如き民衆の行っている所業の方が、ずっと悪鬼めいている。しかしずっと異様な興奮状態にある今の彼等にそんな冷静な視点で自らを省みることはできない。

 むしろ男の言葉に酔いしれる。


「この国の王は、悪鬼に乗り移られていた! そしてその悪鬼の犠牲に、リタ・ゾール嬢はされたのだ!」


 軍勢が敵と交戦する時に上げるという鬨の声。

 それによく似た声が、民衆から上がる。 

 誰もが拳を突き上げ、その男の声に賛同した。

 


「王妃とその侍女たちが見つかったぞー!」

「この国の宰相だそうだ。ブクブク太りやがって」


 その後も次々と綺麗で豪華な服を着た男女が、その綺麗な顔を涙と鼻水で汚し人としての言葉も失くした様に、わあわあぎゃあぎゃあと泣き叫びながら引き摺りだされてくる。


 その度に、民衆は相手を小突き回し、蹴り飛ばし、髪を引っ張り回す。


 段々と力加減を失っていく暴力を与えられ続けた男女から上がる泣き声も聞こえなくなった時、それはやってきたのだ。





「不遇の天才であるリタ・ゾール嬢の無念を晴らす為、我等は剣を持って立ち上がることにした!」


 王都をぐるりと張り巡らしている城壁を、異国の兵士たちが取り囲む。

 そこから大音声にて告げられた宣戦布告を宣言する。


 その言葉は、王侯貴族への怒りの拳を振り上げているところであった民衆に、まるで神が助力を遣わしめたように感じられた。


 拍手と歓声によって、閉じられていた扉が開かれる。


 民衆が諸手を挙げて、もしくは拍手をもって迎え入れたのは、自国ゲイル王国と長年敵対しているアズノル国の兵士たちだ。


 彼等の握る剣によって、自分達の命が刈り取られるなど、彼等を迎え入れた民衆の誰も、全く考えていなかった。





***



 異国の兵士たちは、馬鹿正直に国境を越えてやってきた訳ではない。


 国境を越えてやってきた一団とはまったく別。


 少人数に分れて歳月を掛けて国境を越えて、辺境近くにあるポラス子爵家の領地を経由して、王都にほど近いゾール侯爵家の領地で集い、決行の日を待っていた別動隊である。


 ゾール侯爵家直系唯一の生き残りであり、寝たきりとなったエストの妻カロラインもまた、アズノル国の工作員なのだから。



 リタ・ゾールによる告発文自体、勿論偽造だ。

 複数枚が作られ、アズノルにとって都合がいいように使っているだけだ。元の文章すらない。

 それを根拠にすること自体が茶番の証であるのだが、それに疑問を呈する者もいない。


 もしゲイル王国で生き残った貴族たちが友好関係にあった他国へ助力を嘆願したとしても無視されるだろうとパススは判断し、それは間違っていなかった。




***



 こうして、中央大陸の華と謳われたゲイル王国は、民の怒りを逸らす為に、たったひとりの王子の処刑まで行うも、反って民意を損ねて激しい暴動を招き、王だけでなく王族の血の繋がりを持つ者すべての命と、中枢となる権力者、上位貴族すべての命を民衆により奪われることで、崩壊した。


 今は亡きアズノルの十三番目の王子が遺した予言書に基づき第八王子パスス・デル・アズノルが企てた計略により、国境をアズノルの部隊により突破されたその日の内のことだった。





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