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Chapter5 この手を掴んで

 

 山の斜面を抜けるとアルセリアが待っていてくれた。どことなく得意気な顔している。


「この中に入口があるわ。前に来た時に上から覗いたのよ」


 アルセリアは洞窟を指さした。上から覗いた、か。まあそうだろう。何かを隠す時には地下に隠すと昔から相場は決まっている。子供の頃にはよく想像したものさ。地面の下にはお宝が埋めてあるってね。そういえば昔、親父に騙された事があったな。宝があるといわれて庭を掘っていたら、結局花壇に使われたっけ。あれは絶対確信犯だったよな。


「それで中には入ったのか?」

「入ってないわよ?だってとっても暗くて全然見えないから」


 本当に財宝のある遺跡に繋がっているのか?リウの不安を知ってか知らずかアルセリアはあっけらかんと言い放った。


「大丈夫。ここを進めばきっと見つかるわ」


 きっと、ね。だがここまで来たら迷っていても仕方がない。アルセリアを見習って前向きに行くとしよう。リウが洞窟に踏み出そうとしたその時、先程よりも強い地震が発生した。


「どうしたの?リウ。入口はこっちよ」


 リウは地震でバランスを崩してしまい、よろけた結果先程まで通った道を座り込んで見つめていた。幸いにもアルセリアには見られていなかったみたいだ。


「ああ、雨が降ってきたなと思ってね」

「ほんとだわ、なんとかぎりぎり間に合って良かったわね」


 リウは差し出された手を握って立ち上がった。


「ところでこの島では地震はよくあるのか?」


 アルセリアはすこし考え込んでから答えた。


「そうね……、特に多いってわけではないけど最近はよくあるかも知れない」

「そうか、まあどちらにしても気をつけて行こう」


 リウはリュックからヘッドライトを取りだすと頭に巻いた。だがスイッチを押しても光がでない。なんてこった。こんな時に故障かよ。リウはヘッドライトを諦めて、懐中電灯を取りだした。よし、これでなんとかなりそうだ。


「ちょっとリウ、まぶしい」

「ああ、すまない。君も一つ持っておくかい?」

「……やめておく。あなたが持っていて」


 まあ仕方がない。あえて無理強いすることもないだろう。二人はやや下り坂になっている洞窟を進んでいった。


「そろそろ足元に大きな穴があるはずよ。リウ」


 リウは地面を照らしながらゆっくりと進んでいくとマンホールよりも一回り大きな穴が下に掘ってあった。ご丁寧に岩を削って梯子まで用意してくれている。しかし随分綺麗に岩を削るものだな。リウが感嘆しているといつのまにかアルセリアが梯子に手をやっておりようとしていた。


「ちょっと待ってくれ。僕から行くよ。下には何があるか分からないんだ。僕が先に行って確認するよ」


 リウは懐中電灯をリュックの網状の外ポケットに逆さまに差して下を照らしながら下りて行った。四メートルくらいおりただろうか、下に地面が見える。この梯子までの距離は……目測で三メートル弱か?地面も頑丈そうだし、なにかあっても戻れるだろう。ロープをひっかけて置いてもいいができれば取っておきたい。リウは梯子の最下部から手を離して着地した。懐中電灯で周囲を照らしても一本道が続いているだけだ。これなら大丈夫そうだ。


「アルセリア!大丈夫だ。下りて来てくれ」


 アルセリアが下りて行くと通路を見渡した。まるで下水道のような横穴が続いており、地面には石畳が敷き詰められている。インカの技術力が……まったく、この島に来てから一体何度、驚かされただろうか。


 二人が遺跡を慎重に進んでいると大きな音がした。それと同時に地面が揺れた。


「なんだ、また地震か?」


 リウがアルセリアの方を振り向く。アルセリアは申し訳なさそうに、恐る恐る自分の足元を指さした。


「ごめんなさい、私のせい」


 アルセリアが地震を起こした?健康的な体をしているがそこまで重くはないだろう。冗談のつもりか。アルセリアの足元を照らすと石が深く沈んでいた。ああ、なにかのスイッチを押してしまったようだ。前方から何かが近づいてくるような音が響いてくる。


