異次元収集家アルド三章13話
ガンリュウ
バルバロス王国の領の西の果てガーデンブルグ地方にガバレボが潜伏したという情報を冒険者ギルドから受けると、俺は仲間の冒険者と共にガーデンブルグに向かった。
しかし、ガバレボの偽名ブルックリンの住まいはもぬけの殻であり、贔屓にしていたという鍛冶屋家族の死体が森で発見されただけであった。
「他にもガバレボの仲間と思われる死体があるな、、素性がバレたから殺したのか、、」
「女の死体は酷いモノだった。犯された後、内臓にナイフを突き立てて時間を掛けて殺したと思われるが、、」
「この子供の喉と心臓にもナイフによる刺し傷があったな。んっ?」
子供の胸にある血痕で即死したと冒険者は判断したが、ガンリュウは微かに胸が動いた事を見逃さなかった。
「動いた?!」
「馬鹿な、胸を刺されてるんだぞ。おい。」
ガンリュウは子供の胸に耳をつけると心音を確認して、回復の兆候がある事を確認する。
「生きてるぞ!!気管に血が詰まっているのか。」
子供をうつ伏せにすると背中を強く叩く。
ゲホゲホゲホ。
子供は固まったドロドロの血液を口から吐き出すと、弱々しく呼吸をし始める。
「大丈夫か!?」
「、、かぁさん、、ぅさん、、」
「、、ブルックリンは何処に行った?」
しかし子供は首を横に振り、分からないと答える。何処に行ったのか分からないという答えではなく、ガバレボの存在自体を知らないという様子であった。
「記憶が混乱しているのか?」
「仮死状態が長いと記憶に障害が起こると聞いたことがある、、いやそれとも精神的なものか、、家族が目の前で殺されたんだ自分自身の記憶に蓋をした可能性もあるな。」
「胸の傷口が消えている、、これは一体、、」
ガンリュウの頭にあるのはナガレモノの可能性だったが、そうなるとこの子供だけが助かった理由が分からない。超回復能力が遺伝的なものであれば両親は助かったはずである。
暫く子供の回復を待ってガバレボを追おう。
そう思ったガンリュウの目論みは外れる。ガバレボの姿ははガーデンブルグの村から忽然と消えていたのだった。
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コウモリは自分のオーガユニットの脱出装置を操作して緊急脱出を図る。馴れていないので時間が掛かっていたがそれでも、オーガユニットの胸部のロックが外れたのを確認すると、ハンドルを操作して、扉を開ける。
「ーーーー?!」
コウモリが驚いたのには理由があった。
今まで戦っていたバルバロス王国とは別の場所。漆黒の闇の中にオーガユニットが浮いていたからだ。
「魔術、、いや、、」
科学。
コウモリは異次元で途方にくれるしかなかった。
バルバロス王国西門、その側には大きな宇宙船が鎮座していた。
宇宙船に突撃する集団の一部に、奇妙な杖を持つ青年と美しいアンドロイド、男女の魔術師達がいた。アルド・ガーデンブルグとミューズ、アリサ・スターライトとライオットである。
「コウモリとラウラが戦っている。そこに行こう」
「ちょっと待って、あのゴーレムより宇宙船を目指した方が良くない?」
「いや、コウモリってヤツは他人の体を乗っ取る魔法が使えるんだ。普通の方法じゃあ倒せない。」
宇宙船に入れてもコウモリが背後から襲ってくる可能性を考えると安心できない、しかし今なら簡単にコウモリを戦線から離脱させる事が出来るとアルドは考える。
ミューズも同感らしく、アルドの視線に気が付くと首を縦に振る。
「爆弾処理中に襲われるのは危険ですし、本来ならば拘束しなければならない手間を考えるに、今がチャンスです。」
アリサは疑問符を浮かべるとアルド達に質問する。
「封印魔術でも使えるの?」
「似たようなものだ。動いていると駄目だが、、、」
ドォン!!
