私の妹にベタ惚れして溺愛している幼馴染みに私を見てほしくて妹にそっくりなメイクをしたらすぐに気付いて似合わないって言われたけど、どうして気付いたの?
「おいっ、蘭。行くぞ」
「えっ、待ってよ。まだちゃんと靴を履いていないの」
私は蘭と申します。
私の特徴は地味で眼鏡をかけ、邪魔な長い髪を耳より下で後ろに一つ結びにしている高校二年生です。
そしてモタモタしている私を、チラッと見て言った相手が私の幼馴染みの鈴太郎です。
彼はイケメンで女の子にモテモテです。
ちょっと切れ長な目はクールな印象を与えます。
彼も私と同じで高校二年生です。
「鈴君。忘れ物しちゃった。ちょっと待ってて」
「可愛い桜子ならいつまでも待ってるよ。待つより一緒に取りに行こうか?」
忘れ物をした女の子は私の一つ下の妹です。
名前は桜子です。
桜子は可愛らしい女の子で男子も女子も桜子を守りたくなるようなそんな魅力を持っています。
私とは正反対で活発な桜子は大きな二重の目と少し赤く色付いた頬と唇、柔らかいサラサラとした髪は肩にギリギリつかない程度の長さで桜子にお似合いです。
そんな桜子をベタ惚れして溺愛しているのが鈴太郎なんです。
クールな印象を与える目の目尻は下がり、優しさが顔から溢れ出ている鈴太郎はもう、桜子の虜です。
鈴太郎が虜なのは私と桜子への態度の違いで分かります。
私には厳しい鈴太郎は桜子には激甘です。
姉妹でこんなに態度を変える鈴太郎なんて嫌い、、、になれたらいいのですが、私はそんな鈴太郎が好きなんです。
昔は優しかったんです。
格好良かったんです。
今は意地悪です。
でも、今も格好良いのです。
「桜子。荷物は重くないか? 持ってやろうか?」
「大丈夫だよ。私よりお姉ちゃんの方が重いと思うよ」
「えっ、何で?」
「お姉ちゃんのバッグにはいつも全教科を一つ一つまとめたノートが入ってるのよ」
「へぇ~」
鈴太郎の反応はやはり薄いです。
これが桜子だったら褒めて荷物を持ってあげて溺愛するんだと思います。
私が桜子だったら、、、。
「桜子ちゃんになったら?」
学校に着き、教室に入り友達の雪に朝の出来事を話すとそう言われました。
「私が桜子になれる訳ないじゃない。地味で何をするにも遅くて、眼鏡かけてるんだよ?」
「でも蘭と桜子ちゃんは姉妹だからそっくりよ」
「そっくりな所なんてないよ。桜子は可愛くてみんなの人気者なのよ?」
「でも私は二人は似てると思うよ。ほらっ、蘭の眼鏡を取れば、、、」
雪は、そう言って私の眼鏡を取り上げました。
「ちょっと、雪。何も見えないから止めてよ」
私は焦りながら雪に言います。
私は眼鏡がないとほとんど見えません。
桜子にはお姉ちゃんは勉強のしすぎだって言われました。
「蘭は眼鏡を外すと大きな二重の目が現れるのよ? 眼鏡じゃなくてコンタクトにすればいいのになぁ?」
「私は眼鏡でいいの。鈴太郎が私の眼鏡を褒めてくれたの。可愛いってね」
「それは何年前の話なの?」
「えっと、幼稚園の時に作った手作り眼鏡をかけた時に言ってくれたから、、、」
「もういいよ。今の蘭のことじゃないことは確かなんだから」
「えっ、今は違うの?」
「今の蘭のどこを見て可愛いと思うの?」
「そんなヒドイこと言わなくてもいいじゃない」
「だから私は桜子ちゃんになったらって言ったのよ」
「だからなれないよ」
「それができるの」
雪はそう言って机の上にメイク道具を置きました。
メイクなんてしたことのない私には使い方もよく分かりません。
「メイクなんてしたことないよ?」
「それは私がしてあげるから少しずつ覚えなさい」
「メイクなんてする必要あるの?」
「桜子ちゃんに鈴太郎くんを取られていいの?」
「もう、既に取られてると思うんだけど?」
「それなら取り返すのよ」
「雪、楽しんでる?」
「当たり前よ。蘭はメイクしたら絶対に可愛いと思うの。だから楽しみよ」
「雪がそう言うならメイクしようかなぁ」
「それじゃあ、まずはこのクラスの男子を驚かせようか?」
「う、、、うん」
雪は目をキラキラさせて言ったから、私は心配になりました。
雪がやりすぎなければいいのですが。
◇
「おいっ、なんで妹がいるんだよ?」
「本当だ。姉貴はどこだ?」
「可愛い妹が姉貴を探してるぞ」
「可愛い妹を待たせるなよな」
私はメイクをトイレでしてもらい教室へ戻ると私の嫌味を目の前で男子達が言っています。
