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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

偶然出会ったセーラー美少女がめちゃ強剣豪だった件

作者: 赤みどり
掲載日:2020/05/14

「あと20分か……早く来すぎたな……」


 時計の針も21時を回ろうとしている満月の夜、俺は一人、ホームにて汽車が来るのを待っていた。チラチラと時計を見ていると、一人の駅員が気楽に話しかけてきた。


「お客さん。この時間にこんな荷物持ってだなんて、旅行か帰省かい?」


「ん?あぁ、そうかな……」


 駅員の言うことは近からず遠からず。どちらかと言えば旅行だろう。新天地で綺麗さっぱり1からやり直すための旅行だが。


「ま、色々とね……」


「ふーん。ま、次で最終だからね。乗り遅れなさんなよ」


 駅員はそう言うと、フラフラと駅舎の方へと入っていった。


「ふぅーー……」


 俺は溜息をつくと、ホームのベンチに座ってふと夜空を眺めた。心を洗うほどのキラキラ満天の夜空だ。


 突如知り合いから持ちかけられた新興事業。何の気なしに乗った結果、経営は失敗で多額の借金、消えた知り合い。そしていつの間にか連帯保証人……。逃げるなら今日の夜の内しかない。


 何度も時計を見るが、ちっとも針が進まない。もう今頃家の方には取り立てに来てる頃だろう。いつ闇金融の取り立てが来たらと考えると、今にも吐きそうだ。


「あと15分……。汽車が来れば俺の勝ちだ……」


 今か今かと待ち望んでいたその時だった。


「隣、詰めてくれ」


「え?んんっ!!?!?」


 突如、すぐ横で誰かが俺に話しかけてきた。思わず心臓が飛び出そうになった。


 それは一人の少女だった。

 黒いオカッパに白い肌、黒と白リボンのセーラー服という見事にツートンカラーな東洋系の少女だ。


「(なんだ?女の子?なんでこんな時間に?にしても………)」


 俺はまじまじと彼女の顔を見た。鼻筋の通った端正な顔立ちだが、まったくもって無表情。そしてなによりも気になるのは目だ。光の無い、人殺しのような殺伐とした鋭い目をしている。


「(なんて目してやがる…。もしや取り立て人?それとも追っ手か?)」


 視線を顔からゆっくりと下ろすと、腰に帯刀しているのが見えた。真っ黒の艶のある鞘に入った特徴的な柄は、噂には聞いたことのあるカタナというやつだ。身の毛がよだったのが自分でもわかった。


「おい、聞こえないのか。詰めろと言うてるんだ詰めろと」


「え?」


「座れんだろう。私が」


「あ、え?俺を捕まえに来たんじゃ?」


「……何を言うてる?早く詰めろと」


「あいや、なんでも!そ、そうだな。すまない、詰めるよ……」


 少女の呼びかけに俺は急いで左へと詰めた。よく考えればもし取り立てならここで問答無用で掴みかかってくるはずだ。このやり取りからも彼女は敵ではないのだろう。


「すまん。かたじけない」


 そう言うと、少女は手に持った荷物を足元に置いて、ベンチへと座った。背筋をピンと伸ばして、やけに行儀が良い。


「……………………」


 しばらく沈黙が続いた。時計を見ると、まだ3分しか経っていない。俺は汽車が来るまで彼女と話してみようかと考えた。それは単純に興味からと緊張をほぐす為でもある。


「………あ、あのさ」


「む?」


 俺の声に少女がふり向く。光の無い目が、こちらを冷たく睨む。


「め、珍しいね。こんなところでこんな時間に、君みたいな子がいて……」


「……………そうか?」


「そ、そりゃ、若いだろうに一人でだなんて、ねぇ?今着てるのセーラー服ってんだろ?珍しいよな」


「私の国では、珍しくもない…………」


「見た目からしても東洋系だし、そりゃ珍しいよ。腰にあるの、それカタナだろ?サムライってやつ?えーい!でやー!って……」


「…………………」


「あはは………」


 自分が口下手だからか、全然話が盛り上がらない。ただでさえ怖い彼女の目つきがさらに鋭くなる。


「(はぁ〜……やっちまったぁ〜……)」


 俺は思わず頭を抑えてしまった。彼女がどう思ってるかはわからないが、良い気持ちはしてなさそうだ。身なりといい得体のしれない奴なのは確かだ。もしかしたらこのまま斬り捨てられるかも、そう考えると余計に緊張が増した。