二つのの機体距に近付くと、爆音と共に丁度ラウラがコウモリの機体を破壊した所であった。
「足も破壊してくれたし、あれなら当分、、ミューズ。」
「はい。」
ミューズはハンドバッグから《ファクトリーキューブ》を取り出すと、近場に七色の光を出現させる。
ピィィィィン。
ゴジューン。プシュー。
光が消えた後にその場にあったのは、白銀のゴーレムであった。その光景に驚くアリサとライオット。
「召喚魔術?!」
「ゴーレムを召喚できるのか?!」
「これでは近付けません、あの漆黒のゴーレムの炎を消せますか?」
アリサは中位魔術のウォーターショットの魔術構成図を仮想領域に描く。そしてスタッフ内の魔力を仮想領域に流すと五つ程の大きな水の玉がアリサの周りの空中に発生する。
成功。
威力としてはフリージングウォーターが高いが、魔力消費や射程を考えるならばウォーターショットに軍配があがる。水の玉がコウモリの機体の炎を消火する。
バババボ。ジュー。
「有難うございます。」
水蒸気を上げる機体に、十メートル程まで近付いたミューズは再度ファクトリーキューブを掲げ、七色の光線をコウモリのオーガユニットに当てる。
「、、、」
キュィィィン。
この時に襲われるのが一番危険であると、アルドとミューズは身構えるが特に何も起こらないまま、漆黒のオーガユニットがその場からいなくなった。
遠目に見ていたアリサは緊張が解けた事を確認して、成功したのだと考え二人に話し掛ける。
「、、封印したの?」
「まぁな、、」
「浮かない顔ね。」
アルドはアリサの問い掛けに頷く。
「聞いた話じゃ、このコウモリってヤツは極悪人って訳ではなくてな、、まぁ戦闘狂いではあるらしいが、こういうやり方は本位じゃないんだよな。」
「封印したまま衰弱死させる。または多少のリスクがありますがファクトリーキューブの中でコウモリの体ごと物質解体する。次元を挟んでいるため魔法による乗り移りも効果がないと考えます、これが一番安全で確実な方法かと。」
アルドとしては武人らしく決闘などで決着を着けたかったが、ミューズやラウラに諭され結局この方法に収束したのだった。
「わかっているさ。コウモリの処理は戦いが終わってからだ。よし。」
アルドは戦局がいまだに拮抗状態であると確認して、白銀のオーガユニットを見上げる。
「今が使い時だと考えます。」
「、、わかった。、、っとどうしようか、、」
「何がですか?」
ミューズの問いに顔を若干赤らめて、アルドは答える。
「名前さ。」
アルドはオーガユニットに乗り込むと中がラウラの機体と違うことに気が付く、スペースが広く二人乗りの用だった。
「これは?」
「複座型です。OSは完璧ですが、私がオプションやシステムの調節を行えるように設計しました。被弾して部分を破壊されても多少の誤差で済みます。またコンピーターの演算を行えば敵の行動を予め予想しメインモニターに数瞬前の映像を流すことが可能です。」
「未来視みたいな感じか?」
ミューズは微笑むと首を振る。
「予知ではなく、予測です。」
「あくまで演算の結果。例えば落下するボールと床、その他の条件を計算して今後のボールの動きの結果を導き出す様なシステムなので。魔術など突発的な不可視要素が混在すると著しく精度が減退します。それ以外であればほぼ確実な未来予測であると自負しますが。」
「わかった。動かす前に王国に連絡しておくか。」
戦闘用アンドロイドのラウラの技量を持ってしても防御に徹している8体のオーガユニットと多数のドールを相手に無理に突撃すれば返り討ちに合う。そして残りの残弾はハンドバルカン70発とランチャー3発、これではバルバロス王国が雇った傭兵達の援護が関の山だった。
幸運なことは、盗賊達が傭兵達よりも自分を脅威と見なしてくれたお陰で、傭兵達はほぼ無傷のまま宇宙船側まで来ている点とコウモリのオーガユニットが計画通りファクトリーキューブ内に納められたという点であろう。
アルド達が白銀のオーガユニットに乗り込む事を確認したラウラはその成り行きを見守る。
《白銀のゴーレム参加の許可が出た。使用後はバルバロス王国のものとなるので注意してくれ。》
「了解。」
通信水晶にそう答えるアルドだったが、本物の機体は渡さずにダミーの機体を渡す計画であることは告げない。
全身を包まれているアルドより高い位置に柱に、様々なケーブルに繋がれ寄りかかり立っているような格好のミューズは告げる。
