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ナチュラル・ボーン・キラー

作者: rainvibration

 私は吉永芹奈、21歳の大学生。どこにでもいる女子大生だと自分ではそう思っているのだがどうもそうではないらしい。小中高大と、嫌われてたわけではないが、周りと話がかみ合わず、なんとなく浮いた存在だった。

 5つ離れた姉は聡明で、成績優秀、容姿端麗で自分に厳しく他人には優しいという文句のつけどころがない才女だ。そんな姉が大学生の頃は就職活動している風でもなかったのに、サクっと就職してしまった。

 なのに私はというと卒業間近だというのにどこにも内定を貰えず、そうとう焦っていた。私は3回生や、4回生前半では見向きもしなかった企業に、なりふり構わず面接を申し込んだ。


 A社

「へえ、弊社が第一志望なんだ、理由は?」

「御社が第一志望の理由は、クリエイティブで、エキセントリックで、ドラスティックで~云々」

「ほんとに第一志望なの? 適当にカタカナ並べてるだけで嘘っぽいなぁ、もう卒業も近いし焦ってるだけなんじゃないの?」

「え、なんでわかるんですか」


 B社

「弊社の技術を生かしてスポーツウェア開発とかしようと思うんですが、なんかアイデアはありますか?」

「速く泳げる水着ありましたよね、その流れで速く走れるジャージとかいいと思います」


 C社

「最近、辛く苦しかった事はありますか、また克服しましたか」

「家に帰ったら彼氏が知らない女と寝てた事です、泣きながらケーキを食べまくって克服しました」


 D社

「今一番欲しいものはなんですか」

「どこでもいいから内定が欲しいです」


 E社

「結婚のご予定とかはありませんか?」

「え? 紹介してもらえるんですか」


 F社

「ぶっちゃけ君、天然だよね」

「いえ、両親に人工的に育てられました」


 なぜかことごとく不採用で、ついにはそのまま卒業してしまった。このままでは大卒ニートまっしぐらだ。困り果てた私はサクっと就職するコツは何かと聞くために姉に電話をして泣きついた。

 しょうがないといった姉が、顔の広さを利用してか、人脈ネットワークを駆使して、自分と同じ官公庁系列の出張所に募集がある事を教えてくれた。紹介はしておくというので、早速面接を受けたのだけど、結果はまさかの合格。ミラクルだ。

 嘱託という臨時の仕事らしいが、これで3年間は安泰だ。その間にバリバリ仕事をこなして継続契約してもらうのだ。

 私は奮起した。教育係の年長女性、犬丸さんの厳しい指導の元、私はめきめきとアタマツノを表し……のはずが、失敗続き。私は真剣なのに、周りに爆笑される事が多かった。犬丸さんの指導も一層厳しいものになる。いいさ、なんでかはわからないけど慣れっこだもの。ひたすら頑張るしかない。

 少し仕事にも慣れた頃私は、私の次に若い小野さんからお茶汲み係を託された。どれが誰のカップかみっちり教わる。順調に配って犬丸さんにも差し出した。一口飲んだ犬丸さんがびくっとしてカップが揺れた。

「あつっ!」

 足にも飛び散って酷い事に。私は慌てて盆の上に敷いていた布巾で足を拭く。

「あっついわね!」

 犬丸さんが曇った眼鏡を外して睨んできた。

「すすすすいません、犬丸さんが猫舌だとは思わなくて」

 するとなぜか皆が噴出して、その後顔を伏せて震えている。わけがわからない。


 その後も私は必死で犬丸さんに喰らい付いたが、焦れば焦るほど空回りしているようだった。

 でも犬丸さんは、皆にはお局様と呼ばれて慕われていた。きっと厳しい中にも愛があるからだと思う。今ここで犬丸さんを失望させるわけにはいかない。今後の私の存亡がかかっている。しかし……。

「ほんと使えないわね、どうせ、結婚するまでの腰掛けなんでしょ」

「腰掛け……ですか」

「そう、結婚したら即辞めるからそれまで働くって意味、後のことなんか知ったこっちゃないから真剣さが足りないのよ」

「いえ、そんな事は」

「フン、どうだか」

 確かに一生を掛けて職場に身を捧げようなんて、覚悟ができてるかと言えば自信がない。犬丸さんは本気なんだ。独身だと聞いているし、職場に命を捧げているんだ。

「敵いません、犬丸さんは真剣なんですね、結婚しないのはお局様と呼んで慕う皆を捨ておけないからなんですね」

 よし、犬丸さんが顔を真っ赤にして照れている。その時なぜか、たまたまいた所長が大慌てですっとんできて、私を引っ張って行く。なんだなんだ。

 所長の血相が怖かったので、皆に助けを求めようと見てみると、みんなそっぽを向いている。そんなぁ。私は外に出された。

「ちょっとちょっと吉永くーん、言葉に気をつけてよー、あれはないよー」

 何がなんだかわからない。


 次の日から犬丸さんは来なくなった。体調を崩したと聞いたがとても心配だ。

 そして何故か他の職員が急に私に親しくしてきた。わけがわからないがGJなのだそうだ。何か急速に距離が縮まってみんなで弁当を囲んでいると、ネズミーで遊んできた先輩が土産話をしていた。

