南の森
(ゴブリンとの戦闘用に、武器が欲しいな。村の中を少し回ってみるか。)
村を歩いていると、賑やかな声が聞こえてくる。行商人でも来ているのだろうか。
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!僕は行商人の、マルスだよ〜!ここに、袋に詰めた小麦粉があります!この袋の中身は一体何kgあるのか当てられる人はいるかな〜?挑戦資格は無いよ〜!見事、当てることが出来たら……鋼で作られたロングソードを…な、な、なんと!!!タダであげるよ〜!」
(何やら、面白そうな事してるな。ちょっと見ていこうか。)
何人か挑戦している人がいるが、まだ誰も当てる事は出来ていない。
一回使った小麦粉は、他に用意された小麦粉と交換しながら続けている。
また、袋に触ったり持ち上げたりするのは、大丈夫なようだ。計量器のような魔道具を使って重さを調べている。
(…これは絶対にチャレンジしよう。)
[小麦粉]
特殊効果 無し
状態 良好
質量 7,5kg
[説明]
普通の小麦粉。行商人マルスが仕入れた物。王都では1kg銀貨三枚。場所により価格は変動する。
(これは鋼のロングソードはもらったも同然だわ…。鑑定様ありがとう!!!)
「…あの。挑戦したいのですが。いくら払えば、挑戦出来ますか?」
「銀貨一枚でチャレンジする事が出来ますよ〜。––––––なんと!!これで丁度10人目のチャレンジャーだ〜〜!今回のチャレンジャーは当てる事が出来るのか〜〜?––––––あ、触ってもらったりしても結構なので、解答する時は言ってくださいね。」
持ち上げたり、触ったりしながら、鑑定を発動させる。
(……今度のは5,3kgか。…よし、怪しくない様に、もう少し時間をかけてから答えよう。)
他にチャレンジした人達と同じように、悩んだり、持ち上げたりを、繰り返している。5回ほど逡巡した後、マルスに声をかけた。
「もう大丈夫です。言っちゃっていいですか?」
「はい〜!もう仰って大丈夫ですよ〜!–––––––それでは……結果発表だ〜〜!これで、10人目の正直となるのか!それでは回答をどうぞ!!!」
少しずつギャラリーも増え今では周囲を野次馬に覆われている。
「5、3kg。」
悠が答えると同時に、魔道具のメーターに掛けられていた布を撥ね退けた。
「……お、お、大当たり〜〜!そ、それでは景品の鋼のロングソードをどうぞ〜!」
そう言われて、観衆の前で差し出されたロングソードを手に取る。疎らだった拍手が、徐々に大きくなっていく。
(こんなに注目されるのも悪くないな。ロングソードの性能を鑑定しとくか。)
[ロングソード]
特殊効果 無し
状態 良好
質量 2,5kg
[説明]
行商人マルスが王都で仕入れた、鋼で作られたロングソード。ミスリルの次に硬い金属。鉄より魔力を通し易くなっている。王都では大銀貨七枚の価値がある。
ロングソードを受け取り、序でに、マルスの店を見ていく。
店には鉄を使った装備が多い。鉄製品は銀貨5〜8枚で購入できるくらいだ。
やはり鋼の装備は鉄のワンランク上なのだろう。
(ポーションとか、やっぱりあるのかな…あったら試してみたい事があるんだけど。)
「これはこれは〜。先ほどは、おめでとうございます〜!何かお探しでしょうか?」
柔かな笑みを浮かべながら、マルスが近づいてくる。少し言い方に棘があるが、これでも抑えているのだろう。
「ポーション類を購入したいのですが、在庫ありませんかね?」
「ポーションですか〜!ありますとも!こちらでございます!」
悠が冷やかしではなく、客だと、認識した途端に、素早く商人の顔になった。
……案外マルスは出来る奴なのかもしれない。
「これがHP回復ポーションでございます!価格は銀貨1枚ですので、それなりの効果ですが、駆け出しの冒険者などにはとても重宝されております。如何ですか?」
他にも、MP回復ポーションもあったが、HP回復ポーション目当てなので今回は話を聞くだけにしておく。
(俺がしたい実験に、HPの回復量はあまり関係ないから銀貨1枚のを買っとこうかな。)
「それでは、HP回復ポーションを一つ下さい!」
「ありがとうございます!今すぐ包装致しますので、少々お待ちください。」
暫くすると、ポーションを袋に入れて、マルスが持ってくる。
ポーションの容器は木材で出来ているようだ。
耐水性の高いヒバや、ヒノキの様な木材を使っているのか、中身が漏れる気配は一切ない。蓋はコルクで閉められていて、飲んだり患部に振りかける時は栓を抜いて使用するようだ。
マルスに代金を支払い、店を出て南の森を目指す。村から出るときには、異世界生活初日に会った自警団らしき人とも軽く話をした。
