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異次元収集家アルド 三章5 アリサ視点

アリサ・スターライトの視点に入ります、4話ほど。バルバロス王国・アカデミーの動向とガバレボの動向を分かりやすくするのが目的です。


ちなみにアリサは一章でも出てきた、自称魔術学校首席の女です。



ラウラ4

魔術を使えるからと言って魔術師と呼ばれる訳ではない。惑星ガルンゼルでは魔術師というのは中級魔術以上を6つ以上使うことが出来、魔術を唱える際に発生する仮想領域内の残滓を消去叉は一時消去する術を持つ人物を指す。


他の次元でもそれは殆ど変わらない。違うのであればそれは魔術師ではない。


その次元には天才的な魔術師がいた、名前はレイレイン。


類い希なる魔術の才能で全てを欲しいままにし、またその美貌で男達を弄んだ。好みの男は逞しくまた武芸に秀でた男や権力者。


魔術は基本的に時間が掛かる、自分の弱点はその僅かな時間。その間背中を預けられるような優れた戦士が良い。レイレインはそう考えたに違いない。


多くの男を従え、そしてまた自らの魔術によってレイレインは国を内部から腐らせて、自分の欲しいままにした。


瞬く間に時が過ぎる。


そして気が付く。


それは老い。


段々と美しかった顔が失われ、加えてその傲慢な性格に嫌気がさし男達に裏切られ国を追われる。


なにが悪かったのか?それは老いのせいであるとレイレインは考え、ある研究を始める。


不老不死の研究。


それは魔法の研究と同じである。


かつて幾人もの魔術師達が求めた無限の生命を手に入れる魔術。


レイレインが不老不死を手に入れたのかは分からないが、分かることもあった。


彼女は五百年生きている、そして見た目が非常に若い。


不老不死には二つの道が有るように思える。


それは器と中身に置き換えても良いだろう。


一つは全く同じ器を日ごとに複製する方法。つまりは肉体の複製を用意する方法でいわゆるクローンに相当するかも知れない。


もう一つは中身を移し替える方法。魂もしくは記憶や思考を封じ込めた何かを別の肉体に移す方法。乗り移った後に肉体変化をさせて同一のモノとすればいい、どちらかといえば邪術に相当する方法。


どの様な外装か、そしていかにして中身(魂)を移すのかが重要だと思われる。


勿論全て作り替え本当に不老不死になるという魔法の線も濃厚である。しかしもし本当に魔法であるならば、また国を自由にしたいと思うのでは無いのだろうか?


つまりは彼女の行動そのものがレイレインの力の限界、弱点を晒していると考える。


彼女には謎が多い、注意を出来る限り行い情報収集に努めたいと思う。




ある魔術師がバルバロス王国に向かう乗合馬車を降りた後、バルバロス王国の郊外を歩いていた。黒いくたびれた尖り帽子に、大きな魔石を首から下げて、特徴的なのは腰に差した四本のスタッフ。


アリサ・スターライトは格安で買った硬くなったパンを食べながら魔術学校へと足を向けていた。


久しぶりの帰郷。魔術学校の孤児や校長などの顔が浮かぶ。


「ちょっと奮発して肉でも買っちゃおうかな」


久しぶりに食べる肉の味を想像して、肉の世界へトリップしていると、商店街が喧騒に包まれる。


郊外の商店街で喧嘩は珍しいものではない、しかし今回は静か過ぎた。アリサは気になって商店街を進む。


周りに人集りはあまりなかった。喧嘩で野次馬が居ないことは殆どない、それは治安のあまり良くない郊外では日常的に行われているからであり、又娯楽でもあるからだ。


つまりコレは異常だった。自らに火の粉が降りかからないように店の奥・家の中に隠れる人々。


アリサは気にせずに更に奥へと進むとそこには、住民らしき若い男と4名の男魔術師が言い争っていた。その魔術師の一人は嫌がる女性を無理矢理羽交い締めにして逃げられないようにしている。


