第三部 前編③ 嘘と嘘
今日は部活がOFFだったので放課後、体験入部ということでバドミントン部が活動している体育館にお邪魔していた。
「やぁ!どうしたの?こんな時期にバドミントンの見学なんて」
体育館の隅で立っている俺に話しかけてきたのは
茶髪のサラサラヘアで長髪。顔も中性的で割とイケメンの御影彰人だった。この人も俺と同じクラスの1年A組で男子バドミントンに所属している。
「うん。なんかバドミントンも楽しそうだなって!」
正直あんまり興味はなかったけど、さっきから男子同士の練習を見ているとスマッシュやレシーブが凄すぎて圧巻させられている自分もいた。
「先輩達上手いよね。今高木君が見てるのが部長と副部長だよ。来週の土日に強豪校と練習試合があってね
部活のみんな張り切っているんだよ」
「確かにあれは凄いよ…。叫び声も体育館中に響き渡ってるし。」
2人とも今はインターバルだというのにさっきからずっと試合が続いていた。一点を片方が取っては今度はもう片方が一点をとる。そんな激しい試合を繰り広げており、点数が入ると部長も副部長も「おう!!!」
と声を上げていた。
「ん〜まぁ男子も強いけどウチは女子が結構強いからね。今日だって合同で練習試合してるし。」
俺は体育館の反対側に目をやる。そこには和気あいあいとお話ししてる女子バドミントンの姿が見えた。
もちろんそこには夏芽もいた。もの凄い汗をかいているが表情に疲れはなくむしろワクワクしてる感じがした。
「やっぱり夏芽は上手い方なの?」
「楠木さん?彼女は本当に上手だよね。同じ1年生とは思えないよ…クラスで見る彼女は正直気迫が無いというか、消極的な感じの子だけど。いざバドミントンをすると別人のようになるね。獲物を狩る鷹みたいな」
うっそ……。夏芽にもそんな一面があったなんて。
俺たちはたまに夏芽に誘われて遊びでバドミントンをやるけどその時の夏芽はいつも楽しそうな感じでやっていたのでそんな夏芽の顔は想像できなかった。
「幼馴染みでたまにバドミントンで遊んでたけど、そんなこと知らなかったよ…。」
「まぁこれはあくまで僕の憶測だけど楠木さんってたぶん田中君のことが好きだよね?だから恥ずかしくてその顔が見せられないんじゃないのかな?」
「た、確かに…」
な、なるほど。てゆうか流石に夏芽が田中のことを好きってバレてるよね…。まぁそれが普通なんだけど。
改めて田中の鈍感さを感じた俺はそろそろ本題に切り出すことにした。
「あのさ男子バドミントン部と女子バドミントン部っていつもは練習違うんだよね?」
「そうだよ。男子は男子、女子は女子でこの体育館は使い分けているね。ただ今日みたいな大会が近い日とか練習試合が近い日なんかはこうやって合同でやってるよ。」
「なるほど。じゃあいきなりなんだけど恋愛事情とかってどうなの?」
「いきなりどうたの!?まさか気になる子とかいた??あ……もしかして今日の目的はそれかな?」
まぁそういうことにしとこう。ここでバレないためにもそれが一番いい判断だと考えた。
「うんまぁ恥ずかしいけど、そんな感じかな!例えば夏芽とかはどうなの?」
「楠木さんなの!?それってバドミントン部こなくて良かったんじゃ…」
「い、いや、春にライバルが居ないか幼馴染みとしてのチェックだよ!」
割と引き気味だったので慌てて誤解を解こうとした。
「あぁそういうことね。まぁ夏芽さんは顔の人気はとても凄いよ。おまけにバドミントンも上手だし先輩とか狙ってるていう話は割と耳にするかな。」
「まじか……それってあの部長さんも狙ってるの?」
「目の付け所が鋭いね。確かにあの人も楠木さんを狙ってたよ可愛い後輩見つけた!ってでも1ヶ月前くらいにあっけなく玉砕して今は確か女子バドミントンの副部長と付き合ってるらしいよ。」
そうなると犯人という存在が割と絞られることになる。今のところ犯人の特徴としては身長が大きいそれくらいだった。俺が172センチくらいで夏芽に身長が大きいとは言われたことがない。つまり犯人が大体170後半から180前半位だとすると。
男子バドミントンを見た感じそれに当てはまるのが
部長と御影と離れた壁に寄りかかってる知らない男子1人くらいだった。部長が犯人という線で考えてたけど今彼女がいるのに流石にストーカーはしないだろう。
となると…
「それじゃあさあのあの壁に寄りかかってる身長が高い人ってどんな人?」
「た、高木君!?君は男子にも興味があるのかい!?」
「違うよ!まぁ…そのあれだよ!あれ!うん、そう!さっきバドミントン上手かったから春の敵になりそうだったなと思って!情報収集ってやつだよ!」
ヤバイ…このままだとまたあだ名がっ!!
