最終章 中編① 田中とサッカー
『………春』
ビックリパーク。普段ならこんな平日の真昼間にあんまり人は居ないし、居たとしてもまだ幼い子供と親もしくは散歩をしにきた老人の方くらいだろう。ましてや学生なんているはずもない。
でもそこに居たのは…
田中 春樹だった。
俺は言葉が出なかった…いや頭に言葉さえ浮かびもしなかった。足はすくみ手は震え、頬には緊張した汗と一滴の涙が流れていた。目の前に居るのが一番の親友であることを拒絶したかった。俺が立ちすくんでいると彼は口角を上げ、まだなにか隠してるような余裕を見せる表情で俺に問うた。
「駿、いつから分かったんだ?ミスした覚えはなあんだけだなぁ……」
「………」
……やっぱり認めなければならないのか。今目の前の事実を、信じたくないこの事実を…
『田中春樹がストーカー事件の犯人』だとい事実を
俺は今にも吐きそうなこの体に精一杯の力を入れ振り絞った声は誰もいない今だからこそやっと聞こえる今にも切れそうなカスれたものだった。
「最初に妙だと思ったのはまだ事件も発覚してない時、春がある日を境にパッタリと放課後の公園の集まりを拒んだ時だよ。今思えばあの時から始まってたんだね。」
田中に復讐を決めたあの日からこのストーカー事件は始まっていたんだ。まだ答えは聞いていないけど俺の中ではそうとしか思っていなかった。これは親友としての長年の勘だろう。今回犯人が田中って分かったのも半分は直感だった、当たって欲しくは無かった…。
「流石だよ…幼馴染みとして俺は本当に嬉しい!駿が親友でいてくれてることに」
「そしてその1ヶ月後にストーカー事件が発覚した。夏芽にその事を頼まれた俺は犯人探しを始めたけど、春の事は最初から犯人の可能性から外してしまっていた。それが仇となり、春の放課後や昼休みの行動は全く気にしていなかった。」
「でも時間が経つにつれていろんなボロが見え始めた。夏芽と一緒に帰っていたいつかの日に初めてストーカーの違和感を感じた時、どうして何週間もストーカーを続けているのに夏芽や夏芽の家族は狙われていないのかとても不思議だったんだ。そしてある仮説をたてたんだ。夏芽じゃなくて夏芽の所持物に興味があるんじゃないかって、そしてそれは盗みやすい外に置いてあるものなんじゃないかって。」
「そして決め手となかったのは毎日必ず昼休みになると春が美術部に課題を作成しに行ってたことだよ。最初は美術部の課題が普通に終わってないだけかと思ったんだ。でもそれは全く違ったよ。課題なんかずっと昔に終わってたんだよね?」
「いつ気づいた?」
「この間屋上で俺にデッサンの途中報告をしてくれた時だよ。春が自分のデッサンの進捗が写っていた写真はほぼ完成していた。なのに写真の日付は2週間も前だった。昨日御門先輩に確認したんだ夏休みのコンクールの事についてそしたら春と本庄は1週間前には終わっていたと言ってたよ。」
「そこで全てがあてはまった。春が夏芽の心配をしていたのは心配じゃなくて助ける側として夏芽の情報が知りたかったから。確信に変わった俺は昨日おたりんに頼んだんだ。昼休みにチャリ置き場で田中がいるか見てきて欲しいって。そしたら写真に写ってたよ。春が夏芽のチャリをいじっている姿が……」
「春は昼休みと放課後を使って夏芽のチャリをどうかしようとしていたんだよね」
「くぅそぉぉ!全部ばれたんじゃん!俺も迂闊だったよ。そんなことまで気付くとかもう親友超えて彼氏か?」
「つーことはストーカーの女子は誰だかもう分かるよな?」
「本庄だろ……」
「さぁっすが!もうなにも言う事はないな!よっ!名探偵瞬くん!」
相変わらず彼の表情は変わっていなかったむしろ、さっきよりこの状況を楽しんでる。そう感じさせる顔だった。
「俺は……俺は…」
俺はずっと田中に憧れていた。誰にでも優しい笑顔、どんなピンチでも乗り越える力。いつも俺の隣にいたアイツはとても輝いていた。
「お前は…ヒーローでもなんでもない!ただの悪魔だ!」
言う必要のなかったその言葉を口にした瞬間、彼の雲行きは一気に悪くなった。
「駿……俺はヒーローでも悪魔でもねぇ。
俺はちゃんとした人間だよ。」
田中の瞳は憎悪に満ち溢れていた。足が再びすくむ、でも一歩後ろには下がりたくなかった。親友として……
「春!なんでこんな事をしたんだよ。なんで夏芽を悲しませるような事をしちゃったんだよ!」
田中は昔こんな事を言っていた。
『相手の本当の気持ちが知りたいなら、まず自分の
気持ちを正面からぶつけろ!そうすれば必す教えてくれるさ」
「はぁ……お前も分かってんだろ…俺があいつのチャリに因縁がある理由くらい。わざわざ俺の口で言わすなよ」
!?チャリに……因縁??俺は犯人を田中と特定したのはいいがその原因つまり夏芽の自転車をいじる理由は全く分からなかった。さっきまでは…でも今はわかる気がする。明日の日付、あの事件とちょうど一年前だ。
「去年の大会……?」
一瞬…静かになり、彼はこう言った。
「あの日から俺の人生は全てが変わった……」
その瞳はさっきまでの憎悪ではなく…悲しい目をしていた。