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極道生徒は友達が欲しい  作者: はやぶさ
7/11

新体力テスト

どうぞよろしくお願いします。



入学式の翌日、猛の通う高校では今日、新体力テストが実施される。新入生は午前中早い時間からの実施なので、猛は8時前には家を出て登校している。今日の新体力テストで何としても活躍してやる!と意気揚々と家を出たが、猛は今はすっかり意気消沈している。それは、猛と同じように登校している生徒に原因がある。


(昨日入学式だったのに、なんでもう友達と学校来れるんだよう...羨ましいぞチクショウ)


昨日猛は誰とも話さずに帰ったというのに、もう友達を作っている人がごまんといる事実を突きつけられ、猛はの心はささくれ立つ。なお、昨日の入学式で同級生には、極道の男として盛大にデビューを飾った猛だ。そんな猛の荒んだ雰囲気に、周囲の生徒は震え上がっていることは言うまでもないだろう。


一歩、また一歩と猛の未来の友人は遠くへ行ってしまっている。






場面は変わって、男子更衣室。1年2組男子勢の他にも他クラスの男子がいる。会話の話題に上がっているのは、T校に極道の男が入学してきたと、今1番ホットな男、猛のことだ。


「なあ、2組のあの新城くんがやくざの跡取りって本当なのかよ?」


「そうと決まったわけじゃないけど、多分そうなんじゃないの?」


「直接聞いてみてくれよ」


「馬鹿かお前!んなこと直接聞けるかよ!お前間違ってもそんなこと絶対すんなよ!」


「な、なんだよ、冗談に決まってんだろ。」


面白半分に新城くんについて聞いてくる他クラスの男子達に、かなり強めに注意をしたのは、1年2組の英雄こと谷口くんだ。


「冗談でも新城くんのことからかわないほうがいいと思うぜ」


「そんなにヤバいやつなの、新城って?」


「めちゃくちゃ怖えぞ、面と向かって、そんな風に呼び捨てでは絶対に呼べねえ」


谷口君に重ねて猛の恐ろしさを語るのは、自己紹介ですべったことを早く忘れたい安田くんである。そんな会話を聞きつけて、さらに猛について聞いてくる他クラスの男子達。1年2組の男子が、他クラスの男子らに、猛がいかに恐ろしいかを語って聞かせる。そんな時、1年3組のお調子者、山田くんがこんなことを言った。


「でもほんとに新城くんって極道なの?あれで実は喧嘩弱かったりして」


軽い感じでそう言った山田くんの言葉に、一同は静まった。あれ?もしかしてそんなことあっちゃったりするのかな?そう一同が思った時、更衣室の扉が開き、猛が入ってきた。






猛は荒んだ心のまま、男子更衣室の前に着いた。


(よし、もういい加減切り替えよう。俺はみんなより人見知りがひどすぎる。そんなことわかってただろう)


だからこそ猛は、これから始まる朝のビッグイベント、普通のやつからしたらタダの日常、朝の挨拶に、並々ならぬ気合を入れる。


(中に入ったら、みんなに向かって笑顔で挨拶、笑顔でおはようだ)


家族からもらった、『これで今日から、人気者(著:新城家父、母、長男)』によると、笑顔の挨拶は人間関係構築の基礎も基礎らしい。そんな基礎の基礎が今までできてなかった猛に、友達ができなかったのは当然なのだろう。


(よし、心の準備はできた。いざ参らん!」


意気込んで扉を開けた猛は、更衣室にいたたくさんの男たちの視線を集めているのを確認して、数瞬の間固まった。再起動した猛は空いているロッカーにむかって歩き出し、荷物を置き、体操服に着替る。


(うわぁぁああ!ダメだ!やっぱり恥ずかしい!こんな大勢相手に挨拶なんてできないよおおおお!)


結局ビビッてしまい朝の挨拶ができなかった。まずは少ない人数のひとから挨拶をしてみようと思いながら、グラウンドに向かった。


先ほどまで着替えていた猛が出て行った後の更衣室には、沈黙が訪れていた。


そんな静寂を最初に破ったのは、谷口くんだった。


「...誰が喧嘩弱いって?」


先ほどまで着替えていたため、その肉体を周囲にさらしていた猛だが、そのすさまじい肉体に誰もが息をのんだ。


服の上からでも鍛えているのがわかる体つきだったが、生で見ると、さらにすごい。六つに割れきった腹筋に、岩のようにごつごつした胸板、それに見合うように大きく拡がった広背筋。血管が浮かぶほど、無駄な肉の削ぎ落されたたくましい腕、猛は身長も高いので、その肉体の迫力はケタ違いだ。あれほど筋骨隆々のマッチョが喧嘩で負けるところなど、想像できない。どれほどのトレーニングをすればあのような体になるのか。


