Chapter8 母の想い、父の想い
リウは洞窟の中で目を覚ました。確かあのハゲ男と川の中でやり合っていたはずだが……。ああ、そうだった。アルセリアが助けてくれたんだったな。あれからどれだけ時間がたったのだろうか。アルセリアの姿が見当たらないな……。だがリュックが置いてある。アルセリアが回収してくれたのか。
リウは体の無事を確認すると立ち上がって洞窟の入口へと進んでいった。激しい雨はまだ降り続いており、遠くで雷も鳴っていた。そこでリウは生まれたままの姿で雨の中にいるアルセリアを目にした。アルセリアはドロドロになってしまった服を洗い流し、髪をほどいて天然のシャワーを浴びていたのだ。
「綺麗だ……」
リウは思わず呟いた。アルセリアはリウに気づくと脱いだ服で髪を拭きながら近づいてきた。心臓の鼓動が早すぎる。どんなに価値のある彫刻を前にしても、ここまで興奮することはないだろう。
「もう大丈夫なの、リウ?」
「ああ、君のおかげでね」
リウは平静を装って答えた。
「……それは良かったわ、でも雨はまだ続きそうね。もう少し休みましょ?」
そういってアルセリアは胸の前で服を持ち、奥に戻るようにリウを促した。リウが奥に戻り洞窟の壁にもたれかかるとその隣にアルセリアが膝を抱えて座り込んだ。リウの鼓動は更に早くなっていった。アルセリアがリウの顔を覗き込んでじっと見つめた。
「僕の顔に何か付いているのかい?」
「ううん、そうじゃないの……あのね……リウ」
やや間を置いてアルセリアが口を開いた。
「私……母さんの気持ちが分かったかもしれない」
アルセリアはいずれ去っていく父を受け入れた母の気持ちが分からなかった。それを今理解したという。アルセリアがうるんだ瞳でリウを見つめる。リウもアルセリアから目を離さない。
「僕は君の父さんの気持ちをすぐに理解したよ。君と出会った時にね」
そうして長い雨で冷え切った洞窟の中で二人は肌を重ねて温めあった。洞窟の喧騒は激しい雨と雷でかき消され、それを聞くものなど誰もいなかった。