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第三部 中編  嘘と嘘


 夕方の6時半、一足先に体育館から出た俺は夏芽の着替えが終わるまで校門前で1人で待っていた。辺りには部活を終えた生徒が所々見受けられ、時よりカップルも目についた。


 田中はまだ油絵描いてるのだろうか。もうしそうだとしたら今頃可愛い2人に手取り足取り教えてもらっているのだろう。


 「田中!だからここはこうするっていってるでしょ!」


 「春くん!そこは水色の方がいいと思うよ?」


 そんな状況を想像するとかなり妬ましく感じた。


 部活が終わった後、疲れきった体で家に帰り、1番にお風呂に入って美味しい牛乳を飲むという王道パターンはかなり好きだけど、夕焼けの校舎で好きな人と下校時刻ギリギリまで一緒にいるというのもかなり憧れがあった。


 あぁ羨ましい……。俺もいつかはそんな運命の人が現れるのかな…。


 そんな淡い期待を膨らませつつ、のんびり夏芽を待っていた。


 10分くらい経っただろうか…


 「でね〜こないだ副部長がね----」


 「え!?それすごい羨ましい!」


 「五反田部長超かっこいいもんねぇ〜」


 女子バドミントンが数人こちらに向かって来ているのが見え、その中には夏芽の姿あった。


それにしてもあの部長、五反田っていう名前なんだ。

プレーに見入ってしまっていたため名前を聞くのを忘れてしまっていたけど、もしかしたら犯人の可能性も残っているので覚えておくことにした。


 「駿ちゃん!遅くなってごめんね!」


 夏芽が俺に気付いたのか小走りでこちらに来ると、両手を合わせながら謝ってきた。


 「全然大丈夫だよ!待つのは慣れてるし。」


 田中と一緒に帰ってる俺は待つのも待ってもらうのもかなり慣れっこだった。


 と同時に集団から冷やかしの声が聞こえた。


 「夏芽〜あんなイケメンの部長を振っておいてもう新しい彼氏作ったの〜??」


 なんだその俺はイケメンじゃ無いみたいな!

まぁ事実そうですけどね!

  

 「あっ。もしかしてこの子が夏芽の好きな……」


 夏芽の顔が急に真っ赤になり、


 「ち、違うよ!!そんなわけないじゃん!ただの幼馴染みだよ!」


 そこは瞬時に完全否定……。まぁですよね。

分かってはいたけど…少し心に来るものがあった。


  「分かってるって!本当に夏芽はわかりやすくて可愛いいのぉ〜」


 「もう!からかわないで!ほら駿ちゃん早く行こ!」


 少し怒り気味の彼女は俺より一足先に歩き出した。


 「夏芽〜!また明日ね〜!!」


 女バド集団が笑顔で手を振った。


 「うん!また明日ね!」


 本当は怒ってなかったのだろうか、直ぐに笑顔で振り返り元気よく返事をし大きく手を振っていた。


 やっぱり夏芽は優しい。そう思いつつ俺も集団に会釈をして彼女の後を追って行った。


 「もう…ごめんね。花音達すぐに茶化してくるんだから!」


 「しかも春が好きって知ってたよね?」


 「え!?う、うん実はこないだ春ちゃんの話してたらバレちゃった…えへへ」


 なるほど、話したこともない女子の間にも会話に出てくるくらい。やはり田中は相当人気なんだろう。女子たちがアタックしに来ないだけでこれからハーレムが増えてしまう可能性もあるのか……。


 3人でも捌けないやつに5人、6人と増えたら崩壊だ…。そんな先のことを考えると絶望の未来しか見えなかった。


 「やっぱり春は人気なんだね。てゆうか夏芽あのイケメン部長振るなんてなかなかやるよね〜少しビックリしたよ。」


 「あの人確かにカッコいいし、バトミントン上手いし、更に頭もいいらしいけど…。私には荷が重すぎるし、結局……春ちゃんがいい……かな。」


 (春ちゃんは)ではなく(春ちゃんが)良いか。


 そう言った彼女の視線は遠くの方を眺めていたが、瞳の中にはアイツが映っているのだろう。

夕焼けにもら関わらず顔はさっきよりも赤く熱っていた。


 しかし、彼女を見ていると他の2人のことが本当に辛く感じた。みんな好きになった時期は違うけど気持ちは同じくらいアイツの好きなはずなのに……結ばれるのは1人だけ、しかも田中と夏芽は両片思い。正直あとは時間の問題なのだろう。


