異次元収集家アルド 三章7 アリサ視点3
アリサ3
監禁後。暫くの間病院に入院し体調を整える、身体は特に問題はなかった、しかし共に歩んだ学友の死は私自身の精神に大きな負担を強いた。
教員達は《アリサ君が助かって良かった》《彼等は良くやってくれたアリサ君無事なら大丈夫だ》などと心無い言葉を言う。
何故、自分だけが生き残ってしまったのか?
何故、彼等がスラムに行くのを止められなかったのか?
眠る度に彼等彼女達の悲鳴や叫び声が聞こえて、飛び起き嘔吐する。
自分が彼等にもう少しでも心を開いていれば、もしかしたら友達になって、彼等を止められたかもしれない。
私が少しでも魔術学校の教員に心を開いていれば、今回のことを報告して事前に教員が止めてくれたかもしれない。
後悔。後悔。後悔。後悔。
退院後。
私が魔術学校へ向かう足取りは重かった。
私は魔術学校の門に立っている孤児達にぎこちなく笑い近付く、今まで相手にすらしていなかったがこれからは《彼等》がしてきたことを私が代わりにしなければならない。
一緒に皆と遊び学び共にとを取り合って、歩き始めなければならないのだ。
ヒュン。ガっ。
投げられた石が額に当たり流血する。
痛みよりまず、驚いた。
「へっ?」
乾いた笑い、孤児達に向けられたのは敵意。
「、、ごろ、、」
何を言っているか分からなかったが再度放たれた言葉で完全に理解する。
「人殺し!」
私は孤児達が石を投げ終わるまでだだ立ち尽くしていた。
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魔術アカデミーの執務室に上級魔術師が転移される。
アリサ・スターライト、ガランドロス、ラズリ・スナイプは沈黙したまま、彼の話に耳を傾ける。
「敵襲です。ゴーレム10体と特殊な魔法の筒を持つ集団数十名に西門が襲撃を受け、現在交戦中であります。いかが致しますか?」
魔術師全てが魔術アカデミーの関係者ではない、現在西門に配置されていたのは大半が王国に雇われている魔術師であるが、情報収集の観点から東西南北それぞれの門に数名のアカデミー出身の魔術師が配置されている。
スナイプは目を閉じているガランドロスに訪ねる。
「、、、、老子どの様なゴーレムですか?」
「ふむふむワシがバルバロス王国全域に配置したサーチアイの映像を見ると、コレはナガレモノの《ロボット》と呼ばれておる、別次元の兵器じゃな。かなりの強度を誇るロボットじゃが、破壊出来ない訳ではない。誠に恐ろしいのは他にある」
眉を上げるスナイプ。
「星々を渡る事が出来る乗り物《宇宙船》が西門上空に現れて砲撃をくわえておる。最早西門への救援は間に合わんなぁ」
スナイプは王国の地図を広げ老子と情報をやり取りしながら、地図に印を付けていく。執務室にある《連絡鏡》を机の上に持ち出すとバルバロス王国軍と連絡するために魔力を連絡鏡に送る。
「こちら魔術アカデミー本部長ラズリ・スナイプだ。軍司令官と話がしたいのだがよろしいか?」
《その必要はない。私が今回の戦いの指揮をすることになった将アンタレッタだ。そろそろ連絡がくる頃だと思っていた。》
スナイプは将軍の顔を思い出し安堵する。アンタレッタ将軍とはある程度面識が有るためだ。
《今回の襲撃に関しておかしい所が多々ある。魔術アカデミーからの意見を求めたい》
「、、それは彼等の人数が少ないという事ですか?」
《、、、そうだ、、いや違うな。少な過ぎるという点だな。どこの組織、どこの国かは分からんがゴーレムを入れて100前後の人数で王国を襲撃するなどと狂気の沙汰だ。私は他の可能性も考えた》
スナイプも頷く。
《私は陽動の可能性もあると思い、戦力を西に集めずそのまま遊兵として、それぞれの門で兵士達に待機、対応をしてもらっている。現在は予備兵を王宮に集めて、西門へ向かわせる予定だが、、》
「閣下。敵のゴーレムと兵士は今西門を突破して王宮へと向かっています。門を破壊するほどの突破力です、正面から戦えばこちらも被害が膨大なものとなりましょう」