「ねえ……リウ?これって……」

「……ああ、ぼくらを歓迎してくれるようだね」


 リウはアルセリアの手を取って元来た道を走りだす。その後ろから大きな球体が転がって追いかけてきた。なんて大きさだ。あれじゃあ逃げ場がない。どうする?リウは走りながら必死に考えた。だができることは一つしかない。リウはアルセリアの手を離した。アルセリアは一瞬戸惑いの表情を見せる。


「僕を信じてくれるかい?」

「ええ、信じるわ!」


 アルセリアは間髪に入れずに答えた。リウは驚きつつもそれを聞いて加速した。リウは元々器用な男ではないが、逃げ足の早さは数少ないリウの特技だ。逃げ足だったらカール・ルイスにだって負けやしないさ。


 必死に走るリウの目に先程下りてきた縦穴が見えてきた。リウは懐中電灯をポケットに無理やり詰め込むと、勢いを殺さずに跳躍して梯子を掴んで登っていく。そして穴から手を差し伸べて叫んだ。


(つかま)れ!アルセリア!」

「リウ!」


 アルセリアが走る。まるで大型トラックから必死に逃げているようだ。だが迫ってくる球体はクラクションを鳴らさないし、ブレーキを踏んでくれるわけでもない。アルセリアは跳ねてリウの手を掴む。その反動でリウは少しずり落ちたが、リウはそれでも必死にアルセリアを持ちあげた。


「だあああ!!」


 その直後、球体は二人の下を通り抜けていった。アルセリアは息を切らせながらリウに礼を言った。


「リウ、ありが――」


 だが言葉の途中でリウは緊張がとけて力が抜けてしまった。アルセリアの手を握っていた腕がぶらりと下がる。ぶらさがったアルセリアは自らリウの手を離して着地した。一方リウも降りようとしたが疲れの為か上手く着地できずによろけると尻もちをついてしまった。アルセリアはお尻を押さえて大袈裟に痛がるリウを見て思わず吹き出してしまった。


「ごめんなさい、そんなつもりじゃないのよ」


 アルセリアはそういって今度は口元を隠して静かに笑った。だがリウは不快感を感じていなかった。バランスを崩して尻もちをついたのは確かだが、むしろ予想以上の報酬を得られたのだから。


「君もそんな風に笑うんだな。初めて見たよ」

「そりゃこんなに笑ったのは久しぶりだけど……。でもあなただってあんなに真剣な表情するとは思わなかったわ」


 少しいじけたように言うアルセリアにリウは気取って返事した。


「いい男だったろ?」

「そういうことにしといてあげるわ」


 アルセリアは左右の手のひらを上に向けながら言った。


「君も僕たちと同じような仕草をするんだな」

「そんなこと言われても分からないわ。でも父の影響なのかもしれないわね」


 それはそうだろう。アルセリアはずっと島に住んで外のことなど知らないのだから。二人は再び奥に向かった。先程の失敗を繰り返さないように足元を照らして確認しながら慎重に進んでいった。


「随分と様子が変わったわね……」


 どうやら並べられている壁の石の大きさが変わったいるみたいだな。通路の大きさは変わらないが確かに雰囲気は変わった気がする。リウは緊張感が解けてホッと一息ついて思わず壁に手をついた。


「お、おお?なんだ?」


 すると壁の一部がそのまま押し込まれてしまった。遠くで何か大きな音がして地面が揺れると何かが転がりながら近づいてくる音がした。アルセリアが冷めた目でリウを見つめた。


「リウ……」

「ああ、君のご先祖様は……その、とても用心深いみたいだね?」


 アルセリアはおどけた顔で軽口をたたくリウの手を取って走りだした。


「馬鹿なこと言ってないで戻るわよ!」


 転がってくる大きな球体から逃げ、二人はまたもや入口の縦穴まで走りだした。 


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