異次元収集家アルド 四章4話
アルドの日記4
生物は必ず死ぬ。それは当たり前の事であると同時に残されたものへの慰めの言葉となる。
身近な死によってのみ、死に対する認識がより明確になるのだ。それを俺は今さらながら知った。
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ボロボロのオーガユニットを格納庫に置き、コックピットから降りたときに立体映像のルル・ルリが現れる。
《アーちゃん、お帰り。次元砲はどうだったの?》
「今はトビクジラの腹の中だ。」
《回収中に食べられちゃった?》
肩をすくめて、やるせなさをアピールするアルド。ハンドリンクを操作するとやはり次元砲の反応がある。
「まぁ反応が残っているなら俺の考えていた作戦が使えるな。」
《海底のトビクジラが体の掃除や呼吸で海面に現れる瞬間を狙うんだね。アーちゃん、あの立食パーティーの話を覚えていたんだね、偉いお利口さん。》
アルドとしては、驚いて欲しかったのだがこの分ではラウラに説明しなくても理解はしているかも知れない。
「、、トビクジラの潜水時間は大体何分程なんだ?」
《二時間ほどかな、、でもこの場合、問題は場所なんじゃないかな。まさかまさか、格納庫にクジラを入れて解体なんてしないよね。》
海底で見た感じではトビクジラの大きさは格納庫より小さいが、それでも格納庫がトビクジラに占領される生臭い光景を想像するとさすがに無理なような気がしてくる。
ピシュー。シュタ。
ラウラが作業ユニット(緊急脱出ポット)から降りてアルドの元へやってくる。
「クジラを倒すのならば宇宙船を使いませんか。効率的にそれが一番早く次元砲を回収できますが、、」
二人の視線がラウラに突き刺さる。
「、、そう、、ですね。効率が全てではありませんね、、」
オーガユニットが完成して海底に向かったのが朝、昼に宇宙船に帰還し30分後。手軽なサンドウィッチを食べながらアルドは待ち続けていた。
宇宙船ブリッジでアルドとラウラは待っていた言葉を聞く。
《次元砲を食べたと思われる個体が海面に向かっているよ。》
「よし、アンカー準備。」
《アンカー、個体に向けてロック。到達まで残り20秒。》
「苦しませないように短時間で決めてくれよ。超小型砲クジラの頭部に向けて発射用意。アンカー射出と同時に発射してくれ。」
《了解。3、2、1》
ザバン!
「撃て!」
ドドドドドズドン。
飛び鯨がその巨体を表した瞬間、極太のアンカーが六本トビクジラに突き刺さると同時に頭へ小型砲が炸裂する。トビクジラは死んだ瞬間さえわからなかっただろう。
「解体場所へ向かおう。事前の打ち合わせ通り、人がいない北の無人島へ輸送する。到着予定時間は?」
『3分25秒後だよ。ごめんね、これ以上はクジラがバラバラになっちゃうから。』
頷くと後ろに並んだドール達を一瞥する。今回クジラの解体はドールたちにも手伝ってもらう事になっている。ドールは戦闘用レフト・ライトと雑務用No.1~No.3の三体の計5体である。大型のロボットをファクトリーキューブで作らなかった理由は彼等だけでも対処できる作業だからだった。
「あーレフト・ライト、他の皆も、俺がクジラの腹をレーザーグレイブで割く、内蔵を掻き出してくれ。作業が終了したら体の洗浄を忘れないように、コーティングが施されているらしいが錆よりも、船内が汚れるのが嫌なインターフェースの為だ。」
「「リョウカイ」」
続いてラウラが前に出る。
「クジラを殺して只放置することは無駄です、殺したからにはそれを有効に活用したいと思います。今回はアルド様と食客であるアリサ様の食料の確保です。骨などは加工すれば使えなくはありませんが、優先順位は低いです。」
「ワレワレガカコウシマショウカ?センナイデハセイソウシカヤルコトガアリマセンカラ。」
ラウラはアルドを見る。アルドは清掃のためにドールを作ったが、頻度や場所を減らしたことで余暇時間が発生した。彼等ドールにも自由な時間が必要で、アルドも優先度が低い加工作業を指示するつもりはなかった。
「余暇時間はそれぞれが使って良い。だが加工するかしないかは本人たちが決めてくれ、それによっての報酬は、、検討するが、、」
ドールたちの処遇が問題だ。彼らを奴隷や船の備品のように扱うのか船員として扱うのか。アンドロイドには人格があり、アルドは家族のように接している。ロボット達はどうだろうか?