アンタレッタ将軍はスナイプが何を言いたいのかを理解はしていた。しかしここ百年バルバロス王国は東西南北の門を死守し、一度として突破されたことは無い。
もし王宮の守りを固めるとなれば敵がどんな作戦にでるかは想像に難くない。そしてその不満の矛先が自分もしくは国王に向くことになる。
《略奪を容認しろと?》
「、、、」
アカデミー本部長室内の空気が張り詰める。そしてスナイプは口を開く。
「これから私が国王に直接そのことをお伝えします。この作戦は全て私の独断専攻であり、王と将軍はその強弁に渋々押し切られるということにいたしましょう」
アリサ・スターライトは一瞬《それは自己犠牲ですらない》とスナイプを怒鳴りつけようとしたが、ギリギリと所で堪える。
それはラズリ・スナイプという性格を少なからず知ったためだ。自分を生け贄として周りを支え自分の摩耗は一切考えない、ある種狂気に近い思考。
「閣下とは違い、私には家族も護るべきものもない身の上、そして何より皆から嫌われています。後ろ指が三本から四本になったとしても誤差でしかありません」
アンタレッタ将軍はスナイプの言葉に含まれる覚悟を感じ取り、自身もまた覚悟を決めた。
「宜しい。ならば止めん、それと儂との共同立案にしてもらおうか。独りを生贄に捧げ自分だけのうのうと過ごすなど武人のすることではない」
「しかし、それではバルバロス王国の軍は、、」
「その言葉はそのまま返そう。そして王国を舐めてもらっては困るな、初老の男一人抜けたぐらいで揺るぎはしない」
ヒョッヒョッヒョッと笑うガランドロス、複雑な心境のアリサ、そして難しい顔のスナイプだった。
タッタッタッタッ。
国王に会い、作戦を実行に移すべくアリサ達は魔術アカデミーを出る。三人と護衛の魔術師1人(モロゾフという名前の40代位の髭男)は王宮へ続く大通りを抜ける。
「アリサ・スターライト、一応言っておくが老子は魔術アカデミーを守護するものであって王国を守護するものではない。一歩外に出れば力を制限される」
頷くアリサはガランドロスを一瞥する。
魔術学校創立時に永久の柩の被験者になったガランドロスはそれ以降、特殊な方法以外での死以外死ななくなった。それは不死といっても良いが同時に弱点も増えた。
まず柩から離れるとマナがうまく扱えず、魔術が使えなくなる点、柩が破壊されると死んでしまう点、何よりマナが無くなるとホムンクルス体の機能が停止し、ある程度マナが貯まるまでは活動出来なくなる点である。
「不老不死というよりも、眠りながら精神体を飛ばしているというイメージが強いのよね」
中級魔術に人形に術式を書き込んで、遠くから思い通りに動かす魔術も存在する。その気になれば、数年後には自分の分身を魔術で作り出し、自由に動かせるオリジナル魔術を完成させることが出来る。勿論分身体は魔術は使えないし、そんな無駄な魔術に数年を捧げたいとも思わなかったが、、
魔術師にとって不老不死は悲願であり、また魔法へ到る第一歩でもある。ガランドロスの夢もまたそれであった。
「、、、コレは」
早足の一団の前に少し奇妙な情景が広がる。雨が振っていないにも関わらず、床の舗装された道路に数センチの水溜まりがあたり一面に出来ていたからである。
「雷系の魔術を放つための布石、罠かもしれんな、、」
護衛の魔術師が呟くが、ガランドロスはフムと髭を撫で杖を水溜まりに付ける。
「コレは、、【水】ではない。魔法的な水溶液じゃな、、電気は通さず人体に非常によく似ておる構造で《魔石》に非常によく似ておる」
ブクブクブク。
老子は眉毛を挙げるとその水が纏まりだし、一人の人間、若い女性を形成する。二十歳前後のローブを纏った肉欲的な女レイレインである。
「この世界にもなかなかの魔術師がいるようね。お爺さんお名前は?」
「ヒョッヒョッ、名乗るのはまず自分からじゃろう?ナガレモノのお嬢さん、、邪術の婆さんといった方が良いかのう」
