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記憶殺人 ~ 佐久間警部の暗躍 ~  作者: 佐久間 元三
挫折と希望
16/31

警部たちの躍動

 ~ 六月五日、四時五十分 静岡県浜松市 ~


「何故、同じ日に殺人が!?」


 浜松中央警察署に設置された静岡県警察本部・浜松中央警察署・浜松東警察署による合同捜査本部は、夜明け前から各班に分かれて初動捜査に乗り出している。天竜区船明ダムには、鈴木警部と榎田たちが天竜警察署と合流し、現場検証を開始。本沢合の現場も安波警部が浜北警察署刑事課と合同で現場検証を開始。ほぼ同時刻に110番通報が入ったため、本部は一時情報が錯綜したが、山ノ内課長による的確な指示の元、瞬時に班編制され現場に急行したのである。


 第二殺人後、鈴木警部が報告を怠ったことから、静岡県警察本部と所轄警察署は一時、関係が著しく悪化したが、山ノ内捜査一課長自らこれを修復し、本部としての威信を賭けて投入した安波警部が期待通りの采配を振るうのであった。


 ~ 浜松市天竜区 船明ダム ~


 計九台のパトカーが船明ダム運動公園駐車場に集結し、まだ薄暗い公園内を赤色灯で真っ赤に染める。付近の住民たちは、部屋の中に差し込む赤い光で目が覚めてしまい、寝間着姿のまま公園内にゾロゾロと集まりだした。


 まだ規制線を張り切れていない天竜警察署の警察官たちも、住民を制止するのに必死だ。


「鈴木警部。駐車場(ここ)ではなく船明ダム自体の道路を封鎖しては如何でしょう?広すぎて制止しきれません」


「ダムの上は封鎖出来ないよ。県道360号線として供用しているし、あと三十分もすれば通勤時間帯に突入して大渋滞を招くだろう。橋の上での事件(ヤマ)ならともかく、橋桁からも少し離れているし、封鎖する大義名分が立たん。この早い時間では、県道を管理している土木事務所の職員はまず出勤してないだろうし、非常勤者がいたとしても、まず許可は得られないだろう」


「では、どうすれば?」


(………)


「犯行現場に近いところでパトカーを横向きに並べて、グルッと囲むんだ。カラーコーンとパトカーで何とか壁を作りながら規制線を張ってみよう。天竜警察署に応援の増員要請をして、これ以上野次馬が立ち入らない措置をしたい。この暗闇で、滑落でもしたら事だ。…ここは何とか頼んだぞ」


「了解です」


 公園入口を封鎖出来れば良かったのだが、供用道路と同様、交通管理者権限だけで封鎖は出来ない。公園敷地内で何かする場合は、公園管理者の許可が必要であり、連絡は入れているが早朝すぎて担当者が繋がらないのだ。やむを得ず、最低限の囲みで現場検証が出来る体制を確保するよう指示を出した鈴木は、榎田と桁下の犯行現場へ急ぐ。


「まだ暗いので気をつけて下りてください、思ったよりも滑ります」


 護岸ブロックと呼ばれるコンクリート枠で出来た法面を慎重に下りる。幸い、この護岸ブロックは賽の目構造であり、小さな正方形のブロック集合体だ。ブロックの端部に手を掛ければ、身体を支えながら下りることが可能である。


 ゆっくりと最下段まで下りた鈴木は、鑑識のライトが照らされている二十メートル前方のテトラポットを目指した。テトラポットはダムの湖面浅瀬に並べられており、足場が非常に悪い。湖面に落ちないように慎重に足元を確認しながら、やっと犯行現場に辿り着いた。


 鑑識官たちは、指紋を採取しようと試みるが、足場が悪いため手こずっている。暗闇のため、ライトを照らす捜査官もテトラポット上から湖面に落ちないように必死だ。


(このままでは、捜査にならんぞ)


