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ポレットの聖女日記  作者: 炎鷹
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第5話

 報告会は聖女王をはじめ、各礎や神官、研究員幹部も参加する大きなものだった。

 聖女王候補たちの進捗状況やそれを受けてのスケジュール調整など話し合われた。


 聖女王候補であるポレットとエメリーヌは自分たちの事が議題になるので言葉にできない気持ちで同席している。

 特にポレットはエメリーヌの講義や課題の進み具合を聞いて、居たたまれなくなっていた。


 配られた資料を見ると、エメリーヌはポレットより先の課題に取り組んでいる。

 テーブルの下で両手を握りしめる。

 思うように進まない自分に悔しさが押し寄せる。


 結果、エメリーヌとポレットは今後、進捗に合わせ異なる課題が与えられることになり、解散となった。


 しょんぼりと肩を落としていると火の礎ジェラールが声をかけてきた。

「お嬢さん方、これから一緒にお食事でも如何か?」

 今日は朝一番のこの会議だけで、その後は休日とされていた。


 ポレットはエメリーヌと顔を見合わせる。

「喜んで」

「はい、私も行きます」

 その返事にジェラールはにっこりと笑う。

 くるりと視線を動かして、席を立とうとするレインニールにも同じように声をかける。


「たまには一緒にどうかな?」

「申し訳ございません。私はこれから予定がありますのでここで失礼させていただきます」

 書類を抱えるとさっと身を翻し、部屋から出ていく。

 その背が見えなくなって、ジェラールはフロランに視線を移した。


「私じゃないわよ。とっくに振られたの」

 直接問われたわけではないが、意味を察したフロランはむくれた表情で答える。

「ダメよ、ジェラール。もっと前から言わないとレインニールは時間を取ってくれないわ」


 横でコルネイルがやや驚いた顔で振り返る。

「もっと前に言ったのか?」

 確かにこの会議は事前に決まっていたものであった。

「そうよ。せっかく聖域にいるんだもの。出来るだけ一緒に居たいって思うのが当然でしょ?」


 自分の気持ちを全く隠そうとしない潔さにポレットはいたく感心した。

 エメリーヌも苦笑を浮かべている。


「聖女王候補と交流をもつのも大事だと思うんだがな」

 ジェラールは名残惜しそうにレインニールが出ていった扉を見る。

「予定って、いつも忙しそうにしてるじゃん。部屋に籠って出てこないし」

 殺風景な執務室を思い出すが、ポレットはレインニールがそこで何をしているか知らない。

 主にこの試験の事だろうとは想像できる。聖女王付きの研究員という肩書もあるので、自分たちが知らない業務もあるのかもしれない。


「皆、忘れているようだが」

 それまで黙っていた地の礎アレクシが注目を浴びるのを待ってから言葉を続ける。

「レインニールは現在も支部での業務を兼ねている。補佐がいるとはいえ、支部長として決裁をせねばならない案件もあろう」


 あ、とコルネイルが声をこぼす。

 ポレットも改めてレインニールの本来の仕事があることを思い至る。

 ただ、フロランは納得していない顔を見せる。

「それだけだと良いんだけどねぇ」


「不満そうだな」

「だって、レインニールよ。研究の掛け持ちは当たり前、次々に届けられるデータに気を取られて時間を忘れるなんてしょっちゅう。今は聖女王試験だからだいぶ制限してるみたいだけど」

 思い当たることがあるのか礎たちは各々、視線をさ迷わせる。


 ポレットの横でエメリーヌもため息を吐く。

 意味ありげに見れば、彼女も頷いた。

「うわさとして学舎に残っていました。更新されるデータばかり追って、論文としてまとめることをしなかったと」

「まとめている間に、データが過去のものになるってやつね」

 フロランはしょうがないわね、と笑う。


「卒業論文の時だったか?どっかの砂漠に出かけていたのは」

 ジェラールがアレクシに向き直る。

「それは進級のほうだ。研究名目で外出してろくに学舎にいなかったころだ。砂漠は廃墟となった聖殿を見に行っていた」

「あぁ、そうか。連絡が取れず、捜索隊を出したな」

 その時が懐かしくなったのか、遠い目をする。


 研究員とはいえ机にかじりつくばかりではいけないらしい。

 聖女王候補であるポレットにも運動の時間が取られていた。激しいものではないが、体は動かすように言われている。


「砂漠に一人で行かれたのでしょうか?」

「さすがに地元の案内人が同行したようだが、ほとんど一人だったと聞くな。女一人で砂漠を踏破されたらこちらも立つ瀬がない」

 礎の中でも背が高く、服の上からもしなやかな筋肉が付いているのが分かるジェラールが広い肩をすくめる。


「聖女王候補にそこまで求めねぇよ」

「人並みの体力があれば十分よ」

「祈りを捧げるにも体力と気力がいる。そこを身に付けることだ」

 礎たちに慰めるように言われて2人はあいまいに頷いたのだった。


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