0日目の監視者達
ネタバラシ回。あえてセリフのみで構成しております。
「おっ朝のお勤めは終了かー……お疲れさん。んでどうやった?今日の配役はなんやったん!?」
「お前さー……毎回毎回嬉しそうに聞くなや。巻き込まれとる俺の身にもなれっつーの。」
「まぁまぁそんなことは言われんよ。それにアンタがホントに困っとる時は助けとんやし、はよ私の質問に答えやなー。ホントあの子等は此処におる子等の中でも、とび抜けた妄想力しとるけん設定聞くんも楽しいんよね。」
「…………今日の配役は大まかに言えば『欲に目が眩み自国を売り渡し敵国に寝返った裏切りの騎士』やったわ。」
「おっ今回は騎士様やったんや。確か前回は『姫君に恋い焦がれるあまり敵国に自国を売り渡す代わりに姫君を手に入れようとした悪徳貴族』やったやろ?それに比べたらまだマシなんやない?」
「あぁあん時は酷かった!246号室の子なんか、机かこうとしてたから手伝おうと思って近寄ったら『近寄るな汚らわしい!』って感じでずっと叫びっぱなしやったしさ。ホントにあん時は参ったわ。偶々お前が近くにおって、俺とあの子の間に入ってくれたおかげで丸く収まったけん良かったけど、もしお前がおらんかったらと思うとゾッとするわぁ。」
「あれは今までで一番酷かった事件やったね!あの時ばっかりは私も超焦ったわー。同僚が強姦魔扱いされるのは私も胸が痛かったし。」
「嘘ぎり言うなや!お前あの後腹抱えて死ぬほど笑っとったやろが!?俺指さしながらロリコンロリコンって連呼しよったしよー。誰が十三歳のガキンチョなんかに好き好んで手ぇ出すかよ。それにあの子を筆頭に相変わらず設定に矛盾や疑問がありまくりで何度ツッコミいれんの我慢させられたか。」
「そんなん気にせんと流しとけば良いのにアンタは細かいけんなぁ。それで?今日はどんな展開がされたん?」
「246号室の子は、まず俺の名前がアーサー・ランスロットの時点で吹き出しかけた。あの子ランスロット家のアーサー君的な呼び方しとったけどアーサーかランスロットかどっちかにしろやって言いたくて仕方なかった。他にも、月の女神リリスって言いよったけど月の女神ってセレネーとかディアナが有名やのになんでリリスなん。ってかそれ以前にリリスって神やないし。どっちかって言うと悪霊の部類やし。後はあの子自分の名前はイシュタム・ペルセポネーって言いよったんやけど、確かイシュタムはマヤ神話の自殺の女神の名前でペルセポネーはギリシア神話の冥界の女王の名前やで。どんだけ物騒な名前にしたかったんやって呆れた。おまけに自国に攻め込んで来たっていう蛮族の国の名前は、ローマ神話で正義の女神って言われてる神様の名前使ってたしごった煮し過ぎやろ。」
「まぁ本来なら中学校に通ってる年齢やし、どっかで見たか聞いた言葉で印象に残ってるの使ってるだけやない?それよりも私はそれだけこと細かく覚えとるアンタにドン引きやわー。」
「うっさい!こんな職場やったら嫌でも神話系とかにも強くなるやろ。んで次の247号室の子で取りあえず真っ先に思ったんは……王国伝統の鍛錬がラジオ体操ってレベル低すぎるわ!鍛錬馬鹿にし過ぎやろ!いや、俺も鍛錬とかしたことないけんどれ位のもんとか言えんけどラジオ体操レベルじゃないのは断言出来るわ。それに『愚鈍なうえに鈍才で鈍重』って愚鈍も鈍才も鈍重も意味ほとんど一緒やし。頭痛が痛い・腹痛が痛いって言いよんとおんなじレベルやけん!もう少しで良いけん国語力上げよや!」
「えっあの子が毎朝してたラジオ体操って鍛錬って設定やったん?なんで毎朝欠かさずしとんかなって思っとったけどその発想はなかったわー。アンタよく吹き出さなかったね。」
「必死に我慢した俺を褒め称えてくれや。んで最後の250号室の子はなんて言うか酷かったわ。いや、246号室の子に比べたら矛盾は少ないんやけどな?魔術を防ぐために填められたっていう設定の道具が、どんな魔術でも無効化にするっていう設定やのに破壊不可の魔術は無効化されずにかかってるっていうこの矛盾!ってかその道具ただのミサンガやん!!あれ俺にツッコミいれさせるためのボケやないんかって最近割とガチで思っとんやけど。ってかあの子最強最強って言いすぎやろ。もう最強がゲシュタルト崩壊するわ。」