「離せ!何でこんな事をする?!私達はただ食事をしていただけなのに!!」


その言葉が余程可笑しかったのか、魔術師達は笑い合い男に告げる。


「俺達はエリートの魔術アカデミーの生徒だぞ。俺達はお前達より優れた存在なんだよ。俺達がしたいようにしてなにが悪い?」


魔術至上主義と呼ばれる偏った考えを伝える、魔術アカデミーの男達にアリサはため息をはく。


「この女は俺達がたっぷりと可愛がってやるぜ。俺達に相手をしてもらえるんだ。逆に感謝して欲しいぜ」


若い男は我慢の限界に達したのか、魔術師達に殴りかかるー


それを予期していたのだろう、淀みなく魔術師はスタッフを掲げ魔術を唱える。


「ショック・ボルト」


雷撃が指先から発射され、若い男の攻撃が届く前に体を電気が駆け巡り体中が麻痺する。


「ぐぁあ!」


「あぁヨハン、酷い酷いわ」


魔術師達は分かりきった結果に更に笑うと、男の顔面に数発蹴りを入れると、追い打ちを掛ける。


「少しばかり格好いいからって調子に乗りやがって、、そうだ。下半身丸出しにしてここら辺を引っ張り回そうぜ。短小なら爆笑だし、デカけりゃ女はそれ目当てに集まるアバズレってなぁ、くははは」


魔術師達の会話を聞いた男は涙ぐむ。


「や、、やめろ、、止めてくれ、、」


「止めて、止めてあげて!!」


「るせぇ!!」


パシン!


魔術師が女の頬に平手打ちをすると、女性は驚く。今まで叩かれた経験が無かったのだろう、そのまま恐怖して立ち尽くす。


周りの人々は隠れ嵐が過ぎ去るのを待っていた。4人の魔術師に対抗出来る存在がいるのならば、同様に四人いて、実力もある冒険者が揃っていなければならない。


ーがその存在はノホホンと、捕らわれた女性に話し掛けた。


「殴られたことが無いなんて、アナタ結構良いとこの生まれでしょ?お金持っているなら助けてあげる」


急に話しかけてきた魔術師風の女性に戸惑う二人。女を拘束している魔術アカデミーの男は、アリサの尖り帽子の中の顔を覗く。


金髪をまとめていて顔は中の上辺り、化粧など身なりを整えればかなり綺麗な部類に入る。今拘束している女より美人であると評価したのか、アリサに話し掛ける。基本的に魔術師は身なりをあまり気にしないし、魔術師の女性も基本的に地味で垢抜けない容姿が多かったので珍しさもあった。


