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そんな私の夏休み  作者: ろく
5/7

対話




意識が浮上する感覚。

目を開け、ぼやけた視界から次第に焦点が合っていく。見えるのは薄明るく照らし出された岩肌。


背中が痛い。ゴツゴツとした感触。起き上がるときに身体の節々が鳴った様子から結構な時間此処で寝ていたのかもしれない。


上体を起こした私の上から何かがずり落ち足に乗る。それをぼーっと確認し、視線を明かるい方へやると焚き火の前に腰掛けた虎さんが居て、ついビクッと肩が揺れてしまった。あぁ、そうか。森で虎さんに会っておんぶしてもらったの、夢じゃないんだ。


どうやら私はあのあと虎さんの背中で寝てしまったようだ。なんて呑気な。

虎さんは私が起きたのに気付いているようだった。私の肩が揺れた時に、こっちを横目で見ていた気がしたから。それでも先ほどからずっと焚き火の前に座り棒で火の調節をしたりしている。


怖い…というか。虎さんが虎であるからとかそういう恐怖じゃなくて虎さんの人柄的なものが基本的に人を寄せ付けないというか。近寄りがたさがある。気がします。


周りを見渡すと私たちが居るのはどうやら大きな洞窟?のような場所だった。剥き出しの岩肌に囲われた場所は天井が高く左方に虎さんが居てその少し奥に丸く少しひらけて夜の森と思われる景色が見てとれることからあそこが出口なのだろう。暗いのだが月が出ているのか洞窟の中よりは明るく見える。私のいる場所がその出口より遠く、虎さんの焚き火からも少し離れた場所のせいもあるのだろう。ブルッと身体が震えたせいで気付いたが夜になって一段と冷え込んでいる。寒い。



虎さんは私がキョロキョロとしていても変わらず我関せずだ。

側に行ってもいいのだろうか。

虎さんと話がしたい。いや、私は虎さんと話をしなくてはならない。


そっと立ち上がる。足に乗っていたものが地面に落ちそうになったため慌てて拾った。上質そうな生地だ。黒くて肩部分などに装飾品がたくさん付いている。虎さんの着ていた服だと漸く気付いた。掛けてくれたんだ。



「…あの。」


声を掛けてみたが虎さんの視線は火に向いている。


「…此処、いいですか。」

「……。」


返事はないが虎さんの右手に少し距離をあけて座った。

改めて近くで虎さんを見る。

燃える火に照らされている顔は火のせいか、虎さん自身の毛並みなのか、黄色というより橙色。いやそれより濃くて赤々しいような、赤橙色。夕陽に染まったような、そんな綺麗な色をしていた。

格好は私に上着を掛けたせいでワイシャツのみとなっている。苦しいのか上のボタンを2つほどを外していた。



「あ…これ、すいませんでした。ありがとうございました。」


手に持っていた虎さんの大きな上着を地面に引きずってしまわないように気をつけながら返そうとするも、虎さんはそれを一瞥したのみでまた火に向かってしまった。


…ど、どうしよう。


実は虎さんが話すのは大変なことでさっきは驚いたから頑張って話したとか、実は私の言葉が分かってないとか、実はさっき話したと思っているのは私の気が動転していたからであって気のせいだったとか。

堂々の無視をされて変な想像が一気に頭を駆け巡り不安になる。手を下げる訳にもいかずおろおろと何故か周りに視線を彷徨わせてしまった。





「まだ冷える、着ておけ。」



バッと顔を上げ虎さんを凝視してしまう。

…いま、喋ってくれた。やっぱり私の気のせいじゃなかったんだ。


喋ってくれたこととかその内容とか、なんだか一気に先ほどまでの緊張がなくなった。

確かに火の側に来て暖かくはなったがまだ寒い。しかし虎さんは寒くないのだろうか。ワイシャツ一枚の虎さんは体毛もあるが、もし我慢していたりするのならすごく悪い。



「俺は平気だ」



…考えていることが分かったらしい。申し訳ないが虎さんのご厚意に甘えさせてもらうことにした。


「…ありがとうございます。」


袖を通すと虎さんの大きさがよくわかる。子供が大人の服を着ているような、そんな感じ。着ると胸の部分にも何かのマークが刺繍されており、この服は軍服のようなものだと漸く気付いた。とすると虎さんは軍人さんをしているのだろうか。


上着を着てから火を見つめまた新たな想像を始めかけたがそうじゃない。私は虎さんとお話がしたいのだ。知りたいことが本当に、たくさんあるのだ。



「あの、」






「あなたのお名前が知りたいです。」






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