異次元収集家アルド 三章9
ガバレボ1
地獄があった。俺は地獄で産まれた、地獄で育ち、地獄で学んだ。
バルバロス王国の首都から北へ離れた不毛の土地。そこは草木すらあまり生えない。皆が飢餓と寒さの中生きていた。だがそんな土地にも一つだけ魅力があった。
宝石が産出されるのだ。
ガキの頃俺が覚えているのは親父に殴られている記憶と、母親の出す腐ったスープの味だった。
俺の両親は俺がある程度大きくなると、糞の様な鉱夫組合に糞の様な値段で働かせた。毎日が命懸けしかも手元に金など残らない、親の家畜同然の日々だった。
手の爪は剥がれ、着る服はダニやシラミがわき、寝るためだけのタコ部屋は人が集まっても氷点下になり否応なく暖かさが欲しくなる。
紛らわせるのは二通り、男同士抱き合い掘り合うか、他人の小便の臭いのする薄い毛布を奪うか、、何故小便の臭いがするか?寒くて外に出るなんて考えられねえ程寒いからだ。
ある時俺に転機が訪れる、間近で爆発魔法が破裂した瞬間、偶然宝石の原石が目の前にコロリと落ちてきたのだ。
それを口に含むと思いっきり飲み込んだ。
渇ききった喉に硬いだけのゴロゴロした拳位の石を呑み込んむ、それは勿論下手すれば内蔵を傷めるし、バレたら腹を裂かれる。だがそれでも呑み込んだには理由がある。
逃げたかった。
糞の様な毎日から、糞の様な両親から。だがそのためには金がいる、力がいる。だがろくに武器も扱えないような自分では直ぐに殺されるのがオチだ。
だからこそ原石を呑み込んだ。
そして身体検査を通過して原石が腹から出て来るのを待っていた。そして数日後糞と共に出てきたそれを抱えて鉱山を逃げ出した。
必死で逃げた先は盗賊の隠れ家。
ガキの俺が原石売るのに必要なコネが有るはずもない。身なりを見れば原石をどうやって手に入れるのか簡単に分かる、最悪下手をすれば逃げ出した鉱夫として更なる地獄か、見せしめに腕を切り落とされる場合もある。
俺は鉱夫が近くの盗賊の隠れ家について話しているのを耳にして、それを基に隠れ家にやってきたのだった。
50人ほどの盗賊団【悪魔の角】はやってきた俺を向かい入れた。別に宝石の原石(持参金)がどうとかでなく6人で1班で、そのうちひとつの班で欠員が一人でたという簡単な理由からだった。
勿論雑用だったが、食べ物は比較的まし(硬い黒パン)だった。後で分かった事だったが、俺が鉱山を逃げ出して事で両親も鉱山で働く事になったらしい、ついてるぜ。
そして幼少期はその何の変哲のない盗賊団で過ごした。
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バルバロス王国から西へ数キロ、北門に続く主要道路は馬車の渋滞が起こっていた。
外に出て情報収集を行っていた乗り合い馬車の恰幅のよい主人は浮かない顔で話し始めた。話を聞くのは6人、老夫婦と男二人の傭兵、そして戦士風のアルド・ガーデンブルグとアンドロイドのミューズである。
「どうやらバルバロス王国で何かが起こったらしい、西門が通れなくなっている影響でこっちにも影響がでているという話だ。それ以外は分からん、一応北門の近くまでは馬車を向かわせるが徒歩で向かった方が早いことを伝えておくぞ」
傭兵達は相談し始めると、直ぐに馬車を降りた。老夫婦は特に急ぎではないようで顔を見合わせるだけで微動だにしなかった。
「入場を規制しているのなら、只の旅人の俺達は王国に入れないかも知れないな、、」
「みゅーずにていあんがあります」
アルドは元に戻らないミューズを見る。
「おうこくにはいらなければいいのでは?」
アルドはバルバロス王国に入る事を前提にしていたが魔術アカデミーや冒険者ギルドを後回しにして、遺物を先に探す事を優先させる事を考えた。
「いや、、遺物探しは後でも出来る。あのロボットって奴を探して倒す方が重要だろう。ならヤッパリ王国の魔術アカデミーや冒険者ギルドで仲間を募ったり、相手の位置を探れる奴を探す方がいい」
