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異次元収集家アルド 四章14話 鉄血常例 後編

誤字脱字は気が付いたら修正します。

〈ルル・ルリの記憶2〉


「はい、ルル・ルリちゃんにプレゼント。」


赤ちゃんを抱いた彼女から手渡されたのは種だった。


「ルル・ルリの種。住む惑星がここに決まったら埋めましょう。」


「嬉しい!でもね、このルル・ルリの花はどんな環境でも適応できるように品種改良されたもので、勝手に埋めちゃうと他の植物を枯らしちゃうから、、難しいかも。」


ルル・ルリの花が銀河特定危険植物拡散防止法で定められている事をそれとなく彼女に伝えると彼女はガッカリした様子を見せる。



「大丈夫、宇宙船の中で育てるから貰っておくね。」


「アーアー。」


アーちゃんが種を持った私に手を伸ばす。小さい手だ。もしかしたら私があんなことになるのを止めようとして、行かない方がいいと言ってくれていたのかもしれない。案の定あの男に会うことになった。






ルル・ルリが見付からないという不測の事態に、再度ブリッジに全員が召集された。今回アリサは欠席だが構わずにラウラは巨大モニターに表示された画像に指し棒を当てる。


「推測して導き出される可能性は二つ。アルド様が向かった次元の先にもう1つ次元の穴があり、ルル・ルリは二度次元の穴に落ちた可能性が一つ。そしてもうひとつはニ点以上の次元がこの惑星モルマックのこの場所に面していた可能性です。」


だがすぐにラウラは1つ目の可能性を否定する。ルル・ルリが二度も不安定な次元の穴に落ちる可能性は最早天文学的数字であり。アルドが片道切符を使った際に全くルル・ルリの反応が無かった点から排除しても良い可能性であると。


「入り口が一つであっても、出口が複数ある場合も考えられます。同時に不安定な次元の穴が何らかの影響を次元移動時に与えた可能性も考慮し━━━。」


アルドには今回は腑に落ちない点があった。それは何故次元の穴が重なっていたのを現在まで確認できなかったのか、だ。


「もしかして解析ができないのか?」


「はい。はっきり言えば稀有な例であります。例えば三次元でいうところの真後ろ、裏側に該当し、解析は困難を極めます。」


死角ではない裏側なのだ。


次元の穴が重なりあって表と裏の二つある場合。表の解析は容易であるが、裏の解析は困難を極める。只でさえ解析に数ヶ月単位を要する解析が数千年単位となるだろう。


「、、どちらにせよ最低でも数ヶ月掛かるのか。」


「その可能性が高いです。」


アルドは頭を整理する。正攻法では時間が掛かりすぎる、となればやはり多少リスクがあっても最短で調査を行う方法はあるのではないか。それを証明するようにラウラの提案はどれも〈安全〉なものばかりだった。


「ルル・ルリは不安定な穴に飲み込まれた。入り口は同じそれは間違いないのか?」


「はい。宇宙船の追跡映像や片道切符でこの次元にはルル・ルリがいないことは分かっています。同様に解析時近場に他の次元の穴があれば前もって確認できる筈ですので、間違いないかと。」


アルドは確信を持ってラウラに質問した。


「ラウラ、隠している事があるんじゃないのか?ここは最短で調査が出来る方法を提案してほしい。」


歯切れが悪いラウラにアルドは厳しい口調で訊ねた。


「アルド様、、他の方法は効率が非常に悪く破棄しても問題ないと思われます、、。」


「その方法を教えてほしい。」


真剣な眼でじっと見つめてくるアルドを感じ明後日の方向に数秒間視線を向けてから、堪えられなくなったラウラは頭を片手で押さえ溜め息混じりに口にする。


「次元固定を行わない方法です。次元固定の際に繋がりやすく安全な次元同士を繋げるシステムが自動で働いていますので、システムを作動させず自然に近い形で次元の穴を出現させます。当時データがあるのでルル・ルリ消失時に近い〈不安定な次元の穴〉を発生させる事が可能だと思われます。その次元の穴に直接、次元座標発信装置を送り設置出来ればルル・ルリのいた次元の座標位置を特定できると考えます。」


