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極道生徒は友達が欲しい  作者: はやぶさ
3/11

入学式 3

人見知りにとってのビッグイベント、自己紹介です。

さて明日からはどうやってクラスメイトとコミュニケーションをとろうか。やっぱり鉄板の朝の挨拶からの天気の話かな。などと考えだした頃に教室に先生がやってきた。おそらく担任だろう。


「はい、お前らおしゃべりはそこまでー、静かにしろーい」


そう生徒たちのお喋りを遮ったのはは中年の男性教師だ。入学式なのでスーツをビシッと着こなしているが、ちょっとぼさぼさの髪の毛とねむそうな目に全く似合っていない。口調もゆるくてなんだか気の抜けてそうな先生だなというのが、1年2組一同の感想だ。


「式前にもやったが、さっきはいなかったやつもいるからもう一度自己紹介しておく。あずまだ。これから1年お前らの担任だから、よろしくなー」


猛は東の自己紹介の話題にのぼってしまって申し訳ないと思ったので、東に向かって慣れない会釈をしておいた。今までの猛なら申し訳なさと恥ずかしさで、何もせず東をスルーする場面だ。しかし、猛は家族からそういう時は礼の意味でせめて会釈、最低目礼だけでも返すのが礼儀だと教わった。この春休みに猛が家族から受けた、人見知り改善及び人間関係構築のためのレクチャーどおりの行動を、猛は心がけている。


(よし!みんなに教わったとおり、スルーせずに礼を返せたぞ!これで失礼な奴だとはおもわれないよな)


家族の教えを実践できて内心ガッツポーズを決めている猛は、会釈されて顔が引き攣った東の顔が目にはいらなかったようだ。


「そ、それじゃあ配布物を配るぞ。今後の予定や、教科書の受け取り先が記載してあるようなプリントだから、必ず目を通しておくようにな。それから配布物配ってる間にみんな自己紹介考えとけー、今日はそれが済んだら下校だ」


猛は東の言葉の中に聞き捨てならないワードを拾った。それはもちろん自己紹介だ。人間関係構築のための第一歩だ。猛は小学校や中学校ではたくさん言いたいことを考えてたが緊張しすぎて名前とよろしくの一言しか言えなくて苦汁をなめた経験がある。しかし今の猛は一味違う。今までとは違い、家族に自己紹介の練習に何度も、何度もつきあってもらっていた。幾度ものダメ出しの末出来上がった自己紹介のシミュレーションは、完璧と言っても過言ではないだろう。三度目の正直という言葉もあるし、きっと大丈夫だと、猛は自分を鼓舞する。


(落ち着け、落ち着くんだ俺。言いたいことは一言一句漏らさず覚えれているんだ。)


必死に自己紹介への緊張を落ち着けようとしている猛は、前の席の女子生徒が猛にプリントを渡そうとしてくれているのに、気づかず無視を決めてしまっている。


そしてついに自己紹介が始まった。しかし、出席番号12の自分の出番は中盤の良いところだと考えてた猛に悲劇が起こった。なんと名簿順ではなく、前の席の端から横に自己紹介が始まったので、猛の順番は36人中の35番目。オオトリの前のトリである。


(落ち着け。落ち着け。トリだからと言ってウケ狙いの自己紹介やらなきゃいけない訳じゃないんだ。)


猛の耳にはクラスメイトの無難な自己紹介、ウケた自己紹介、ウケを狙ってドンズベリした自己紹介が聞こえている。みんな何か入りたい部活や趣味の話など、思い思いのことをたくさん話している。いつものことながら人前でたくさん話せるクラスメイトと自身の差を猛は痛感していた。そして猛の前の男子生徒の自己紹介が終わり、ついに猛に順番が回ってきた。


(よし、俺もビシッときめてやるぜ!)


もう一度気合を入れて猛はゆっくり立ち上がる



ーーーそして、猛は硬直した。



教室内のすべての人の目が自分に向いている。そこに気づいてしまったのだ。結局猛は頭が真っ白になり、兄に協力してもらって出来上がった自己紹介を、一言一句漏らさず忘却したのだった。浮かべた方がいいといわれて練習した笑顔も、まるで顔面にセメントを塗りたくられたかのように顔が思うように動かないので、上手くできてるかわからない。しかし、念入りに自己紹介の準備をしたのは無駄ではなかったようだ。真っ白な猛の口がかろうじて動き出す。


「...新城猛...よろしく...」


緊張で低くなった声で猛はそう言って、席に着いた。


(あんなに協力してもらったのに...ごめんみんな...)


猛は自己紹介が失敗に終わってしまって、血の気が引いた顔で静まり返っているクラスメイトに気づかない。


二度あることは三度ある。猛の人見知りはまだまだ直る兆しが見られない。


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