だがどうすればいいのか分からなかった。
「もし、バルバロス王国が何らかの事態になっても商人達の出入りは、食料品や衛兵の装備の関係上なるべく制限されないはずだ。なら商人に金を掴ませて、、」
だが手持ちのお金がほとんど無いことを思い出す。もし密入国などさせれば当然商人も牢屋に入れられ課税や権利書の剥奪など厳罰が待っている、手持ちの金額2枚位では引き受けるモノなどいない。
「ごしゅじん、いそがばまわれですよ」
ニコニコと笑顔で言うミューズの頭を撫でると小動物(背はアルドより若干低い程度だが)の様に目を閉じてなすがままになる。進めないイライラを紛らわせて渋々方針を決定する。
「仕方ない、通行書に付属されている旅券で身元は保証されているんだ。時間が掛かっても正式に中に入ろう、疲れてないか?」
「だいじょうぶです、はんたいにつかれたらいってください、ひざまくらしますから」
「、、とにかく門に向かおう、もしかしたら今日中に中に入れるかもしれないからな」
別れの挨拶を残った老夫婦にして馬車から門の入場待ち列に並んで待つ。高かった日が陰り日が暮れてようやく半分、アルド達がバルバロス王国城下町に入ったのは真夜中になってからだった。
※通行許可書には三通りある。役所が発行していて民間に流通している通行許可書。外交使節団などが持つ通行許可書。最後に貴族や王族また緊急などで使用する通行許可書である。後のものほど身体検査身元確認などが簡略化されるがアルド達が持っている許可書は王都ガーランが発行しているモノで役人と同じであり、一般人としては最上位のもの。
アルド達はベッドのみの安宿を探すと西門で両替した銀貨を6枚支払い質素だがしっかりした造りの部屋にミューズと共に入る。
「兵士達の話じゃ、西門からナガレモノの集団が攻めて来て西側は商業区含めて閉鎖されていると話を聞いた。ナガレモノが何なのかは分からないが時間経過や距離が近すぎる、親父を殺した奴だと考えるのが自然だと思う」
「どうします?」
「だがミューズの見立てだと装備面では絶望的なまでの差があって、現在では太刀打ちできない事が分かっている。ミューズが元に戻るまでは接触しないのが無難か、、」
アルドは疲れた身体を休めるために二つあるベッドの一つに横になり、半分眠りながら明日の予定をぼやけた頭で考えた。
シュルシュル。
「、、魔術アカデミー、、に行って、、冒険者ギルドに、、」
「ごしゅじん、、」
ミューズの恥ずかしそうな顔が見える。見ると裸でゆっくりと仰向けのアルドに覆い被さってくる。ミューズの大きく形のよい胸の先には小さな桜色のー
ズキン。
「うああぁぁ!!」
アルドは突然叫び出して頭を抱える。
フラッシュバックする過去の映像。
横たわる母親は裸体で子ども心に酷いことをされたのが分かった。とてもとても痛そうだった。
大好きなアンドロイドは母を助けてはくれずにそのまま微動だにしない、突然こちらに向かってレーザーグレイブを振り上げる。
気が付くと人が倒れていてそれは父親だった。分けが分からない状態でブルックリンの口車に乗せられアンドロイドを動きを止めさせる。
アンドロイドは最後まで自分を護ってくれたのに、最後の最後まで自分の置かれた状況が理解できず意識が消えた。
意識を取り戻したのは目の前にガンリュウと呼ばれる冒険者が現れた時だった。力強そうな身体、この人について行けば強くなれる確信があった。
孤児院の話もあったが自分はとにかく強くなりたいとガンリュウに無理矢理弟子入りする事になった。
ブルックリンとガバレボ。
ソレが全て、アルド・ガーデンブルグの中で一本の線に繋がった、忘れられていた記憶が朧気に蘇る。
ミューズはアルドが苦しみ出したため右往左往したが直ぐにもとに戻ったので安堵するとアルドを抱きしめる。
「ごしゅじん?」
「らうら、、ラウラ、、だ」
「らうら?」