レイレインは顔を歪めて不快を露わにする。あまりの殺気にガランドロスを除いた全員が息を呑む。
「、、婆さん?老いぼれが言ってくれるじゃないの!!」
「老子、、我々は先に行っても宜しいですか?」
今は女魔術師と戦う前にまず今回の作戦を国王に知らせなければならない目的があった。老子はヒョッヒョッと笑う。
「ワシ一人で十分じゃ、コレはワシがいた次元では二流じゃからのう」
レイレインが苛立ち腕を掲げ魔石無しで氷を放つ。それは《アイスキャノン》に似ていた、《アイスキャノン》は氷の塊を高速で撃ち出す魔術で、直撃すれば簡単に肉体を破壊できる威力がある。
しかしガランドロスは杖を上げることすらしない。
スゥゥゥ。
氷の塊はガランドロスに触れる直前に見えない壁に吸い込まれ、音もなく消える。
レイレインは忌々しげに顔を歪めるとガランドロスから距離をとる。レイレインもガランドロスの実力が自分よりも上だと認めたらしい。
「さぁ、アリサちゃんも行くがいい。今後ここで何が起こるか分からんからな、周りには十分注意するのじゃ、そしてスナイプ本部長殿を頼んだぞい」
「、、分かったわ」
そう言って立ち去るアリサ達を見送るとガランドロスもレイレインと正対する。飄々としているようだがガランドロスも内心は少しの計算ミスも許されない状況に悩んでいた。彼女等を先に行かせたのは彼等を護る余計な魔力が無いからであった。
勿論実力差はあり、相打ち程度ならば問題はないのだが、レイレインを倒した後も何があるか分からない状況で、自分が行動不能になるのは回避したかった。
対するレイレインは先程聞かせてもらった、ガランドロスが魔術アカデミーから離れると弱体化するという情報を踏まえ対策を練る。
「その体は精神体ですの?倒しても復活する?」
「探りを入れても無駄じゃよ。お主の弱点も分かっておる。お主は生体魔術《群一》を使ったのじゃろう、魔術に見切りを付けた時点でお主の魔術師としての成長は止まっとるのよ。じゃから言おう魔術ではお主は二流じゃ」
「弱点らしい弱点もないし、コレだって不老不死でしょう。未だ未完成の領域である不滅の肉体を求めるよりもこちらの肉体の方が色々便利なのよ、、例えば、、」
ガランドロスはやはりと眉を上げる。
「良いのかのう《分裂》などをすれば体積が減るぞ。それに全力でなければワシに勝てんかも知れんぞ?」
「私もその辺は考えているさ、安心して死になよ老いぼれが!」
こうしてレイレインとガランドロスの戦いは始まった。
アリサとスナイプ、護衛の三人は王宮へたどり着くと警備兵の案内で王宮の謁見の間へ続く部屋に通される。
部屋には警備兵が10名ほど控えていて、左端の机の上に地図を広げで何やら相談していた。
「そちらの方も武器をお出しください」
王との謁見の際には武器の携帯は禁止されている。暗殺防止のためなのだがアリサはコレを拒否する。
「奥の扉の向こうが謁見の間なのでしょう、なら此処で待つからいいわ」
「分かった、アリサ・スターライトは此処で待機しろ、モロゾフはどうする?」
「私はスナイプ本部長について行きます」
アリサは考える。この形式だと襲われた際、魔石が無い魔術師では何も出来ずやられてしまうだろう、武器を再度装備し直すにも時間が掛かる。守るべき対象の外側を護る、防波堤の役割も必要だった。
「もし謁見の間で何かあれば叫びなさい。助けに行ければ行くわ」
スナイプは頷くと護衛と共に奥にある謁見の間に入っていった。
「、、、」
何名かの警備兵がアリサを時折眺める、苛立ちながらその視線を睨み返すと慌てて警備兵が視線を逸らす。
「、、ったく何もないんなら、あのまま謁見の間に入った方が良かったかも、一生に一度あるかないかなのにな、、あー失敗した」
バタン。
他の部屋から警備兵が急いだ様子で入室してくる。
「伝令155のシュタインです。王に報告したい事があります、通してもらいたい」
警備兵の階級は準、正規、班長、隊長と分かれている、駆け込んできたのは正規警備兵の腕章だった。王との謁見が許されるのは警備兵で班長以上、兵士では小隊長の以上が必要不可欠である。