「起動出来ます。」
「おう。、、、?!」
ガチャガチャ。
動かない機体。
、、、
「すいません、システムエラーです。暫くお待ちをー」
カチャカチャカチャ。
「敵に補足されました。来ます。」
ドゴン。
「うおぉ!」
震える機体。アルドは動けないまま破壊されると思いゾッとしたが軽い揺れがあっただけにとどまる。
「ガンリュウ邸にあったアダマンタイトをフレームと前装甲に使っていますので、ランチャーでの攻撃程度では破壊されることはありません。ー駆動プログラム更新しました。行けます。」
「よし!」
ウィキュー。
アルドのからだの動きを汲み取って、白銀のオーガユニットは滑らかに動く。モニターにランチャーを構える敵オーガユニットが大きく表示される。
「うぉっ!!」
バシュン。
アルドが避けた後、弾がアルドのいた地点を通り過ぎる。
「回避成功。予測システム問題ありません。」
「かわせた。普通なら当たっていたのか?」
「システムが作動していなかった場合、構えた瞬間からの回避行動では遅すぎますので。回避成功率は3%未満となります。」
「これなら。」
アルドはゴクリと唾を飲み込むと同時に、ラウラの機体と違ってこの機体なら自然に戦えると自信をみなぎらせる。勿論感覚的なものは視力と聴覚以外は無いが、それを補うシステムがあった。自然に戦えるということはアルドにとっては非常に重要である。
バラバラバラバラ。
ヒュン。ヒュヒュン。
マシンガンの弾幕を華麗にかわしていく。
驚いた様子の敵のオーガユニット。
アルドが自然に歩兵戦車で戦えるということは、単純に機体性能が優れているだけではなかった。
アルドの為だけに設計し、そして現在の戦闘データすらアルドに合わせて調整し続けるミューズのサポート。そしてアルドの戦士としての経験があって初めてこの白銀のオーガユニットは完成される。
「ミューズ、武器は?」
「プラズマガンを改修したプラズマガン改とラウラが持ってきたレーザーブレイブを改造した近接用武器が1つです。」
「プラズマガンをー」
「撃てます。」
ガチャリ。
ミューズはアルドの思考を読み取り、いつの間にか機体の手の中にプラズマガンを握らせる。太腿にあったプラズマガンをメイン操縦者の邪魔にならないように操作し握らせるのは、操縦者との連携がなければ難しいがアルドとミューズはまるで長年の戦友のように息を合わせる。
「うぉら!」
ブィン。ボシュ!
超高温の弾が直進。防御用の壁に穴を開けて敵オーガユニットを貫く。ビビビと機体が放電した後、一台が沈黙する。
「プラズマガン命中。チャージ完了まで14秒。」
本来のプラズマガンであればもう少し連射がきくのだが、威力に重点をおいたため弾数と再装填時間に問題があった。
「敵反撃来ます。」
アルドを脅威と見なしたのか、他の敵のオーガユニットとドール達がこちらに銃身を向ける。いつの間にか接近しすぎていたことに気が付くアルドだったが、逃げるのが少し遅かった。
「おぉおおぉぉ。」
アルドが横に転げるように回避、スレスレを銃弾が掠めていく。
ドォン。
激しい振動の後、一瞬白銀のオーガユニットの明かりが点滅する。しかし銃弾の雨は止まない、アルドは更なる銃弾の追撃を回避していく。
警戒するのは同種のオーガユニットの攻撃であるがドール達の攻撃も当たれば軽い損傷に加え、衝撃を受け回避行動が遅れてしまうため無視は出来ない。
「敵が多すぎる。」
「左肩に中程度の損傷、機能に制限が掛かります。」
バラララッ。
追い詰められたと思ったアルドだったが、その隙を狙ってラウラが防御陣に突入した。相手が混乱していく、指揮をする存在がガバレボ守備隊に少なかったことが決め手であった。
ラウラの機体を取り囲み反撃しようとする守備隊だったが、ラウラはそれを掻い潜り、一体をランチャーで2体目を強烈な前足蹴りで破壊する。
「うおぉおぁ!!」
アルドは後退よりも現在の勢いに任せて前進する事を選ぶ。敵に突進して鉈のようなレーザーナイフを振るい、 銃を構えつつあったオーガユニットの片腕を破壊。低い体勢でタックルをしようとしてきたオーガユニットの背中にナイフを突き立てた。
ゴウウ。
「ううぉ!」
アルドの機体が背後から敵の近接武器をくらい激しく振動する、更に振り上げられた近接武器の二撃目を回避する隙がないと右手で思い切り胴にパンチを放つ。
ガン!ガン!ガン!