とアンドロイドの名を口に出すアルド。この圧倒的に不利である状況での唯一のジョーカーでもある。アルドはラウラにハンドリングから通信できないかと操作する。同じ次元にいるならば宇宙の端から端まで通信できる筈とアルドは考えたからだ。
通信項目に検索を掛けて新しい通信項目が現れるか試すと、画面にラウラの項目が現れているのを発見する。
一瞬躊躇するアルドであったが、指をラウラの項目に合わせタッチする。
ーーーー
、、、、
「ラウラ聞こえるか?」
返事がない、それはつまりは破壊されているのか。出られない状態であるという事かもしれない。
〈、、坊ちゃん、、〉
僅かなノイズと共に聞こえたのはラウラ声だった。
「ラウラ?」
〈こうも早く気が付いて下さるとは、、今までの種まきは無駄ではなかったと安心いたしました〉
「種まき?」
〈私に連絡を下さったと言うことは事の全てを理解して頂いたという事、、つまりはブルックリン、、いえガバレボを倒す決意をされたという事でしょう〉
ラウラ自身、アルドが全てを知った上でガバレボを放置するのならばそれでも良かった、しかしそうはならないだろうと考えた。あの時のアルドの目はガバレボを倒すと決意した目だったからだ。
「、、種まきで倒せそうか?」
〈、、ファクトリーキューブと次元砲さえ有ればほぼ間違いありません〉
アルドは頭を捻る。次元砲と呼ばれるものは手元にない、もしかしたら残りの遺物の中にあるのかもしれない。
「次元砲はない、、なければ無理か?」
〈MUZ-2500は起動されましたか?出会いましたか?〉
「ミューズなら側にいる、もう一日ファクトリーキューブでロボットをずっと造っている。」
〈悪くないアイデアですが時間が問題ですね。ガバレボは後二日ほどで準備を整えてこの次元からいなくなるつもりです〉
ミューズがいくら頑張っても流石に一週間で作ろうとするロボットを数日で作るのは難しい。
「、、無理か、、」
〈いえ発想そのものは悪くありません。修正しましょう、つまりロボットの改良に留めれば良いのです〉
〈私の手元にはまだ組立途中の歩兵戦車が残っていますし、OSもあります。コレをMUZ-2500に改良させれば二日も有れば【竜戦車】モドキなら一体を作ることが出来るでしょう〉
〈最後に確認したいことがあります。決着はご自身でつけるのですか?〉
今までとは違う雰囲気のラウラの言葉に、アルドは勝率などの野暮な問いはせずに、裸で抱きついているミューズの頭を撫でると、アルドもようやく覚悟を決める。
「ブルックリン、、ガバレボは俺の手で討ちたい。そうしなければ前に進めない、復讐ではなく俺という存在を確かなものにするために!」
〈、、坊ちゃん、、いえアルド様と言った方が宜しいでしょうか。ラウラは嬉しいです、今までアルド様を育てた世界に祝福を〉
ラウラの声からはアルドの成長を喜ぶ感情が含まれていた。
「ではハンドリンクをそのままに、、この国にいるのであれば、宇宙船の近くで合流しませんか?こちらからも位置が分かりますので」
「分かった。準備が整わないうち、本拠地の近くガバレボに見付かるのも気付かれるのも避けたいからな、、にしてもヤッパリ騒ぎの原因はガバレボか、、」
〈今も私とガバレボとの準主従契約は解除されていません。もし先手を取られれば今度こそアルド様は唯一のチャンスを逃がす事になります。では、、序でにMUZ-2500の作業を中断させて下さい、会える時を心よりお待ちしております〉
通信が切れるとアルドはミューズの肩を揺す。ミューズはキャッキャッと面白がるばかりで一向に変化が無かった。
「確か強い衝撃を与えてくれと言っていたな、、流石に殴るなんて出来ないからドーンと!!」
「へにゃ」
ミューズを思いっ切りベッドに突き飛ばすとミューズはパタリと動かなくなってしまった。初めは直ぐに戻る兆候だと思っていたアルドだったがあまりに長いフリーズ状態だったので顔をペチペチ軽く叩く。
