対話 3
一歩前進。
未だ一歩しか進んでいない現実よりも一歩進めた嬉しさが大きくて。
とにかく虎さんもといヒュウ・キルベルトさんとお話をしています。
「ヒュウさん」
「……。」
「助けていただいて、ありがとうございました。」
頭を下げてお礼をいう。
「…ああ。」
ヒュウさんの声は低くて耳に心地いい。
下げていた頭を上げてヒュウさんの顔を見る。人とは違く表情が読めないのはヒュウさんの成せる技かまた違う理由か。わからないけれど、今の私には頼れるのはヒュウさんだけ。
「お前は、人間か」
「…はい。」
そんな質問されたことがなくてなんだか自信がなくなりそうだ。
「お前はどうしてあそこにいた?どうやって来た?」
「あ、えっ…と、私にもわかりません。気が付いたあそこに居て、目の前にヒュウさんがいて、ほんとうにわけがわからなくて、」
たどたどしい私の話に耳を傾けていたヒュウさんが何か考え込むように喉を鳴らした。
「あの、…ここはどこなんですか?」
「ここはリドキュニア共和国、東デターナ、ヴァイラン領地テールの森。」
…確かにアマゾンですなんて答えは期待してなかったし、アマゾンだと言われても驚くけど、こうも聞いたことないカタカナが並ぶとただ不安を超越した恐怖しか湧いてこない。リキニュア共和国…?東ドトール…?バナナンの領地…?ペリーの森…?
「…ぅ」
「…!」
ヒュウさんが驚いているのがわかったけど、どうしようもない。溢れる涙とはこのことか。止められない止まらない。さっきまで呑気に寝ていた人間が、ヒュウさんを前にしても大丈夫だった私が、カタカナの羅列に泣いた。
「ぅ…っう、ぅぇっ…」
漏れる嗚咽を抑えようとするほど可愛くない。だからと言って吠えるように泣く泣き方も知らない。ああ、かわいくない。
「…おい」
ヒュウさんに声をかけてもらっても返事ができない。息が苦しい胸が潰れそう。まだ何も解決してないし、この場所も分かったようで何も分かってないのに、もっと色々話さなくてはならないのに、ヒュウさんを困らせたくないのに。
「……。」
「ひぐっ…ぅっ…っ…うぇっ…」
ヒュウさんはそれ以上なにも言わず黙っていた。きっと困っているし面倒だとか思われているのだろうと思う。けど、涙を手で拭うその隙間、滲む視界でヒュウさんの尻尾がパタパタと所在無さ気に動くのを見て心配してくれているのかもと思ったら、少しだけ笑えた。