 この状況、どう打開すべきか。そう考えていたその時だった。


 グギュルルルゥ〜〜〜


 獣の唸り声のような腹の音が沈黙の空気を裂いた。静かだからか音もよく聞こえる。まず、自分でないのは確かなので、となると答えは一つだ。


「あ、君……」


 俺は少女の方を向いた。


「…ん?」


 まるで表情を崩さない少女。だが、腹の方からは落ち着いた様子とは対照的に、酷く唸りをあげている。


「もしかして、お腹空いてる?」


「………二日は何も食べてないな」


 少女は全く平静に答えた。この子がどういう理由でここにいるかはわからない。が、若い女の子が二日も食べてないというのは素直に心配である。俺はそれを聞くと、バッグを開いて紙に包まれたサンドイッチを一個取り出した。


「ほら、これ食いな。俺の朝食だけど分けてやる」


「………」


 サンドイッチを差し出すも、少女はまるで状況が理解してないような様子だ。


「……君に物を貰う筋合いはないんだがな……」


「いいから。ここで会ったのも何かの縁だ。あんたが何者か知らねえけど、食わねえと元気でねぇよ」


「………そこまで言うなら。では、いただこう……」


 無理を言いながらも、何とか受け取ってもらった。これが話のキッカケになればいいのだが。


「ほう、サンドイッチか。では、いただきます…」


 少女は包装紙から取り出すと、ゆっくりと手を合わせた。酷く腹を空かして二日も食べていないと言うのに、食事を前にしても平静だ。そしてそのままお淑やかに、ゆっくりと口にした。