アルドが顔を覗き込むとミューズの視線がアルドを見て自分の裸体に向けられる。状況を理解したのかミューズは顔を赤らめてコクコクと頷き、股を広げて恥ずかしそうに呟く。
「アルド君いたく「待ってくれ!時間が無い、服を着て王国の西側に行くぞ。説明は走りながらでも話そう」
ミューズの言葉を遮るとアルドは服ミューズに手渡して装備を整え、荷物のまとめを始めた。いってもレーザーグレイブ以外重要なものは無く、ブレストアーマーも直ぐに装着してしまったため、リュック内をかき混ぜているだけである。
ミューズは複雑な顔をして着替えを済ませると現状を尋ねてきた。
「城下町の西側はガバレボが占領していて、睨み合いが続いているらしい。俺達はそこに向かう」
「ガバレボが敵という事ですね、分かりました。しかし、機体の制作はいかが致しますか?いま装備を設計制作終えた段階ですが」
「その戦車ってやつの現物が手にはいるらしい、ついでにOSってやつも、それに手を加えて改造した方が良いんだろ?」
「、、アルド君誰からそんな事を聞いたのですか?」
「ラウラだよ。まぁなんと言うか乳母みたいな姉貴というか、、ミューズと同じアンドロイドで子供の頃世話になってな。確か父方の方のアンドロイドで、、まぁ理由があって俺から離れていた訳だが」
明らかな不快感を顔に出したミューズだが、アルドは気付かず宿を抜けて北門側から大通りに出て西門へと向かう。
バルバロス王国城下町は敵戦力が西側を占領されているのにも関わらず、にぎわっていて西側の商人達が露天を出して受けた損失を必死に取り戻そうとしていた。
「ガバレボは西側を占領して何をするつもりなんだろうな、、何でも2日間はこの王国にいるらしい」
「相手の目的が王国の占領で無いとしたら、略奪や破壊活動が目的かと思います」
ガバレボの性格上、国に損害を与えて満足するような男ではない、それによって被害者が出てその人物不幸を楽しむのがガバレボである。利益などは二のなのだ。
西側の住民をかき分けると西門に続く大通りを抜けて、西側近くなると武器を売る商人が増えてきて冒険者らしき者やならず者が増えてきた。
「止まれ止まれ!」
西門の大通りの中央辺りには兵士が一般人を入れないために柵を設置して冒険者達にそれぞれビラを配っていた。
「なんだ?」
「コレから先は西門を占領したゴーレム達がいる危険地域になる。賞金目当てなら止めないが命はないものと思え」
「一応ビラも貰えるか?幾らなのか気になる」
「命よりも金か、、冒険者の考える事は分からん。さぁサッサと行け、後ろの奴の邪魔になる」
バラバラ。
ビラの内容は占領したのはゴーレムであるとの記事。ボスのゴーレムの姿とその配下の特殊なゴーレム、普通のゴーレムの簡単なスケッチが描かれていた。人サイズの人間によく似た背丈の人造人間の絵もあり、情報的には十分といえた。
「ボスの竜にみたいなゴーレム、、コレがボスって事はガバレボの確率が高いな、、」
「間違いありません義父を倒したのはこのゴーレムです」
ボスゴーレムの賞金は王国金貨三百枚、幹部は五十枚、普通のゴーレムであれば十五枚、人造人間は銀貨五枚とかなりの高値である。
「こりゃあ賞金稼ぎが集まるわけだ、バルバロス王国側は傭兵や賞金稼ぎを利用してガバレボの戦力を削る作戦かな、、」
「一般的な魔術では機体に致命的なダメージをあたえること無理ですが数を頼りにすれば撃破は可能だと思います、またガバレボへの目眩ましにはなりますし、今が好機なのでしょう」
歩きながらアルドは何故ガバレボが逃げずに西側に陣を張り巡らせたのかを考える。
「輸送に時間が掛かる?いや、、戦力が集まることを想定していればいずれ戦力が整って逆襲されるのは分かり切っているはず、、戦力をまとめさせた?」
その答えは一つだった。
「ヤバい、ガバレボが命令する前にラウラに会わないと最悪ここも吹き飛ぶぞ!!」
タッタッタ!