「デメリットは?」


「前に述べた通り、自然発生した次元の穴の大きさは装置に対して狭く、不安定で破損するおそれがあり、成功率が高くない事。救難時に使用する装置で超高級品の為、予備の1つだけということ。次元の外にまで電波を伝える様な超科学な装置でシステムが複雑なためファクトリーキューブによってソフトウェアを作り出す事が出来ない事です。総合して破棄しても問題ないと考えた次第です。」


なら何故、ラウラは口にしなかったのか。



「何故口にしなかったのかという顔をされていますのでその問いに答えましょう。それは〈人の心〉が扉を開く鍵となるからです。」


ラウラが算出したこの次元の変わった特徴は〈魔法や科学〉よりも〈心〉が環境により影響を与えることだった。人や人の形を模したモノにそうした力が宿る。この次元に〈次元の穴〉を自然発生させる鍵の一つであるらしい。


そして導き出されるのはロボットの投入だった。


「数十年前に一度だけ調査が待てないと、奥様の提案で不安定な穴を発生させる方法が試されました。しかし〈機械〉だけでは次元の穴は出現せず。人・アンドロイド・人形ロボットが有効範囲内にいる場合に通過可能な大きな次元の穴が片道切符で確認されました。しかし近付けば穴の強力な侵食現象によって近場にあるモノ問わず彼方の次元に一方的に移動させられる代物で、、この作戦は却下されたのです。」


戦場において消費されるロボットは、消耗品としての意味合いが強い。命令があれば銃弾のように任務を遂行するため、その身を投げ出すだろう。


アルドの命令があればだが。


「これを前提においた強引な案としてはドール達に紐の様な通信ケーブルを取り付けて不安定な次元の穴に入ってもらい、出来る限り次元の情報を収集することです。そのデータを基にこの次元NPK771に面していて、ルル・ルリのいる可能性がある次元に移動し調査し続ければ、総当たりの次元移動よりもかなり効率が良いでしょう。」


非人道的な実験に近い作戦であった。


一度や二度では成功しないかも知れない。大量のドールを生け贄に捧げるという行為だった。


「、、、そうか。」


アルドは目を瞑る。


アルドはミューズを復活させるために全てを投げ出しても良いと考えていた。ドールを生け贄に捧げるのは良いのか?もし前に出会ったあの魔術師なら、それすらも考えずドールを生け贄に捧げるだろう。それが欲するもの性だ。


だがアルドは考えてしまう。それが最善ならばする。


この選択は最善なのかと自分自身に説く。


「、、、考えさせてくれ。」


退出したアルドの背中を見送るラウラ。


「私はアンドロイドですから。」


物資が潤沢なら行うし、物資が不足するのなら行わない。利益が最大になるようにするだろう。いやそもそも前提が間違っている。ラウラならば【死んでしまったミューズ】を復活させ様などと考えなからだ。


だからわざと勿体付もったいつけてアルドの意識をドールへと向けさせた、進む険しさを見せるためではない。アルドに無謀なことをさせないための最善の提案をした。


アルド危険とドールの命を天秤に掛けたなら当然、アルドの安全が優先されるべきだ。


ラウラにとってアルドは唯一の護るべき対象なのだから。




アルドは歩きつつ、考えを巡らす。


アルドにとってドールとは何なのか。


いっそのこと只の機械だと笑い飛ばし、次元の穴に放り込んだ方がミューズの為になる。少なくとも前には進めるのだから。


「会話の所為で愛着がわいたのか?いや、、多分違うな。同質だからだ、俺にとって多分。」


姿形がどうだろうと〈アンドロイド〉に近いものを感じてしまった為に、知人の様に感じているのだろう。それを自分の権限で確実に死に至らしめるのは抵抗があるのだ。


アルドの足はそのまま自室へと向かう。


「アルドどうしたの。えらく不景気な顔して。」


途中で会ったのはアリサだった。どうやらなにか用事があって部屋を離れていたらしい。手にはお酒のような飲み物があるので多分理由はそれだろうと推測する。


「いや。ちょっと作戦に行き詰まってな。」


「有るわよね。私もちょっと研究に行き詰まってね鬱だわ。何処にでもある話よね。どう?互いに話してみない、何か違う視点からの意見が問題解決の糸口になることもあるし。」