人付き合いは大切なのだ。それは日本でも異世界でも同じだと思う。
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昼食は大銅貨4枚と、銅貨5枚で購入した簡易的な弁当を食べた。
森までの道程は、自警団の人に聞いておいたのが功を奏したのか、比較的スムーズに進む事が出来た。
南の森で活動する冒険者は多いからなのか、道中はモンスターに会うことはなかった。
(よし。ロングソードの装備OK!さて、行きますか。)
森に踏み込むと、木々の匂いが鼻の奥に抜けていく。
空気が綺麗なのも、自然が破壊されていないからだろう。などと考えながら歩いて行く。
すると、早速遠目に、ゴブリンらしき緑色の体表をした人型モンスターがいた。
ボロボロの布切れを着用していて、棍棒らしき木の棒を装備している。
悠はロングソードを腰から抜いて、軽く構えながらゆっくりと近づいて行く。
不思議と、緊張も、人型モンスターを殺すという恐怖もなかった。
ゴブリンは全部で三匹いた。全員がバラバラに行動していて、統率はとれていない。
(魔法の不意打ちで一匹仕留めてから、ロングソードでもう一匹の首を刎ねよう。最後の一匹は、一騎打ちだな。)
モンスターは基本的に知能が低く、大群では行動出来ない。
だが稀に、変異種のモンスターが生まれる時がある。
変異種は、通常の個体と比べて知能も高く、戦闘力も格段に増すらしい。
種族によるが、種族固有の弱点を克服した個体もいるらしい。
この群れには、リーダーがいないから危険は格段に下がる。
悠は、間合いに達すると、森に向かうまでの道中で開発した、新しい重力魔法を使用する。
●重力魔法・・ユニーク魔法と呼ばれている属性。遥か昔の賢者が、使っていたとされる汎用性の高い魔法。制限はあるが、重力に関係する事象を自在に操る事が出来る。自分以外に、作用させる事も可能。Lvが上昇すると、威力、範囲などが拡がる。
(重力魔法の真髄は、力の向きを増幅させたり、変化させる事だと思う。だから、小石を思い切り投げて、それをLv2の重力魔法で速度強化すれば、石の弾丸の完成だ。)
道中試した時には、直径5センチほどの小石を思い切り投げて、重力魔法で加速させると、ハンドガン並みの威力になった。
だから、森に来るまで、必死に小石を集めてきた。
…少し恥ずかしかったが、背に腹は変えられないので我慢しておいた。
この魔法は、古くから投石は、飛び道具として使用されていたのを思い出して開発した魔法だ。
イメージを固めるために、魔法の名前を叫びながら、小石をゴブリンの頭目掛けて、思い切り投げつける。
「ストーンバレット!!」
小石は、一瞬でゴブリンの頭に衝突し、頭蓋骨を貫通し脳漿を撒き散らしながら、木に衝突する。
ゴブリンは悠に気付く間も無く即死したようだ。
「アクセル!!」
また、投石後は自分に新しい重力魔法を掛け、一気にゴブリンに迫る。
異世界に転生して上昇したスピードを、魔法でドーピングしてある。
これなら、前世の高速道路でも余裕で走れるレベルの速さだ。
すれ違う刹那に首を刎ねる。最後の一匹はようやく仲間が殺されたのを気付いたようだった。何か叫びながら殴り掛かってくるが遅い。
一瞬で首を刎ね最後の一匹も仕留める。
すると頭の中でファンファーレが鳴り響く。異世界に来て二度目のレベルアップだ。ステータスを開いて確認しておく。
[ステータス]
名前 一条 悠
種族 人族
年齢 17
レベル3
HP 32/58
MP28/91
AT 63+28
DF58
AGI 60
INT68
[スキル]
特殊系スキル
・成長速度 特大UP
・スキル熟練度 特大UP
・スキル取得条件 解放
・全属性適合
・鑑定
・飛び道具命中率 小UP ←New
魔法スキル
・重力魔法Lv3
[装備]
鋼のロングソード : AT+28
[加護]
転生神ジュリアの加護
●飛び道具命中率 小UP・・・投げナイフや、投石等の、飛び道具の命中率が小UPする。
(新しいスキルが増えてる…。マジで、スキル習得するの早すぎるだろ。それに…。MPだけ、頭一つ抜けてるな。やっぱり、良く使う項目は、伸びやすいとかあるのかな。)
倒したゴブリンから、魔石だけを抜き取る。
その後も、三時間ほど狩り歩いていると、ゴブリンキラーの称号を獲得した。
ゴブリンキラーになるとゴブリンに対してATが1、5倍になるらしい。
また、レベルも10まで上がった。
今では、ゴブリンなど片手間に倒せるようになった。
そろそろ狩りにも飽きて、レベルが上がりにくくなってきたから、帰ろうとしていると…。
凄まじい迫力の咆哮が聞こえてきた。
次話で遂に怪物と邂逅する悠。果たして怪物に打ち勝つことは出来るのか‼︎また、バトラーとミアはどうなってしまうのか⁉︎