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海賊王の娘と森の国の王子  作者: 権田 浩


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62.別れ道(3)

 ハラルドの船が食糧その他を満載して戻ったおかげで、ドルイド討伐軍は再び前進できるようになった。偵察隊からの報告によれば、野営地より北にドルイドが何者かと争った形跡があり、そのまま北へ向かっているらしい。追跡は可能と判断され、ドルイド討伐軍はついにゴルダー河を離れて行軍を再開した。偵察隊がもたらす情報は、ドルイドがまっすぐ北へ向かっていることを示している。スパイク谷に向かっているのではないか、というハラルドの予測は日一日と確信へ変わっていった。


 森の中の行軍は相変わらず鬱蒼とした植物と、危険な動物と、虫の大群との戦いだが、不思議なことに魔獣とは全く遭遇しない。しかし、王旗を掲げた野営地の周りをこそこそ嗅ぎまわる無法者の姿を見ない日は無く、実際に忍び込もうとした盗賊を斬り捨てたことも三度あった。エドヴァルドなど知らんと言ったトアキルの息子スヴェレが特別なのではなく、アルダー地方は噂通りに王の力が届いていないのだ。スケイルズであれば辺境の小島であってもエイリークを知らぬ者などいない。好意の有無は別としても。


 そんな状況はドルイド討伐軍の結束を強めていった。見知らぬ土地で頼れるのは長旅をともにした相手のみ。アード人とスケイルズ人の交流さえ見られるようなった。その中心にいるのはやはりエリアスだったが、こちらは逆に、いちいちハラルドに絡んで来なくなった。あの略奪が尾を引いているのは間違いなく、その態度が図らずもエリアスの正体を明らかにしていた。


 農場を探して物資を得る、と言われて略奪を計画するのはスケイルズ人でなくとも北方人なら、いや北方人の豪族なら、全くおかしなことではない。トアキルの息子スヴェレの農場に上陸した直後のエリアスの慌てぶりも、不意打ちはしたくない、という意味でなら理解できる。しかしあの必死さは、交渉に失敗したら引き下がるしかないと考えていたからだろう。力に頼らない交渉など物乞いと変わらない。船上で語った身の上話が本当かどうかは別にしても、このエリアスは間違いなく豪族ではない。先祖代々の土地を受け継ぎ、根を張って生きる農民でもない。流れ者、無法者の類、自由民としては底辺に位置する者だ。それが力によってではなく、四王の定めた法によって玉座を得るとはなんという皮肉だろう。いや、四王の時代では嘘や策略こそが力を持つのかもしれない。この太った道化師はその先触れなのか。


 連絡係のドーグと話していたエリアスが振り向いて、目が合った。相談事があるらしい。それがわかるくらいの付き合いになってしまったか、とハラルドは心中ため息を吐き、不思議と悪い気がしない自分に肩をすくめて歩み寄った。


「連中に張り付けてある偵察隊からの報告だ。今朝方、二手に分かれたらしい。一方は北へ……おそらくスパイク谷を目指している。もう一方は西へ向かった。〝我らが友人〟にも話を聞いてみたが、行先に心当たりは無ぇそうだ」


 〝我らが友人〟とエリアスが呼ぶ、最初に捕らえたドルイドはもう完全に役立たずで、この動きがドルイドとして想定されたものではないとわかるだけだ。人質にしている娘は始末されていて、このドルイドもどこかでそうするのだろうとハラルドは思っていたが、今はそう考えていない。その甘さを警告してやりたくても、人前では侮辱ととられてしまう。エリアスにではなく、周囲の戦士たちに。


「半々に別れたのか?」


「いや、西に移動した一派のほうが少数らしい」


 ハラルドは腕を組んだ。「これまでの動きから、ドルイドどもの行先はスパイク谷で間違いないだろう。ならば西に向かった連中は囮かもしれんな」だとすれば、北に向かったほうが本隊で、アウラと本物のエリアスもそちらだろう。


 こちらのエリアスがまた心を読んだような返事をした。「俺もそう思う……だが、連中の考えなんてわからねぇし、こちらは別行動でも問題はねぇ。俺たちが北を追う。あんたらには西を頼む」


「いや逆だ。こちらが北へ。お前たちは西だ。谷の入口までなら船で行ける。森の中はお前たちのほうが慣れているだろう」


 エリアスは栗色の髪の下から挑むように見上げて、不機嫌そうに鼻を鳴らした。「……本当にそれでいいのか、あんた」


 一週間前だったら、これを侮辱と受け取ってハラルドは激怒したに違いない。しかし強者の矜持など持ち合わせていない偽物のこれは、気遣いだった。


(まあ、そうだとしても、この俺に対する侮辱だがな)


 ハラルドは思わず苦笑した。アウラの運命を他人の手に委ねるつもりなどない。


「あんた、いま笑っ――」


「話は以上だ」


 踵を返し、船長を呼び集める。まだ背中に視線を感じるあの男がどのような王になるのか……スケイルズ諸島のためだけでなく、個人的にも興味を惹かれていることを、いいかげん認めなくてはいけないようだった。


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