「、、今回の作戦にドールに〈死ね〉と命じなければならないそうでな。許可を下そうか迷っている。」


アリサは視線すら動かさない。


「一匹の虫にも、、いや一体のロボットにも五分魂はあるの、、か。でも話を聞く限り決まっているみたいね。」


「迷っていると言っているが。」


「実行したいのなら、もう実行してると思うけど。アルドがこの中でトップなんでしょ、誰かに止めてもらいたいか責任という重圧から逃れたいだけじゃない。」


アルドは押し黙る、確かにそうかもしれなかった。


「アリサの方はどうなんだ?」


「初級精霊魔術が終わって、次の段階。その翻訳に手間取っているのよ。翻訳する辞書があるけど、その辞書を更に翻訳する様な感じで。二度手間、、いやあれは、、ハッキリいえば五度手間かしら。」


「文法にパターンはあるんだよな。」


「当たり前でしょ。じゃなければ解読出来ないじゃない。」


「ルル・ルリに頼めばいいだろ。」


その言葉に顔をしかめるアリサは言い放つ。


「私の頼み事は聞いてくれないからアレは、そういう存在。ラウラも研究には賛成してくれているけど、流石に専門外だって。」


「そう言えば何の研究しているんだ?魔法か?」


「まぁね。魔法の根底にあるのはエネルギーの問題でね。エネルギーを何処から調達して如何に効率良く現象を引き出せるのかが問題に成るわけ。私がやっているのは召喚魔術でね。異なる次元の生き物・物質を任意に引き寄せる奥義を研究しているのよ。」


「異なる次元?」


確か今アリサのやっている研究は〈超越者〉に渡されたデータを元にやっている研究だと、ラウラから聞いていたが内容を詳しく知らなかったアルドはアリサに詰め寄る。


「他の次元に行けるのか?」


「行けるというか、相互転送魔術かしら。次元同士が隣接していてエネルギーが同等で且つ、私の因子を含んだ物質を依り代にしないといけないけど。」


それはAの位置がBになり、Bの位置にあったものがAに入れ替わる魔術だ。だがアリサの話では現時点で行えるのは。物と生物との交互輸送であった。


「今のところ召喚の定義に乗っ取って、どちらかに仮想領域を持った生物がいないと魔術が成功しない不完全なものだけどね。物と物、生物と生物ってのは意識と構造が混在して融合しちゃうみたい。」


召喚魔術は生物の魔力・仮想領域を使用して別次元への道を開く。その為仮想領域を持つ生物が魔術の働きを端末としてサポートしなければならない、また生物同士だと魔術回路が混線するため現状では難しいらしい。


「、、ラウラの本心が見えたな、ったく無謀かも知れないがこれしかないじゃないか。」


「??」


「アリサ。翻訳作業がなかったら何日で研究を完成・成功させられる?」


「ウーン。3日かな、、魔術契約は簡単だけど、それ以外に関しては大量の魔石が必要だし、魔方陣を地面に描くにはそれこそ精密な技術が必要で、成功率は高いとはいえないわよ。」


「それはこっちが全面的にサポートする。まぁ任せておけ。」





再度ブリッジに立ったアルドは力強く提案した。相手はラウラだがだからこそ今回案を通すことが可能だとアルドは確信する。


「ラウラの提案は却下する。」


「なるほど。」


アルドの表情から全てを察したラウラは、席に着いてアルドの発言に耳を傾けた。


「ラウラの作戦では時間が掛かりすぎる。現在アリサが研究している〈召喚魔術〉を利用して、ルル・ルリを救いだそうと思う。」


「あれはまだ翻訳段階と聞いておりますが。翻訳を完了させるのは一年~半年程の時間が必要だとアリサ様本人も認めていたはず。更に魔方陣を描く技術がアリサ様に不足しているらしいではありませんか?最後に召喚魔術は相互輸送、彼方に代替物だけを送る方法の事は考えているのですか?」


矢継ぎ早に飛び出す言葉はアルドの想定内だ。ラウラは焦っている、でなければアルドに正面から反論する筈がない。


「腹を割って話そう。今船内のインターフェースのルル・ルリには翻訳をしてもらっている。時間としてはもうそろそろー」


ルル・ルリの立体映像が現れてアルドにVサインを送る、それを見て笑みを浮かべるアルド。


「後は魔方陣に関してだ。魔方陣には宇宙船の※四次元立体測量装置とデータリンクしたドールで対応する。魔方陣を描く塗料はアリサの血液を使用した特別製で召喚魔術発動直前に描けば本人でなくとも問題はないそうだ。」