一発二発三発。衝撃に対する防御機能が存在していても、直接激しい衝撃を操縦席に与えれば防御能力を越える事は可能である。アルドのオーガユニットは右手を犠牲にして、敵の操縦席の破壊に成功する。
「突撃だぁ!イケイケぇ!!」
「ぉ!!」
傭兵達もドール相手に戦いを仕掛ける。傭兵達の人数は80人を越え、ドール達の2倍以上あった。一体また一体とドール達を破壊する傭兵達。中にはちゃっかり相手の武器を奪うものもいて勢いが完全にバルバロス王国に傾いた。
最後のゴーレムにラウラが止めをさすと、赤い花火が上がる。目的完了の花火であり、それぞれの通信水晶に連絡が入る。
《第一目標達成。宇宙船に侵入し、爆発物の処理、また敵残存部隊の掃討に移行してくれ。爆発物の形状は不明のため怪しいものは全て持ち出し、爆発物処理ポイントまで運んで欲しい。また処理の数量によって恩赦を与える。健闘を祈る。》
アルドのオーガユニットの周りにラウラのオーガユニットとアリサ、ライオットが近付いてくる。
「ここまで攻撃がないとガバレボは正面主力の方にいるかも知れませんね。となると気を付けなければならないのはレイレインと爆発物の処理になります。初期目標である船内の動力部に向かいましょう。」
「ラウラの言うとおりだが、、」
操縦席内部。アルドとミューズは向かい合いながら今後について話す。ミューズは装着物を外すとスピーカーを切り、アルドにだけ聞こえるように話す。
「ガバレボが逃げなければ、この宇宙船に戻る筈です。その時までに万全の状態で戦えるようにしなければなりません。私はこのオーガユニットの修理のためにここに残ります。宜しいでしょうか?」
確かにガバレボをアルド自身で倒すには、このオーガユニットがなければならない、先程の戦いで両腕と脚部にかなりの損傷があって万全とは言い難かった。
勿論アルドに同行する事も出来たが、処理速度が低下するためにガバレボが宇宙船にやって来たときに間に合わない可能性もある、そして先程の戦いから改良できる部分もあり残ることを提案したのだった。
「分かった。ありがとう。」
「?」
「考えてみればミューズが操縦した方が絶対に強いだろ。だけど俺のためにサポートに回ってくれている。」
ミューズは首を振り否定する。
「アルド君、多分誤解していますよ。確かに普通の歩兵戦車ならそうですが、この機体はアルド君が操縦をした方が戦闘能力は高いと考えます。またこの機体は一般的なオーガユニットよりも優れている、、つまりはですね、、」
アルドはミューズ励ましの言葉に、胸が高鳴る。
急にミューズがいとおしくなる、抱き締めたい衝動に駈られる。
多分自分ははミューズが好きなのだと改めて考えさせられる。
「ミューズ、この戦いが終わったら俺と暮らさないか?」
「??」
それはいままで通りであるから、言わなくても問題はなかったが改めて口に出す。それは一種の契約だからだ。
契約とは互いの立ち位置を明確にしなければならない。
アルドはミューズと暮らし。ミューズはアルドと暮らすという契約。
「はい。」
とびきりの笑顔でミューズは微笑んだ。
バルバロス王国軍の主力とガバレボ部隊の戦いは終始バルバロス王国軍が有利で進んでいた。兵力差で押しきる事もアンタレッタ将軍には出来たが、戦力の消耗の点から魔術中心による、遠距離攻撃支援と超近距離の戦術に移行していた。
「ガバレボ、敵が多すぎて戦線が維持できない!退却しよう。」
オーガユニットの護衛のドールが魔術によって大半が吹き飛ばされ、ガバレボが空中に飛び上がると狙っていたように魔術による打ち落としがあり、戦いそのものがうまく運べなかった。
兵力の分散による数の不足。ガバレボは百人未満の戦闘の陣頭指揮経験はあったが、それ以上規模の戦闘ではまるで素人であり。大規模な戦いを全く経験してこなかった欠点が、今回露出してしまった結果である。
「けっ、ここまでして出てこないとなるとあっちに行ったのか。よぅし引き上げだ。レイニーはここで残って殿になれ。」
言われたレイニーは驚く。敵中の真っ只中で殿をするということはすなわち、死ねと言われたということである。
「待て、残るならドール達を残してその隙にー」
「ドール達は殆どやられちまっただろ。殿になれっていっても、戦い続ける必要はない。俺が空中に移動して空から対地ミサイルを撃つ、俺が空に上がるまで持たせてくれればいい。あそこに空中攻撃が専門の魔術師達がいる、あそこで粘ってくれれば後は俺が何とかする。頼んだ。」