「オメー魔術師か?暇なら飯でも食おうぜ」


あまり格好いいとはいえない容姿、物凄く臭い口臭の混じった男の言葉を聞き流し、アリサはもう一度だけ叩かれた女に切り出す。


「アナタは岐路にたっているわよ、もう一度だけ言ってあげる。お金をくれたら助けてあげる、恐怖で返事が出来ないのなら頷きなさい」


しかし、女性は固まっているだけで何もできなかった。首を左右に振るとアリサは諦めて魔術学校へと足を向けた。 


ポカンとする三人の魔術師だったが、声を掛けた魔術師は無視されたのを侮辱と捉えたのか、叩いた女を突き飛ばしアリサの肩に手を乗せようとした。


「ちょっと待てコラ、無視すんじゃねぇ。エリートである魔術アカデミーの生徒である俺をー」


トスン。


アリサを追った魔術師の足の甲に銀色の鏃の様な物が突き刺さる。


「ぎやぁぁ、痛ぇ痛ぇ!!」


もんどりうって倒れる魔術師を無視してアリサは呟く。


「最悪、ただ働き。しかも魔術アカデミーときた。だから良いとこ生まれは嫌なのよ、想像力が足りないし、、」


魔術師達はアリサを敵と認識して身構えるがアリサは、魔術アカデミーと正面からで事を荒立てたくないので警告する。


「動かない方が良いわよ、後魔術も使わない方が良い。ゆっくり上を見てみなさい」


男達は上を見上げると五メートル程上方に仲間の足を貫いたものと同じ銀色の鏃が10個ほど空中で落下するのを待っていた。顔が引きつる四人。


「オリジナル魔術の《シルバーエッジ》携帯に便利な魔術道具でかさばらないし、牽制・罠に使えるわよ。製造方法教えるけど、どう?安くしておくわよ」


アリサが造ったオリジナル魔術の《シルバーエッジ》は手の平より若干小さい鋭利な鏃を飛ばす魔術道具であり数は現在合計五つ存在していた。


魔力を注入すると天井や壁などの物質に吸着し固定され、時間や物体が動く等の条件が揃うと同時に発射されるという特性を魔術展開図として書き込んである。


疑問なのは何故空中に停止しているのかであるが、コレは《ダミーエッジ》という銀紙で出来ていている魔術道具で、手元を離れた後は空中で停止して単純な方向転換しか出来ない只の玩具であった。


アリサは基本的に人に対しては魔力消費が少ない魔術道具を利用する事が多く、又使い易く速射できる、この二つの魔術道具を好んで使っていた。


アリサは考える、コレで相手が退かないほどの馬鹿ならば、命の保証は出来ずに丸ごと吹き飛ばすしかないか、、と、その場合店や周辺に被害が及ぶのは想像に難くない。


幸いに魔術師達は劣勢だと考えたのか、足に矢の刺さった魔術師のシルバーエッジを引き抜くとそのまま魔術アカデミーの方角へ去っていった。最後の捨て台詞はー


「俺達を敵に回したことを後悔させてやる、、」


捕らわれていた女は放心しその場で泣き喚き、男は居なくなっていたがアリサはそれらを無視して魔術学校へ向かおうとすると一人の知り合いに声を掛けられる。


「魔術学校のアリサ・スターライトか、、戻ってきていたのか?」


六十になろうかという白髪の老人はアリサの知人でロン爺と呼ばれ、畑を持っていて手伝った子ども達に庭で採れた果実をくれたりした恩人である。


「ロン爺じゃない、久し振り。近くで仕事があってね、一時的な帰郷よ。皆の顔も見たかったしね」


ロン爺はアリサに伝える。


「魔術学校が取り壊される事になったから戻って来たんだろうが、遅過ぎだ、、もう退去届けが受理されとるぞ」


「、、何それ?」


ロン爺は何も知らないアリサに説明する。


「魔術アカデミーの仕業だ、バルバロス王国に魔術学校は二つ要らないという事になってな。勿論魔術学校は魔術アカデミーよりもその歴史はずっと古い。しかし今や名前だけになった魔術学校を国が保護する事も無いだろうさ、、」


「子供達は?」


「流石に全員を引き取る孤児院は無くてな、王国中の孤児院にバラバラに預けられていった。校長は過労が祟って入院中だ」


アリサは子供達に手紙を寄越すように言ったのだがそれが来なかった理由は多分、魔術アカデミーがその手紙を握りつぶすように冒険者ギルドに圧力を掛けたのたのだろう。


俯くアリサを気遣ったのか、ロン爺は慰めの言葉を掛けようとするが、しかしアリサから発せられた笑い声にかき消される。


「クヒヒヒ、アハハは!!」


血管を浮き上がらせて笑うアリサにたじろぐロン爺。


「アッーたまキイタァ!!」


ゴチン!!


店の柱に拳を叩きつけ、痛む拳をさすりつつありさは魔術アカデミーに方向へ足を向ける。


「アリサまさか、殴り込みなどせんだろうな、、そんな事をすればいくらお前さんでも死ぬぞ」


「、、ロン爺、、私は死なないわよ」


アリサ・スターライトは決めたのだ。あの日、皆に見守られながら前を歩き出したその時に、決して振り向かないとー


そしてー


「魔術学校を背負うと決めたから」





魔術アカデミーは世界各地に支部があり、中央大陸に存在する中で一番大きいのがバルバロス王国にある魔術アカデミーである。


世界中から多くの有望な若者が押し寄せる魔術アカデミーも意外と歴史は浅かった。始まりはバルバロス王国の魔術学校、その生徒あるクリス・モンデオが創立したのが始まりとされている。


