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第二部 中編 俺と彼女の雨模様


  「私…怖くって。」

 


 夏芽の震えた声は冗談ではない。

そんなのことはすぐに分かった。

(こんな声を聞いたのは、あの事件以来かもしれない…。)


 俺はさっきまでの事は既に忘れて、怯えている夏芽に優しく問いかけた。


 「ストーカーって…いつからなの?」


 「ここ…一週間くらい…」


 1週間…それは彼女にとってどれだけ辛く寂しいものだったのだろうか。そんな時、俺はなんもしてやらないどころか気付くことさえ出来なかった。


  くそっ!!!俺は馬鹿だ!!


 自分が1週間も夏芽の変化に気付かなかったのがとても腹立たしく、今にでも過去の自分をぶん殴りたかった。しかし、相談相手が冷静さを失っては情けないと思い平然を装いながら今の状況を聞くことにした。


 「誰かに相談したの?」


 「ううん…迷惑、かけると思って…」


 彼女は確かに怯えている。怯えているのに…どうしても聞きたい。それは俺には迷惑かけていいっことなのだろうか? 若干俺の心は傷ついた。

 「迷惑って例えば…親とか?」


 「うん。……大事にはしたくないし、相談しやすい駿ちゃんにまず言おうかなって…」


 いつも恋愛相談に乗ってる俺のことを信用してくれたのだろう。疑って申し訳ない。確かに夏芽が言うように親に相談するのだって場合によっては大事にしかねない。


 「なるほど…本当にごめん1週間も気づかないなんて…。幼馴染みとして最低だよね。」


 俺は心の底から謝った。


 「ううん、駿ちゃんは何にも悪くないよ!黙ってた私が悪い。それに駿ちゃんじゃないとダメなんだもん」


 でも優しく彼女はそういった。


 「あ、ありがとう。こんな俺を頼ってくれて嬉しいよ。」


 「ほら!頼ってるんだからシャキッとしてよね!」


 彼女のいつも通りの声だった。

 そしてそれは彼女なりの優しさであり、無理をしていることも直ぐに分かった。俺はこのままじゃいけないと感じ、頼れる幼馴染みらしく彼女の期待に応えようと思った。


 「じゃあ、特徴を教えてくれない?」


 先ずは犯人の特徴を知る事がとても重要である。

 男なのか女なのか、身長は低いのか高いのか、

太っているのか痩せているのか。それだけでもかなり犯人が特定できる。


 「それはわからない。怖くて見れなかったんだ。でも、私よりは全然大きい気がした…」


 怖いのは当たり前のことだし、身長が大きいというのかなり有力な情報である。

 夏芽は身長155センチくらいとかなり小さいので性別は特定出来ないものの女性をストーカーしているという点から男と絞っても良さそうな気がした。



 「ごめん…情報少ないよね…」



 「いや、怖いのは当たり前だよ。夏芽はなにも悪くない。」


 そして俺はもう一つ気になっていた事を聞いてみた

 

 「そういえば、春には相談したの?」


 2人の間に一瞬沈黙が流れる。


 「で、できるわけないよっ!!」


 不意を突かれたのだろうかビックリした様子で声を上げた。


 「あ…」


 さっきの(駿ちゃんじゃないとダメ)とはこういうことか。


 「あっ…ごめん…できるわけない。迷惑かけちゃうもん」



  「……」


  うーん。なんだろこの負けた感……。俺って信用されてるんだよね?まぁ、夏芽は極度の恥ずかしがり屋だから大好きな田中に電話したら相談どころじゃなくなるか。一応あいつも幼馴染みなんだけど…。


 実は田中にも手伝って貰おうとしたけどこれは無理だと判断した。


 「でもさ…」


「ん?」

 