「許可できかねる、ここで要件を言いたまえ」
警備兵の隊長らしき人物がそう答えると、急いでいるシュタインは首を振る。
「極秘の情報なのだ!王に会わせてくれ」
あまりの必死さに逆に怪しむ隊長。それを察したのか渋々警備兵は承諾する。
「分かった、なら一つだけ。とても重要な事なので、別の部屋にアナタと二人きりで話したいのだが」
本当に重要なことだった場合、確かに他の兵士に聞かれたらマズいかと隊長は考え、親指を部屋の隅に向ける。
「、、怪しいからな、その部屋の角で聞こう。これだけ離れているのだ、声は聞こえないだろう」
「、、分かった」
厳戒体制での警備ならば、この程度の対応は当然なのだろうとアリサは遠目に眺める。そうしているうちに二人は部屋の隅に移動をし、口元に手を当てた男が隊長の耳元で何かを話す。
後ろ向きでアリサからは何を言っているのかを聞き取ることは出来なかった。
その直後ー
バシッ!
隊長は驚いた表情でシュタインを軽く突き飛ばす。室内の空気が一転しアリサを含め、全員が武器に手を伸ばす。
「、、き、、貴様、、敵の、、」
周りの警備兵がシュタインを取り押さえようと動いた瞬間、正気を取り戻したと思われる隊長の剣が腰から放たれ、シュタインの首を一閃した。
頸動脈が切られ大量の出血、崩れ落ちるシュタイン。それを警戒しながら隊長は死体を眺める。
「ご無事ですか?!一体何が?」
「耳から出血しております、何かされたのですか?」
苦悶の表情を浮かべながら、耳からの出血を手渡された布で拭うと忌々しげに伝える。
「この男は魔術によって俺を操ろうとしたのだ、謁見を装い近付き、国王を人質にして何らかの要求をするつもりだったのかも知れん、、」
「そんな、、」
「魔術で精神を操るなんて、、」
警備兵達は悩む。国王が敵の手に掛かれば絶対優位の戦局は一転する。士気の低下や最高司令長官の指名など指揮系統にも混乱を生じ、バルバロス王国はこの戦いが終わった後の跡目争いや貴族の反乱も視野に入れた戦いを強いられる事になる。
「私はこの事を陛下に伝えようと思う。どんな情報でも何かの役にたつかもしれない。ましてや敵側の魔術師の数も分からないのだ、同じ様な方法で陛下を害する事も十分に考えられる」
「なる程」
「確かに、、」
隊長の意見に賛同した警備兵達は、謁見の間の扉に移動して隊長のために扉に手を掛ける。
「止めなさい!!」
アリサの声に全員の動きが止まる。
「隊長さん、アナタさっきから何か重要な事を見落としてないかしら?」
「、、、何のことだ?」
隊長はアリサと向かい合う。アリサは部屋の隅に倒れているシュタインの死体を指差して質問する。
「隊長さんは本当に魔術を受けたの?」
「、、本当だ。だから出血をしたのだぞ」
「ならおかしなことが一つだけあるの」
何だ何だと警備兵達はざわつく、基本的に隊長よりではあるが魔術師の語る事が的を射ているのなら協力はするという姿勢。部外者であるアリサはその運の良い状況に感謝した。
「そこの警備兵さん、そこの死体シュタインだったっけ、その死体は何か身に付けているものはある?」
アリサに指名された警備兵はシュタインの身体を検査するが腰に帯刀している以外何も持ってはいなかった。
「何もありませんね、、」
「手のひらの中にも当然何もないわよね?」
「、、ええ、なにも持っていませんね」
隊長が不機嫌な顔をして、だから何だという顔をする。
「私達がここに来る途中、敵のナガレモノ魔術師に遭遇したわ、、私はソイツと隊長さんに同じ雰囲気を感じるのよ」
さながら名探偵の様に腕を組み、ポーズをとるアリサ。
「この世界で魔術を使う場合《魔石》を使用しないと魔術が使用できないのよ。つまりは彼シュタインは魔術を使用しなかった、もしくは出来なかった。貴方にはこの世界の魔術形態を少し調べた方が良かったんじゃない《ナガレモノの魔術使い》さん」
ビシィ!