アルドはハンドリンクが表示する場所へと向かうのだった。
西側ー
現在バルバロス王国西側一部は完全にガバレボの仲間が占領していた。竜戦車に乗り続けるガバレボは、歩兵戦車に乗っている人間への指示やドールへの細かな指示を飛ばす。
ガバレボは宇宙船から持ち出したドラム缶に似た装置にバルバロス王国住民の死体をいれて大量のドールの製造していた。
ドールは死を恐れない人造人間で、大人1人と少量の金属で2体出来、身体能力は人よりも高い。欠点は頭が悪く命令が無ければ動かない事と、作成後10日前後で生体部品が腐って動かなくなってしまう事だろう。
「ドールを作って時間稼ぎだ!商店の魔石回収はどうなっている?!」
近くにいた中堅盗賊はブルックリンの問に答える。
「レイレインのお嬢が上手く誘導しています。あの守護者は直に罠に掛かります」
「アカデミーのガランドロスって言えば、魔術師関係者の奴らなら誰だって知ってる有名人だ。俺ですら少しは聞いたことがある。アカデミー内に逃がしたまでは良かったが、まさか王宮以外で結界張れるとはな。まぁヒヤリとしたがコレなら宇宙船からの砲撃で何とかなるだろう」
言いつつ鼻をほじり鼻糞を丸めながらブルックリンはニヤリと笑う。
「あの爺さんの杖は世界樹で出来ているらしい。さぞ良い薪になるとは思わないか?」
「確かに宇宙船のエネルギーはバルバロス王国の店の全ての魔石を集めても半分に満たない。良案だと思います」
「、、」
実際はガバレボの案でなく、ラウラに作戦を立案してもらったのだが多少慎重過ぎる気もしないでも無かった。同時に戦力の逐次投入を避けているのだろうと解釈する。
「どちらにしても、燃料が目的だ。バルバロス王が死んだら死んだで構わなかったが、派手に騒いで手元に兵士共を囲ってくれればそれに越したことはない」
腕につけてある時計に目を落とすと22時を回ったところだった。そろそろ罠が作動する頃だと西側の商店区画の方に顔を動かす。
「そう言えばラウラの奴がいないな、、まぁ居なくなるのはいつものことか、、それに奴は俺の命令で百メートル以上は離れられんからな」
だが百メートル以内にラウラの姿は無かった。命令はアルドとの密約によって下位になり、守る必要が無くなった為である。
「レイレインいるか?」
何もない空間にガバレボの声が竜戦車から漏れる。
「ここに、、」
「獲物は網に掛かったか?」
「最早時間の問題です。ご安心を」
それを聞くとガバレボは再度宇宙船の燃料集めを再開したのだった。
ガランドロスは〈12体目のレイレイン〉を倒すと自らの失敗を認めた。確かにレイレインを放置するのはデメリットが大きいがそれを逆手に取られて罠に誘われている感じがしたためだ。
確かに相手は弱い。しかしガランドロス自身も魔術師同士の戦いではなく、大規模戦闘には馴れてない、作戦立案や先読みに関しての戦争屋に一歩劣った。
「このまま、魔石が置いてある店全てを回り続けるのか?撤退潮時か、、しかし、、このままでは時間と手間が掛かりすぎる、西区全てを破壊させた方が遥かに簡単じゃ」
再度レイレインの反応がある方向へ、身体を浮き上がらせようとするとー
ズズン!!