モンデオには信念が有った。地位が低かった魔術師が住みやすい穏やかな世界を魔術師が作り上げる。勿論それは一般人と魔術師達の協栄を掲げていた。


モンデオは自身の個人資産を元に魔術師養成学校と魔術師派遣会社を合わせた魔術アカデミーを開業。始めこそ資金繰りに苦心したが経営者としての才能を開花させたモンデオは魔術アカデミーを急成長させていった。


魔術師は発明者であり探求者である、つまりはお金に対する執着心がなかった。その頃の魔術学校の収入は魔術の研究によって発見された魔術書の売上や生徒のお布施や学費、魔術教材や魔術道具である。


魔術学校の経営は度重なる研究費用の増額や魔術師の賃金で当時から破滅的なまでの赤字を計上して、土地や魔術書の著作権などを担保にいつ破綻してもおかしくはない経営をしていた。


そこで魔術アカデミーは利益になりそうな研究をしている教授や有望な生徒を好条件で引き抜き、魔術学校の経営を更に悪化させる。


しかしその魔術アカデミーも経営はいまだに不安定であり、常に安定した収入を得るために冒険者ギルドと提携し、それまでの魔術師の派遣を更に強化し経営の安定を図った。


結論から言えば、魔術アカデミーは名声得て、経営は安定した。同時に拡張によって人材の不足を抱える事になり、能力の低い魔術師達も雇い入れる事になる、それは徐々にモンデオの理想としたアカデミーの信念を腐敗させていく事となる。


クリス・モンデオが死去して跡を継いだのは副学長のモンデオの息子モンデオJrであった。父親に負けないように初めのうちこそ頑張っていたのだが、自分の能力では決して父親の残した偉業には適わない事を知ると諦めて遊興にふけ始める。



それから45年。


現在も魔術アカデミー統括はモンデオJrであるが実質的にバルバロス王国の魔術アカデミー本部を経営しているのはラズリ・スナイプ本部長。年齢は40後半で身長は180で体格が良く、茶色の髪を後ろに束ね厳つい顔に苦虫を噛んだようなしかめ面が印象の男である。





魔術アカデミー本部長のラズリ・スナイプは護衛を二人引き連れて魔術アカデミーの会議室から広場へ移動していた。魔術アカデミーへは犯罪者以外は簡単な審査で校内に入ることが出来る、中央広場には審査を終えた魔術師や魔術師の卵達がたくさん集まり賑わっていた。


スナイプはそれを見てフンと鼻を鳴らすと、護衛の魔術師が口を開く。


「まったく騒がしい連中ですな、スナイプ本部長殿。私も同意見です、たかだかあの程度の審査基準を通過して喜ぶなど、大体ー」


スナイプは誤解されやすい。先程鼻を鳴らした行為は彼の微笑みであり、若々しさを微笑ましいと感じていたからだ。だがスナイプは護衛の言葉を片手で制しただけで否定せず、再び歩み始め又止まる。


目の前に魔術師がいた。彼は記憶からそれが魔術学校のアリサ・スターライトだとすぐに思い出していた。護衛はスナイプを庇うように前に出て警戒する。


「スナイプ本部長殿、この度はどうも魔術学校を潰してくれてありがとうございました。何でも王国に《魔術学校は二つも要らないのではないか?》と提案してくれたということで、今回はその礼をさせて頂きたく参上致した次第」


「アリサ・スターライト。私を殺したとしても何も変わらんぞ?何か変わるのか?魔術師ならば怒りを制御して見せろ」


普段は冷静なアリサも敵からの忠告に更に激高してしまう。


「命乞いなら他でしな!一発ブン殴ってやるわ!!」


言うが早いか、護衛魔術師の片方はアリサに魔術の《ショック・ウェーブ》を放つ。コレはショック・ボルトと違い使用者から扇状の範囲内にいる対象者を感電させることが出来る、威力は低いが回避がされにくい魔術である。


流石に護衛をつとめるだけあり魔術への展開速度は並以上で、普通の魔術師であったら一瞬で勝負はついていただろう。


「っつ!!」


アリサはマントの魔術構成図に魔力を送り、ショック・ウェーブを拡散し弱体化させると同時に後方へジャンプ、牽制用に四本のシルバーエッジをショックウェーブを放った魔術師に飛ばす。


