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第四部 後編 マジシャンガールとフェイクボーイ

夕焼けが沈み始め、 夏芽を家まで送ろうと帰り道を3人で歩いていた。俺たち3人は昔からの幼馴染みだ。どんな時も仲が良く、常に一緒にいる。たまに誰か2人が喧嘩もするけれど残りの1人が必ず仲裁に入って次の日にはまた3人並んで歩いている。そんな関係も今年で10年になる。ではそんな3人の今の状況を見てみましょう。


 えー前方に田中くんと夏芽さんが仲良く歩いていて、私はその後ろを歩いているという状況である。まぁ3人で帰るときはこういう構造も割とあり得る話だしそこまで不思議じゃない。ただ……その距離は5メートルくらい離れていた。


 ……流石に遠くない!?


 俺は先ほどから下を向きながら歩いていて、どこまでも続くアスファルトは2人との距離を更に伸ばしているように感じさせる。しかも耳はどうしたって位置を変えられないので前方から2人の会話がどうしても入ってくる。いつもは田中と話すときは必ず動揺しているのに今日の夏芽はなにを頑張っているのか普通の幼馴染みとして話している感じだった。


 俺は気になって2人の方に視線を送ると…


   「 「!?」」


 ちょうど夏芽がこちらを向いていて目が合ってしまい、お互いにすかさず目を逸らす。


 実はこんな感じの流れがさっきから何回も起こっており、正直もう許してくれてる?とは何回か思ってしまった。


 田中はどうしているかというと…たぶんこの距離感をとっくに気づいているのだろうけどあいつは敢えて何も口にしなかった。いつもなら『どうしたんだよ2人とも!!なんかあったのか!?』と直ぐに駆けつけてくるのに、今回の問題の張本人が自分であるためどうしていいか分からないという感じだと思っているのだろう。


 それにしても…これ俺がストーカー見たいじゃん!

カップルに嫉妬した痛い奴が追跡して、呪おうとしてるみたいじゃん!


 先程から通りすがりの周りからの視線もチラチラ自分に向いており、さっきなんて『ねぇママあれ何?』 『みちゃダメ!』なんてテンプレシーンも体験してしまった。


 俺の気持ちなんて知らないくせに!


 目の前にあった手頃な小石を蹴ると前の2人のギリギリのラインで止まる。


 ついでに俺は視線をそのまま改めて2人を眺めた。やっぱり2人の後ろ姿は超と言っていいほどお似合いなものだった。身長は185センチと148センチとかなり差があるもののお互いにちゃんと目線を合わせている。もちろん2人の頬は夕焼けのせいでは無く、恥ずかしさから赤いのは誰から見てもよく分かるし、なんならシーブリーズのCMとかに出てそうな美男美女カップルみたいな感じだ。リア充というのはこのことを言うのだろう。


 「ここだよ。ここ!」


 前から夏芽のそんな言葉が聞こえてくる。


 どこについたのだろうか。


 「ここって…懐かしいな3人でよく遊んだビックリパークじゃんか…。」


 学校から5分くらい離れている前に夏芽と帰った時に話題になった公園だ。



 「そうだよ!懐かしいよねってこないだ駿ちゃんとも話したんだ。でね…ちょっとまってて。」


 そう言って夏芽は公園の中に入っていく。


 「おい、どこにいくんだよ??」



 この公園には入って右端に大きな木があり、その木が特徴で「ビックツリーパーク」通称「ビックリパーク」と呼ばれている。そして彼女は木の裏側にいくと……


「じゃじゃぁん!」


 出てくると同時に黄色の自転車が顔を出した。

それにしてもそのわざとらしい効果音にちょっと恥じらって顔を真っ赤にしてソワソワするのはやめなさい。こっちまで恥ずかしくなる。


 「え!?こんなところにチャリがあんのか!?もしかして……マジック??それとも超能力!?!?」


 ………やっぱり馬鹿なのかな?


 いきなり自転車を見せられビックリしたのか田中は周りの茂みに仕掛けがないか小さな子供のように探し始めた。


 「もぅ…何やってんの?そんなのあるわけないよ〜」


 呆れた様子で夏芽が言う。


 さっきまで自分もノリノリだったくせに……



「にしても夏芽のチャリ本当に新しくなったんだな!乗り心地も良さそうだし!結局、前のチャリは見つからず仕舞いだったのか?」



 「うん…結局ね。取られたまんまだよ。でももうそろそろ一年前だしね。今はこの自転車もあるし、もうどうでもいいかな?」


 そうか…あの事件からそろそろ一年経つのか。


 「で、なんでこんなところにあんだ?」


 「それは……駿ちゃんの提案でね。もしストーカーが学校の生徒だった時、自転車で通学してることがバレないように少し離れたこの公園に置くようにしてるの。仮に自転車とかが盗まれたりして、いきなり襲われたら勝ち目ないし。1人で帰るときはストーカーがいないかちゃんと確認してから自転車を木から取り出すようにしてるんだ!」


