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記憶殺人 ~ 佐久間警部の暗躍 ~  作者: 佐久間 元三
交差する思惑
9/31

天王町の攻防戦1

 ~ 静岡県浜松市、パトカー車内 ~


 村松泰成と午後一に落ち合う約束をしていた佐久間だったが、現場不在証明を確認する前に静岡県警察本部との調整が急務と判断し、根回しをする順序を入れ替えた。村松泰成には時間を遅らす旨だけ話してある。


 浜松中央警察署にて捜査方針を打ち出すと、休む間もなく天王町の温泉施設に向かう。幸い目的地は車で十三分の距離である。山ノ内捜査一課長の計らいでパトカーにて現地を目指す佐久間は、第一犯行の際に村松泰成と接触した榎田を同行させる事にした。


「佐久間警部。お恥ずかしい話なんですが、自分は空気が読めなかったというか、その、村松弁護士に上から目線で現場不在証明(アリバイ)を聞いて怒らせた経緯があります。副署長や静岡県警察本部(本部)からも大目玉です。鈴木警部からは『警察学校へ送り返せ』と匙を投げられました。…そんな自分が佐久間警部に同行して宜しいんでしょうか?」


 言葉を選んでいるせいか、感情と発言に温度差が見受けられる。佐久間は「プッ」と笑い飛ばし、榎田に檄を飛ばす。


「下らん事をいつまでも気にするな。空気が読めないなら訓練すれば良い、気がついただけでも儲けもんさ。だが、空気を読めるだけで終わる男にはなるなよ。空気を読みつつ場をコントロール出来て、やっと一人前の刑事としてスタートラインに立てるんだ。正直、村松弁護士から事の顛末を聞いた時、開いた口が塞がらなかった。だがな、榎田()を見て率直に思ったよ。まだ、やり直せるとね」


「…佐久間警部」


「警察官に落ち込む暇はないぞ。一人前になれば、それだけ市民が救われるんだ」


 飴と鞭とは良く言ったものである。間髪入れず、左手でつり革を持つ山川が小言を挟む。


警視庁(うち)の人間なら簀巻きにするところだぞ、早く脱皮しろ。自分が執る行動で組織に迷惑が掛かるのか掛からないのか判断出来るようにならなきゃいかん。場を踏むだけじゃ身に付かんぞ。痛い目に遭って初めて身に付く事だってある。何時までも引きずらない事、以上。…しかし、榎田(お前さん)の周りにはそれを諭してくれる上司はいないのかね」


「いえ、みんな良い人なんですが…」


「でも何だ?」


「…いえ、自分が気配り出来ないだけです」


 榎田は、何かを思い出したようだが、言及を避けた。


(周りが駄目という事だろう。山さんの言う事も正論だな)


「まあ、過去を悔いても仕方がない。村松弁護士には私からも改めて頭を下げるから、今度こそ現場不在証明(アリバイ)をきちんと押さえるんだ」


「やってみます」


 パトカーは国道152号を東へと進み、十軒橋西交差点を通過し、馬込川を越えた。


「警部。一度聞きたかったんですが、村松弁護士とはいつからの関係ですか?」


「ん?小学生からだよ、中学校卒業まで計九年間一緒さ。高校からは進路が分かれたが、今でも友人だよ」


「私には弁護士の友人はいません。鉄道仲間なら沢山いますが。…互いに守秘義務がある。業務上出来ない話が多そうで、肩が凝りませんか?」


 榎田もウンウンと頷く。


「…確かに業務上、喉元まで聞き出したい事はある。村松弁護士(向こう)だって同じだろうがね。そこは互いに大人だから暗黙のルールで分かっている。だから、村松弁護士が担当する裁判については聞いた事もないし、聞こうと思わない。それよりも、そろそろ中田町に入る。天王町にはすぐ着くぞ」



 ~ 浜松市東区天王町、浜松温泉喜多の湯 ~


「おーい、佐久間。ここだ!」


 村松泰成は、温泉施設内ではなく施設入口で佐久間たちを迎えた。側には三名、施設の従業員らしき男たちが待機している。到着するとまず、榎田が頭を深々と下げて謝罪した。


「あの、前回は大変失礼を。…あれから何度も深く反省しました。以後気をつけますので、本日はよろしくお願いいたします」


 佐久間も付き合って謝罪する。


「村松弁護士、警察組織として謝罪します。当初、彼が取った行為は不適切であり、貴職の尊厳を著しく損なう行為でありました。どうか、平に水に流して頂きたい」


 突然頭を下げられた村松泰成も困惑し、両手で(たしな)める。


「頭をお上げください、分かって頂ければ結構です。それよりも本日はよろしくお願いします」


 互いに立場を踏まえた挨拶が済んだ。場が収拾し、佐久間も笑みをこぼす。


「…(みそ)ぎは済んだ。ここからは個人と刑事、両方の目で対応させて貰うよ。従業員(彼ら)現場不在証明(アリバイ)の証人を?」


「ああ。施設入口の従業員、仮眠室入口の従業員、そして施設責任者(フロアマネージャー)だ」


 佐久間は一人ずつと握手し、挨拶をする。


「お世話になります。警視庁捜査一課の佐久間と山川です。そして、彼は浜松中央警察署の榎田です。警察による現場不在証明(アリバイ)確認と言っても、構えないでください。任意でこちらもお願いするので、村松弁護士に関して正直に発言して頂ければ結構です」