もう一人の護衛はシルバーエッジにそのまま突撃する。カンカンと音を立て弾かれるシルバーエッジ、高速で飛ぶシルバーエッジを弾く硬度を《完璧》以外の魔術では再現できない、シルバーエッジが当たる瞬間微妙に角度を変えたのだ。


【コンバイン】でスチールスキンとインスピレーションの魔術を同時に使用した魔術師はスピードを緩める事無くアリサとの距離を縮める。


※因みにコンバインは上級魔術師の必修項目で魔術の構成図を融合、または一度に二つの魔術構成図を仮想領域に展開する技術。しかし基礎などが確立されていないため消費魔力量は多くなる。


ガゴン。


突然巨大な手が近付こうとした魔術師の前の地面から出現する。アリサは得意魔術であるアースハンドをクイックキャストで唱えたのだ。素早さ重視だった為、数は二本であるがそれはアリサを守ると同時に肉迫しようとした護衛の一人を拘束する。


「ちぃ!小娘が!!」


残された護衛とアリサとの同時の空白。


残った護衛はアリサに素早くウィンドショットを放とうとするが、それより早くアリサのシルバーエッジが護衛の腕に突き刺さる。痛みで魔術構成図がうまく再現出来ずに霧散するウィンドショット。


圧倒的不利な状況から五分、精神的には追い詰めるアリサ。しかし、スナイプの表情は変わらない。


「、、殺したければ殺せ、、私が死んだとしても誰も悲しまん。逆にお前が犯罪者になるだけだ、そうなれば悲しむ者もいるだろう。止めておけ」


その冷静さが逆にアリサの怒りを助長させる。何故こんなにも静かなのか?悪かったと謝罪すらしないのか?いや命乞いすらしないのか?襲った相手を案じるスナイプ。コレではまるで自分が悪者ではないか、なぜ諭そうとするのか?


ぐるぐると考えがまとまらないアリサ、そのうち周りにはスナイプ本部長を襲撃した魔術師を見ようと人集りが出来る。そして最も遭遇したくない相手も現れる。


「ヒョッヒョッヒョツ、アリサちゃんじゃないか。どうしたんじゃこんな所で、本部長殿と話しでもしたかったのかのう」


老師ガランドラスが現れる。自分の背丈ほどもあるスタッフを持つ、ヨボヨボで歯が前歯三本頭つるつる1メートル弱しかない老人であるがその存在感は異常であった。


「どこから現れたのよジジイ」


「テレポートじゃよ、出来んの?アリサちゃんじゃ、もうちょっと構成図の修行しないと出来ないかな?」


「邪魔しないでよ!ボケ爺!!」


老師に手加減出来るアリサではなかった。必殺である魔術の魔術構成図を思い浮かべる。その間老師ガランドラスは鼻をほじりつつ、スナイプに告げる。


「まぁ只のじゃれ合いじゃが、色々灸をすえてやるかの。本部長殿はホレ部屋で執務でもこなしとれ」


「、、分かった、老師。くれぐれも死者が出ないように頼むぞ」


小枝のような手を上げる老師。


「オーバーレイ」


アリサの上級魔術オーバーレイはいうなればレーザー光線であり、《完璧》を除き全ての物質を消滅させる程の高熱を打ち出す魔術であった。スタッフの本数つまりは最大四発しか撃てない、しかも魔術完成までに一癖あるためにクイックキャストも出来ない不完全な代物であるが威力は超絶の一言である。


山を切り、海を割り、城すら真っ二つにするその魔術を老師は欠伸と同時に杖の先で消していた。


「んなぁ?!」


《マジックキャンセル》それは魔術を打ち消す魔術である。簡単そうではあるが極めて難しい魔術、何故なら魔術構成図を解読し、構成図を直接書き直さなければならないからだ。