鈴木は、腕時計で現在の時刻を確認すると、一旦、初動捜査を中止させる。


「一回、手を止めてくれ。あと十分もすれば夜が明けるはずだ。今更、慌てても仕方あるまい。中途半端に捜査するよりも体制を整えよう。機材は法面に置いて、少し休憩しよう。夜が明けたら周囲を手前から順に鑑識して、終わった所から足場板で仮設の床を作りながら進めた方が早い気がする。手間かもしれないが、作業効率も上がって、結果的には早く完了出来るはずだ」


 仕切り直すため、現場から鑑識たちが一度陸へ上がり、入れ替わりで鈴木たちがテトラポット上に立った。鈴木と榎田は、懐中電灯を水面に向けて遺体の状況を確認する。


「警部、被害者(ホトケ)はこの場所で殺されたのか、遺棄されたのか。どう思われますか?」


被害者(ホトケ)の位置は、橋の上から投棄されても、まず届かない距離だ。足場がこれだけ悪いんだ、担いで運んだとも思えない。個人的には、この場所で口論の末に殺害されたと思いたいな」


「そうですね、少し白み始めてきましたね」


「すまんが、榎田()は一度陸の様子を見てきてくれないか?野次馬の中に目撃者がいないか聞き込んでみてくれ。野次馬たちは、この近隣住民のはずだし、後日聞き込みする事を考えれば、手間が省けて効率が良い」


「そうですね、ちょっと確認してきます」


 榎田は、難なく移動していく。若くて丈夫そうな身体を羨ましく思いながらも、夜明けまでに出来る事はしておきたい。遺体の損傷具合を遠巻きではあるが、確認する事にした。


(…うつ伏せだから分かり難いが、頭部の左部分が陥没しているように見える。鈍器か何かで殴られたか?…角度的に犯人(ホシ)は右利きかもしれないな。…死後そんなに経っていなさそうだ、尻ポケットの膨らみは、財布だろう)


 無理をすれば、遺体に近づけそうだ。


(…落ち着け。あと少しで夜明けだ、足場が掛かるまで待て。下手に動かして、遺体が湖面に沈まれたら厄介だ。……大丈夫。大丈夫だ、落ち着け)


 腕時計の秒針がいつもより遅い。



 ~ 同時刻、浜北区本沢合 ~


「遅くなってすまないね。初動捜査はどこまで進んだか教えてくれ」


 二俣街道から秋葉街道に入り、貴布祢地区経由で現地入りした安波は、浜北警察署の捜査官たちと合流した。現場は見通しの良い直線区間で、鑑識区間を中心に半径五十メートルの位置で規制線が張られている。


「お疲れさまです。既に鑑識官がタイヤ痕と下足痕を採取しています。現場にはブレーキ痕がない事から、ひき逃げされた印象です。それとフェンスに接触した跡はなく、被害者(ガイシャ)は車両に突き飛ばされて、直接池底に転落した可能性があります。あちらに、第一発見者の男性が待機してくれています」


(ほう?)


 捜査官が、そのまま第一発見者を安波に紹介する。


「静岡県警察本部捜査一課の安波です、こんな早朝に申し訳ありません」


「すぐそこで魚屋してるんで、気にされないでください。競りが終わって市場から帰ってきたら、何か池の底にあるなと思って」


「そうですか。良かったら、発見した時の状況を再現して頂けないでしょうか?」


「ああ、良いですよ。じゃあ、店の方に来て貰えます?」


 第一発見者の男は、自分の店まで安波を案内する。


「この場所に駐車している車から見えたんですか?」


「そうですよ、今ヘッドライト点けます」


 前方の調整池が照らすと、男の証言通り、池底に黒い大きな物影が見える。


「失礼ですが、お名前は?」


「中村と言います」


「では中村さん、今日も普段と同じ時間帯でお仕事を?」


「平日は毎日、一時過ぎに南区の卸市場に出向き、四時を回った頃帰ってきます。大体、いつも同じ時間になります」


「店を出る時は、何か違和感を覚えませんでしたか?」


 中村は、クビを横に振った。


「卸市場に行く時は、車は今とは逆向きに駐車してます。朝方は今の向き。昼間は近くの駐車場に駐めて、夕方の店終い後に持ってくるんです」


(…一時過ぎに遺体があったかは、不明という事になるな)