でも私はそんな嫌味も何故か何とも思いません。
だって男子達の目の前にいる妹は姉の私だからです。
「ごめんね。可愛い妹を待たせて」
私はそう言って眼鏡をかけました。
するとクラスの男子達はみんな驚いていました。
私は遠くから見ている雪にピースをしました。
雪もピースをして嬉しそうに笑っていました。
雪がしてくれたメイクは大成功でした。
私は雪がしてくれた、メイクをした顔をまだちゃんと見ていません。
トイレの鏡で見たけれど視力の悪い私には、ちゃんと見えませんでした。
「これで鈴太郎に見せれば私を好きになってくれるかなぁ?」
クラスの男子が桜子じゃないと気付き私から離れていくと、雪が私の側に来たので私は言いました。
「ダメよ。早くメイクを落とさなきゃね」
「どうして? せっかくメイクしたのに」
「鈴太郎くんには蘭が自分でメイクをして見せるの」
「えっ、私にはこんなメイクできないよ」
「できないじゃなくてやるの」
雪がお母さんに見えてきました。
雪は教育ママになりそうです。
そして私はメイクをすぐに落としました。
いつもの私に戻ります。
冴えない私。
存在感のない私。
うつむく私。
自信のない私。
放課後、雪とメイク道具を買いに行きました。
雪に何処に何色の何をつけるのかなど色々聞きました。
家で何度も練習ができるようにちゃんと覚えます。
そして教育ママの雪は厳しいので。
◇◇
「眼鏡をかけられないからメイクするのが難しいの」
私はある日の放課後、雪に困ったように言いました。
「それはコンタクトにすれば解決するでしょう?」
「でも、コンタクトって目の中に入れるんだよ?」
「大丈夫よ。怖いのは最初だけよ」
「でも、、、」
「今から買いに行こうよ」
そう雪に言われてコンタクトを買ってしまいました。
最初は本当に怖かったけれど何度かつけていると恐怖はなくなりました。
コンタクトはメイクをするときだけつけていましたがコンタクトのメリットに気付き、初めて学校へコンタクトをつけて行くことにしました。
「えっ」
一番最初に私のコンタクト姿を見たのは鈴太郎です。
鈴太郎は驚いていました。
「おはよう」
「あっ、おはよう。すごく、、、」
「鈴くん。おはよう」
鈴太郎の言葉を遮って桜子が挨拶をしました。
鈴太郎は何を言いたかったのでしょうか?
桜子が来たことにより鈴太郎の視界に私は映らなくなりました。
すごくの後の言葉が聞きたかったのに。
「あれ? お姉ちゃん、コンタクトしてるの? 可愛い」
桜子が私を覗いて見てきました。
可愛い顔が目の前にあります。
「可愛い桜子に言われても嬉しくないよ」
「素直に喜べよ」
私が桜子に苦笑いをしながら言うと鈴太郎が小さな声で言いました。
鈴太郎の一言に私は傷つきました。
私には、俺の桜子が褒めたんだから喜べよっていうように聞こえたからです。
涙が出そうになりました。
これでは二人の前で泣いてしまいます。
「ごめん。コンタクトにゴミがついてたのかもしれないの。ちょっとつけ直してくるから先に行ってて」
「お姉ちゃん大丈夫?」
「うん」
私は急いで玄関に入りました。
我慢していた涙が流れます。
そして私は学校を休みました。
腫れた目を見せられないからです。
雪からは心配するメールが入っていました。
雪には何があったのか話をしました。
雪は怒っていました。
悲しむことしかできない私の代わりに怒ってくれました。
雪がいてくれて良かったです。
今はまだ鈴太郎が好きだけど少しずつ忘れようと思いました。
でも一度だけでいいから桜子のように鈴太郎から溺愛されたいのです。
何度も練習をしたメイクには自信があります。
鈴太郎でも間違えるはずです。
『ピンポーン』
学校を休んだその日の夕方、インターホンが鳴り私は玄関へ向かいます。
「どちら様ですか?」
ドアを開けず訪問者に言います。
「鈴太郎だけど」
「えっどうしたの?」
「それはこっちの台詞なんだけど?」
「あっ、えっ?」
「まず、ここを開けてくれないか?」
「それは無理だよ」
「何で?」
無理に決まっています。
だってまだ目は腫れています。
「目が、、、」
「目? もしかして目が痛くて休んだのか?」
「あっ、うん」
「コンタクトなんかするからだろう?」
「そうだね。もうしないよ」
「えっ、すごく似合ってたのに」
「似合う?」
