対話 2
「あなたのお名前が知りたいです。」
虎さんが私の顔を見た。やっと、私を見てくれた。静かな眼差しは私の真意を探るよう。
あまりの迫力に顔を逸らしたくなる、でもその目から逃げることが出来ない。見つめる虎さんの瞳は深い森のような緑色にほんの少しの暗さを足したような、でも浅葱色の輝きを放つ宝石のようだった。吸い込まれそうな、とても綺麗な瞳。
「私は結城かおるです。…森で、助けていただいてありがとうございました。」
虎さんと見つめ合い、目を逸らすことなく言い切る。…が、少し尻すぼみになってしまった。目を見つめて話すのってこんなに緊張するものだっただろうか。いつもどうやって話していたんだっけ。それより言っていて私は本当に助けてもらったのだろうか、とか余計な不安まで出てきた。あとで食べるための食糧とかだったら。
いや、でも食糧に上着は貸さないだろうし、なにより虎さんの行動はすべて優しかった。
乱暴に扱うことも一度だってなかった。近寄りがたい雰囲気はあるけど、虎さんは私を助けてくれた。
フイと虎さんが視線を火に戻してしまう。
あ、と小さい声が私の口から出た気がした。ダメかと肩を落とし、私も火に向かおうと体の向きを変えた。
「ヒュー・キルベルト」
「…え?」
「ヒュー・キルベルトだ」
ヒュウキルト…ベ、…さん?
虎さんの名前…?ヒュウさん?キルトルベさん?
「え…?あ、の、ヒュウ、キルトルベ?…さん?」
「ヒュー・キルベルト」
「ヒュウ・キルベルトさん?」
「…ヒュー」
「…フューさん?」
「……。」
やっぱり虎さんは優しかった。
性格ブレが半端じゃないですね。安定安定。