「分かりました。ここでは何ですから、応接室で。証言する前に館内施設を先にご案内いたします」


 施設責任者が先頭に立って、館内施設を案内する。


「まず、ここが入口です。二十四時間、二交代制で三名ずつ。常時二名は最低受付(フロント)に立っていますので、誰が出入りするか見落としはありません」


「…分かりました」


(出入口は正面玄関の一箇所か。すばやく出ようとしても受付から丸見えだし、透明な回転型のドアだから、ドアが回れば嫌でも視界に飛び込んでくる。…確かに見落としはなさそうだ)


「従業員専用の出入口はどこですか?」


「こちらです」


 受付を通過し、館内着を手渡す脇のカウンター裏から内部に進んだところが出入口になっており、一般客からは見えないよう配慮されている。


「営業時間は何時から何時ですか?」


「平日は十時から深夜一時、土・日・祝は九時から深夜一時です。それ以外の時間は風呂の清掃中で使用出来ませんが、仮眠ルームにてお休み頂けます」


「営業時間以外、この通路を従業員以外が行き来する事は可能ですか?」


 施設責任者は得意気にクビを横に振る。佐久間たちを出入口に案内すると、従業員が出入りする方法を説明し始めた。


「悪意がなければ、それはあり得ません。ご覧の通り、例え先程の手渡しカウンターを突破しても従業員専用の出入り口ドアは電子ロック式を採用しています。各自パスを持っていますので、パスをこの様に押し当てて、感知センサーに認識させないと絶対に開きません」


「つまり?」


「お得意様であっても、ここを通って外へ出る事は()()という事です」


 施設責任者の目線が背後の村松泰成に一瞬向けられる。どうやら村松泰成が懐柔しているようだ。


(…なるほどね)


「ありがとうございます。では、次を見せてください」


 施設責任者は、次に温泉施設を素通りして仮眠ルームを案内する。


「深夜一時になりますと、館内の照明は一斉に薄暗くなります。防犯上、この仮眠ルーム外側、つまり廊下部分と階段部分、館内着手渡しカウンター、そして受付のみ明かりが点いております。従業員は各主要箇所で待機して、お客様の要望や安全管理に努めていますので、何かあれば直ぐに対応出来る体制を確保しております」


(…なるほど)


「よく分かりました。個人のみの力では突破出来ない。悪意を持った言い方をすれば、買収されない限りは、抜け出せないようです」


 村松泰成の表情が少し険しくなった。


「おい、佐久間」


「我慢してくれ。刑事はこういう質問をしなければならないんだ、続けるぞ」


「悪意をもって買収した場合、先程の従業員出入口から外へ出る事は可能ですか?それとも不可能ですか?その点のみお答えください」


 施設責任者は一度村松泰成を見た。そして村松泰成は黙って頷く。


「…可能です。ですが、受付から丸見えですので意味はないかと」


 佐久間はさらに突っ込んだ質問をする事にした。山川は佐久間の意図を瞬時に汲み取ったが、榎田は真意が掴めず、『怒らせるのでは?』と村松泰成の表情が気になるようだ。村松泰成も佐久間の真意を掴み切れず少し困惑の色を隠せない。


 そのため、佐久間はあえて前置きを入れる。


「今から『()()()()』のある質問をしますよ。村松弁護士も頭に血が上ると思いますが黙って聞いていて欲しい。…これは捜査にどうしても必要不可欠な質問です。受付から丸見えだといっても、隙は必ずあります。一名トイレで不在の場合、二名だけだ。その二名のうち、一名が手薄になるパターンを思いつきました。…たまたまお客さんが深夜一時過ぎにフロントに尋ねて来た場合、どうしても対応をせざるを得ない。残りの一名はずっと手渡しカウンターを監視している訳ではありません。この場合、物理的に監視をくぐり抜けて外へ出られるか検証したいんです。こういう場合は当然ありますよね?」


 村松泰成は黙っている。施設責任者も困り果てながらも、クビを横には振れない。


「…物理上は可能です。100%はあり得ません、人間ですから。三名いても気が抜けてしまう事も正直あると思いますし、誰かが意図的に外へ逃げる事は今までありませんでしたから」


「では、ここにいる村松弁護士があなた方三名を買収し、外へ意図的に出る事はどうですか?」


「佐久間!」


「吠えるなよ、泰成。…『()()()()』があると言ったはずだ」


 佐久間の表情は険しく、今まで友人には見せた事のない一面だ。これが刑事の本気なのか、迫力に負けて、不本意だが黙るしかなかった。


「…買収された場合、物理的に()()となります」


「つまり、現場不在証明(アリバイ)は簡単に崩れるという事になります。…となると、あとはアレだけか」


 佐久間は監視カメラを指差した。


「監視カメラは、表の入口以外にもあるはずです。従業員出入り口にもありますよね?」


「はい、ございます」


 佐久間が、ほくそ笑む。


「では、監視モニターの映像を解析させてください。三月二十七日のそうですね、二十三時から翌日の五時で結構です。ちなみにですが、従業員出入口と受付の正面出入り口以外、意図的に外部で出る()()()は無いですね?その点だけ念押しをします」


「…ないはずです」


()()では駄目です、館内をくまなくチェックします。監視モニターは山さん頼む。館内のチェックは榎田くん、よろしく。私は、村松弁護士に更に質問して現場不在証明(アリバイ)を確認する。山さんは監視モニターの校正記録から照会し、機械本体の稼働品質が適正かどうかのチェックを頼む。映像に細工(てこ入れ)していないか厳重チェックだ」


「承知しました」


「榎田は小窓があれば、人間が通り抜けられるか、梯子があれば外へ逃げられるかをチェックしてくれ。物理的に可能であれば、村松弁護士の現場不在証明(アリバイ)は立証出来なくなると思え」


「はい!」


「では、村松弁護士。応接室で現場不在証明(アリバイ)を伺います」


 こうして、容赦の無い佐久間の現場不在証明確認が開始されるのである。




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