 「なかなか考えるなぁ…流石駿と言ったところか!」


 「ところで駿……そろそろ会話に入ってこいよ?そんな掲示板の影から見てるんじゃ無くてさ」


 (ドキッ)

 

 つ、ついに気づかれた…。


 そんな俺はというとさっきからビックツリーの周りでやりとりをしている2人を掲示板から顔だけ出して眺めている。


 「いやぁ〜なんかお似合いな2人だなぁと思いまして部外者は側から見てるのが1番かと…」


 「お、お似合いってな、なんだよ!いつものことじゃねーか!大体これはお前が当事者だろ!?」


 (コクリ コクリ)

 


 あーこのまま公園ごと爆発しないかな。もぅ…9年間これじゃーん…そろそろお互いの気持ち気づこ?

しかも、夏芽に関しては首をブンブン縦に振ってるだけだし…まだ許してくれて無さそうだ…。


 「でもさ…ここにチャリを隠すって本当にストーカーの被害から夏芽を避けるためなのか?ただチャリを隠すためだったら普通に鍵かけるとか、学校の見つかりにくい場所で充分じゃね?」



 また痛いところを……田中君は…。


 田中の言う通りだった。俺は犯人が夏芽を狙ってるのではなく夏芽の自転車を狙っている。そう思ってから夏芽にはこのビックリパーク停めさせるようにしている。学校に置いていたらもし犯人がこの学校の生徒だった場合、いつ夏芽の自転車が盗まれるのかわからない。


 なにより、ここで夏芽にそれを言ってしまうとなんとなくめんどくさくなりそうなので敢えて隠していたんだけど……



 「いやぁ〜それもそうだね!流石春!やっぱりお前に聞いてよかったよ!」



 俺は明らかに作り笑顔でそう言ったけど流石にこいつらにはバレバレだった…。


 「駿…お前まだなんか隠してるな??」


 (コクリ コクリ)


 夏芽は相変わらず後ろで首を振っているだけだった。なんかもう可愛い。


 「まぁまぁコレが俺らの作戦の全貌だよ。他に何も隠してないし、夏休みまであと1週間。もう日にちがないんだよ!だからこそ春に力を借りたいんだ!」


 「ふ〜ん。まぁいいや。駿がそこまで言うなら信じるしかねぇか!大丈夫だまだ1週間ある。必ず俺がなんとかしてみせる!」


 少し疑いの目を持ちつつもゾウさんの遊具に片足を乗せガッツポーズをしながら俺らにヒーローの眼差しを向ける。


 もちろん夏芽は……


(////////)


 デレデレ状態だった…。



           *


夏芽を家まで送った俺らは来た道を戻りながら家に帰っている。


 「今日はストーカー来なかったな!」


 「うん、最近はなぜか来ないらしいんだよね。春はどう思う?」


 俺はなにかヒントがもらえると思いながらそう聞いた。


 「うーんもしかしたら…犯人はもうストーカー自体の目的を果たしたんじゃないか?」


 やっぱり田中はなんでも分かってしまう。俺も大体予想は付いていたけど犯人はもう夏芽を追うという目的は果たしたのだと考えている。


 つまり今現状考えられることとしては…夏芽の自転車を特定し、次の段階に移っているか。そもそも自転車を狙っているという予想自体が間違っており他の何かの目的を果たそうとしているのどちらかになる。ただ後者であった瞬間俺の今までの計画は全て水の泡となってしまうのでそれだけはやめてほしい。


 「そうかもしれない。まだこの事件は真相が深そうだね。」


 「あぁ。」


 そんなこんなでいつもの公園に差し掛かる。ここは俺がよく春の相談にのってあげていた所だ。


 「ところでさ春……」


 俺は敢えてこの場所で、1ヶ月間ずっと気になっていたことを聞いてみる。


 「なんか最近の1ヶ月間くらいさ…恋愛相談しないでさっさと帰ってたじゃん?なんかあったの?」


 春の顔とは全く別の景色を見ながら聞いてみる。


 すると…


「お前は…まだ知らなくていいことさ。」


 その言葉にはいつもの軽い感じのおチャラけた声とは程遠いほどに重く、ずっしりとしたトーンに俺はちゃんとした返事を返すことが出来なかった。


 「そっか…」


 俺は少し顔を覗かせる。


 そこにいたのは鈍感ハーレム主人公ではなく。

 本来の人間の顔をしていた田中 春樹だった。


 もし…もし俺の予想が正しいとすれば明日の火曜日



『必ず犯人は現れる』





   





 







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