「何て言えばいいんだ? 眼鏡よりコンタクトが似合っているんだよ」
「コンタクトって似合うって言うの?」
「ああ、もう。分かったよ。可愛かったんだよ」
「えっ」
「そんなに元気なら明日は学校に来れるよな? また明日な」
鈴太郎はそう言って逃げるように隣の自分の家へ帰っていきました。
私を可愛いと言ってくれた鈴太郎。
嬉しくて顔がニヤケます。
好きの気持ちを忘れようとしたのにまだ無理です。
だって嬉しくて、胸がドキドキしています。
◇◇◇
「お姉ちゃん。明日から友達と学校に行くからお姉ちゃんは鈴くんと一緒に行ってね」
「それだと鈴太郎が落ち込むわよ?」
「そんなことないよ。お姉ちゃんがいれば大丈夫よ」
「私じゃダメよ。あんなに桜子にデレデレなのに?」
「お姉ちゃんがいれば大丈夫なの。だから明日から私はいないからね」
桜子はそう言って自分の部屋へ戻りました。
私はリビングのソファで明日から鈴太郎と二人だということを一人、静かに喜びました。
次の日、インターホンが鳴り、私はドアを開けます。
鈴太郎が立っていました。
「今日から桜子は友達と一緒に行くみたいだよ」
「桜子に会えないのか? 学年が違うから学校ではほとんど会えないのに」
鈴太郎はすごく落ち込んでいました。
やっぱり、私と学校へ行くのは嫌のようです。
「蘭、急げ。行くぞ」
「えっ、あっ、うん」
私は急いで靴を履きました。
いつもは急がすのに今日は私が靴をちゃんと履くのを待ってくれています。
昔の優しい鈴太郎に戻ったみたいです。
「蘭。行けるか?」
「うん」
そして二人で歩きます。
私の歩幅に合わせてくれる優しい鈴太郎。
狭い道を車とすれ違う時、私を心配してチラッと見てくる心配性の鈴太郎。
昔に戻ったようで私は舞い上がっていました。
「しかし、桜子がいないと華がないよな?」
やっぱり優しくない鈴太郎です。
だって私には華がないって言ってるのですから。
でも鈴太郎は桜子がいなくても毎日、私と学校へ行きます。
「そろそろ、いいんじゃない?」
「えっ」
私が登校して席に座ると横の席の雪にいきなり言われました。
「メイクもバッチリだし、これが最初で最後のアタックよ」
「アタック?」
「鈴太郎くんに好きって言うのよ」
「えっ、そんなこと言えないよ」
「諦めるにしても告白が一番だからね」
「私ってフラれるの?」
「分からないから告白するのよ」
「それって当たって砕けろってことなの?」
「砕けるかは分からないけどアタックはするのよ」
「アタックはするか分からないけど桜子メイクをしてみるわ」
「桜子ちゃんになって甘えちゃえ」
「雪。また楽しんでる?」
「うん」
雪?
あなたは私の友達だよね?
ちゃんと応援はしてくれるのよね?
◇◇◇◇
メイクはバッチリ。
長い髪は桜子のようにする為に切りました。
私は桜子になりました。
誰からも愛される桜子に化けました。
『ピンポーン』
インターホンが鳴ります。
鈴太郎が来ました。
私はドアを開けます。
「おはよう。鈴くん」
「えっ、何で?」
鈴太郎は驚いています。
「鈴くん。ちょっと待っててね」
「うん。桜子の為ならずっと待ってるよ」
桜子だと思い込んでいます。
大成功です。
鈴太郎のクールな印象を与える目の目尻は下がり、優しさが顔から溢れ出ています。
その優しい目は私に向いています。
こんな目をされたら甘えたくなります。
「鈴くん」
「何? 桜子」
「今日ね、体育の授業でテストがあるの。そのテストに合格できるのか心配で、鈴くんに応援してもらえたら合格できそうなの。だから、、、」
私は恐る恐る、鈴太郎を見ながら言いました。
鈴太郎はニコニコしています。
「桜子なら大丈夫だよ」
鈴太郎にそう言われて頭を撫でられました。
嬉しくて飛び跳ねてしまいそうになりました。
鈴太郎の優しさに触れた私はもう、幸せです。
しかし、これで気付きました。
やはり鈴太郎は桜子が好きで大切なんだということを。
私には二人の間に入ることはできません。
「鈴くん。ありがとう」
私は鈴太郎にこれが最後だと思い、笑顔で言いました。
私はもう、笑えないと思うからです。
妹と仲良くする幼馴染みを笑顔で見守ることはできないと思うからです。
「らっ、蘭?」
「えっ」
鈴太郎は私の名前を呼びました。
私は桜子になっているはずなのに、どうして私の名前を呼ぶのでしょう?
