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第三部 後編 嘘と嘘

 夏芽と一緒に帰ってから2日が経ち、以降犯人に関する情報は1つも得ることが出来ていなかった俺たちは昼休みの屋上で昼食をとっていた。


 「う〜ん。そろそろなに情報が欲しいところだね」


 「そうだよね…このままじゃ夏休みになっちゃうよ」


 夏休みに入れば通学帰りにストーカーされることは少なくなるだろう。しかしそれは結果的に朝もお昼も夏芽が1人でいる状況が増えてしまうということになる。本当は四六時中一緒に居てあげたいが流石にそこまでは出来ないし、何か違う問題が出てくる気がする。



 「ちなみに、夏休みはどんな予定?」


 「まぁ、主に部活って感じかなぁ。でも友達とも色々遊ぶ約束はしたよ!プールとか〜海とか〜お祭りとか〜……あとは花火大会とか! 駿ちゃんは?」


 「今のところは部活くらいかなぁ。誘われたらてきぎ行くって感じかな。」


 「うわぁ〜今年も陰木くんは陰キャ夏休みですか…」


 「ちょっと名前。高木ですけど……」


 俺は友達がいないわけではない。なんなら普通にいる方だと思う。でも自分からアクションを起こすという柄でなく、どちらかというと誘われる側でだった。

なんというか行くと楽しいんだけど行くまでダルいそんな感じだ。遊園地に行く前日はワクワクで止まらないけど、いざ朝早起きすると本当に行く気がなくなるけど、行くと楽しい!という我ながらメンドくさいタイプである。


 「なんというか、悪いって言ってるわけじゃなくてもっと楽しもうってことだよ!アニメや本は永遠に残るけど、16さいの夏休みは一度きりだよ?」


 「う、うん。まぁボチボチね。」


 確かに、夏芽の言うことも分からなくはない。高校生は人生の中でたった3年だけ。てもアニメやラノベを読む16歳の夏もそれはそれで良いと俺は思っている。そこは価値観の違いだ。


 「それにしても駿ちゃんに助けを求めた時まではあんなに毎日ストーカーされたのに…なんでなんだろ」


 「うん…なんでだろうね。怖気付いたとか?」


 本当は理由がなんとなく分かっていた。2日前のあの日夏芽を家に送った後に聞いた何かが倒れる音…

あれはたぶん犯人のミス。俺はそう思っていた。

でも今この場でそれを言ったところで状況は何も変わらない。むしろ夏芽を怖がらせてしまうだけだと思ったので敢えて何も言わないことにしていた。


 「でも私の体小さいから…怖気付くことはないと思うけど…」


 改めて隣に座っている彼女を見てみた。

彼女は家から持ってきたサンドイッチをパクパクと食べていて、その華奢な小さい体も相まってまるでハムスターのように可愛らしかった。


 「ん?どうしたの?」


 こちらに気付いたのかもぐもぐしながらこちらを覗く。


 距離がいつもより近いこともあり、大きな茶色の瞳に少し顔が赤い俺が映っていた。


 「頬にサンドイッチの卵ついてるよ。」


 照れ隠しもあるけど、実はさっきから気になっていたので言ってみた。


 「ちょっちょっと!そういうのは早く言ってよ!恥ずかしいじゃん…」


 彼女は慌てて手鏡を開き、顔についたサンドイッチの卵を取るとついでに前髪も整えて改めてこちらを睨んできた。


 「ごめんごめん。つい面白くて放置してた。」


 「もう!まぁ別にいいけど!彼女出来たらちゃんと言わなきゃだめだよ?」


 「う、うるさい。俺はそんなことも笑ってくれる彼女作るからいいし!」


 今のは直ぐに言うべきだったのか…ちゃんと直そう。


 こういうアドバイスはちゃんと受け取るべきだと父さんに教えてもらっていた。


 「そういえば今日も春ちゃん大変だったよね〜本庄さんから油絵!油絵!ってさ…」


 少し寂しそうに彼女は言う。


 「どうしたの?妬いてんの?」


 だから敢えて茶化してみた。


 「ち、ちがうもん!ただ…まぁちょっと羨ましいなとは思う。私は部活が違うから放課後の春ちゃんを知らないし…」


 図星だ…。


 最近昼休みになると本庄がいつも田中を呼びにくる。「田中!油絵の構造を決めるわよ!!」と命令口調だけど、どこかちょっと嬉しそうな声。そのあと田中は嫌々、いつも連れ去られていく。


 それにしてもやっぱりコンクールって大変なんだろうなぁ。特に田中はピカソだし何を描当てることさえ分からないもんね……。


 「まぁ夏芽は今のままでいいと思う。部活で頑張ってる姿は絶対に春的にも得点高いはずだよ。」


 「そ、そうかな?駿ちゃんもそう思う?」


 「うん。俺はそう思う。」


 俺はアイツには勝てないモブかもしれない。ただこれだけは男として正解している確信があった。


 「そっかぁ…。たぶんね…春ちゃんが私のことどう思っていても私はずっと春ちゃんを好きなんだと思う。」


 今まで見たことない顔で彼女は言った。


 彼女のこんな笑顔……俺には作れないだろう。


 「今はまだ振り向いてもらえてないけど…いつか絶対に夢中にさせて見せるからね!」


 あ……言いたい。凄く言いたい。


 「って!それ俺に聞いた意味は!?」


 「ない…かも?」


 そんな彼女は俺に言う。でもそれはいつもみたいに軽くない感じがしたのは気のせいだったのかもしれない。



 その日の放課後、特に何もなかった1日を終え今日も夏芽と一緒に帰っていた。


 「あぁ〜お腹すいた……」


 夏芽が歩きながらお腹を抑えている。


 「え、さっきカレーパン食べてたじゃん…」


 お昼にサンドイッチとドーナッツを食べていたにも関わらず、さっきのコンビニでカレーパンを買い食していたのに…


 「だってぇ〜空いちゃったんだもん!」


 ん?


