異次元収集家アルド三章16話エピローグ
宇宙船の一室にアルド・ガーデンブルグはベッドで《眠りに付いている》ミューズを椅子に座って眺める。
《アーちゃん、出発の準備が出来たよ。》
「分かった。直ぐ行く。」
アルドは立ち上がると、ミューズの絹の様な髪を撫でた後部屋を出る。ファクトリーキューブの中にはミューズの体の設計図が入っていた、もしもの時のために入力したらしい。ラウラはそれを使い外側だけの人形を作った。
ミューズを元の状態に戻すためには少なくとも二つ条件がある。
一つはミューズの旧いミューズの体の記憶を安全に取り出し、新しく作った体に完全結合させる技術者。
もう一つは材料。
技術者の方は心当たりがある。
が問題は材料だった。記憶回路すら潰れたミューズの体を材料にすることも出来るが、それでは記憶データはリセットされ完全に別物になってしまう。現在の状態では材料集めにはどのぐらい時間が掛かるのか見当もつかない。
レーザーグレイブでさえ複製できる材料がこの次元では見つからない程である。しかし魔石のような下位の万能物質ではどの様な問題が生じるか分からない。目指すのは確実な復活であるためきちんとした素材を使う必要がある。
確実にレーザーグレイブよりも複雑なミューズのパーツ製作に掛かる時間は数年を越え、十数年もしかしたら百年単位掛かるかも知れない。
「だがやるしかない。」
元々自分の責任をミューズに肩代わりさせただけなのだから、この贖罪は清算するべきなのだ。
「東海洋の深海か、、」
アルドはハンドリンクが指し示す、場所へ向かうことを決めた。
ラウラは最短ルートを知っていた。考えないようにしていたのかもしれない。それは技術者を迎い入れた後、《ラウラ》の体を材料に《ミューズ》を作り上げる事である。
勿論完全には一致しないので多少材料を集めなければならないがそれでも一から作り上げるのとは雲泥の差である。
「我々の次元で汎用型を手に入れるのは、、、、」
同じ様な超科学をもつ数百の軍勢に追われるのは流石に危険が大きい。基本的にアンドロイドは一人一体である。自分もあの次元に帰れば、本当の所有者が居ないために回収される定めにある。ルル・ルリも同様である。
「《マザー》であれば、、いや《同機種》を与えるだけで終わりそうだな、それは《ミューズ》というアンドロイドではない。困ったな。」
実際記憶を無事に取り出せるかも分からないあまりに無謀な挑戦であったが、その希望を否定する事は出来ない。可能性は0ではないのだから。
ラウラは今後の方針についての結論を胸中に秘め、今後使うであろうオーガユニットの整備にあたる。
アリサ・スターライトはラウラから受け取った、電子ノートを眺める。書かれている内容は《召喚魔術》の極意についてである。
こちらの次元でも多少利用できる事もあったが、次元が違うと魔術形体が変わる為に威力や規模は劣ってしまう。しかし書かれている内容は素晴らしく、これがあればこの次元における《召喚魔術》の技術はより進歩するだろう。
「あの爺も使っていたから、具現化は可能なのか、、」
アリサは木炭で掌程の大きさの魔法陣を描き詠唱する。
魔法陣から現れたのは小さな蝶の姿をした精霊。
召喚魔術に必要なモノは単純明快。
召喚する人・されるモノ(生命体)・召喚に掛かるエネルギー。
精霊等の場合、召喚=契約成功となる。これは精霊は世界的なシステムの一部であり自由意思を持たないため、契約を必要とせず。また召喚者の命令も受け入れず、単純な己の欲望を満たすような行動をするだけの存在であるためである。
精霊以外の知的生物の場合は複雑になる。
種族による契約がなされていれば、契約内容にあった報酬を用意すればそれらを召喚することが出来る。また従属の呪いや魔術契約を結んだ個人を呼び出す事も可能である。
基本的には雇用主と労働者の関係ではあるが、立場は対等である。
アリサが使ったのは精霊召喚である。
《スリーピングバタフライ》の鱗粉は生物を眠りに落とす。効果は数時間しか持たず、また目覚めたとき通常の眠りより疲労回復効果が高いらしい。
生物を眠らせる事が存在する目的である蝶はアリサ・スターライトをベッドに沈めた後、満足そうに羽ばたいた後消えた。
惑星ガルンゼルがある次元NW103とは違う次元、そこはただ暗く空からの雷鳴が時折光を与えてくれるだけの惑星であった。
彼女がここに堕ちたのは理由がある。
惑星環境調査時に運悪く、次元の穴に入ってしまったのだ。次元の穴の発生条件は高度な観測機でも難しく、まるで神隠しのように彼女は別の次元に放り込まれた。
運が良かったのは二点。比較的安定した次元の穴であったため、体の頭と体、そして右手は無事であり。裏返しになったのは左手や両足部分だけであった点。
そして人間ではなく、アンドロイドであった事がおおきい。
そうでなければ数十年もの間、暗闇で食料なく生きていられる訳はない。ただそれも限界があった。アンドロイドの体内を循環する無限エネルギー源ネクタールは彼女が自分自身を治療をするまでの間垂れ流しであったために、消費量に比べ回復量が圧倒的に少なくなっていたためだ。
現在ではもう、自分で這い回る事もできず。1日の起動時間も減少して、最早思考らしい思考もしていない状況である。
「これが、、死ぬってことかな、、」
アンドロイドにも《死》という認識はあるが希薄なものである。しかし、彼女は徐々に怖くなった。
一般的には主人が死んだアンドロイドは《マザー》の元へと戻り、データとして統合されて新しいアンドロイドとして再生される。人間でいうところの《生まれ変わる》事が出来る。
しかし、回収されない自分の体を想像すると、《無》という存在になるのがとても怖かった。
「、、、何故来てくれないの、、」
もしかしたら時間の経過そのものが違う次元なのかもしれない、何処にいるのか分からないのかもしれない、もうすぐそばまで来ているのかもしれない。
ー誰も助けに来ないかもしれないー
彼女は自分の主人を思う。子供が生まれるとき、あの男よりずっと側にいて励ましたし、赤ん坊を初めに抱いたのは自分だった。何より子供の時からずっと一緒だった。
彼女は彼女を信頼していた。
彼女は再び思考する。確かに妊婦や子供の複数回の次元移動は人体に悪影響がある。体の弱いあの子供が住める惑星を探し、次元の穴のデータを解析する時間を考えるに数年は掛かることは考えていた。
ーが。
数十年。
時が経ち、不安が膨らみ、諦めに変わるには十分な時間だった。
雷が彼女のいる直ぐ近くの地上に落ちる。
彼女はスリープ状態になるまでどちらなのかを考える。
自分が死ぬのはエネルギー源が無くなる時なのか、それとも雷に焼き尽くされるときなのかをー
四章へ続く。
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これ以下は本編にあまり関係ないモノになり飛ばしても問題ありません。
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バルバロス王国を襲ったガバレボの組織の兵器によってバルバロス王国は一時的な不況に陥る、しかし再度隆盛を取り戻す。中でも魔法と機械を融合させた《歩兵戦車》の発祥の地として、更に発展する事となる。
数百年後肥大化したバルバロス王国は王国派と魔術ギルド派の二つに分裂。ギルド側の勝利で終わり王国は崩壊する。その後バルバロス地方では議員制度が始まるものの、隣国の侵略によってバルバロスという存在は完全に消滅するのだった。




