死神ですが、警察です。
思いつきでかいてます
俺は『嗣神 蛇那』。
警察官である。
仕事以外の趣味はとくにない。
人はいつか死ぬ。
その瞬間をただ待ち、生きがいとしている男だ。
「被害者は?」
「所持していた携帯端末によると、
田中誠、32歳、会社員で独身です。」
公園の時計はすでに夜中の12時まで回っていた。
あたりは暗く街灯の照らす明かりのみが頼りだ。
吐く息は白く、煙のように空気に溶けていく。
さらした肌がかじかんでいく感覚を覚えた。
指の先が真っ赤になる。
「すまんな、こんな時間に事件だなんて」
「いえいえ、それが僕らの仕事ですから」
「どうせ俺らなんて家に帰っても寝るだけだよな、嗣神」
やけに絡んでくる同僚の『ミヤビ』を手で制しながら中央へと向かう。
寒い手に手袋をはめるが、寒さはちっともまぎれなかった。
仮設テントの青い暖簾をくぐる。
鉄のにおいが鼻を刺激した。
嗅ぎなれたにおい。
頭がさえてくる。
「説明してやってくれ」
「死亡推定時刻は体温の低下具合や、気温を考えるに、午後8時前後。
公園をジョギングしていた男性が第一発見者です。
公園の中央に大きなカバンが置いてあったため、
怪しいと感じ、通報したということでした。
被害者の体には、いくつもの暴行の跡があります。
致命傷になったのはこの後頭部の打撲。
何者かに殴られて地面に転倒しそのまま…ってことでしょうね。」
死体を近寄り眺める。
遺体のそばに置かれたブランド物のキャリーバッグ。
おそらく、この中に、彼の遺体が詰めてあったのだろう。
体は死後硬直によってまるまったままだった。
体中にできた青い痣。
スーツの上には赤いしみができていた。
襟元を確認すると有名ブランドのロゴが入っている。
短く生えそろえられた爪。
ひげはそり残しが目立つのになぜこんなに爪だけは丁寧なのか。
「彼の家からは数十キロ離れています。
鞄に入れられ運ばれたと考えるのが妥当かと」
ここから遠い家の人間が犯人なのか。
もしくは、単純に別の場所で殺害したため運ばれただけなのか。
わざわざブランドのキャリーバッグにいれて運ぶ必要があったのか。
「よし、計画的犯行の線もあたってみよう。
石川はこいつの会社や取引先ともめてなかったか調べてくれ。
尾崎は近隣に目撃者がいないか探してこい」
「じゃあ俺はこいつの友人関係をあたってみます、行くぞ」
みやびに手を引かれる。
「いや、俺はもう少しここにいるよ」
いかにもしかめ面なのが、背後の雰囲気で察することができる。
お前はいつもそうだよな、そんなことを言いそうな感じだったが黙って外へでた。
「こいつはこういうやり方なんだ、後で合流しろよ」
「前みたいに一人で全部やろうとすんなよ」
後ろのほうで聞こえる足跡とシートをくぐる音。
音がやんだのを確認し、顔をあげ、あたりを見回す。
目の前には、横になった被害者の男性と、
棒立ちで自分の死体を眺める被害者の男性。
「あんたは何で死んだ」
死体のそばに立つ死体と同じ顔をした男に話しかける。
男は話しかけられたことに驚いたのか、目を丸くして恐る恐る答えた。
それもそうだ、死んだ人間は話ことなんてできないのだから。
「わたしを殺したのはSNSで知り合った男です。
どうか犯人を捕まえてください」
死者の声が聞こえる。
これは普通の人間にはできない。
ちょっと霊感の強い人間でも、存在を感知できたり、
電波の悪いラジオのようにノイズが入った声が聞こえるぐらいだろう。
しかし、おれは会話できるのだ。
なぜか。
話は単純。
警官で、死神だから。
殺された人間の魂を冥界へと導く者だからだ。