「...ありゃ人類でトップクラスだろうな」


多少冗談の混じった安田くんのセリフだったが、彼らはこの後、人類トップクラスの猛の身体能力に戦慄する。






(お、女子の隣で一緒にやるのか。兄さんを信じるなら、いいとこ見せれば女の子の友達もできるかも)


グラウンドに着いた猛は、女子の前で恥ずかしいところは見せれないぞと、新体力テストにより一層気合を入れる。やってやるぞと気持ちを昂らせる猛。しかし、猛は気持ちを昂らせ過ぎた。超高校級を超えて、もはや怪物級の猛の全力が今、発揮される。


やがて始まった新体力テスト。第一種目は50m走だ。早い者は6秒台前半のタイムを出して凄いと持て囃されている。そんな中猛の順番が回ってくる。グラウンドにいる。全ての人が猛に注目している。体操服を押し上げるあの筋肉だ。きっと凄いのだろうと予想している。しかしそんな予想は、裏切られた。思いもよらない方向に。






新体力テストが終わった後の午後。新入生たちはすでに着替えて、明日からの授業に使う教科書をそれぞれ受け取りに行っている。


「ほんとやばかったよね、新城くん」


「同じ人間だと思えないよね」


教科書を受け取って、教室にカバンを取りに行って、後は下校するだけの瑛実の後ろでは、小田さんと佐藤さんが、先ほど行った新体力テストでの猛の結果について話している。


(世界陸上で何か金メダルとれるんじゃないかな)


瑛実が本気でそんなことを思うほど、猛の身体能力はすさまじかった。


50m走ーーー4秒6


立ち幅跳びーーー3m21㎝


反復横跳びーーー81回


etc...etc...


どの競技も、高校生が評価満点をもらえる点数を、大きく、かなり大きく上回っている。


そんなえげつない記録のオンパレードの中でも、特に印象的だったのは、ハンドボール投げと、握力測定だ。


ハンドボール投げでは、ボールがものすごい速度で飛んで行って、というか飛び過ぎてしまって、射線上にあった用具室の窓を破壊。握力測定では、測定器の持ち手を握りつぶしていた。勢いよくはじけ飛んだ測定器のバネを瑛実は忘れられない。新体力テストの後猛は先生に呼び出しを受けていた。おそらく壊してしまった用具についてだろう。


猛の新体力テストの結果に、同級生たちはさらに猛を恐れて、やはり絶対に怒らせてはならない存在だと、強く、強く思ったのだった。


猛が新体力テストで人気者になれなかった理由はいたって単純で、凄すぎて引かれるからである。そうして猛は自分の知らないうちに周囲の人に避けられるのだった。






猛について3人で話しながら、瑛実が教室の扉がを開けようとした時、扉が開いた。驚いた瑛実は眼前にに立つ人物を見て、さらに驚く。猛だ。猛が無表情で瑛実のことを見下ろしている。そのまま固まってしまった瑛実と、同じく固まった猛は、お見合い状態だ。


その均衡を破ったのは猛だった。固まって頭が真っ白になった瑛実に、猛のドスの効いた小さな声が聞こえた。


「...教科書」


瑛実は猛が自分ににむかって、教科書と言ったのを確かに聞いた。教科書?瑛実は自分の手に持った教科書を見て、どういうことかと少し考える。そして、この場において自分が求められている行動をはじきだした。


「こ、これ!新城くんの教科書ですッ!どうぞ!(教科書取りに行くのが面倒だから渡せってことかな!)」


そういって瑛実は猛に教科書を押し付けて、「ちょっと!待って!」と、慌てて追いかける、小田さんと佐藤さんを気にせずに走り去ってしまった。






(...あれ?香川さんの教科書もらっちゃって大丈夫なのかな?)


猛は今しがた自分に教科書を渡してくれた瑛実を呆然と見送った後、瑛実の心配をしていた。


猛は新体力テストの後、先生に呼び出され、壊してしまった物についてにことや、テストの結果を褒められて陸上部への入部を勧められたが、断った。猛には心に決めたスポーツが既にある。そんなこんなで着替えるのが遅くなってしまった猛は、教科書を受け取りに行く流れに乗り損ねた。新体力テストの結果は良かったので、誰か教科書受け取りに誘ってくれるかも!と、期待していた猛は少しがっかりである。


さて教科書を受け取りに行くぞと思った猛は、どこに行けばいいのかド忘れしててしまった。けれど、そう広くもない校舎だ。いろんなところをブラつけばわかるだろうと、猛が教室を出ようとした時、目の前に瑛実が現れた。


こんな時はどうすればいいんだと思って固まってしまった猛だったが、瑛実が持つ教科書を見て、勇気を出して場所を聞こうと声をかけた。その結果が、猛の手元にある教科書だ。


(まさか自分のを俺に渡すなんて、なんて親切で良い人なんだ!今度何かお礼をしたほうがいいよね。家族に相談しよう)


自分に優しくしてくれた瑛実に、猛の心が舞い上がった。


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