「中村さんは、いつもこの店で寝泊まりされてますか?」


「そりゃ寝泊まりしますよ、自宅ですから」


「状況をこれから詳しく調べるんですがね、本日に限らず、ここ一週間前後で何か不審な車が止まっていたとか、怒号を聞いたとか、クラクションが鳴ったとか、何か普段と変わった事はありませんでしたか?」


 中村は、しばらく考えていたが、またしてもクビを横に振った。


「俺、朝早いから寝るのも人より早いんです。…大抵、二十一時には寝ちゃうから、よく分かんないかな。…ちょっと待って貰えますか?妻に聞いてみます、妻なら毎晩二十三時過ぎまで起きてると思うからさ」


「助かります」


 しばらくすると、中村が妻を紹介した。


「すみません、奥さん」


「あまりジロジロ見ないでください、まだ化粧してないですから」


「どうも、すみません。奥さんは毎晩遅くまで起きてらっしゃるそうですね。昨夜から本日未明にかけて、何か不審音を聞いたり、不審車両を見かけたりしてませんか?ここ一週間前後でも構いませんので、覚えていたら参考にしたいんですが」


「不審車両は見てませんが。……音なら聞いたような」


(------!)


「それは何時くらいですか?」


「夜のニュース見てたから、二十二時頃かしら」


「間違いありませんか?どの局ですか?」


「…ちょっと待ってください。えーと、静岡毎日放送だったかしら?…スポーツニュースの前だったと思うんです」


(それなら『報道浜松ステーション』だ。よく観ているから知っている。スポーツニュースは、二十二時二十五分前後。CM後に始まるはずだ。野球のナイターで放送時間が変わってない限り、有効だろう。後で再確認しよう」


「ちなみにどんな音を?」


 夫とともに妻の証言を待つ。


「ブオ---ン、ドン!……ブオ---ンって音でした。何かに当たった音だなって思って、すぐに飛びだそうとしたんですけど」


(……?)


「したんですけど、どうしたんですか?」


 妻は恥ずかしそうに、その先を話さない。夫は安波を気遣って、会話を前に進めようと発破を掛ける。


「どうしたんだよ?言わなきゃ、刑事さん困るだろう?」


「…ボソボソボソ」


「刑事さん、ごめん。お手洗いだってさ」


(……?)


「お手洗い?…ああ…お手洗いに寄ってから、外に出て確認した訳ですか?そうすると、奥さんが外に出た時は、既に何も無かった。…という事ですかね?」


 妻は無言で頷いた。


(…これは痛いな。ドン!っていう音が衝突音なら、逃走車両を現認出来ていたかもしれない)


 安波は、ポリポリと頭を掻きながら、店の方へ目をやった。


(……)


「閉店時は、そこの勝手口から出入りをされていますか?」


 二人は同時に頷いてみせる。


(…勝手口から表まですぐの距離だ。ほんの時間差で犯人を逃がしてしまったかもしれない。それだけが悔やまれるが、幸いなことにまだこの時間だ。通学路だから、時間帯によっては大惨事になったかもしれん。……ん?そろそろ、被害者(ホトケ)が上がるな)


「いやいや、どうも助かりました。ひき逃げだと思いますので、後日改めてお伺いするかもしれませんが、どうか捜査にご協力を」


 安波は、やや早口で夫婦に礼を言ってその場を後にする。引き上げられた遺体に駆け寄り、すぐに身元確認を試みる。


「…これは、かなり痛かっただろうな。身元を証明するものはありそうかね?」


 捜査官が身体を検めると、尻のポケット右側から財布が見つかった。


「警部、財布です」


「どれ、…加藤昭博…三十七歳か。……どこかで聞いた名前だ。…加…藤?」


(------!)


