殿下は甘いものをご所望です
ただ暴走する殿下を書きたかっただけです。
あまり内容はないかも・・・
「殿下、私の顔に何かついておりますか?」
そう言って小首を傾げると、彼女の蜂蜜色の髪がふわふわと揺れ動いた。
ジッと見つめるその瞳は、この国では珍しい深い深い青緑色。
彼女に見つめられると、いつも僕は深い海のそこに囚われている気分になる。
無言のまま、さらに見つめていると彼女の麗しい表情が険しくなってきた。
ニコリと微笑めば人を惹きつけて止まぬ美少女であるはずの彼女の、その麗しい深紅の唇から発せられる言葉は多分に棘を含むこともしばしば・・・。
現に今も、その愛らしい唇からは僕に棘を存分に刺す言葉を発して来ようとしている。
「殿下・・・。」
眉を寄せて少し睨むように見つめて僕を呼ぶ彼女は、名をアイリーシャ・ヘーゼルクラン・ファンベルグという。
この国の三公爵家の一つであるファンベルグ公爵家の末娘であり、僕の婚約者である。
ちなみに僕の名は、ルキオン・アルバイン・ファリアという。
一応、このファリア王国の第一王子で次期王位継承者だ。
とりあえず、僕を既に睨みつけている麗しい婚約者殿にニコリと笑って応えた。
他の者から見れば、王太子である僕に対して彼女のこの表情だけでも不敬罪と取られかねないが、僕にして見れば彼女の表情はどれを取って見ても可愛くて仕方ない。
「なんだい、リーシャ。」
「起きてはいらっしゃいますのね?」
「もちろんだよ。リーシャをゆっくり見つめられる貴重な時間を、僕が無駄にするわけがないじゃないか。」
「私を見つめて何が楽しいのか、わかりかねます。
私の顔に何か付いているのかと思うではありませんか。
ジッと見つめるのはお止めいただきたく存じます。」
そういうと、リーシャは優雅にティーカップを持ち上げて口をつける。
表情だけでなく、他の者ならばなんという口の利き方かと思われる言葉も、僕と彼女の間では傍に控える侍女達も既に慣れたもので全く動じもしない。
「大体、私とお茶を楽しむ時間があるのでしたら、殿下はご公務を優先なさるべきではございませんか?
先日も、サイリーブが私の元に来て・・・
『殿下が決裁なさるはずの案件が溜まっているにも拘らず、アイリーシャ様の元に足繁く通っていらっしゃるので、追い返して欲しいのです!!』と泣きつかれてしまいましたわよ?
私のせいで殿下のご公務に支障が出ているなどということになれば、私はお父様共々陛下に謝罪に行かねばなりません。
ですので、今後一切ご公務が残っている限りは、我が家へのご訪問は遠慮させていただきます。」
一口香草茶を啜って喉を潤したあと、一息にリーシャはそう僕に告げた。
言ってることは間違ってないが、僕にしたら冗談じゃない。
可愛い僕の婚約者に、会いに来るなと言い切られたのである。
「ちょ・・・ちょっと待っ・・・」
「待ちません。陛下にも既にお伝えさせていただきました。
もしこれ以上ご公務を疎かになさるのでしたら、私と殿下の婚約も白紙に戻す考えだと陛下は仰られております。
婚約者でもない私の元に、足繁く通うことは如何に殿下と言えど許されざる行動でございますので、ご公務に励まれますようにご忠告申しあげます。」
父上が僕とリーシャの婚約を白紙に戻す考えまであると言われて、僕は思わず絶句した。
そんな僕にリーシャは
「そういうことですので、殿下。
しっかりご公務に励んでくださいませ。」
と微笑みを浮かべたのだった。
その後、数日間僕はリーシャに会わずに自分の執務室に篭り、溜め込んだ決裁書類を片っ端から片付けた。