※宇宙船のトラクタービーム等で使用する高度な測量機。


ラウラは首を横に振る、それは提案の否定というより拒否であった。


「代替物の魔石にはアリサの血液をファクトリーキューブで均一に混ぜた物を使用する。それを自然発生した次元の穴に宇宙船の投擲装置で飛ばす。次元移動時の変質や破損についてはバラバラになっていても量さえ揃っていれば問題ないそうだ、ルル・ルリの演算によると変質を軽減するコーティングを施しておけば直径1メートル程の魔石で十分な量になる。最期に次元の穴への鍵だが、それには俺がなろう。」


「確かに〈片道切符〉を使用すれば、何百と繰り返した後次元の穴の侵食から逃れられるかも知れません。未来予知で最善の結果が見られたかも知れません。ですが、もしイレギュラーな事があればどうしますか?例えば次元の穴に侵食された程度では繰り返しが作動せず、彼方の次元通過直後からのリスタートだったら?体がバラバラになる時間の狭間を半永久的に繰り返す事になるかもしれません。次元を管理する神が違うのですよ、それらを良く考えましたか?〈片道切符〉は確かに便利です、しかしそれですら超科学によって無理矢理使用しているだけの不安定な代物だということをお忘れではありませんか?」


静寂。


だがアルドはその空気の内にあるものを肌で感じていた。


それは優しさや親が子に注ぐ一種の愛情の様なものだ。


「無茶や無謀は分かっている。だがこれが俺のやり方なんだ。艦長としての俺の決断なんだ。」


「私ならば、、ドールを使います。」


「線引きなんだ、これは。俺なりの、、さ。」


博打と同じだ。


あるものを手に入れるために簡単に自分の身を切り捨てるのなら、何時しか〈大事なもの〉でさえも迷いなく切り捨てる事になるだろう。乳母であるラウラだとしても、いつしかアルドは捨てるかもしれない。失い続け失ったものがものが増えれば増えるほど思考は麻痺し硬化し、得るために失い続けていく失ったものを無駄にしないために。そして始める前よりも更に多くを失うのだ。


だからこそこれは〈これ以上失わないため〉の我が儘な線引きだ。


頭を下げるアルドに、目を瞑り仕草によって敗北を認めるラウラ。もっとも頭を下げられた時点でラウラとしては断れるはずもなかった。


「ぼっ、、アルド様、分かりました。頭をおあげください。」


「出来の悪い艦長ですまない。失望しただろう。」


「いえ。艦長の役割は決断することです。それをサポートするのが我々です。アルド様は義務を果たされました、誰が出来が悪いと申しましょうか。」


ラウラは思う。人とアンドロイドの命の重さは違う。


アンドロイドは人を人と考え、アンドロイドをアンドロイドと考える。人はどうかー


人は面白いことにアンドロイドを人と考える。同等だと考える。


マザーが人類にそれを見出だしたからこそ、身体能力で劣る彼等を上に立つものの存在として据え置いた理由が少しだけ理解できた。もしアンドロイドが人の上に立ったのなら多分感情など今は無く、人を数字としてしか管理していなかっただろう。


「私は人のそれを誇りに思います。」


「?」


「いえ、こちらの話です。」


結論をいってしまえばアルド・ガーデンブルグの導き出した答えは正しかった、人形ロボットでは次元の穴は繋がるが心の作用としては不十分であり〈アンドロイド以上〉の心の作用が必要で実験しても良い結果には繋げられなかっただろう。