「なんて言うか流石って言うか……語彙が少ないけんか知らんけどよくおんなじ言葉繰り返すんよねあの子って。まぁでもその割には設定は結構作りこまれてて感心するんやけどさ。」
「変なとこで感心すんなや。しっかしホント、はよ皆現実に戻ってきて欲しいって思うわ。特に246号室の子の親なんか最低でも月に一回はお見舞いに来てくれとるしさ。往復に結構時間かかるって聞いたことあるし、娘のためやけどようこんな地方まで頻繁に来てくれるわ。」
「それだけ娘に正気になって欲しいんやろ?この病院どの精神病院よりも、妄想と現実の区別がつかんようになった人らの社会復帰に力入れとって実際どこの病院よりも現実に帰ってこれた人って多いんやし。五年前に退院した249号室の子とか良い例やん。確かあの子ってこの病院で培われた妄想力活かして小説家になったらしいし。しかもけっこうな人気作家で今度作品の一つが映画化されるらしいで?此処におった時は『王妃を母に持つ本来なら王位にもっとも近い人物だったが、寵姫に男児が生まれたことで周囲に嵌められ囚われの身になった』って言い張っとったのに立派になったなぁ。」
「あっ映画化の話とかは俺も聞いたわ。当時十五歳やったから今丁度二十歳か?凄いよな……精神病院に入院しとったっていう人ってあんまそのこと周りに言いたがらんって聞いとったけど、あの子そのことテレビでカミングアウトしたんやろ?んで自分みたいに現実に戻れる奴もおるんやけん見捨てず見守ってくれってコメントしてて感動したん覚えてる。あん時は248号室の婆ちゃんのことで落ち込んでたしさ。」
「あのお婆ちゃんは結局現実に戻ることなく老衰で亡くなっちゃったもんね。確か『偽物の錬金術師が横行する世界において錬金術を極めた真の錬金術師』っていう設定やったよね。んでそのことがマフィアのトップに知られて、マフィアのために力を使うように言われたんやけどそれを拒否したせいで此処に囚われたっていう設定やったかな。あのお婆ちゃん死ぬ間際まで『錬金術は大衆のためにあるもので私利私欲のために使うもんじゃない』って叫んでたなぁ。」
「でも確か二人とも他の子らからの設定は全然違う内容やったよな?婆ちゃんは、246号室の子からは自分の乳母で侍女をしていた娘と共に連れてこられた人質。247号室の子からは自分の母親で姫と自分に対する人質。250号室の子からは宮廷医師にして凄腕の魔術師でもある同僚。」
「そうそう。そんで作家になった子は、246号室の子からは自分の人質として乳母と共に連れて来られた乳姉妹の侍女。247号室の子からは共に姫を護衛していた優秀な女性騎士。250号室の子からは自身の愛弟子で恋人っていう設定やったね。」
「あっ恋人設定で思い出したんやけど、あの子五年前に自殺した設定になっとったわ。あの子が退院してどうなるかと思っとったけど、無理なく設定に付け加えてたから芸が細かいってちょっと感心した。」
「はぁ……今日は夜勤明けの回診でいつもよりえらかったしちょっと仮眠とってこーわい。二、三時間時間ぐらいやったらかまんやろ?あっでもなんかあったら直ぐに起こしてや?」
「それぐらいやったら問題ないしかまんよ。時間来るか問題あったら起こすけんはよ仮眠室行ってきーや。」
机をかく→机を運ぶ
嘘ぎり→嘘ばかり
えらかった→しんどかった
かまん→大丈夫
地方感を出すために地元の方言を使用してます。……これ以外に分からないのってないですよね?
『監視者』=『裏切りの騎士』です。実際は精神科医とか看護師とか病院関係の人なんですがね。因みに入院している人達はお互い面識はありません。けど近くの部屋にどんな人がいるかは分かっているし、時々聞こえてくる話の内容とかを自分の設定の中に反映してたりするので一つの物語みたいになってます。まぁ、それぞれが自分勝手に話を作り上げてるので矛盾は多々ありますが。『裏切りの騎士』の話し方とか立場が微妙に違うのはそのせいですね。
もちろん『裏切りの騎士』のセリフは彼女達の妄想なので、医師達は欠片もあんなこと言ってません。言ってるのは体調や気分はどうだとか、面会者と話をしてどうだったかとか、前より顔色が良くなったねとかいたって普通の質問内容や世間話的なものです。