「アンドロイドとロボットは同列には置けないな、、」
少し悩んでいるとラウラと視線が合う。
「個人的にはロボットは船の備品や道具に近いと考えます。これはロボットを同列の存在としてしまうと、他の守るべき者の為に戦わせることに齟齬が生じてしまうためです。バックアップシステムやデータ保存によるロボット保護を考えることは重要ですが、彼等の思考外の処遇について考えることは意味がないと愚考します。」
「つまり、ロボット達が自由を求めたときに始めて処遇について考えろと、、」
頷くラウラ。だがラウラは言わなかったドールにはそもそも、そういった考えは排除されている事を。もしドール達がそういったことを口にしたのならそれはプログラムの改変かバグ、そしてドールというロボットでは無くなるということだ。
「優先順位の低い骨については次元砲回収後に話し合おう。全員、装備品を忘れるな。」
アルドとドール達は一秒でも早く出られるように、格納庫へ移動すると寝起きと思われるアリサ・スターライトが昼食を頬張りながら近付いてくる。
「おはよー。どうしたのよ随分と団体じゃない、カチコミにでも行くの?」
「無人島でクジラを解体するだけだ。」
「えっと、次元砲を回収するんじゃなかったの?ふーん、、無人島かぁ、海かぁ一度しか行ったことがないんだ。綺麗かな。無人島ってことは透明度が高くて綺麗よねー、最近部屋に籠りっきりだし、、うふふふっ。」
妄想を膨らませるアリサを放置した一行は格納庫へと向かった。
「うみだぁーわぁー!!うひゃーつめたーい!!」
一人騒ぐアリサを尻目にアルドは十数メートルはあろうかという巨大なトビクジラの腹の前に陣取り、全員で合掌する。合掌の意味は相手に対する敬意と感謝である(ガンリュウ談)。
アルドはレーザーグレイブを構える。
『生体認証確認レーザーグレイブ起動』
ジジジと音をたて光輝くの刃がトビクジラの腹を開けていく。事前に行った血抜きのためか血液はあまり出ずに肉を切り裂いていく。先ずは胸辺りから尾っぽまで、大きすぎるため再度尾っぽから胸あたりを往復する。
「こんなところか、よし始めよう。」
「リョウカイ」
それぞれ大型の包丁を手にもったドール達は内蔵や肉を切り分けていく。大半の肉はラウラが適当に大きさを揃え味付けをして、急遽作った乾燥機によって急速に乾燥され切り干しにされる。内蔵は食べられそうな部位を清潔なバケツに入れていった。
「ラウラ、乾燥させた肉は何処に置けば良い?」
「用意しておいた箱に入れてください、何でもルル・ルリの話では旨味が増すそうです。」
「オッケー。」
アルドは両腕一杯の肉を一メートル程もある正方形の箱に積めていく、かなりの重労働だが皆が働いているのに遊ぶことは出来ないと自分に言い聞かせる。時折ハンドリングを操作しながら次元砲の位置確認も忘れない。
「イニトウタツシマシタ。ナカミヲダシマスカ?」
トビクジラの胃の中にある可能性が高いため全員(アリサ除く)で胃を開く。
ドロロッ。
胃の中はクラゲや小魚が大量にひしめいていて、開けた瞬間それらが流れ出る。生き物が腐った臭いが辺りに立ち込める。
「こりゃキツいな、、」
「見分けがつきませんね。」
「オオスギマス。」
アルドはハンドリンクを見ながら半分腐っているドロドロ何かを掻き分けながら進み、フンと手を差し込む。
ジャブリ。
次元砲。
白銀に輝く五十センチほどの棒がアルドの手に収まる。
「次元砲に決まった形はありません。どんな銃にもなります。そして撃ち抜かれたものに効果を発揮します。一応そのままでは危険なので、〈時空砲〉にしてください。」