 「夏芽とこうして今話せてるのが本当に嬉しい。拐われなくて、殺されなくて本当に良かった。」


 俺は本心から言った。


 「…………」



 「ん?どうしたの?」


 急に黙り込んだと思うと俺に対して意外な言葉を口にした。


 「いまのは…ちょっと嬉しかった」

 彼女の可愛らしい声が直接俺の耳に届くと思うと、無防備だった俺の胸は不覚にも高鳴ってしまった。


 「そう言うのを素直に春に言えたらね〜。」


 俺は平然を装うため少し嫌味も込めて夏芽をからかった。


  「もう…そんなの私が1番分かってるもん!これから頑張るんだから!」


 それが9年間も続いてるんですけどね…


 「で、私はどうすればいいのかな?」


 「まずはここ数日は俺も一緒に帰るよ。犯人の特徴も知りたいし、なにより夏芽もこの方が安全でしょ?」


  「そうだね、わかった!」


 本当はこの役だって田中の方がお姫様を守る王子様みたいで最適だと思うし、夏芽も本当はそう思ってるんだろうか。


 「でも、帰り道私たち真逆なのにわざわざありがとう…」


 「気にしないで、こんな時ぐらい幼馴染みさせてよ。」


 俺達と夏芽は幼馴染みだけど、家は結構離れている。しかも今通ってる高校からは俺と田中、夏芽はそれぞれ真逆の帰り道である。


 「まぁ詳しいことはまた明日学校で話そう。俺も何かしら作戦を考えておくよ。」


 「わかった!私…駿ちゃんに相談して良かった。お陰でとっても楽になったよ……。ありがとう。」


 俺は彼女の声が確かに元気になっているのを感じ取り、自分はちゃんと信頼されている。そんな安心感と嬉しさが込み上げてきていた。


「うん、それじゃまた明日学校で!」


 別れをつげ電話を切るとすぐさまベットに飛び込みゴロゴロしながら悶絶をしてしまっていた。


 今俺少しカッコ良かったかな…。春みたいになれてたかも!女子に頼られるって嬉しい。


 少し男になれた気がして自分に素直になっていたが

ふと我にかえり、さっきの事を思い返す。


 (犯人はなぜこの時期なのか。夏芽は確かに可愛い。けど特定されて狙われるほど目立つ感じの女の子じゃない。 一体何のために…)


 ない頭で絞り出そうとするがなにも出てこなかった


「ブーー。ブーー。」


 ん?今日は多いな。夏芽なんか言い忘れたかな?


 2度目のスマホを手に取る。


 「もしもしー?駿か?今、大丈夫??」


 その声は夏芽の白馬の王子様だった。


 「どうしたの?今日も相談?休日なのに?」


 「まぁそれもちょっとあるけど。なぁ駿……」


 「ん?どうしたの?」


 田中の声も明らかにいつもと違っていた。


 「最近、夏芽の様子おかしくないか?」


 あまりにも的確、そしてタイムリー過ぎる発言に俺は度肝を抜かれていた。


 なんかの能力者じゃないだろうか。そんな疑いもしたくなるほどあり得ないと感じていた。

 

 ここまで分かっているなら、田中にも助けてを求めたい…でも夏芽の嫌がることはしたくない俺は敢えて隠すことにした。


 「う〜ん。そうかな?いつも通りじゃない?」


 「お前…幼馴染みだろ?どう見ても最近夏芽おかしいぞ?」


 その言葉には重みがあり、ついさっき知ったばかりの俺はなにも言い返すことが出来なかった。


 流石ラノベ主人公…


 「うっ、ごめん。にしても春は流石だね。やっぱり好きな人が困ってたから気になっちゃうよね?」



 「ち、ちげーよ!いや、違くないけど!困ってる人がいたら助けるのが当然だろ!?」


 動揺しているのだろうか、明らかに彼の音量が上がっていた



 田中 春樹は  夏芽のことが好きである。


 しかも小学校のときからずっと

こいつらはいわゆる両片思いってやつで、お互いにお互いの気持ちがわかってない…

俺からすれば早く付き合え!と思うけど。これが今の現状。


 いつも公園でしている相談というのは田中の恋愛についてであり、幼馴染みの俺は不幸なことに両方のキューピット役している。


こないだの美術室での一件では、田中に夏芽を描いてもらい、実はこいつの好きな人は夏芽だ!!という展開に持っていき、2人には諦めてもらう予定だった。

しかしラノベ主人公は流石だった。

あの日、自分の計画の無さに改めて無力さを感じてしまった。


 「わかってるよ。ラノベ主人公」


 「ん?なんだよそれ!どういうことだ??」


 皮肉を言った俺はそのままケータイの電源を切った。

 俺はこいつには勝てそうにない…持ち合わせてるものが違う。


 そんな現実を見させられた気がした。


 「駿〜ご飯できたよー!!」


 一階から母さんの声がした。


 この声は魔のチャイム……


 階段を降りれば待ち受けるのは死。それを考えるだけでお腹が痛くなっていた。しかし現実は避けられない。


 俺は


  (普通の料理、普通の料理、普通の料理)


 そんな呪文を唱えながら階段を降りていく…


  ん?なんだ??


 いつもとは違う匂いが漂う。


 そんなことを思いながらリビングのドアを開け俺が目にしたものは…


 「駿!成功したよ!!」


 目の前に笑顔の母がいた。


 うそ……ここは、現実??夢じゃない??


 そしてそこには普通の家庭にありそうなパスタとサラダがテーブルの上にあった…


「か、母さん……遂に!!!」


 俺は今年一番の驚きを見せた。


 遂に、遂に普通の食事が食べられる!!神よ!ありがとう!


 俺は嬉しさのあまり一目散に席に座り


     「いっただきまーす!!」


 その美味しそうなパスタを口いっぱいに頬張った。


 う〜ん!めっちゃ美味し……い?


 うぅ………う、ん???  あれれ?


 (バタン……)


 「ここは……どこ?」


目覚めた時、そこは辺り一面綺麗なお花畑が広がっていた。



 「やっぱ、ダメでした……テヘ」


 そんな母は他人事のようにカップ麺を食べているのであった。


    (このクソババァー!!!!)



 


 




 



初めましてゼンサイです。

この度は本作をご覧頂き誠にありがとうございます!

よろしければここが面白かった。ここがつまらなかったなど感想を頂けると嬉しいです。


それでは引き続き、本作をよろしくお願いします!

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