青の子供
幾つかの世界をぴょんぴょん飛んで
そこからたしか数千年
時間を戻せばそこに着く
これは優しい少女の話
菫の乙女とさだめの話
柔らかな風と清らかな川
鎮守の森と森の主
そしていちめんの青い花
それらを持った美しき村
村に住まう人々は
青の住処とそう呼んだ
神の楽園に少し似て
地獄に近いその場所は
鎮守の森の主さまの
魔力によって守られる
ある日鎮守の森を抜け
迷い込んだ一つの夫婦
隣の国の貴族様
薔薇咲き乱れる帝国の
傷つき怖れる逃亡者
哀れな2人を人々は
青の住処へ受け入れた
村に入った貴族様
それから数日経ったのち
彼らを求めて兵が来た
夫婦は鎮守の森へと隠れ
村人たちは兵の前
一列並んで潔白証明
村人をみる兵士たち
彼らは赤子に目を留めた
薄青の髪 青い瞳 陶器のように白い肌
帝国の兵は恐怖した
これは不吉の前兆ぞ
これは滅びの前兆ぞ
薔薇の花咲く帝国の
古い古い言い伝え
歪められた運命と
神の寵を受けし者
それら2つが揃ったならば
それらが2つ育ったならば
青き奇跡が国を滅ぼす
それらが2つ揃わぬならば
青き奇跡が国を助ける
ああ見よ村を
青の住処を
青い花が咲き乱れ
小鳥は歌い森はさざめく
幸福そうな村人たちは
まるで何かに守られてるよう
神の寵を受けたかのよう
青が神の恩寵の
与えられた証なら
赤子こそが凶兆の者
傾国の者と言えるだろう
救国のものと言えるだろう
騎士団長は兵に告ぐ
青の住処の赤子こそ
凶兆の者に違わぬだろう
あれが大人になる前に
あれを消してしまわねば
赤子の今なら神の寵
受けたものをも使えまい
命を受けたは副団長
草木も眠る丑三つ時に
赤子の家に忍びこむ
月に照らされ眠る子の
ああ なんと美しき
その美しさは妖しさをもち
副団長を魅了する
鎮守の森のざわめきに
副団長は心を決める
この子を殺すわけにはいかぬ
このままここにおくのもいかぬ
なれば神にこの子を託そう
鎮守の森で生き延びよ
副団長は青い子を
鎮守の森の奥深く
祭壇の上に置き願う
優しい良き子に育ちますよう
名も知らぬ
姿も知らぬ森の主よ
私はきっと殺されましょう
死して人は魂となり
天か地へとゆくと言います
私はここに戻りましょう
我が魂を代償に
美しき青をお護りください
青い我が子を失いし
親は鎮守の森へと向かう
我が子のありかを主に聞くため
森の深くへ分け入りて
祭壇の前にひざまずく
我が子はいづこ
あなたの寵を受けた子は
我が子は何処にありましょう
祭壇の上に落ちくるは
白と青もつ鳥の羽根
見上げた梢におられるは
ああ 全能なる森の主
青と白の翼を広げ
祭壇の上へと舞い降りる
青年の姿の森の主
瞳は青く 肌は純白 髪は流れる川のよう
彼の腕には彼らの子
美しき主とよく似た我が子
彼の寵を一身に受け
いなくなったと思った我が子
森の主は静かに言った
これは祭壇の上に置かれた
我が村に
この意味知らぬ者はいまい
森の主の祭壇に
置かれたものは主のもの
親は瞳を見開いて
ころりと一つ涙を落とす
我はこの子を喰いはせぬ
これは我の寵を受け
優しき者の願いを受けた
魂対価の交渉を
なくす愚かな我ではあらぬ
しかし愚かな者どもよ
罪なき赤子を殺さんと
思ったことすら憎たらしい
赤子と親はともには住めぬ
運命はもはや交わらぬ
我が寵愛を受けたがために
親と離れてしまうとは
我はこの子を愛すと誓おう
我を信じ我に預けよ
我はこの子を守ってみせよう
森の主の去ったのち
立ち上がった二親は
赤子のありかを住処へ広め
人々は不安に眉根を寄せた
薔薇の兵は青の子を
神の寵を受けし子と
思いて連れて行ったなら
それは大きな勘違い
青の住処を作り出し
村人守る森の主
鎮守の森に巣食う彼
鳥の翼を持つ男
あれは神ではありはせぬ
魂をかけた契約を
大喜びで結ぶもの
青の住処は守られる
鳥の悪魔の力によって