 安波が思わず叫んだ。


「こいつは、加藤だ!…十五年前の事件関係者(マルタイ)だ!」


 浜北警察署の捜査官は、安波が何を騒いでいるのか分からなかったが、合同捜査本部の人間たちは一様に動揺を隠せない。手を一旦止め、関係者一同が加藤の顔を覗き込む。


「第三殺人…が起きたと?」


 安波も年甲斐もなく、興奮を隠せない。


「直ぐに司法解剖に回すぞ。だがその前に、加藤昭博(ホトケ)を徹底的に調べるんだ!」



 ~ 再び、浜松市天竜区船明ダム ~


 夜が明けた。


 船明ダムの橋上、県道360号線では通勤中の車両が徐行しながら、現場検証の様子を物珍しそうに見る形で通過するため、若干であるが渋滞し始めている。また、公園内の野次馬たちも橋の欄干に移動して見物しだしたため、車道の路肩にも人だまりが出来き始め、応援で招集された天竜警察署警察官が懸命に交通整理を開始。鈴木たちも物々しい雰囲気の中で本格的な初動捜査を行っていた。


 鑑識官たちと状況を整理していく。尻ポケットから財布が見つかり、被害者の氏名と住所が判明。直ぐに履歴照会をする予定である。


「鑑識官、死亡推定時刻はどうだ?」


「遺体の様子から、死後六時間から八時間くらい。死亡推定時刻は二十一時から二十三時です。解剖すれば、もう少し狭められると思います」


「鈴木警部。やはり橋の上から遺棄された可能性は低いですね、血痕が護岸から続いてます。被害者(ホトケ)の岡田順平は、おそらく近場で犯人(ホシ)に襲われたんだと思います」


(………)


「岡田はこの位置に瀕死の状態で歩いて、息絶えた。…待てよ。…普通なら助かろうと駐車場()を目指すよな?」


「ええ、それが普通じゃないでしょうか」


(何だ、この違和感は?…助かりたいなら、駐車場に行くはず。だが、逆に水辺に向かった。……ひょっとして?)


「護岸から続いている血痕は多種類ないか?簡易キットで血液型だけでも良いから調べてくれ」



 五分後。



「鈴木警部、二種類の血液反応を確認」


(ビンゴだ)


「警部?」


「護岸で襲われた岡田は見ての通り、深手を負った。だが、犯人(ホシ)も岡田によって負傷したんだ。もしかしたら、犯人(ホシ)の方が致命傷だったのかもしれない。争った憎き相手を普通なら逃がしたくないはずだ。だから、力尽きるまで追いかけたが、叶わず絶命した。これなら状況説明がつく」


 周囲もこの推理に感心する。丁度、榎田が下りてくるのが見えた。


「では、その線で鑑識作業を進めます」


「ああ、頼む」


 的を射た推理を披露出来たと自負する鈴木は、上機嫌で榎田到着を待った。


「どうだ、何か聞き出せたか?」


「それが、確定情報(これ)といった目撃者はいませんでした。いつもこの公園は真っ暗で、人は歩かないらしいです。たまに車は駐車していますが、長距離トラックが仮眠を取るために利用するくらいで、昨夜は時折、数台いたようですが、特に怪しいとは思わなかったようです。そのため、駐車した車種や色、大きさ等の情報も皆無です」


「まあ、普通ならそうだな。監視カメラはあったか?」


「はい。公園入口と船明諏訪神社前、それに球場のゲート付近に設置されていたので、後でカメラ映像を解析してみます。警部の方は如何ですか?」


「何となくだが、状況整理が進んだよ」


 鈴木は、これまで推理した結果を得意気に榎田に説明し、榎田も大いに感心した。


「流石です。ちなみに逃げた犯人(ホシ)はどこに向かったんでしょうか?血痕は、この付近しかないんですよね?もしかして、拭いながら駐車場に戻ったんでしょうか?」


(------!)