側近のサイリーブが『アイリーシャさま、ありがとうございますぅぅぅ・・・』と感極まって泣きながら言っていたが、僕はリーシャに会えなくてリーシャ欠乏症で泣きそうだ。
しかめっ面した事務官達から引っ切り無しに対応を迫られる案件にさすがにそろそろうんざりした頃、サイリーブが来客を告げた。
「殿下、面会を希望されていらっしゃいますがどうしますか?」
「僕は忙しい!決裁で手一杯だと言って断れ!!」
誰が来たのか聞かずに僕がそう応えると、
「だそうですよ、リーシャ様。」
「お邪魔みたいですので、帰らせていただきますわ。」
扉の前から聞こえてきたのは、聞き間違えるはずもないリーシャの声。
僕は思わずガタンと椅子を蹴倒して立ち上がった、その勢いでインク壺を倒してしまったが知ったことではない。
インクのシミが書類に広がっているみたいだが、今はそれどころじゃない。
それよりも、リーシャが扉の向こうに来ているという方が今の僕には大事なことだった。
「せっかくお越しいただきましたのに、申し訳ございません。」
「構わなくてよ。殿下がしっかりご公務に励んでらっしゃるようですので、私も安心致しましたわ。
差し入れは後で殿下とご一緒にどうぞ、私はお暇させていただきますわ。」
そうリーシャが言った時に僕は扉に辿り着き、リーシャの腕を掴んだ。
「帰るの待った!!」
「殿下、いきなり失礼ではございませんか?
痛いので放してください。」
「嫌だね。僕はリーシャ欠乏症だ。補充する!」
「は?なに・・・ぅん!?・・・」
抗議しようとする深紅の唇を自分のそれで僕は塞ぎ、リーシャの言葉を封じこめた。
「ちょ・・・まっ・・・殿・・・んんー!?」
角度を変えるために唇を放した途端にさらに抗議しようとするリーシャの言葉を再度封じ込め、僕はその柔らかい唇を隅々まで堪能した。
抱きしめたリーシャの細い身体と華奢な腕はしばらく抵抗を続けていたけれど、僕の執拗な愛撫にしばらくするとぐったりと力が抜け落ち、僕が抱きとめていないと立っていられないようだ。
「あーあぁ・・・あとで怒られても僕は知りませんからね。」
そんなサイリーブの声が聞こえていたが、今の僕にはリーシャを愛でるほうが大事なので聞き流しておく。
たっぷりと僕がリーシャの唇を堪能した頃、リーシャはぐったりと半ば放心状態で、倒れないように僕が抱き上げてもこてんと頭を僕の胸に無防備に預けてくる。
「無防備なリーシャも可愛いなぁ。」
「全く、少しは加減したらどうなんです?
いくらなんでも、やり過ぎでしょう?」
放心しているリーシャをソファにおろしていると、サイリーブは侍女にお茶の準備を頼んでから僕にそういった。
「リーシャ欠乏症にさせるお前たちが悪い。」
「僕のせいにしますか!
まったく・・・正気に戻ったアイリーシャ様に、絶対また怒られますからね。」
やれやれと言ったふうに肩を竦めるサイリーブは無視して、ボーっとソファに座るリーシャの横に座って蜂蜜色の長い髪を弄んでいると、焦点が合っていなかったリーシャの青緑色の瞳に生気が戻ってきた。
漸く正気に戻ったらしいリーシャは長い睫を瞬くと、ボッと音が出るような勢いで顔を真っ赤にして、
「殿下のばかぁぁぁぁ!!!!
いきなりあんな・・・あんな・・・人前で・・・」
そしてそのまま羞恥から両手で顔を隠してしまうリーシャに
「僕からリーシャを遠ざけるのが悪い。
リーシャ欠乏症になったから、抑えが効かなかったんだ。」
というと
「ご公務を疎かになさる、殿下が悪いのです!!