「どうだ?美味いか?俺が作ったんだ、それ……」


 少女は何も言わない。ただ、二口、三口と咀嚼は続けている。


 全てを食べ切った後、ようやく少女は口を開いた。


「…………美味かった。礼を言う……」


 少女はそう言うと、ペコリと頭を下げた。


「いやぁ〜ははは。そんな良いもん使ってねぇよ」


 俺は何となく恥ずかしくなって、髪を掻きむしった。人に感謝されたのは久しぶりだ。


「でもまぁ、旅は道連れ世は情けって言うでしょ?だから…」


 気も和らいだところで話しかけた直後だった。


「まもなく汽車が参りまーす!お待ちのお客様は、白線の下まで下がってくださーい!」


 ホームに響く駅員の声。時計を見ると、もう汽車が来る時間になっていた。


「あ、もう来るのか」


 汽車が来ることを今か今かと待ち望んでいたはずなのに、いつのまにかそのことは頭からぶっ飛んでいた。ふと我に帰ると、忘れていた胸の高揚がどんどんと高まってくる。


 ガッシュガッシュとゆっくりと汽車が入ってきた。何はともあれ、これに乗れば全ておさらばだ。あとはゆっくり車内で彼女と会話でもしよう。


 汽車が止まると、客車から数人の乗客が出てきた。この時間帯は人もまばらだ。


「よし。じゃあ汽車も来たことだし、乗ろうか。えーーと………」


 少女に声をかけるも、言葉が詰まった。よく考えたらまだ彼女の名前を知らないではないか。


「…あぁ、私の名は……」


「見つけたぞコラァ!!」


 その時、改札の方から怒号が飛んだ。見ると、そこにはガタイの良い厳つい男が飛び出してきた。


「うわぁ来たぁ!?」


 咄嗟のことに思わず身体が硬直してしまった。まさかこのタイミングで追いついてくるとは。取り立て人はそのナリに合わず、すぐさまこちらへ突っ走ってきた。


「逃げやがってこの野郎!さぁ払えさっさと払え!!」


 取り立ての男は俺の胸ぐらを掴み、酷く揺さぶる。よりにもよってなぜこんな奴から借りたのか。いや、こんな奴からしか借りられなかったのか。


「おいあんた!なに騒いでんの?!」


 事態に気づいた駅員がこちらへ向かってきた。


「うるせぇ!邪魔するな!」


「げっ!!」


 男は片方の手をぶん回すと、そのまま駅員を吹き飛ばし、床に思い切り叩きつけた。


「彼は関係ないだろ……!」


「うるせぇ!今は俺とお前の話だ!汽車で逃げようったってそうはいかねぇ!」


 男はさらに苛立ち、俺を天へと持ち上げた。とてつもない力に持ち上げられ、首が酷く痛い。


「大丈夫だ。息はある」


 反対方向に居たにも関わらず、いつの間にか少女は男の駅員の安否を確認していた。動きの素早さといい、こんな時に平静だったりと彼女は本当に人なのだろうか。


「…………なんだこいつは?」


 男はすぐそばの少女の方に目をやった。


「あ、か、彼女は関係ない。まったくの他人だ……」


「そうだな。今知り合ったばかりだ」


「そうか、ならいい。そんなことより!今すぐ300万ゴールド払うか身体売るか!どっちか選べ!」


「300万?!2日前より100万増えてる!!」


「その分は利子だ!闇金で借りるってのは、そういうことだ!」


「俺は知らん!保証人の覚えもない!偽装だ!」


「現にこっちにゃお前のサインがあるんだ!払えないならこのままバラすしかねぇなぁ……」


 男はそう言うと、腰からロングソードをゆっくりと抜き出した。


「ひえっ……」


 全身からドッと汗が噴き出す。その直後。


 ジリリリリリリリリッ!!!!!


 ホームのベルがけたたましく鳴る。それと共に、汽笛も鳴り始めた。出発の合図だ。


「!?」


 ベルの音に一瞬男は怯んだ。もちろん、この好機を見逃さない俺ではない。俺は宙に浮いた脚で股間に蹴りを決めた。


「ぐぁっ!!っっっっっっ!!!」


 さすがの金的には誰も耐えられない。男は俺を離して、その場でうずくまった。


「よし!今だ!」


 解放された俺は、すかさず汽車へと乗り込んだ。乗ると、すでに少女が立っていた。


「なかなかやるな。君」


「うわぁ!あんたいつ乗った?」


「油断は禁物だ。見ろ、あいつを」


「え?」


 少女はホームを指差すので見てみると、身悶えていた男が立ち上がろうとしていた。


「あっ、まずい!」


「わからん。が、おそらくは……」


 汽車は徐々にスピードを上げていく。だが、奴が立ち上がるまでにホームを出られなければ意味がない。


「このやろぉ〜!!ふざけやがってぇぇぇ!!!」


 男は怒り狂った形相でこちらへ猛ダッシュしてきた。そのあまりの気迫には、安全圏にいるはずのこちらも思わず身震いするほどだ。


「まずい!追いつくな!」


 俺は藁にもすがる思いで祈った。ここまで来て出口のない汽車で追いつかれたら一巻の終わりだ。


「逃がさぁぁん!!でやっ!!」


 あと少しで最後尾の車両が出るというところで、男は最後尾の車両のフレームを掴み、ギリギリで飛び乗った。


「うわぁーーっ!!乗っちゃったよあいつ!!どーしよぉーー!!!」


 俺はその場で狼狽するしかなかった。血の気が引くのがはっきりとわかった。まさかこの土壇場で追いつかれるとは、神にでもすがりたい気持ちだ。いや、この世に神がいないからこうなるのだろうか。


 この閉鎖空間でどこへ隠れるか、最悪飛び降りるか。脳をフル回転させていたその時、少女がポンと肩を叩いた。


「な、なんだよぉ!?」


「サンドイッチの礼、返してやろう」


「え?」


「……ついてこい」


 そう言うと少女は、俺の腕を掴むとそのまま前の車両の扉を開いた。夜なのもあって乗客はまばらだ。


「どこへ行こうっての?」


「君は後ろを確認しろ」


 少女は俺を置いて、前へ前へと突き進んだ。ズンズンと、なにか確信があるかのように。


 俺はただ言われるがままに後ろをちょくちょく確認する。いつ来るかわからないのが恐ろしい。


 為すがままに前へと向かって行くと、ついに石炭車に到達した。少女は石炭車に登ると、俺に顔で合図した。


「そうか。石炭の中に隠れるのか?」


「いや」


 石炭車に登ると、少女はそのままピョンと一両目の客車の上へと飛び乗った。


「そうか。上で隠れてればいいんだ、な!」


 俺も後に続いて飛び乗る。少し離れてるから怖いが、今はそうも言ってられない。


「いや」


 だが、少女は否定する。ただただ無表情の冷徹な顔を崩さず、きっぱりと言いのける。


「じゃあ、なにするってんだ?」


「下じゃ汚れて面倒だからな。だから上に来た」


 車両の上は、満月に照らされて意外と明るかった。辺りを見ると、街を過ぎ畑を過ぎ、大きな川を繋ぐ橋へと来ていた。海に近いのもあるので潮の香りが鼻に入る。


「ん……?」


 その時、俺はあることに気がついた。下の方でなにか騒いでる声が聞こえるのだ。


「どこだぁ!出てこぉい!」


「キャー!」


「なんだお前!うるさいぞ!」


 取り立ての男は、他の乗客の迷惑も考えずに着実にこちらへと来ている。少女の方を見ると、ジッと立ち尽くしている。このまま隠れないとなるとどういうことか。それはなんとなく感づいていた。