最善の選択が最良の結果を生むとは限らない。それを彼等が知ることはないだろう。これは支配する次元の神が出した〈心の法則〉だった。


つまり━━━なのだ。





アリサの召喚魔術習得までの間、アルドは歩兵戦車の操作習得。ラウラ・ドールはアルドが乗る歩兵戦車の改修と整備を行った。


早いものであっという間に3日が経過する。


侵食を回避するため身軽な服装になっていたアルドはハンドリンクからの通信を待っていた。背の高い草が独特の異臭〈薬品の様な匂い〉を放つのにも馴れてきていた。


「何だか段々いい気分になってきたな。馴れると嗅ぎ続けたくなってくる、、ははっ。」


その誘臭ゆうしゅうは生物を惹き付け臭いに依存させ住まわせ、排泄物や死体を栄養とするため放つものだ。アルドの思考はハンドリンクの通信によって引き戻される。


『お待たせいたしました。ご用意は?』


「いつでも大丈夫だ。」


『では片道切符使用後、何かあれば連絡を、すぐに対応します。そしてー。』


「ん?」


『ご無事を。』


「ああ。」


アルドは片道切符を使用する。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


アルドは歩く只歩く。


ブチりと長く伸びた良い匂いの草を手で引き千切る。


眼前に漆黒の穴が現れる、アルドにはもう周りの景色は見えない、それほど近くにあっさりと穴は出現する。先ずは穴の上方から巻き付く様に漆黒がアルドに襲いかかる。それに気が付いているのか、アルドは視線を向けることなく体を右へスライドさせる。


次にゆっくりと左手を少し動かす。そこに漆黒の物体が現れ空振り、何も掴めず穴に引き返す。


軟体生物の様に動く次元の穴。


アルドは後退しながら千切った草を前方に向けてばら蒔く、それが何かに作用したのか中央から出現し様としていた大きな漆黒の塊は迂回してアルドを包もうと上下左右に塊を展開しながら肉薄。


ビュン。


後ろからやってくる魔石。変質緩和コーティングとクッションで包まれたソレがアルドの鼻先を掠めて次元の穴に飲み込まれる。


ドスン。


後ろに自ら倒れたアルドは、止まることなく寝転がったまま、左に半回転がる。草は良い匂いだが邪魔でこれ以上転がる事が出来ない。アルドは今度は手を使って腰と足を浮かせる、そこに漆黒が広がった。