全力で否定した。俺はこないだの美術室でのデッサン対決をして以降、ホモなどとあだ名が付いていたため冗談じゃない感じだと思われるのが相当嫌だった。
「な、なるほどね。たぶん伊吹君のことかな?彼は1年生なのにかなり上手だよね。D組の生徒だよ。僕たちとは校舎が違うからなかなか合わないよね。彼はいろんな高校から推薦の案内が来てたんだけど全て蹴ってわざわざ遠いここを選んでくれたらしいよ。」
「ん?伊吹って人どこから来てるの?」
「田町だよ。かなり遠いよね。」
「田町!?ここ大和田だよ??」
俺らは大宮の近くに位置する大和田ということろに住んでいる。田町は東京駅の先、つまり県が全然違うのにわざわざ来てるのか…。
「うん、僕も最初はビックリしたよ。だから彼はいつもバスで大宮まで行ってから電車で帰っているよ。」
!?マジか。つまり伊吹くんは割と白だと思っても良さそうだと感じた。地元に住んでいるわけじゃないし高校に入学してわずか2ヶ月、そんな直ぐに土地勘があるはずもない。そうなると御影が1番怪しいと言うことになる。 う〜ん。こんな好青年がストーカーなんてするのかな?正直信じられないが確信が持てる判断材料がないため一応御影は見張ることに決めた。同じクラスだし行動が追跡しやすいのもある。
しかし俺はここで彼に現実を突きつける。
「うぅう……もう我慢できない!」
「ど、どうしたの!?」
「ごめんちょっとトイレ!」
実はさっきから尿意が半端ではなかった。でも皆さんが集中してる中で退出というのもなんとなくできなく、今までずっと我慢していた。
「なんだ…。場所は分かるよね?」
「うん!」
俺はダッシュで体育館のロビーにあるトイレに向かった。
「駿ちゃん!待って!」
楽園の男子トイレに入ろうとした瞬間後ろから聞き覚えのある声がした。
「夏目!?そろそろ練習始まるんじゃ…」
くそ。邪魔が…俺のトイレが
「私がいきなり男子バドミントンの方に行けるわけないでしょ!今駿ちゃんが飛び出して行ったらタイミングを見計らって出てきたの!」
うぐ…トイレさせて…
「で、どうだった?なんかわかった?」
俺はしょうがなく答えることにした。
「まぁ目星はついてきたよ。今のところ1番怪しいのは御影かな」
「御影くん!?まさかあの人凄い良い人だよ?今日だって率先して部活の持ち物とか運んでたし…」
まぁそうなんだよね…御影はそんな奴じゃない。それは理解しているけど特徴的には1番当てはまっている。ただどうしても動機がわからない。あいつは鋭いから変なことを聞いて情報が漏れたら大変だし。今はうかつには動かないのがベストだと思っている。
「まぁね…。まぁまた他の人にも探りを入れてみる。今日は一緒に帰れそうでしょ?」
「うん!今日は大丈だよ!校門の前で待ち合わせね!」
彼女は左目でウインクし、手でグッドをしながらそう言った。それにしても白い練習着を着ていた夏芽の服は汗で少し透けていて、さっきから若干見えるピンクの下着の線に少し戸惑いながらも俺はそろそろ本心を語ることにした。
「夏芽………」
「な、なにかな?」
「もう、限界……」
「いやぁぁあ!!!早くしてきて!!」
俺のモジモジポーズに気持ち悪さを感じたのか悲鳴を上げて彼女は体育館に戻ってしまった。
急げ!!!!
全力でドアを開け、全力でチャックを下ろし、全力で放射した。
「ふぅぅ……」
全ての要を足した俺には怖いものなど一つもなかった。
初めましてゼンサイです。
この度は本作をご覧頂き誠にありがとうございます。
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引き続き、本作をよろしくお願いします。