「そういえば夏芽、最近太っ………」


 (バチチチィィン!!!!)


 夏芽の素早く重い平手打ちが俺の顔の肉を強烈に震わせた。


 「もう!!そういうところ!!今の彼氏ポイント低いよ!」


 痛い…。バドミントンで鍛え上げられた腕のしなりはかなり物だった。


 俺は痛みで失神しそうになりながらもなんと立ち上がる。

 

 しかし今の発言を否定する気はなかった。例えば、もしこれが田中だったら「何か食べてもいいんじゃねぇの?夏芽元々細いんだし……」などとほざくだろう。これは一軒、満点回答だと感じるけどそうはならない。


 ここは現実。いくら食べたって太らないのは漫画の世界の話。ここで夏芽に甘えて食べることを許していたら、今は部活をやってるからいいものの、いつか必ず太ってしまう。結果が出てからじゃ遅い。それを夏芽に伝えたかったんだけど……。


 「そ、そんなに私太ってるのかな。いや、太ってるんだよね?どうしよう!!痩せなきゃ!」


 さっきからずっと鏡と睨めっこしていた。


 別に今は本当に痩せてるんだけどね…。



 一連の流れを終え、赤い紅葉を頬に付けたまま俺たちは夏芽の家まで帰宅していた。


 「……………………」



 俺は本当に何もない時、気持ちを改めたい時、上を向いてしまう癖がある。上を見上げるといつもと同じ道を歩いているのに景色が変わる。この家の二階はこんな感じなんだ。このアパートの二階は床屋なんだ。とかいままで気づかなかった新しい情報が見えるのは結構楽しいものであり、なにより大好きな空が見える。


 そういえば、この先の曲がり角を曲がれば小さなスーパーがあったような。



  ん!?  


        (バタン)


 「夏芽……やばい」


 「ど、とうしたの!?」


 俺はいきなりその場に倒れ込んだ。


 「お、お腹が痛い……やばい死にそう。う、動けない」


 「う、うそ!?大丈夫?救急車呼ばなきゃ!!」


 とても優しい夏芽は直ぐに鞄から携帯を取り出す。


 「待って……。救急車は要らないよ…。そこにスーパーがあるでしょ?水とネルネルネルネ買って…来て…」


 「え!?どういうこと!?私、救急車呼ぶ!」


 「待って!!!それを買ってきてくれれば治る…」


 「わかった!!すぐに買ってくる!!」


 そう言いながら夏芽は一目散にスーパーに向かった。単純なのか、馬鹿なのか……

夏芽が行ったことを確認した俺はすぐに立ち上がり、後ろを振り返り、服に汚れたホコリを払った。


 「いるんだよね?出てきなよ。」


 何もないはずの道中にあった大きい電柱の裏…そこからのっそりと人影が現れた。


 「どうしてわかった?」


 そいついは帽子を深く被り、顔にはマスクしていて上下黒いパーカーを着ておりいかにもストーカーの様だった。


 「そこにミラーがあるでしょ?交通事故が起きないように左右が見えにくい曲がり角には必ずあるよ。」


 俺はさっき上を見上げた時に偶然にもミラー越しに奴がミ隠れているのが見えた。そしてこの事実を夏芽に知らせないために咄嗟に演技をした。


 「お前は…なんのためにこんなことしてんの?」


 本当は今にも殴りたかった。夏芽をこんなにも苦しめてる奴を…。しかしここで理性を失うのは1番良くないパターンなのは分かっており、

確かな情報を掴むまで冷静でいることにした。


 少しの沈黙のあと奴は口にする…。


 「……………復讐」


 え………?


 意味が分からなかった。


 「復讐って、夏芽が何を----」

 

 !?


 俺が言いかけた時、犯人は急いで逃げ出した。


 「って!まて!!!」


 俺は直ぐに追いかける。しかし……


 「駿ちゃん!!!どうしたの!?」


 夏芽が来てしまった…。俺は悩んだがまだ分からない事実を夏芽に伝えるべきではないと判断し、追うのをやめた。


 「ご、ごめん…実は…」


 俺が謝ろうとした時、夏芽は勢いよく抱きついてきた。


 「もぅ…バカ。本当に心配したんだから……」


 彼女は本当に涙を流していた。


 「ごめん……。」


 こんなにも夏芽は優しい。しかしどうしても奴の言葉が離れなかった。

      



       『復讐』  と言う言葉が……。

 

 


 

 




 


 

 

 


 

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