いうなればアリサが複雑に編み込んで投げつけたマフラーを、老師は空中で一本一本綺麗にバラバラにしているのだ、とても人間業ではない。


「んひょー、超高温魔術をその年で唱えられるとはなかなかどうして元弟子よ。ヤリおるのぅ」


誉めているとは思えない呑気な調子で話しかけてくる老師を無視して、アリサは片手を高速で動かしながら魔術をコンバインしてクイックキャストで撃ち出す。


「ファイヤーボール!」


魔術師達の戦いを見ていた見物人達は面白味のない魔術に少しガッカリとするが、老師は眉を上げてウィンドウの魔術で上空に飛び上がる。


カクン。


通常のファイヤーボールならばそのまま地面に接触して爆発しただろう、しかしアリサが打ち出したファイヤーボールは老師を追って急転進して空を舞う。


そこでようやく魔術師達もファイヤーボールに見せかけた魔術、又はファイヤーボールの中に別の魔術が含まれていいるダミーだと気が付く。


老師は追ってきたファイヤーボール数発に腰から出した裁縫針を魔術で投げつける。裁縫針がファイヤーボールを貫くと中から光る粉がサラサラとファイヤーボールの周りに飛び散った。


それは吸引すると眠気を引き起こす眠り粉で、もしあのままマジックキャンセルをしていたのならば、これを吸い込んで眠っていただろう。老師はアリサが魔術に関係のない不自然な動作を行った為、怪しんで迎撃のかたちをとったのだ。


老師は小手調べと、空中でスタッフを前に突き出すと、アリサに向けて魔術を放つ。


「こんな感じかな?ヒョヒョ」


アリサに放たれる一筋の光、それはアリサが先程放ったオーバーレイであった。しかし自分よりも素早くより極太で、オマケに構成図に無駄がないため魔力量も少なめだと思われた。


アリサは悔しさを滲ませながら、回避するため前進する。老師はムッとして逃げられないように切り替える。


「コラ、逃げるでない。ほぼ同じ構成図、キャンセルして見せろアリサちゃん」


老師は五人に分裂して、その老師も同様にオーバーレイをアリサの進路にそれぞれ放っていく、それを見たアリサは回避は難しいと考えマジックキャンセルでの回避を考える。


魔術構成図の基本が同じであるのならば、マジックキャンセルは難しくない、しかしそれが失敗すればほぼ間違いなく即死するという重圧に耐えるだけの度胸と緻密な操作技術が必要であるだけだ。


ふっと魔術学校の皆の顔が浮かぶ、、


ニヤリと笑うアリサ・スターライト。


「失念していたわ。私はアリサ・スターライトは魔術学校主席。誰よりも強くなければならない!こんな魔術をキャンセル出来ないでー」


集中、集中、集中。オーバーレイを生み出したのは自分であり、考えそして魔術構成図を1から制作した。自分の得意魔術は例え激痛の中であっても思い出せる、それだけの自信がある。


自信があるのだ。


別のスタッフを構えると同時にオーバーレイを霧散させる魔術構成図を仮想領域に展開、当たろうとすると魔術がマジックキャンセルを行う。


老師の顔が引き締まる。


「誰が認めてくれるってのよ!!」


初め老師がアリサに放った光線は只の光であったがアリサが構え魔術を完成させると共に、オーバーレイに切り替える。


ピカリ。


光で見物人は一瞬アリサを見失うが、それは一瞬であり、老師が放ったオーバーレイはアリサのスタッフに当たると激しい光と共に消失する。


「ヒョヒョ、攻撃魔術のマジックキャンセルは上級魔術師でも難しい、、いやはや」


「ベラベラと糞爺!くっ、、」


バチバチ。


危ない拮抗が続く。


仮想領域に残滓が溜まる。このままではいずれアリサはオーバーレイによって消滅するだろう。しかし突然オーバーレイを止める老師は眉毛を撫でる。


チャンス。


そう思った瞬間アリサの意識が寸断する。アリサは気が付かなかった、自分が魔術に含ませた眠り粉を老師はウィンドウの魔術でかき集め、アリサの風上から粉を撒き散らした事を。


結果、アリサ・スターライトは戦いの最中、眠る。それは戦いにおいて死を意味するものであった。

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