ベチャベチャの白銀の棒の形が変わり銃のようになる。
《次元砲》
空中に浮かんだ表示にはそう書かれていた。トリガーを引かないように銃の周りを調べるが変化はない。ラウラを見る。
「申し訳ありません、私も操作方法を知らないのです。ただアルド様のお父様は何かを操作しているようには見えませんでした。」
??何かを操作せずに機械が操作出来る筈がないとアルドは考える。
「いや、、概念魔法とか、、前ラウラが言っていたな。魔術に近いのか?」
魔法についてはよくわからない、ならば魔術を使う要領で次元砲を操作出来ないだろうか?仮想空間に銃の威力を下げたいイメージを描いてみる。
「ーーーウゲッ」
脳が焼き付き、魔術構成図が脳内に表示される。吐きそうになりながらもその魔術構成図を仮想空間に写し込む。
白銀の次元砲の色が黒色の銃に変化する。表示は〈時空砲〉に切り替わっていた。
「時空砲は壊れない事と弾数が無制限である事以外、普通のレーザーガンとあまり変わりません。概念魔法の効果もなく、威力もプラズマガンより少し強力なだけの普通の科学兵器です。」
「弾数がないのはありがたいけど、射撃については俺の腕前だと結構微妙だな、、」
「オマケの様なものですから。」
アルドは腰に時空砲をしまうと、クジラの解体を続けた。
クジラから取れた肉は大体3トンで殆どを乾燥させ1トン程の切り干しを作り、残り100キロほどの肉は厨房で冷蔵される。骨は使えそうなものだけをドール達がそれぞれ格納庫に保管し、夜まで続いたトビクジラの解体は終了した。
「またクジラの肉ぅ?何か飽きたわね。」
「まだ沢山有りますし食べないと冷蔵庫が片付きませんので、アリサ様は我慢なさってください。」
食堂ではアルド、ラウラ、アリサが食事を取っていた。黙々とラウラが作ったクジラの料理を食べるアルドにアリサは詰め寄る。
「ねぇ、アンタも他の肉食べたいわよね。」
「生き物の命を奪って肉にしたんだ、感謝して食えよ。ちなみにおかわりし放題だぞ。」
頭を垂れるアリサだった。
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ここから下は本編とはあまり関係ありません。読みたい人用。
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東海洋踏破船団が出向して数ヶ月。西大陸のライルーの港に船団が到着した。船は半数になり病人も多数いたが船長オーツク・カイドーは無事であった。船内には何故か大量のクジラの切り干しがあり。当時では考えられないような高性能な受信機と海水濾過器が設置されていた。
東海洋踏破、その報は瞬く間に大陸に渡った。これにより理論上は証明させていた、惑星ガルンゼルが球体であることの裏付けが取れたのだ。また中央大陸と西大陸の新たな航路の誕生に商人達は投資し、ライルーの港とラークの町は発展を遂げた。
しかし東海洋を結ぶ貿易は船の性能が低く失敗が続き、ライルーの港が本格的に発展するのはそれから200年の歳月が必要となる。
フルトー王国のラークの町は発展した。それはライフェルトというやり手の商人がいたからで彼が発見したと思われる鉄鉱山が多数残り、後世に鉄鋼王と呼ばれるようになった。彼は地理学者としても有名で、彼の残した遺産の中には完璧な世界地図が合ったとされるが、現物は消失しているため真偽は定かではない。