「うん、ネズミーシーはもう3回目だからマニアックな所探検してきたんだ」

 私はふと疑問に思ったことを質問してみた。

「ネズミーのAとBはどこにあるんですかね」

 みんながこちらを見て固まった。あれ? みんな知らないのかな。

「ぶはっ」

「きゃっはははは」

「吉永さんやっぱり最高」

 突然皆が爆笑しはじめた。やっぱりこのパターンか、謎だ。

 そんなある日、この地方の出張所を統括する庁舎から偉い人が来た。地方局長だそうだ。私がお茶を持っていくと、所長は座っている局長の前で、腰を折り曲げながら誉めたおしていた。あまりに誉めているので可笑しくなってしまい、私は笑いながら聞いた。

「ゴマをするとなんか出るんですか?」

 何故か2人が固まったようだ。身を屈めた所長が耳打ちすると、局長はこちらに目を向けながら耳を傾けたあと言った。

「ほお、君かね、ちょっと頭の……うぉほん、切れる期待の新人は」

「頭が切れるですか……埋蔵量が凄いと言われた事はあります」

 2人が「ぶふっ」と噴いた。局長が気を取り直したように言う。

「仕事は慣れたかね」

「いえ、まだまだですが、頼りにしてたお局様が帰ってきません」

 また2人して噴く。局長は所長と顔を見合わせた後言った。

「どうだね、ここら辺りで新人歓迎として飲み会でも」

「新歓ですか? もちろんです」


 喜び勇んで行ったところは思っていたのと少し違った。

 小石が敷き詰められた玄関口に、歩くための平たい石があって……あと竹が生えてて、玄関にド綺麗な和服女性が立っている。

「吉永さんですね、聞いています、こちらへどうぞ」

「あ、はい」

 あれ? みんなは?

 そんな疑問を抱きつつ部屋に入ると、局長は既に突き出しをつまみながら飲んでいた。

「よく来たね、まあ飲んで」

「あ、すいません、私は両親に酒を禁じられていまして」

「ん? 社会人なんだから自分で判断しなよ、俺が勧めてるんだよ」

 この時、私は尊敬するお局様の言葉がよぎった。

『長いものには巻かれろってことよ』

『どういう意味でしょうか』

『偉い人には従えってこと』

 お局様は尊敬に値する人材だ。しかし所長はもっと偉い。局長はもっともっと偉い。

「頂きます!」


 結果的に酒を飲んでポワっとなった私は局長と色んな話をした。殆んど解らなかったが、しばらくすると私でも解る話題を振ってきた。

「実は最近妻との折り合いが悪くてね、夜の生活も全く無くて、どうしたらいいか分からないんだよ、慰めてくれないかね」

 そう言ってそっと手を握ってきた。チャンス到来だ。この地方で一番偉い人に私は頼られた。

 こんなニート寸前だった私でも頼ってくれる人がいる。私は手をぎゅっと握り返して言った。

「局長は忙しくて家に帰る暇もないと言ってましたよね?」

「ん? まあそうだが」

「奥さんは寂しくて拗ねてるだけです、家に帰った際は愛してると一言だけ言って下さい」

「お、おう」

 私は局長を叱咤激励した。

「男は攻めてなんぼですよ! 押せ押せです! 奥さんを愛してると言いながら押し倒してください! それで解決です!」

「ああ、うん、そ、そうだね」

 局長は満足しながら帰ってくれた。我ながらいい仕事をした。なんせ一番偉い人に満足して貰ったのだから。


 長いものには巻かれた。これでお局様も認めてくれるはずだと思ったが、翌日も彼女は来なかった。仕方がないのでその武勇伝を小野さんに話したんだけど、何故かひきつっている。あれ?

「あはははは、そうなんだ」

 おかしい。しかし誰かにGJと言って欲しかった私はこの話を知りうる全員に話した。やはり反応は私の思ったものではなかった。所詮私なんかは元全落ち学生。私の所業などたかが知れているんだろう。

 そう思っていたが、一発逆転。その日の夕方に所長室に呼ばれた。やっとキターGJイベント。

 喜び勇んで所長室にいくと、所長と局長が揃っていた。しかし思っていたような表情じゃない。むしろ激怒している。なんでだ? 所長が怒鳴った。

「お前は何をしたのかわかっているのか!」

 全然解らない。私がキョトンとして言った。

「どういうことでしょうか」

「ありもしない噂を広めてるだろ!」

「噂と言いますと」

「局長との事だ!」

 訳が解らない。家庭の中心で愛を叫んで欲しかっただけなんだけど。

「あのな、このままだとお前は不名誉なクビになるぞ」

 私は泣きそうになった。どうしてこうなった。

「そんな、覚えがありません」

「撤回しろ」

「何をですか?」

「へえ、とぼける気なの、君、お姉さんのコネだと言ってたよな、お姉さんにも迷惑がかかるんじゃないの? それでもいいの?」

 私はなぜ追い詰められているのか訳もわからずパニックになった。

「ぞれは困りまず」

 涙が溢れてきた。でも泣けば許されるとか思われるのは嫌だ。でも止まらなかった。

「そもそもお前の姉さんの部署は!」

「直江兼続です」

「推し武将じゃねーよ、お前のねーちゃんが働いてる場所だよ!」

「東京でずぅ、うっ、うっ」

「は? 東京? 東京のどこ」

「霞ヶ関っでいっでまじだぁ」

 所長と局長は怒りの頂点を過ぎたのか、そのまま石になってしまった。私はクビになるんだ。ダメ妹な私にせっかくお姉ちゃんに紹介してくれたのに。お姉ちゃんにも迷惑がかかっちゃう。

 しかしクビになったのは何故か所長と局長だった。わけわかめ。

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