第一 起
始めて完結した短編です。
何回かに分けて投稿しようと思います。
仄暗い街で僕はまだ歩いて行く。
続いていく道に未来は無くても。
歌が、耳に届く。
低くなりきっていない男声に似合う緩やかなアップテンポ。
冬の風を退ける様な、暖かなリズムに心地良さを感じた。
「いい曲だな」
呟く様に投げかけた声が聞こえたらしい。
「ありがとうございます」
と、やはり呟きの様な返事が聞こえた。
寒さに身を縮め、俯けていた視線をふと上げる。
いい眼をしているな、と思った。
路上に溢れる道行く人に紛れながら、青年の瞳は光を振りまいているかのようだった。
明るく、少し手入れのかかった茶髪が印象を与える。
真冬であるのに熱がこもるのか、ダッフルコートの前は全開で、嫌味のない服がみえている。
大学生だな、と思った。
そうだ。
確か近くに地元の国立大学へのバス停があったはずだ。
青年がスゥッと息を吸い、また冷ややかな顔をした通行人に詞を送り届けるべくギターの弦を抑える。
私は通行人よろしく、そのままその場を歩き去った。
ーーーーー
道が交差する地点に設置された時計台はこご11時を差していた。
街は煌めきを失いながらも、まだ眠らない。
歩みを進める。
しばらく歩き、一つの店の前で足が止まった。
全国チェーンのバーガーショップ。
一階にレジがあり、二階にガラス張りのカウンター席が並ぶ店のつくりだ。
昼間は若者がたむろしているのがよく見られるが、時間が時間ということもあり空席が目立っていた。
そんな、窓際の中央席に。
座り、こちらを見下ろす少年が目に入った。
こちらを、といっても少年はこちらの姿を捉えているわけではない。
どこか、宙をぼんやりと眺めている。
少し立ち止まったあと、店に入り、店員にこえをかけた。
「コーヒーを。あとアップルパイを二つ」
会計を済ませ、二階へ上がる。