どちらにせよ、現在周りのバルバロス王国軍に囲まれ退却も出来ないのなら、進むのも戻るのも大差はない。それにドラグーンの対地攻撃ならば防御魔術すら突破し、現在包囲しつつある敵軍の囲いを突破できる芽が出てくるとレイニーは考えた。
「分かった。ドール共続け!!」
バラララッ。
レイニーは広場の近くの塔に数体のドールを引き連れ攻撃を始める。ある種、戦いの重要ポイントであるため、守護する兵士達の数も多く反撃は苛烈を極めた。
手持ちのランチャーの弾を全て使い切ると、まだかとガバレボを確認するレイニー。
ブオォォン。
ガバレボのドラグーンは空中に飛び上がる。
「よし!!」
上空。
ドラグーンの中にいるガバレボは頭を捻る。
「レイニーは殺すには惜しいが、宇宙船に丸腰で行くわけにはいかねぇしな。ここで無駄弾を使うわけにはいかねぇか、、アバヨ~レイニー。」
ビュオン。
高速で宇宙船の方角へ消えていくドラグーンを半ば放心して見送るレイニーは危機的な状態である事を思い出し、敵兵士に向けてアサルトガンを撃つが数発撃つとその弾も無くなる。
カチ、、カチカチ。
「あんな男を信用するとは、、俺も焼きが回ったか、、」
ガバレボの主力部隊は最後に残ったオーガユニットの降伏によって全滅したのだった。
レイレインは残りの体を再編成する。
1つは己の肉体である魔法細胞の増殖のために魔石を集めた、バルバロス王国西の側の商店の地下部屋に一体。
密命を負った者が宇宙船内部に一体。
最後に自分、《バルバロス王国郊外の辺境の村》にいる保険用の一体。
「この戦い負けるか、、」
レイレインはガバレボの仲間であるがガバレボに忠誠を誓っているわけではない。最後まで戦い続ける理由もなかった。
「いやまだ完全に負けたわけではない、、」
宇宙船にいる分身体が成功すれば逆転できるハズである。
ーー?
突然増殖用の一体からの連絡が途絶える。
このままでは不味いか、、
この場所も安全では無くなった為、部屋のドアに手を当てる。
しかしドアは開かない。
「私は疑問に思っていた。お前の理念は自分の命の永続。しかしお前の戦い方はその逆であり、前線で自分の命をさらしていた。」
どこからか男の声がする。
「ウォーターニードル」
ギュオオン。
ドアを破壊して外に出たレイレインは五人の魔術師達に囲まれていることを知る。魔術師達の中央には虹色に輝く拳程の珠を持つ、苦虫を噛み潰した渋面顔の男がいた。渋面顔の男は口を動かす。
「ならば前線で戦える理由は、本体は安全な所にいるという結論に達した。勿論推測ではあるが、、宇宙船が現れたルートを逆算して、更に魔術電波による通信地点を探索魔術を使用してくまなく探せば少なくとも発見は可能ということだ。」
「貴様は、、」
「初めて会ったか。私は魔術アカデミー本部長ラズリ・スナイプという者だ。この場の指揮官と考えてもらえれば良いだろう。」
指揮官と聞いて身構えるレイレイン。不利であるが、それでもレイレインは様々な魔術が使える為、指揮官さえ倒せば士気が落ちて逃げ切ることも可能であろう。
「私を狙っているのだろう。あえていうが私は魔術が使えない、、才能が全くなくてね。アカデミー本部長というのも実務的なものをしているだけに過ぎないのだ。」
「、、罠か?」
指揮官がそもそも敵の攻撃が届く範囲にいるのはおかしい。ということは目の前の男は囮かそれとも何らかの対策をしていることになる。
「さて、魔術の講義といこう。」
渋面顔の男は虹色に輝く拳程の珠を掲げながら何やら操作をし始めるのを確認するレイレイン。
「魔術といういものはマナが変化したものである。では魔術によって作り出された火や水や風や作られた物体は何故直ぐに消えてしまうのか?」
「、、、」
「これは魔術による物質変換が不安定な状態であり、物質化した魔術が再度マナへと戻ってしまうからだ。魔術による物質具現化は時間の制約が絶対に存在するのだ。」
レイレインは人の体主に脳神経に寄生し、自由に相手を操り、また己の肉体である一部を使用して魔術を行使する。もしかりに目の前の男が持つ珠が魔力結合そのモノを分解するような魔術であっても、《肉の盾》である宿主の体と魔術による防壁で防ぐことが可能である。
レイレインは考える。
珠を狙うか?スナイプを狙うか?はたまた何もせずに撤退するか?更に分身体を地面に逃すか?いくつものシミュレーションを行い結果は逃げることであった。
ダン、バシイ!!
