被害者ですが、変態です。
聞き込み編
公園から歩いて数分のマンション。
とても高級そうには見えない、失礼だが普通のマンションだ。
ミヤビと共に、マンションへとやってきた。
「どちら様ですか」
「警察の者です、少しお話を」
出てきたのは女子高生。
当然休みの日なのだが、パジャマを着ていた。
田中のおっさんが妙に興奮していたが無視しよう。
玄関の靴から察するに両親は家にいないらしい。
そのまま自室に案内される。
質素な部屋だった。
「両親は今買い物に出ているんです」
普通の女子高生って感じだな。
しかし注意して見回してみると、
ハンガーにはブランドものの服。
机の上や床にはバッグが置いてあった。
どれも高価なものばかり。
一般的な女子高生がバイトをしてためてもこれだけのものは買えないだろう。
警察官的には行っていることは許せないがそれはまた別だ。
「あなた、夜の8時頃どこにいました?」
うつむいたまま話さない。
「内容はほかには漏れません。
あなたの友人や学校、親にも連絡はしません。
安心して話してください」
自分の行為がばれることを悩み、黙っていたが、
俺の言葉に安心したのだろうか。
少しうつむいたかと思うと口を開いて話出す。
「8時ごろは男性と待ち合わせていたので待っていました。
しかしいつになっても来ないので、そのまま自宅に帰りました。」
「それを証明できる人物は?」
「うーん、私一人だけでしたので
でも、帰りにこのマンションの住民の方とすれ違いました」
「そうですか、ご協力感謝します」
田中は、机の下に座ってスカートの下着を眺めていたので、
死神パンチで懲らしめておこう。
説明しよう。死神パンチとは。
死者の魂に対して唯一殴ることのできるパンチである。
何考えてんだ俺。
ちなみに死神キックもある。
「どう思う、あの子」
「黒ですね、けっこういい趣味してました」
「嘘を言っているようには感じなかった。
実際、あの子があの男を殴って倒せるとは思えない」
「だよな、じゃあ山崎か」
田中は口をはさむな。
いろんな意味に聞こえてしまうだろう。
俺たちはあの女の子のパンツの色を聞いたわけじゃない。
「次は山崎だな、今のとこ、一番怪しい」
男の自宅を訪ねてみた。
「はーい」
玄関から出てきたのは一人の女性だった。
きれいな人だ。
家を見る限り山崎の家はかなり裕福なようだった。
この辺自体が、そういった人が多く住む土地だもんな。
「警察のものなのですが、山崎さんの旦那さんは在宅でしょうか」
「いえ、主人は一昨日から出張で出かけています」
「奥さん、あいつ浮気してますよ」
「そうですか、帰ってきたら連絡ください」
名刺をみやびが渡し、二人で家を去る。
こそこそと耳元で告げ口をした田中だったが、
当然幽霊なので聞こえるはずはない。
奥さんきれいな人だったな。
玄関から入れてくれそうにもなかった。
玄関には旦那が出張だというのに男性の靴が脱いであった。
ま、そういうことだろうな。
お互い都合のいい関係なのだろう。
「出張って本当か」
「さぁな、会社に連絡してみてくれ」
「ああ、聞いてみる」
そういって電話を掛けにみやびが去る。
おそらく浮気のために家を空ける言い訳ってところか。
「なぁ、あんた死んだのは一体何時だ?」
「午後5時ぐらいだったかな」
「そんなはずはない、あんたの死亡推定時刻は8時だ」
「いや確かに間違いない、あいつとのやり取りにもそう書いてあったはずです」
「確かに…」
全くわけがわからない。
やつが死亡時刻をずらした方法がなにかあるはずだ。
そのためにもやつの家を調べてみる必要があるかも。
そうこう考えているうちに、みやびが走って帰ってくる。
「山崎は有給をとっていたみたいだ。
家族にも出張と嘘をついていたし、あいつが黒で確定だな」
「いえ、この子は白です。
あ、ピンク、かわいい。
こいつ、ない、だと…
あれ急に目の前が真っ暗に…って
