保険医ですが、死神です。
2人目の死神、来る!
悪霊。
それは人を傷つける悪い存在。
大半は死神の忘れ物である。
成仏させるべき存在を忘れ、そのまま何十年も現世を彷徨い続けた結果悪霊となる。
悪霊となったものは都市伝説として語り継がれることでよりその存在を長く保ち続けることも可能である。
「ってかんじ?」
「そゆこと」
「そいえば悪霊ってどうやって成仏すんの?」
気になるのも当然だろう。
主な方法は三つある。
大体の悪霊は遺体を燃やすことで成仏する。
遺体が見つかっていなかったり、埋葬されていた場合だ。だが、日本の場合だと火葬なのでその場合はほとんどない。
二つ目の方法が現世に縛られていた呪縛から解放してあげること。殺人事件は自分を殺した人間が痛い目に遭うこと、死ぬことや逮捕によって成仏する。
「んで三つ目は?」
「遺体は燃えていて、殺人事件の恨みの対象が既に死去していた場合や、恨みの対象を魂である自らの手で殺した場合だ」
滅多にないケースだが、殺人事件の被害者などで恨みの多い人間は、遺体が燃えたとしても現世に残る自分と最も縁の深いものに乗り移り、彷徨い続ける。
「わかった!成仏させるには大切なものを燃やすんだね」
「そ、わかってきたな」
ただ、大体の場合、地縛霊となり、自分の大切なものの周りから離れようとしないので、悪霊と死神で戦闘することになる。
「へーたいへんじゃん」
「そうなんだよ、そんな簡単じゃないんだ」
とりあえず俺はミヤビに過去の行方不明事件がこの辺で起こっていないか、その事件たちとの類似点がないかを調査させることにした。
そして俺は聞き込みだ。
「んで、どこ行くの?」
「あんたの学校さ」
「えーやだ」
唇をぶぅ、とさせ膨れ上がるレイコを横目に、ハンドルを切りエンジンを止める。
彼女の在籍していた学校だ。
「ここ嫌い」
「知るか、いくぞ」
俺はドアを開けて車を降りるが、幽霊である彼女にその必要はなく、するりとドアを抜け車を降りる。
誰だと聞いてくる教師らしき男に手帳を見せつける。
「警察です。レイコさんの行方不明事件について少しお話を先生や友人から伺いたいのですが」
「はぁ、こちらです」
「あ、その前に『ツルギ』先生はいらっしゃいますか?」
「あぁ保健室の、いますよ」
そう言った先生は俺を保健室へ案内する。
「ツルギ先生?なんであんたが知ってんのさ」
「学校の保健教師をしてる死神さ。俺の情報屋。生徒を利用して地域の都市伝説なんかを書き出してくれてるんだ」
『曇紫ツルギ』。
保健教師をしている男。
俺と同じ死神である。
基本的には成仏させることよりも、学校にまつわる都市伝説や、地域にまつわる噂話、都市伝説なんかを生徒を通じて収集している。
こちらに、と扉を開けると男が1人。
机に突っ伏して寝ていた。
「死神君おはよう」
「やぁ、タナ!君も死神だろ?」
この元気いっぱいなやつがツルギ。
ボサボサで、いつから切っていないのか、不安になるぐらいの長い紫の髪からは、眼鏡と黒の瞳がのぞいている。
「ツルギ、情報が知りたい」
「ねぇ君、いつになったら僕のことを『ツッ君』って呼んでくれるの?ねぇいつなの?ねぇ今なの?」
「うざいぞ」
ボンと頭を殴ってみるが少しかくだけで痛そうには見えない。
「その子が?」
「あぁ、お前もよく知ってるんじゃないのか?」
「うん!知ってるよー!よくうちに来てた子じゃないか」
やっぱりな。
なんとなくそんな気がしてたんだ。
こいつは不安だったり不幸な奴を惹きつける能力がある。死神にもそれぞれ得意分野があり、彼は死相の出ているものを惹きつけるってことかな。
「その子の居場所ならしってるよー?」
「ツルギ、教えろ」
「じゃあまず、ツッ君ってよぼ?」
「もう一回死ぬか?」
拳を突き上げ、死神の鎌を構える。
レイコは驚き腰を抜かす。
ツルギはひどく怯えたフリをしながら愛想笑いを浮かべていた。
ほんとにくえないやつだ。
「その子が死んだのはねえ」
廃校になった高校だ。
10年ほど前。
自殺したものが相次いだため、廃校舎となり、
今は新しい校舎が別のところにできている。
10年ほど前の行方不明者が相次いでいた時期があった。見つかったのはその校舎の裏庭。
原因は不明だが、死体の足に掴まれた後や、
DNAが解析不能の髪の毛が落ちていたりした。
周囲のタレコミ、周辺でも目撃証言が一切無かったこと、防犯カメラの映像の無さ、指紋や死んでいた人物の過去から自殺だと多くの人間が考えたらしい。
呪いだなんだと騒がれたため入学拒否者が激増。
その結果、廃校とせざるを得なくなった。
「ふーん、その自殺した霊か」
「いや、その大元だろうね」
「それは誰だ」
「ツッ君ってよんで?」
くそっ。死神パンチ。
こいつ腹立つ。
呼んだら呼んだで有る事無い事言いふらされるのがオチだ。どこで録音されているのかもわからない。
そんな中、プルルと音が鳴った。
「ツッ君って呼んでー!」
迫ってくるツルギを交わしながら、
ポケットの中で震える携帯を手に取る。
「ミヤビどした?」
「数十年前から行方不明や自殺者が出ている学校がある。いまのお前が捜査に向かった学校の旧校舎だな」
「一番初めの事件がないか?何十年も前の」
「あった、1978年、班長の生まれた歳だ。
えーっと、女の子が1人屋上から転落死している。
遺書も残っていることから自殺だったみたいだな」
「その子のこと教えてくれ」
「住所とかも書いてある」
「おしえろ」
ヒントがあるとしたらその遺書だ。
何か成仏させるきっかけみたいなものがあれば。
「わかった、住所メールで送るよ」
「よし、あとで合流しよう」
未だにかまって攻撃をしてくるツルギを殴り飛ばして保健室を飛び出した。中指を突き立てながら。
「いかないで!いとしのタナくん!」
メガネをとり、服で拭う。
白衣の下に纏う、紫のTシャツには『嫉妬』の2文字。
愛し、愛される2人の世界を望む彼にはぴったりだ。
「タナ君、気をつけてね」
メガネの奥に潜む瞳が怪しく煌めいた。