後方に高速移動しようとすると、レイレインの体が何もない空間に突然弾かれる。
「魔術結界か!!」
「<逃げる>ということはストックが少ないという事かな?それは喜ばしい、、一応言っておくがここ一帯は儀式魔術による結界を張ってある、逃げられはしない。お前が出来ることは私達を全て倒す事か、それともここでー」
「こうなれば!!ウォーターニードル!」
スナイプの体を乗っ取ろうとレイレインは体に防御魔術を張りつつ、牽制の為のウォーターニードルを自らの体から作り出す。
ブン!!
スナイプは魔術師とは思えない身のこなしでウォーターニードルをかわす、しかしレイレインはそれを上回る速度でスナイプに接近する。
護衛の魔術師が魔術を使おうとするが遅かった。
「もらった!」
ジュルリ。ジュルルン!
水とゼリーの中間の液体がレイレインの口からスナイプの口元へ移動する。スナイプは避けようと体を捻るが強引に液体が口をこじ開けて体内へ侵入する。
二リットル程の水が体内に入ったスナイプはダラリと両腕を垂らすとレイレインが先程まで操っていた人間の体を見る。
「本部長?大丈夫ですか?」
「、、、」
スナイプは口から刃物を取り出すと咳き込みながら、話始める。
「これで音声アシストは必要なくなったな。レイレインは私の口の中で消滅したよ。この魔術アイテムでね、これを作ったアリサ・スターライトに感謝しなければならないか、、」
スナイプが持つ虹色の珠は《魔術分解の珠》等ではなく、普通に店で売っているような玩具の音声記憶媒体の水晶である。スナイプはレイレインに口の中のレイザーエッジを悟らせないため、虹色の珠の特質を勘違いさせたのだ。
「しかし無茶をなさる。奥歯の力がレイレインの魔術溶液の水流に堪えられなければ、刃物を飲み込む危険性も有りましたし。この魔術道具が作用しなかった場合は、自らの体ごと自爆するなんて正気ではありません。」
「操られている人間は生きているからな、、私が囮になることで助かるのならば、安いものだ。さぁもう一度魔術による探索をかけた後何もないのならば、王国へ戻り作戦を練り直そう。」
「モロゾフ殿も成功したもようですし、これで軍内部撹乱の芽は潰れたわけですね」
主力の壊滅とレイレインを倒したことで、ガバレボの私兵はほぼ全滅したといっても良かった。戦いはバルバロス王国の完全勝利に近い。しかしスナイプは不安を拭えない。
「ガバレボという男はそもそも何故、最後の最後主力を集めて無茶な攻撃を仕掛けて来たんだ。こうなることは想像できたはず、、端からみれば自暴自棄になったとしか思えん、、」
ゴーレムは強力な兵器だが対処が可能だった。しかし宇宙船はいまだに謎が多く、老師の話ではアレひとつあれば《国》を破壊する事も容易であると聞かされた。ならば主力を動かしたのも、宇宙船をエネルギーを補充する時間稼ぎなのだろうか?
「馬車が来ました。本部長こちらへ。」
スナイプの思考はそこで途切れる。もう少し考える時間があれば使用する事が出来ないとの結論を導き出せたかも知れないが、アルドという人物についての情報が不足していたスナイプがその答えを思い付くにはもう少し時間が必要だった。