空から三メートル程の象の様なゴーレムが現れた。
「貴殿の命を所望する」
「お主は西門に現れたゴーレムの幹部じゃな、、サーチアイは店の中のみに集中しておったから気付かんかった」
ガランドロスが杖を傾けると同意と見なしたのか魔法を発動させる。
〈マジックプロテクション〉魔術に対する抵抗力を高める魔術を使用する。
ガランドロスは動作発動時間や漏れ出す魔力の量で、練度や強度を予想する。そしてガランドロスは間接的な魔術では致命的なダメージを与えられないことを悟る。もし解除を前提とするのならば杖の50センチ以内で魔術を発動させなければならない。(プロテクションの妨害効果を含め)
「お主の次元の対魔術師はなかなかに優れておる様じゃの。コレはワシも、、」
左手で印を結ぶと光る球体が現れて地面に水滴のように吸い込まれる。
ズズズズン。
粘土のようになった床が盛り上がり天井すれすれのゴーレムが現れた。人型で凹凸らしいものはなくのっぺりとしていて表面はツルツルしている、手抜きといえばそうであるがコストや機能をとことん追求した前衛である。
「ワシを護るのじゃ、行けぃ」
ガランドロスはアンチマジック解除後に魔術を撃ち込むのは難しいと考えて、物理的に〈蝙蝠〉を倒そうと戦法を変える。
蝙蝠は象のような歩兵戦車を巨体に似合わない速度で動かすとゴーレムを店の商品ごと破壊しながら盾で強打して突き飛ばす。
ズズン。
ガランドロスは蝙蝠の剣をヒラリと避けると袖口からボロボロと十数個小さな黒いボールを落とす。
「剣で攻撃しないのは流石じゃ、しかしこれならどうじゃ?」
『ギャギャギャギャ!』
小さなボールから足と手だけが四本本生え、二足で立ち上がる。黒いボールがニヤリと笑うと歯がない口からニョロリと真っ赤な舌を出した。
「そいつ等は妖精でな魔力をあまり必要としないのじゃ、力は弱く世界に顕現できる時間も短いが、精製された金属を溶かし啜り生きる奇妙な奴等でな」
目がない妖精は何に反応したのか、蝙蝠の乗るゴーレムを美味しそうに囲む。
「どうやら主が特大のケーキに見えるそうじゃ」
「、、、」
ゴーレムの時とは違い全く動かなくなった蝙蝠、沈黙する。その光景を見てガランドロスは距離をとり様子を見ようとすると怒声が上がる。
「コレがガランドロス!!こんな小手先の技しか使えぬモノがこの次元の【強者】だと。最早この闘いに価値を見いだせぬ」
瞬間ー
歩兵戦車の足元から炎が立ち上がり、全ての妖精は消滅してしまう。ガランドロスは不味いと後方に飛び回避しようとするが一歩歩兵戦車が振り下ろした剣が早くガランドロスを捉えるがー
ガシッ。
倒れたゴーレムが歩兵戦車の足に手をかけ、寸前の処で回避に成功する。ゴーレムはドロドロと泥になり歩兵戦車に纏わりつこうとするが蝙蝠が発する業火はそれを許さない。
ゴンゴンゴーン!
ビュッ。
「我が得意とするのは【ヒートボディ】と【プロテクション】二つのみ!しかしそれを破った魔術師はいない、貴様も同様に滅してやろう」
ドガリ!
「ぐぬぅ!」
炎盾の強打で炎の体に火がつきガランドロスは火達磨になって外へと吹き飛ばされる。
対炎魔術を掛けつつ、ヨロヨロと立ち上がるとー
ガランドロスは仕方がないと全魔力を込めて【消滅魔術】を発動させる。コレが当たれば流石にプロテクションで弾かれる事は無く、プロテクションと共に歩兵戦車を破壊できる可能性もある。
ドンドン!
銃声が響き渡り、ガランドロス身体が更に吹き飛ぶ。
「邪魔したか?」
「良い。強者では無かったからな、、」
「そうか、、さっきの魔術はお前のプロテクションを突き破っていたみたいだが?」
蝙蝠がガランドロスの倒れている方に頭を傾ける。ドルアッシュには予知能力があると聞いていた。
「残念だな、しかし終わったことだ。他の罠を回収して、杖を宇宙船に持ち返えるぞ」
「結構淡白だねぇ」
「一瞬早く勝負が決まる、助けが入る、そんな事など良くある話しだ。まして初めから全力ではなかったからなど、、」
複雑な表情を作ったドルアッシュは歩兵戦車を降りると、ガランドロスの杖を肩に乗せ再度歩兵戦車に乗り込む。
ドロロロロっ。
二つの歩兵戦車が離れてもガランドロスの身体はピクリとも動かずそのまま放置され、夜の闇に紛れるのだった。