 「ねぇ!見て!あの公園懐かしいでしょ!」


 あたかも紛らわすかの様に指を指して彼女が言う。


 そこにはブランコや滑り台など良く目にする遊具がある小さな公園があった。


 「本当だ!めっちゃ懐かしい!小学校の時、良く3人で遊んだよね」


 俺たちの高校は地元の駅から西側に位置しており、

中学校と小学校は東側に位置している。なので今夏芽と歩いているこの道は小学校、中学校の時の俺の通学路だった。


 「春ちゃんと駿ちゃんがサッカーで遊んでるの良く見てたなぁ〜」


 「春は本当に上手かったよ。一対一なんて、一回も勝てなかったからね。アイツは本当にプロになれたよ!」


 あっ……つい熱が入って、自分が言ってはならないことを言ってしまったと理解した。



 「本当にね……」



 「…ごめん……」


 明らかに沈んだ空気が俺たちの間に流れる。


 いつも疑問だった。田中はあんなにもサッカーに全てを捧げていた。努力は必ず報われるという言葉が存在するけど、報われない努力もある。そんな現実を突きつけられている田中は本当に切なかった。


 神様なんてクソ喰らえだ!


 「ううん!駿ちゃんは悪くないよ。あれはしょうがなかったんだよ。」


 「ねぇ!あの掲示板のポスターも見てよ!」


 公園の隅の小さな掲示板の中央には『大和田夏の花火大会!!』と書かれたポスターが貼ってあった。


 俺たちは一昨年まで毎年この花火大会に行き、3人で浴衣で集まり、好きなものを買ってから俺たちの秘密の丘で花火を眺めるというのが恒例行事だった。


 「今年は行けるといいね!また3人で…」


  行けると良いねはもううんざりだ。


 「いや、行くんだよ!絶対に3人で!!今年は必ず夏芽と2人っきりにしてやるから覚悟しなよ!」


 そんな俺の気迫に夏芽は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに笑顔で頷いた。


 「うん!期待してるね!」

 

 あぁなつかしい、こんな感じでまた3人で帰りたいな。この景色も、この臭いも、この雰囲気も、僅か4ヶ月前なのに、全てが本当に昔の事のように感じられた。


 そんなことを思いつつ俺は辺りに気を張っていた。


 「そういえば、今日はストーカー来ないね。」


 「うん……」


 夏芽の顔は浮かなかった。


 「どうしたの?来ない方が夏芽にとって好都合じゃない?」


 「そうなんだけど……最近はあまり見かけないんだよね…嬉しいけど誰だか分からないままは結構怖いかなって。」


 その通りだ。このまま犯人が闇の中に消えてもまたいつ何処で現れるか分からないので、必ず特定し安全を確保しなければならない。


 「あっそろそろお家つくよ!」


 そこにはごく普通の家庭の様な屋根が茶色で側面が白色の家が目の前にあった。


 「うぉ〜懐かしい!!小学校以来全く来てなかったから、何にもかわってないね。」


 「当たり前でしょ!」


 そう言いながら家の前の門を手に取る。懐かしい目で辺りを見渡していた俺は1つの物が目に留まった。


 「夏芽…あの日の時から本当に自転車変えたんだ。」


 あの事件の日、何故が夏芽の自転車が無くなっていたので、今回の件で自転車はあるのか俺はこないだ確認していた。


 「そりぁ…ブレーキ壊れてたし、そもそも取られちゃったしね流石に変えるよ!」


 まぁ流石に変えるよね。

 

 「これでストーカーからもバッチリ逃げられるよ!絶対に捕まらないから安心して!」


 冗談まがいに彼女はニッコリ笑った。


 「そうだね。それじゃあまた明日!」


 「うん!わざわざ家までありがとう!」


 彼女がドアを閉めたのを確認すると俺は来た道を戻り始めた。


 そういえば明日一緒に帰れるのか聞くの忘れてた!

まぁ今日の夜メールすればいいか。


  (ガチャっっ)


 後ろから急に何か倒れる音がしたので振り返った。


 が……そこには何も無かった……。


     「----------」


 まさか…ね…。





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