「ちいっ!どこ行きやがった!」


 男が一両目から出てきた時、少女が口を開いた。


「こっちだ。来い」


「ん?あ!てめぇさっきの!やっぱり仲間だったかぁ!」


 男は俺たちに気づくと、その剛腕でヒョイと上へと登ってきた。


「あ、あんた!なにやってんの!」


「後ろにいろ」


 俺は少女に掴みかかろうとしたが、あっけなく避けられてしまった。猛スピードの列車の上だ、バランスが悪いのであまり動くことはできない。


「てめぇ……。この嬢ちゃんはなんだ?用心棒か?」


「よ、用心棒?」


「その腰にあるの。剣だろう?俺とやろうってのか?」


 男は腰の鞘を取り出すと、再びロングソードを引き抜いた。


 すると、少女は腰を落として膝をつくと、ほんの少し刀を引き抜いた。わずかに見える刀身が、月夜に煌々と照らされる。


「来い」


「女だからって容赦はしねぇぞぉ!!二人まとめとバラしてやらぁぁぁ!!」


 男は剣を両手に持つと、叫びながら猪突猛進してきた。


「うあっ!来るっ!」


 俺は恐怖のあまり、思わず目を瞑って身構えた。


 *


 しばらく、音が消えた。厳密には風切り音や走る汽車の騒音がするのだが、一切の戦闘の音がなにもないのだ。鍔迫り合いの音もない。


 俺は恐る恐る目を開いた。すると、目の前にあの取り立ての男がいるではないか。


「うわぁぁぁ!!」


 俺は思わず尻餅をつくも、すぐにその違和感に気づいた。


 男は猛進してきたままの姿で硬直している。俺が目の前にいるというのに、なにも動かないのだ。


「な、一体……」


 その時、男の額からその下にかけて、正中線に沿って一筋の線が走っていることに気がついた。


「なんだ?この線……」


 瞬間、男の身体がズレたかと思うと、真っ二つに両断された。


「ひえっ……………」


 分かれた身体は血飛沫をあげながら、そのまま風に飛ばされ暗い川へと落ちていった。


 俺はただただ、なにが起こったのかわからなかった。勢いよく突撃してきたかと思ったら、音も無く一刀両断されているのだから。


 男がいた先を見ると、少女が立っていた。風に揺られて立つその白と黒の姿は、月の光も相まって現実とは思えないほどの美しさだ。


 そして、その手に伸びる銀色の光、それは刀だった。見惚れるほどのその刀身には、夜にも関わらず赤い鮮血が浸っているのがよくわかる。


  「き、君がやったのか……?」


 少女はなにも答えない。刀の血を払うと、ゆっくりと鞘に戻した。騒音の中にも関わらず、チン、と鍔の鳴る音が響く。


「これで礼は返した。達者で」


 少女は振り返ることもなく、そのまま前へと向かった。まるで何事もなかったかのように。


「君!な、名前。せめて名前だけでも……」


 彼女が何者かはもう問い詰めない。だがせめて名前だけでも聞かなければ。俺は必死に呼び止めた。


 聞こえたのか、彼女は足を止めると、ゆっくりと顔をこちらへ向けた。


「私の名は_______。では、さらば」


 なにか言ったようだが、騒音でなにを言っているのか聞こえなかった。少女は名を告げると、その場から瞬時に消えた。車両へ戻ったのか、飛び降りたのか、それはわからない。


 俺はただ呆然するしかなかった。彼女はなんだったのか、人間だったのかすら疑う。だが、振り返ったその時の月夜に光る純白の肌と、新月の夜のような吸い込まれる瞳が、これまでになく俺の心に刻み付けられた。


 結局、俺は無事に逃げ切れたが、彼女と再び会うことは二度となかった。

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