 鈴木の眉が、ピクンと反応する。


(…そうだった。被害者(ホトケ)に追われた犯人(ホシ)はどうなった?陸に逃げたのか?それとも被害者(ホトケ)と刺し違えて、そのまま沈んだのか?)


「榎田くん、良いところに目を付けた。天竜警察署(所轄)と協力して、船舶でダム湖を捜索してみてくれ。陸に逃げたなら構わんが、刺し違えて湖底に沈んでいる可能性もある」


「分かりました、捜索してみます」


 鈴木はここでもう一手閃き、鑑識官を呼んだ。


「護岸で確認した血痕だが、この場所から駐車場まで続くようなら犯人(ホシ)は陸へ逃げた。逆ならダムの湖底に沈んでいるはずだ。根気よく追ってみてくれ。榎田()は、鑑識結果を待ってから動くようにすれば、手戻りはないはずだ。二人で連携して頼んだぞ」


「了解です、警部はどちらへ?」


「うん、浜北区の事件も気になってね。駐車場で、安波警部に無線連絡してみるさ。状況次第で安波警部に合流するし、問題なければ戻ってくる」


「お願いします」


 鑑識の捜査を待つ間、鈴木は足早に駐車場に向かった。



 ~ 再び、浜北区本沢合 ~


 安波たちは、加藤昭博の身体を念入りに確認しているが、遺体の様子が変である。


「安波警部、脱がした衣服から別の血液反応が出ています。これは一体?」


(……?)


「詳しくは、解剖してみないと分からんな。…鑑識官、意見を聞きたい。普通のひき逃げなら、衝撃で出来る痕は、打撲痕か裂傷痕くらいじゃないか?でも加藤には、腕を刺された跡がくっきりと残っている。ひき逃げされてから、何が刺さったのか検証出来るかな?この場所から見る限り、調整池の底面部に突起物らしきものは何も見えないが…」


 鑑識官もクビを傾げる。


「確かにおかしいですね。遺体のこの部分は間違いなく、車両の衝突で出来た傷だと思います。直近のフェンスには、被害者(ホトケ)の血痕や衣服繊維が付着していないことから、衝突の衝撃で飛ばされ、そのまま落下したものと思われます。死因は間違いなく全身打撲と頭部挫傷ですから、腕に刺し傷がつくとは思えませんが」


(…大胆に仮定すると、直前に刺されてから、ひき逃げに遭った。…そんな馬鹿な事が、実際起きるのだろうか?)


「まあ、考えても仕方が無い。まずは、手堅く状況証拠を積み上げよう。通学時間までが勝負だ、付近一帯の映像確認は後で行うとして、衝突した車両の断片を見失うな。必ず証拠は現場(ここ)にある、何としても第三犯行(この事件)から犯人(ホシ)の手がかりを掴むんだ!」


 檄を飛ばし、全員でもう一度、現場を洗い始めたところに無線連絡だ。


「安波警部、天竜区船明ダムから無線連絡です」


(鈴木警部から?…早いな、もう終えたのか?)


 パトカーに戻り、無線に応答する。


「安波だ」


「こちら、三号車鈴木です。現在、現場検証中どうぞ」


(まだ検証中か、…中間報告だな)


「二号車、同じく現場検証中。被害者(ホトケ)は加藤昭博と判明。十五年前の事件関係者(マルタイ)、加藤だ。どうぞ」


(------!)


「安波さん、では第三犯行が?」


「残念だがね、そっちはどうだ?」


「こちらは、一名死亡を確認。天竜区二俣町二俣在住の岡田順平、三十九歳と判明。履歴照会しましたが、犯罪歴の該当なしです、どうぞ」


「そうか、そっちの死因は何だ?…どうぞ」


「それが、鈍器らしきもので、殴打されて絶命した模様。状況から犯人(ホシ)と争った形跡あり。現場に血痕が二種類ある事から、現在犯人(ホシ)の逃走経路を割り出し中。どうぞ」


(…二種類の血痕?)


