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解答①

 家に着いた俺はとりあえずお風呂に入った。


 日が暮れたとはいえ、まだまだ気温は高いし、べたついたままなのは気持ち悪い。一度身も心もさっぱりしたかった。さっぱりした状態でもう一度頭を働かせたかった。


 ベッドに転がり目を閉じる。深呼吸を二回。


 あの時の先輩は何を考えていたのだろう、と回想する。


 堅忍不抜。


 簡単に言えば、努力し続けることの重要性を説いた言葉だ。努力を続けることで成果を出している先輩にふさわしい言葉だと思った。先輩を表現する適切な言葉だと思った。しかし、それは同時に不自然でもある。先輩が努力家であることはおじいさんが一番よく知っている。


 そんなおじいさんが暗号などという不得手で遠まわしな方法を選んでまで改めてその言葉を送ったのは、先輩の弱点克服といったところだろう。


 先輩はこういったひねくれた問題は苦手だ。左脳派、根っからの文系タイプというべきのか、勉強したことはできるが、応用が利かないところがある。それに対する『堅忍不抜』というメッセージだった。


 そう思っていた。


 そう思っていたが、実際は違った。


 事実は異なった。


 事実を知る最も効率的かつ簡単で、それでいてハードルの高い方法は先輩に直接聞くことだ。現実的ではないし、そんな勇気があるのならとっくに行動を起こして、こうして自分の部屋で悩むなんてことはなかったのだが。


 先輩もそれには触れて欲しくなかったようだった。強引に話を切り上げ、帰り道はいつもの五割増しで口数が多く、その話の中におじいさんは出てこなかった。意識して話を反らしていたに違いない。先輩にしては珍しい動揺ぶりで、隠そうとするあまりむしろ露骨になってしまっていた。


 いや、それもある意味先輩らしいのか。おじいさんの前では子供っぽくなるように、油断するとそういった地の部分みたいなものが出てくるのかもしれない。


 それなら――。


 それなら、あの時見せた先輩の顔も、あの時の表情こそが先輩の本質的な部分なのだろうか。


「……違う」


 話が反れてしまった。先輩の本質なんて分かるはずもない。先輩に限らず、人間の本質なんてあるかないかもわからないようなもの、考えるだけ時間の無駄というやつだ。


 先輩はおじいちゃん子で、真面目で、実直で、優しくて、たまに子供っぽい一面もある人だ。これは俺の主観の印象。おじいさんにはどのように映っていたのだろう。可愛い孫だから盲目的になることもありそうなものだが、あのひとに限ってそれはないか。むしろ、可愛いからこそ厳しい判断をしそうなものだ。可愛い子には旅をさせよ、ということわざもあるし、厳しくしつけてきたのだろう。


 そのおかげで先輩はあんな努力家になった。真面目で、実直で――。


「ああ、そういうことか」


 深く考えるようなことでもなかった。


 これ以上は自己満足でしかないと思いつつ、俺はスマホを手に取った。

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