ご公務に支障がなければ、私だって・・・」
最後の言葉は小さくてサイリーブや侍女達は聞き取れなかったようだが、僕にはちゃんと聞こえていた。
『私だって、殿下とお会いしたいですのに。』と
キツイ言葉が多いリーシャだけど、本当はとても可愛いことを僕は知っている。
そして、棘で隠した言葉の裏には、照れ屋な顔を隠していることも僕はちゃんと知っている。
たまに見せる笑顔がとっても可愛いことは、僕だけが知っていればいいことだ。
周りから見ると棘々しい彼女も、僕からすると蕩けるほどに甘い。
今日はちょっと味見しすぎてしまったけど、たまには堪能しないとね。
それにたまには僕がリーシャに夢中なのだと見せ付けておかないと、僕の婚約者だというのに彼女に懸想する男が多すぎる。
まぁ、表立って王太子の僕に歯向かうほどの馬鹿はいないだろうけど、牽制はしとくに越したことはないよね。
リーシャという甘い蜜は、僕だけの者なんだから。
そしてまだ、羞恥で顔を隠しているリーシャに
「ごめんごめん、今度は二人だけのときに堪能するから許しておくれ。」
と言うと
「堪能なされなくて結構です!」
と怒った声で返してきた。
「リーシャ欠乏症になるから、補充はさせてくれないと・・・結婚前に自制が効かなくて襲っちゃうのはさすがに僕も嫌だからね。
あぁ、早くリーシャと結婚して、リーシャを隅々まで堪能したいなぁ。」
「は・・・恥ずかしい事を、真面目な顔で仰らないでくださいませ!!」
「だって僕の本音だもの。
その柔らかい甘い唇だけじゃなく、小ぶりに見えてちゃんとある胸も堪能したいし、引き締まった腰からお尻までも撫で回したいし、隅々まで僕のモノだって証をつけてしまいたい。」
僕がそういうと、さらにリーシャは顔だけでなく首から胸元まで真っ赤にしてしまったのだった。
「殿下・・・そういう発言は二人きりのときになされたほうが・・・僕たちもいたたまれません。」
と、サイリーブにまで言われて、ちょっと本音を吐きすぎたかなと思ったときには、リーシャは真っ赤になったままフルフルと肩を振るえさせ、瞳に涙が溢れて零れ落ちた。
少し苛め過ぎてしまったようだ。
「あぁ・・・悪かった、謝るから・・・泣かないでくれないかな。」
それを見て、サイリーブは目で合図して侍女達共々部屋から出て行った。
そういう気配りだけはよく出来た側近だ。
「人前で・・・恥ずかしいことばかり・・・おっしゃらないでください・・・ぅ・・・ひっく・・・アル様のばかぁぁぁ!!」
二人きりになった途端、箍が外れてしまったリーシャは僕の愛称を呼びながらワンワンと泣き出してしまった。
公的な場所では僕を『殿下』と呼ぶリーシャも、二人きりになるとリーシャだけに許した『アル様』と僕を呼ぶ。
リーシャの声で『アル様』と呼ばれるのはうれしいが、如何せん泣きながらはさすがに嬉しくない。
初夜に啼きながら呼ばれるなら別であるが・・・
さてどうやって泣き止ませるのがいいか・・・
とりあえず落ち着かせるのに、もう一度放心してもらおうと僕は結論付けてリーシャの腰を再び抱き寄せ、顎を持ち上げて唇を塞ぐ。
少し涙の味がしてしょっぱかったが、リーシャの唇はやはりとても甘い。
「ぅん・・・アルさ・・・ん・・・」
再びとろんとしたリーシャに
「あぁ・・・もう我慢も限界!誰にも渡さない!!
リーシャ、父上に許可を取ってすぐに結婚しよう!!」
「はぃ・・・え?」
「今了承したね!じゃあすぐに父上に許可を貰って来よう!」
「えっ・・・殿下!!待っ・・・」
放心しているリーシャに了承の言質を取り、正気に戻ったリーシャが待ったを掛けたが否応なしに抱き上げてそのまま父上の元に言ってさっさと婚儀の許可を取り付けた。
それから三ヵ月後、最速で婚儀の準備を整えて式を終えた。
「やっと僕だけのモノだ。」
純白のウェディングドレスに身を包んだリーシャを抱き上げ、僕はご満悦で寝室へ。
「愛してるよ、リーシャ。
しばらく寝かせてあげない。」
「ご遠慮したいです・・・アル様。」
「ダーメ。」
それから一週間、僕はリーシャを隅々まで堪能させてもらいました。
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