足を振り上げ、腕力で後方へジャンプ。体勢を立て直すアルド、縦横無尽に飲み込もうとする侵食を紙一重で回避し続ける。


ブンブン。


だが二秒後、圧倒的な空間侵食によって次元の穴は膨張し、アルドに肉薄するほど大きくなる。


接触まで数センチー


目を瞑るアルド。


「、、、。」


次元の穴は消えていた。


当時の環境から現在の環境に戻したのだろう。アルドには理解できないが出現条件が崩れたということだった。


『ご無事ですか!』


「、、ふぅ、、ああ。」


数秒の攻防。だが繰り返した精神的な疲労は累積し、アルドはようやく腰を下ろす。時間にして数秒に満たない時間だったがアルドにはその数百倍の疲労があった。


『輸送準備は整っています。直ぐに出発されますか?』


「、、そうだったな。行こう。」


アルドは重い腰を持ち上げた。



〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓



闇が支配する荒野、荒れた大地に何かが出現する。


だが雷鳴や暗闇によってかき消された兆候にルル・ルリが気付くことはない。エネルギーがほぼ無くなり、消える寸前のルル・ルリにそんな動作の余裕はない。


〈エネルギー、、切、、れの方、、早か、、ったかぁ、、〉


ドシンドシン。


足音。


ドン。






ルル・ルリは夢を見た。


闇に溶ける自分の身体、大きな水流に混ぜ合わされる寸前に何かが自分を覆う。


温もり。


闇の中で一人の青年に出会う。


青年は短髪黒髪茶色い瞳の人間、普通の顔立ち。だがそれとなく彼女の面影があった。


〈助けて。私をー〉


手伸ばすが青年には届かない。お願い私を、、手を握って。


青年の手が私の手を握り返していた。


この人は私を見捨てないでくれる。


〈当たり前だ、俺はその為にここに来た。君を救う為に。〉


光が溢れる。彼が笑う。


ドキリとする。人工心臓の鼓動が速くなる。


そうか、多分これは死ぬ瞬間の夢だ。


だから幸せなのだ。


私は〈死〉も悪くないと思った。





「ちくしょう!」


泥に汚れたある物体を抱えアルドは雷鳴とどろく暗闇を疾走する。


最新の宇宙服は動きやすいように設計されているが、どんな状況でも対応可能な機能を追加した為かなり走り辛い。


召喚魔術によって移動できる総エネルギーには限界がある。この次元に送り込んだ魔石の量ではアルド本人と歩兵戦車そしてハンドリンクが相互輸送のエネルギー限界であった。


到着したそうそう、歩兵戦車が召喚魔術に耐えられず大破。歩兵戦車の中なら安全だと思ったが良く見ると亀裂が所々に入り爆発寸前で青ざめながら脱出。


眼前にルル・ルリがいなけば雷鳴から逃げ惑ったまま、もとの次元に手ぶらで強制的に引き戻される所だった。


「あの魔術師~、何が90%は大丈夫だ!」


アリサを信じてた。廊下で寝るアリサ・スターライトを。パフェを口一杯頬張るアリサ・スターライトを。皆頑張っている時一人海水浴を楽しむアリサ・スターライトを。クジラの肉が飽きたと床を転げ回るアリサ・スターライトを。


不安もあった、だがやるときにはやる女だと思っていた。


信じていた自称最強の魔術師になると豪語するアリサ・スターライトをー。


「信じるのやめようかな、、。」


アリサの減俸について考えたが、そんな場合じゃないと気持ちを切り替えた。




アルドは手に抱える物体に目を落とす。


ルル・ルリは酷い有り様だった。


下半身と左手が消失、雷に当たったのか全身が焦げ、泥にまみれていた。半分裸の様な彼女に自分の服で包むと、アルドは安全な場所を求め走り回るがそれらしいものはない。


「雷に打たれるのは勘弁してくれ。」


ルル・ルリに直撃すれば完全に壊れるし、自分の生命維持装置も流石に雷の電圧には耐えられないだろう。


ゴゴゴゴ。


「さっきより激しい、、まるで叫びみたいだ。」


探索時間を過ぎてもアリサに召喚される気配はない。


「次元同士は時間の流れが違うのか、故障?くそ!」


アルドは柱のような岩をようやく見つけ、少し離れたところに腰をおろす。逃げ場は無い、身を低くした方が安全だという考えだった。


「ルル・ルリ、、?」


ルル・ルリは何かを持っていた。気になってルル・ルリの手を開かせる、それは植物の種だった。


この惑星、この大地に植物などは存在しない。あるのは干からびた大地と強風と暗闇に映る雷だけだ。


強風に煽られ種が空に舞う。


それが引き金になったのか同時に魔方陣が足元に出現する。


召喚魔術が作動したのだ。


「来た!!」


ビィィィィン。


バチンバチン!


アルドはルル・ルリを置き去りにしないように引き寄せると、瞬時にその次元から消える、同時にアルドがいた場所に雷が落ちた。その場に残ったのは焼けた大地と魔石と呼ばれる物体・生命力の強い種だけだった。





宇宙船の倉庫ドールたちが住む居住区画の近くにメディカルマシーンは設置されていた。ファクトリーキューブを使用すれば室内に設置できなくはないが、部屋が狭くなるという理由のためだ。


「ルル・ルリの修復が完了しました。」


「起動しよう。」


「次元通過時に何かしらのバグなどが発生し暴走する事もあるかもしれません。私の後ろに。」


ラウラがボタンを操作するとメディカルマシーンの蓋がせり上がりルル・ルリが蒸気の中からー。


「、、うにゅ。」


沈黙。


「、、??」


ラウラとアルドは何事かとメディカルマシーンに横たわるルル・ルリに近づいて見下ろす。寝ていた。


気配を感じたのかルル・ルリは眠たそうな青色の瞳をラウラからアルドへと移す。


「あぁ!」


目を見開く。


ガバ!


