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第三部 前編② 嘘と嘘

         少女の自供


 私は田中が好き。高校に入ってそれは確信に変わった。でも、それはどこかで嘘なんじゃないか。そう思っている自分もいることは否定出来なかった。


 あの事件をきっかけに彼に好意の目を持ち始めた。

しかし、それと共に彼への罪悪感や責任の目も持ち始めたのは紛れもない事実だった。私のせいで彼の人生は狂ってしまった。「気にするな」何度も聞いたその言葉は私を慰めてくれる優しさと同時に、明らかに怒りと悲しみも感じ取れた。


 彼のために喜ばせたい、笑顔にさせたい……そして


        罪を償いたい。



 美術部に所属した私は今もそればかり考えている。


------------------------



次の日、俺は屋上で田中と共に昼ごはんを食べていた。


 「それにしても、今日はいつも以上に天気がいいな!」


 購買で買った焼きそばパンを片手に、田中は気持ちよさそうにそう言った。


 俺たち2人の昼食はいつも2パターンに分かれている。学食で定食を食べるか、混んでいた時は学食の入り口にある隣の小さな購買でパンを買って、こうしてあまり人が居ない屋上でご飯を食べるか。今日は後者だった。

 


 「うん。夏って感じだよ…」


 目線の向こうには夏と言わんばかりの青い空、眩しい太陽、そして入道雲が広がっていた。夏休みまであと13日間、今日は火曜日で終業式は来週の月曜日。隣には休みに入る前に復讐したい男が座っているのというのに、事件の解決が第一である。そんなもどかしい気持ちは俺の隅にあった。


 「にしてもよ〜。コンクールに提出するのに題材は決まったんだけど、なかなか上手く書けなくて…最近は御門先輩と本庄につきっきりで教えてもらってるよ…。」


 焼きそばパンを頬張りながら、目線は下を向いていて明らかに疲れている様子が感じられた。 


 「なにを描こうとしているの?美術のことはあんまりよくわかんないけど少なくとも春よりは上手いと思うからなんかアドバイス出来るかも。」


 俺はサラッと茶化しながらも、様子をみてこれいけないと思い。一応親友ということで田中のデッサンの内容を聞いてみた。


 「お前!また馬鹿にしたな!俺だってちょっとは上手くなったんだぞ!」


 そう言いながらズボンのポケットにしまってあったスマホを取り出すと、写真フォルダを開いて自分の書いたデッサンを披露する。


 「え…これ、なに?」


 そこに書かれたものは中央に窓が6つ付いている白い家?上には時計が付いている。そして右上には太陽

中央左には一本の木と上に雲が散りばめられていた。


 「なにって、凡凡高校に決まってんだろ?」


 …は?まぁなんとなくは予想してたけど、これは流石にヤバすぎる。小学生の絵の方がよっぽど上手だと思うけど…。色々言いたいことはあるけど、ここで伝えてもなんの意味もないことはわかっていたので、初心者にでも出来るようなアドバイスを少ししてみた。


 「たぶんこの絵には遠近法がまず必要だと思う。」


 「禁煙法?、俺タバコ吸ってないぞ」


 はぁ〜このアンポンタンの耳は本当に使いようにならない。


 「違うよ、遠近法。絵を見てみて、明らかに太陽と学校と木の大きさが同じだよ。これじゃリアル感がないんじゃないかな。さっきも空の話をしたけど実際に雲と太陽では全然太陽の方がちいさく見えるし。」


 「た、確かに。それ前にも先輩に言われた気がする…。」


 言われてたんかーい!まぁ初心者でも分かることだしそんな常識は当たり前って感じなのだろう。


 「知ってるなら尚更大丈夫じゃん!」


 「いや、そんな簡単じゃねーんだよ…確かだけど光の抑揚とか、絵のぼやし方、同じ色の使い分け。そんな細かいことも御門先輩が言ってた気がする。」


 俺は少しビビっていた。

 御門先輩ってただエッチな小悪魔だと思ってたけど、意外と器用なのかもしれない。人は見かけによらないのは確かなことである。もしかしたら田中を狙う理由にも何かしら意味がある?そもそも2ヶ月で人を好きになることなんてあるのかな?

そんな気もしたけど流石に考えすぎだと感じた。


 「まぁどっち道、駿もバイトがあるわけだし集中して取り組める感じだな。」


 うげ…。何気ない田中の発言にビックリした。そういえば昨日からバイトの設定だったんだ。


 俺は動揺を隠せなかったため手にとって食べようとしていたポテチを落としてしまった。


 「どうした?なんか嫌なことでもあったのか?」


 その反応にすぐに田中は気付いた。


  流石、鋭いな…


 「いや、バイトに可愛い子が居なくてちょっと萎えてただけだよ。」


 「そうか〜それは辛いな!バイトは男女が知り合える合理的な場の1つだからな!」


 「そうなんだよ…年配の方ばっかりで…この市が健康的な人多くて嬉しいよ!」


 なるべくバレなように両手でポテチを貪り、悲しい雰囲気を醸し出した。


「そうだ!なぁ、駿……やっぱり夏芽の様子がおかしいって!昨日からちょっと笑顔が増えた気がするけどなんか抱え込んでるというか、メールしても『何にもないよ?気にしすぎ!』の一点張りで…俺信用されてないのかな…」


 その逆だよ。この鈍ちん君。夏芽想いの田中と

田中想いの夏芽、それぞれ気持ちは同じなのに性格が綺麗に邪魔をしている。


 「だからそれは分からないよ。そもそも俺は春にそれを聞かされるまで気づかなかったし、現に夏芽をときより監視してるけど特にかわったそぶりはない気がするんだよね。」


 しかし、田中悩みこむ感じでとんでもない事を口にした。


 「う〜ん。例えばストーカーに遭ってるとか?」


  !?


 俺はその的確過ぎる言葉にさっきよりも動揺が隠せなかった。


 が、あと一歩のところで踏み止まり平然を装った。


 「それはどうかな?夏芽は可愛いけどかなりの人見知りだし、ストーカーに狙われるほど有名じゃないでしょ?中学の時も多少噂はされていたけど、好きだ!って人はいなかったじゃない?」


 夏芽のあの性格ゆえに、あまり話したことない人には塩対応をしていた。なので顔が可愛いとそれ以上もそれ以下も中学校では騒がれなかった。


 「ふ〜ん。そうかもな」


 俺の目を見ながら何かを感じたのかそれ以降は聞いてこなくなった。


 なんだよこれ…まるで人狼ゲームだよ。


 「まぁ、そろそろ行くか!」


 「そうだね…。」


 そんな恐怖を感じながら自分たちのゴミをビニール袋に詰め、俺たちは屋上を後にした。





 


 

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