人差し指を隊長に突き付け、カッコ良く決めるアリサ。
キョトンとする隊長と兵士達。
「、、、」
アリサの言葉が的外れだったのではない、完璧であった。だが決定的に足りないものがある。
それは直感に頼りすぎた事だった。
「、、それは彼シュタイン君に言えることでは無いかね、ナガレモノには魔石を使わず魔術を使える人間がいる可能性も有るだろう。つまり使おうとして私の反撃を受けた、、そう言うことだ」
「、、なる程、、ゃべ、、みとめちゃった(小声)、、」
しかしアリサは何故か隊長の行動がおかしいと感じた、何故なのか。
何故か分からないが魔術的な何かで、伝令の警備兵から隊長へと何か得体の知れないものか乗り移った様な気がするのだ。
アリサは脂汗を浮かべながら、不味い不味いと内心焦る。こうなってしまったからには別口から切り込み、はぐらかして泥仕合にするしかない。
「、、何故殺したの?」
「?!」
「この場には沢山の警備兵が詰めている、相手が敵だと思って殺すぐらい確定的なら、殺すよりも捕らえて情報を聞き出す方が重要ではないかしら?」
ザワザワ。
それが出来ない、考えられない程度の人物が隊長格に成れる筈はない、アリサ手応えを感じる。
「確かに、、」
「怪しいか、、あの対応は口封じにも見えるかもしれんな、、」
隊長は俯くと悔しそうに独り言を言う。
「隊長ご安心を私は隊長の言葉を信じております」
「私もです。今来たばかりの魔術師の方がよっぽど、、グペばぁ」
近付いた警備兵を隊長は剣で串刺しにする。
串刺しにした。
錯乱したと感じた警備兵もいたが、隊長から発せられた言葉はそれを打ち消した。
「上手くいくと思ったのに残念。こんな門答で時間を掛け過ぎるとあの爺さんにやられちゃいそうだし、ささっとここの奴らを殺した方が楽よね多分」
口調は明らかに先程現れたナガレモノの魔術師に酷似していた、ではどうしてガランドロスと戦っている筈の魔術師が現れたのかと、アリサは考える。
「使い魔、、もしくは複写体?」
レイレインは貫いた警備兵を豪腕で抜刀した兵士達の集団に投げ入れると、剣を近場の警備兵に投げ捨て両腕を前に突き出す。
「うふふ、、」
シュパパパパー。
それぞれ指先から透明な糸が飛び出し部屋中を埋め尽くす。2人がその糸に触れて身動きがとれなくなり、他の5名の警備兵達とアリサは、回避と同時に部屋の机を楯代わりにして難を逃れる。
「二人捕獲っと、、でも捕らえるのが目的じゃないから、、」
ファサ、ファサ。
両腕を上下に交互に動かすと粘性の強かった糸が鋭くなり、捕らえた警備兵2人を細切れにする。
「?!」
「くっ!!」
警備兵達は完全に隊長が別人もしくはスパイだと認めたようで、どうやって倒すか目配せする。
「速めに倒した方がいいわ。見た感じだと、あれは水系の魔術師でかなりのレベルだし、、こうしている間にも何か仕掛けてくるかもしれない、、」
「、、突撃する。援護を頼む」
「、、?」
返事をしなかったのは出来なかったからだった、気が付いたときに部屋の天井と床に水が集まっていたのだ。急いで全員は行動を開始する。
全員が机から脱出。
スパパパパ!