ルル・ルリは近くのシーツを頭から被り、裸足のまま一目散に部屋の隅に移動して小さくなる。ラウラは何事かとルル・ルリに近づき会話をする。


「なななっ何で彼が?!」


「あれから20年以上経っています、彼はあの時赤ん坊だったアルド様です。記憶の混乱は仕方ありませんが挨拶と認証作業をしてください。」


「だ、、駄目だよぉ。」


半泣きで真っ赤な顔をラウラに向けるルル・ルリ。


「アーちゃんの顔まともに見れない。それに寝起きだよぉ。乙女には準備が必要なの!」


見ればルル・ルリは体にフィットしたボディスーツだけだ。アンドロイドにとっては下着と変わらない。


「、、はぁ、今挨拶をしない事を不敬だと思う私が変なのか、このような精神状態のルル・ルリが変なのか、、。分かりました。」


「アルド様はブリッジに向かって下さい。ルル・ルリは現在混乱していて、これを鎮静化させた後。正式に挨拶をさせたいと考えますが、、。」


アルドは何かの異常があったのかと思い、ラウラに従い倉庫を離れた。





三時間後、アルドはルル・ルリと改めて挨拶をかわす。


「ルル・ルリと申します。アルド・ガーデンブルグ様、これからよろしくお願いいたします。」


「ああ、よろしくルル・ルリ。」


キラキラキラー


白と黒色のラインとリボンのアクセサリーが特徴的な高級そうなドレスを身にまとったルル・ルリが淑やかな仕草でアルドに挨拶をする。ルル・ルリの背丈は150センチ程、水色の長髪を綺麗に後ろで束ね、目が大きな可愛らしい美少女であり、病弱な王女や公女の様な気品が漂っていた。


救出時には全く気が付かなかったが胸もルル・ルリの身長に対して〈大きく〉見た目に反して女性を感じられる。アルドとしては端末のルル・ルリの様な元気な女の子を想像していた為に少し驚いた。


アルドには分からないが身に付けるイヤリングや化粧にもこだわって色々と時間をかけて大人の女性を意識させるようにしている。ラウラは溜め息をつく。


「はぁ。、、ルル・ルリひとつアドバイスをあげましょう。アルド様は病弱な女性よりも元気な女性の方がお好みだと思いますよ。そうですよねアルド様。」


「あ、、ああ。ー


「?!」


ー元気や女性の方がこっちも元気になるからな。」


プシュプシ。エレベーターの扉が開き、閉じる。


「、、えっ?!」


アルドが言い終わる前に、ルル・ルリはいつの間にかその場からいなくなっていた。ラウラは時計を確認するとポットにお湯を入れ始める。


「俺が何か粗相をしたのか?」


「3分20秒ほどで戻ると思いますので、気になさらず椅子に座られてお待ち下さい。紅茶でもお飲みになりますか?」


「??、、ああ。」




「私はルル・ルリだよ!よろしくねアーちゃん!!」


今度は袖が少し長い白色のブレザーと赤を基調としたショートパンツを着た元気なルル・ルリが自己紹介する。ラウラがこれでいいと納得したのを確認してアルドも再度挨拶をかわす。


「よろしくなルル・ルリ。」


「えへへ。」


ルル・ルリは顔を赤くしてアルドと握手する。


アルドは胸を撫で下ろしていた。ルル・ルリが命令を聞いてくれない場合も想定していたが、どうやら最低ラインである主人と認めてくれていてくれた事に〈初対面で追い返されたのと突然いなくなって不安になっていたが〉これはミューズ復活の目処が立ったことを意味する。


「いよいよか。」


新たな仲間を加え、宇宙船は次の目的地がないまま。NPK771の次元を漂っていた。だがこの先の道のり険しさをアルド・ガーデンブルグはいまだ知らない。




**************************




ここから下は本編とはあまり関係ありません。読みたい人用。




**************************



ある学者はこう言った。


世にあるのは偶然を装った必然が多い、と。


ある魔法使いはこういった。


魔法・魔術を使用するために仮想領域は人特有のものであるが、意識を持たない高エネルギー体はそれを利用せずに魔法・魔術を使用する事がある、と。


高エネルギーを持った星、その星が意思を持ち、自分の身に生命がいないことに気が付きそれを寂しく思うのなら。他の場所から生命を求めるのは当然の流れである。それは他の惑星か、他の銀河か、それとも他の次元かー




ある惑星のある植物は進化して、人形の知的生命体になった。かれらの祖先はある花であるらしいが、彼等がいくらその起源を探しても未だに見付からないという。


もしかしたら生命の誕生や進化の空白であるミッシングリンクにはしばしばこういう現象が何度も起きているのかも知れない。

ふぅ、やっと四章終わりました。


次は五章。素材集めか、それとも道具を集めるか。やはり道具からだろうな。


五章完結するかなぁ、、不安しかない。燃えろ俺の創作魂!!

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