犯人(ホシ)が負傷しているのは、間違いないのか?どうぞ」


「間違いありません、出血量も多そうです。どうぞ」


(------!)


 見えない糸が、唐突に絡み合う感を覚える。


(…ちょっと待てよ。…船明ダムの犯人(ホシ)は負傷して逃走。仮に、加藤が船明ダムで岡田という男を殺してから、この道を通り掛かり、ひき逃げに遭ったとしたらどうだろう?…浜北区と天竜区は隣接してるから、同時間帯からも、あり得るかもしれない)


「安波警部、どうかされましたか?どうぞ」


「こちらの被害者(ホトケ)の死因は、事故死が濃厚だが、右腕に刺された傷あり。同日の同時間帯から、もしかすると岡田を殺した犯人(ホシ)が加藤昭博で、加藤昭博を殺したのが真犯人(ホンボシ)ではないかと脳裏に浮かんだ。そちらの血液を採取次第、鑑定結果を検証しよう。なお、被害者(ホトケ)の衣服からも、別人の血液反応が出ている。どうぞ」


(------!)


「確かに、怪しいですね。本沢合(そちら)の犯行時刻は予測つきますか?どうぞ」


「近所の住民が、不審音を聞いていた。時刻は二十二時二十五分前後だと考えられる。船明ダム(そちら)はどうだ?どうぞ」


船明ダム(こちら)の鑑識官の話では、死亡推定時刻は二十一時から二十三時です。詳しくは解剖してみないと分かりません。どうぞ」


「犯行場所から、すぐに車両による逃走は可能なのか知りたい。どうぞ」


船明ダム(こちら)の犯行現場は河川区域です。堤防の護岸下なので、駐車場まで徒歩による移動時間が生じます。どうぞ」


(移動時間を合算するとどうなる?)


「遺体発見現場から最寄りの駐車場まで徒歩何分くらいだ?どうぞ」


「…健常者なら、十分程度。怪我状態なら、多く見積もって二十分です。どうぞ」


(…辻褄が合うかもしれない)


「鈴木警部、船明ダム(そこ)は他の者に任せて、一度捜査本部に戻ってくれ。…どうも、二つの事件は連動している気がしてきた。そちらの死亡推定時刻、二十一時の線が濃厚なら、点と点が線として繋がるかもしれない。船明ダムから本沢合地区までの移動時間を車で約一時間だとしよう。犯行してからの移動時間二十分を考慮すると、一時間二十分だ。つまり、船明ダムで二十一時に犯行を行った加藤が、二十二時二十分に、この場所に到着していたかもしれない。繰り返すが、本沢合地区での死亡推定時刻は、二十二時二十五分前後だから、条件がピタリと合致するんだよ。どうやら捜査本部で一緒に時間検証した方がよさそうだ。どうぞ」


(…なるほど。今の話が本当なら、二つの殺人事件が同時に進展する)


「承知しました。榎田巡査に湖底の捜索を依頼しましたが、保留します。戻るついでに、船明ダム(こちらの)犯行場所から本沢合地区(そちら)の現場まで、実際の移動時間を検証しますよ。どうぞ」


「それはありがたい。では、鈴木警部(お前さん)が到着するまで待っている。どうぞ」


「では、後程」


 ひょんな事から、前に進めそうな気がする。


「みんな、聞いてくれ。同時捜査している船明ダムなんだが、もしかしたら船明ダムの犯人(ホシ)は加藤昭博かもしれないぞ」


(------!)

(------!)

(------!)


 一同が、この言葉に驚き、再び現場検証の手を止めた。


「安波警部。一体、どういう事ですか?」


「それを今から説明する、全員集まってくれ。鈴木警部が本沢合地区(ここ)に到着するのは、約一時間二十分後のはずだ。それまでに出来る事をやり切るぞ」


(一時間二十分?)

(どういう事だ?)

(まあ、警部の話を聞いてみようじゃないか、何かある)


 歯車が、動き出す。

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