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解答②

 翌日の昼休み。


 待ちに待った壮介は、いの一番にお弁当を片手に俺の前の席に陣取った。


「さて、そろそろ土産話を聞かせてもらっても構わないかな?」


 取調べでもするような口調で弁当を広げ、いただきます、と食べ始める。どうせならかつ丼を持ってこい。


「それが、なんか、かなり不完全燃焼だった」


「それはいつものことじゃないの?」


 完全燃焼なんてらしくないでしょ、と迷わず返してくるあたり容赦ない。否定できないのが悲しい限りだ。


「前言撤回する。いつもよりも不完全燃焼だった」


 つまり、ほとんど燃えなかった。生焼けだ。あるいは生殺しと言った方が適切かもしれない。


「それは失敗したってこと?」


「……」


 無言で頷いた。壮介もなんと答えていいか分からず黙り、代わりに弁当を頬張ったので俺も鞄から弁当を取り出して広げた。話を進めるのに少し手持無沙汰だ。


「失敗したと分かったからそれをカバーしようとして余計に拗らせた、気がする」


「あらら、それは珍しいこと」


「余計なことしなければよかった」


「余計なことって? 何したの?」


「まあ、いろいろ」


 それはまだ詳しく話せるような状態じゃない。勿体つけているわけでなく、現在進行形で、未来形で語るべき内容だから話すことが出来ないのだ。しないのではなく、出来ない内容だった。


 それで納得するわけも無く、壮介は目で説明するように促してくる。眼力、というよりも体格に見合った圧力に多少たじろいでしまったが、それでも口を割らずに、それどころか負けじとお弁当を頬張って黙秘を貫いた。


 そんな抵抗に観念したのか、それとも同情したのか、壮介は問い詰めることをあきらめ、ところで、と話題を変えてくれた。


「東雲先輩のおじいさんは元気だった?」

「相変わらず元気だったよ。揚げ饅頭も好評だった」

「そりゃよかった」

「先輩も喜んでたし」

「おお! そりゃよかった」

「リアクションの差!」

「ごめん、自分の株があがったような錯覚に陥ってた」


「いや、むしろ、お前に教えてもらったことを伝えなかったことを申し訳なく思う」


「まあ、べつにそれはいいんけどね。東雲先輩と親しいわけじゃないし」


 俺も別に親しいわけじゃない。というか、もしかして怒っているのか。その屈強な肉体と裏腹に極めて温厚な性格の壮介がイラついているのか。


 俺が素直に謝ると、謝らなくていいよと含み笑いを返してきた。


「自分としては、悠真と東雲先輩が親しくなってほしいと思ってるし」

「急にどうした? なんか気持ち悪い」

「おいっ! せっかく応援してるのに」

「……悪い」


 そうだ。今回の暗号がすぐに解けたのは壮介のおかげだ。偶然とはいえ、最大の功労者といっても過言ではない。


 そういえば、まだお礼も言ってなかった。


「今回は壮介に助けてもらってばっかりだな」


「ん? 揚げ饅頭?」


「それもそうだけど……」


「知らないところで大活躍してたんだ」


 よかったよかった、と満足そうに壮介は頷いた。食い下がらないところにも優しさを感じる。


 やっぱりいいヤツだ。


 せめて、その恩に答えよう。


「話は戻るが――」


「かつ丼の話?」


 そんな話はしてなかった。いや、考えはしたけど口にはしてなかったと思ったのだが、心の声が漏れていたのか。もしや、これが以心伝心というやつか。


 話しが反れた。


「不完全燃焼っていう話」


「ああ、それね」


 壮介はお弁当を大きく頬張り、聞く態勢になった。余計なことは言わないという意思表示。


「たまには完全燃焼してこようと思ってる」


 目を見開いて驚く壮介に構わず続ける。


「柄じゃないし……余計なことで、ただの自己満足になるかもしれないけどな」


「……」


 ゴクン、と壮介ののどが上下した。


「いいんじゃない? 完全燃焼」


 いつもの穏やかな表情に戻っている。


「柄じゃない、なんてことはない。どうなるかはわからないけど、思いっきりやって悪いことではないんでしょ?」


「まあ、たぶん」


「悠真は遠慮深いから、余計で、自己満足くらいがちょうどいいと思うよ」


 お節介の悠真とか面白いし、と冗談めかして、それでも強く背中を押してくれた。


 バレー部次期エースの言葉は説得力がある。


「まだベンチなんだけど」


「もうベンチだろ?」


 入学三ヶ月にしてスタメンに大手を駆けている。スポーツ推薦でもないのに、それなりの実績があるバレー部でベンチ入りを果たしているのだから十分に可能性があるだろう。


「どうだろうね。この身長があるから技術の無さをカバーできてるけど、このままだとそのうちベンチから外されるよ」

「そういうものなのか」

「そういうもんだよ」

「…………」

「どうかした?」

「いや、なんでもない」


 壮介とは以心伝心するほどの仲だと思っていたが、それでも知らないことはあるものだ。当たり前な話だけれど、こうした機会でなければ気付くこともない。


 それは今回のことで十二分に実感していた。


「……今日の放課後、行ってくる」


「おう。しっかり決めて来い!」


 お箸を握ったまま、壮介はグッと親指を突き立ててきた。

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