机が両断される。
アリサは予め仮想領域内に保存してある魔術をクイックキャストで呼び出し放つ。同時に魔石を使用して、魔力を魔術構成図に送る。
レイレインはアリサの接近に気が付くと水を周りに集め、水の壁の様なモノを魔術によって作り出す。
「フリージングウォーター」
虹色の水滴が数滴アリサの指から宙に舞う。
「、、、っと。」
危険だと思ったのかレイレインは水の壁を使わず後方へ跳ぶ。同時に大半の水が床に集める。
ピトリ、ピト。
床に水滴が落ちるが床に変化はない。
ーニヤリ。
「残念」
チュン!!
アリサの放ったフォトンがレイレインの作った水の壁の薄い部分を突破し、光がレイレインの胸を貫く。
「あんたさぁ、この魔術学校主席アリサ・スターライトが軽はずみに魔術名など言うわけないでしょ。面白いほど単純ね」
、、、
「確かに甘く見ていたわね、、」
心臓の辺りに空いた数センチの穴など無いように平然と話し出すレイレインにその場にいた警備兵達は動揺する。
「魔術を使え!ファイヤーボールでも良い!」
「魔石を使え!温存しても死んでは意味がない。スチールスキンを使って時間を稼ぐんだ!」
何人かの警備兵達の言葉に動揺を少し立て直すと、それぞれが魔石を取り出し魔術を成功させていく。
飛来したファイヤーボールを面倒くさそうに水で防ぐレイレイン。
アリサはその姿を疑問に思う。何故レイレインは魔石を持っていないのに魔術を使用できるのかという事である。
「あの爺はユグドシルの杖を魔石代わりに使っている、、魔術操作がうまければ確かに魔石を使わなくても、物にため込まれている魔力を使うことで補えるけど、、それすらないのはおかしい」
もしガランドロスがいたのならば魔術感知を使用し、弱点となる本体を見つけ直ちに消滅させただろう。だが、この世界に置いて魔術感知はマイナーな魔術であり、アリサ自身(サポートより直接攻撃を好む)の性格もあり敬遠してきた事が裏目にでてしまう。
「魔術で水の壁を作って攻撃を防いでいるということは【急所に直撃するとダメージが溜まる】のか【オドの貯蔵や魔術回路に損傷を負う】のかもしれない。ならごり押しでいくか、、」
兵士達はスチールスキンによってレイレインの魔術の直撃を巧みにそらしながら、レイレインに切りかかっていく。
簡単に警備兵全員を始末出来ると考えていたレイレインは段々と苛立ちを覚える。
「雑魚の癖に調子に乗りやがって!」
レイレインは剣戟を水の壁で防ぎながら、切り掛かってくる警備兵やアリサを罵倒する。簡単に勝てると思っていたのに時間が掛かりすぎ、余裕が無くなったのだ。
アリサはレイレインの行動が変化すると予想する。レイレインが発する独特の威圧感で相手が本気になったと肌で感じたからだ。
シュゴゴゴ、、、、
地震のような地鳴りが起こる。
「何だ」
「何かヤバそう」
アイコンタクトをする兵士達は警戒する。アリサはマントに魔力を送りいつでも防御が出来る準備をした。
「はあ!?」
ビシュゴゴゴ!!
アリサがファイヤーボールを飛ばした直後。床に亀裂が入り、大量の水が噴水の様に吹き出しそこにいた人や建物を破壊した。
【アクアジッェト】はレイレインが得意とする必殺の魔術である。
徐々に地下で水を集め大量に貯めた水を全放出させる魔術。コレによって相手は足場を破壊され動きを封じ込められ、さらに魔術により合成した毒を水に含ませているため、少量でも飲んでしまうと全身の力が抜けて最後には心臓すら停止する。
ガラガラ、、
残ったのは崩れ落ちる天井と瓦礫の山だった。
レイレインは辺りを見渡し自分以外立っている者がいないことを確認すると、目的となる王の間へと続く半壊した扉に手をかけたのだった。