人の顔面を踏まないでください!」
田中よ、路上で寝転ぶのは幽霊であってもだめだ。
あまりにもうっとうしかったので顔面を踏んでしまった。
イライラを通りこしてしまいそうな勢いだ。
むしろムラムラしてきた。
なんだ、あの女子高生。
履いていないだと。
田中も冗談は顔だけにしてほしい。
「山崎の居場所を探ってみるか」
「いや、俺は三人目にあたってみる」
「いや、その可能性はないだろ」
「念のためってやつだよ」
とりあえず、経歴を調べてみた。
名前は、伊藤健太。
職業は投資家。
株で儲けてかなりの財産を得ているらしい。
家は現場の近所であり、徒歩で五分もかからないような場所だ。
伊藤の一軒家はこれまでに見たことないほど豪勢なものだった。
家の中まで入らなくても、遠目でそれがわかる。
普通都会の一軒家やマンションは、
土地が高いため、狭い土地で階数の高いものを立てる。
しかし、伊藤の家はどうだろうか。
都会の一等地に数百、下手したら何千坪もありそうな家を建てている。
豪華な門扉の前で恐る恐るインターホンを鳴らす。
ギィと重く、苦しい音が鳴る。
耳には優しくないな。
「はい、どちら様でしょうか」
「伊藤さんですね、私たちこういうものです」
露骨にいやそうな顔をし、さとられてはいけないと思ったのか、玄関を開き中へ案内する。
「どうぞ、窮屈な部屋ですが」
豪華なインテリア。
高価そうな家具。
窓の外にはまさかのプール付き。
天井は高く、二階との吹き抜けになっているようだ。
そして左手には金色に輝く豪華な時計が。
被害者の田中さんとのやり取りで見た時計があった。
「こいつですよ!僕を殺したのは!」
「いらっしゃい、刑事さんが僕に何の用でしょうか」
「昨夜8時ごろどこで何をされていましたか?」
「友人と食事していましたよ、それが何か?」
「被害者の田中さんの端末には履歴が残ってるんです」
「あー、それは午後5時頃ですね。
でも、取引は無事終了しまして、8時には友人と外食しました。
おそらく防犯カメラの映像でも、お店に行けば残っていると思いますよ」
田中の慌てようや、今にも組み付きそうな勢いから、
こいつが本当に犯人だってことは十分に理解できた。
「本当に、豪華なおうちですね」
「ええ、プールに、露天風呂、庭には池で、サウナなんてのもありますよ」
うらやましい。
俺が何年かけて働けばこんな豪華な家に住めるのだろう。
食事のことを考えるだけでも憂鬱だってのに。
半分以上が風呂の話だった。
こいつにはアリバイが十分すぎるほど存在していた。
実際にカメラの映像を確認したら、午後7時過ぎに入店していた。
近隣の住民からの目撃証言によれば、12時ごろ帰宅する姿が目撃されている。
「失礼します」
「せっかくですから、お茶だけでもどうです」
目の前に出されたのは明らかに高価なお茶。
香りからして、俺がいつも飲んでいるコーヒーとはまるで違った。
こいつを飲まずに帰っていいのか。
人生で一度は飲むべきじゃないのか。
「数万円する豆からひいたコーヒーです」
「いただきます」
俺たち庶民は金には弱い。
「山崎のほうは、居場所が特定できたみたいだな」
「はい、朝方駅前の路上にて倒れていたところを巡回中の者が保護していました。
今現在は取調していますが、証言によれば覚えていない、記憶がないの一点張りです」
「そうか、お前はどうだ。伊藤って男を調べているようだな」
「はい、アリバイは十分あるのですが、なんか気になって。
もう少し調べてみます」
「あぁ、だが、山崎の黒を覆すには相当の証拠がいるぞ」
何とかやってみます、そういって、班長とみやびの前から立ち去った。
「あいついつも、変な感じですよね」
「あいつはああいうやつなんだ、いつも最後に事件のどんでん返しをしやがる」
俺には時間がなかった。
急がなくては。
田中さんが悪霊になってしまう前に。
次回、解決します