「鈴くん?」
「もう、いいよ」
「えっ」
「桜子のフリなんてしなくていいよ」
「気付いてたの?」
「うん。最初、見た時にすぐに気付いたよ」
「嘘。誰も私だって気付かなかったのに」
「俺をバカにするなよな。ずっと隣でお前を見てきてるんだ。気付かない訳ないだろう?」
「そうだよね。大好きな桜子と私を間違える訳なんてないよね?」
「何、言ってんの?」
「だって可愛い桜子に私が似てる訳ないよね?」
「だから何、言ってんの?」
「もうこれ以上、私を惨めな思いにさせないでよ」
私は下を向いて少し大きな声で言いました。
「それは自分のせいだろう? そんな似合わないメイクなんかしてるからだろう?」
「ヒドイ。一生懸命、頑張ったのに。どうしてそんなヒドイことを言えるの? 桜子にはそんなこと言わないのに」
私は下を向いていると、視界が涙で歪みだしました。
泣いちゃう。
「俺は蘭が好きだから桜子には言わない言葉を言ってんだけど?」
「えっ」
私は驚きのあまり顔を上げて鈴太郎を見ました。
鈴太郎は照れているようですが私の顔を見て驚いています。
「何で泣いてんだよ?」
「だって、鈴太郎が冷たいからよ」
「はぁ? お前が言ったんだろう?」
「私が何を?」
「好きな人には他の人とは違う態度をとって欲しいって。同じ態度だと不安になるって言ってただろう?」
「それはそうだけど、鈴太郎は冷たすぎるのよ」
「はぁ? 意味が分かんねぇ」
「私は優しくされたいの」
「分かったよ」
鈴太郎はそう言って私の腕を引っぱり近くの公園の中へ入りました。
そして誰もいない公園の大きな木を目隠しにして通行人から見えないように私を抱き寄せました。
「りっ、鈴太郎?」
「好きだよ蘭。だから泣かないでくれ」
「鈴太郎。どうしたの?」
「蘭。俺は桜子より君が好きなんだ。それがちゃんと伝わっていると思っていたけど違ったみたいだな」
「そうよ。だってあなたは桜子を溺愛して、私なんか見えていないような態度をとっていたんだもん」
「蘭、ごめん。これからはずっと蘭だけを見ているから。君だけを溺愛するから」
「えっ」
鈴太郎はそう言って抱き寄せていた体を離し、見つめ合います。
「蘭大好きだ。俺の為に綺麗になってくれるのは嬉しいけど俺は素顔の君が好きなんだ」
「だからメイクが似合ってないのね?」
「そう。君は何をしていても可愛いんだ。何をするにも遅くモタモタしている君も、不安そうに俺を見上げる君も、嬉しそうに笑う君も。全てが可愛いんだ」
「私にベタ惚れして溺愛してるのね」
「そう。俺は君が嫌って言ってもベタ惚れして溺愛するよ。俺はもう、君の虜なんだ」
「ねぇ、鈴太郎。知ってる?」
「何を?」
「私も鈴太郎にベタ惚れして溺愛してるのよ。だから大好きよ。鈴太郎」
私がそう言うと鈴太郎は顔を近付けたけれど目の前で止まります。
「鈴太郎?」
「キスしたいけどできないよ」
「えっ」
「可愛い蘭に似ている桜子に見えるからね」
「可愛い私に似ている桜子なんだね」
私は嬉しくなって笑ってしまいました。
ずっと私は可愛い桜子の地味な姉だと思っていたのに可愛い私に似ている妹だって鈴太郎は言ったのです。
私の方が可愛いと言ってくれたのです。
「それならこれでいいでしょう?」
私はそう言って背伸びをして鈴太郎の目を私の手で見えないようにしました。
そしてそっと鈴太郎にキスをしました。
そんな私を鈴太郎はギュッと抱き締めます。
「次は蘭の可愛い顔を見ながらキスをするからな」
そんなことを言う鈴太郎の顔はクールな印象を与える目の目尻は下がり、優しさが顔から溢れ出ていました。
優しさだけではなく、愛しさも溢れ出ていました。
私は彼からベタ惚れされ、溺愛され、愛されているのです。
読んで頂き誠にありがとうございます。
楽しくお読み頂けたら幸いです。