第四十八話 腰抜けか
助けたパーティーとはフィールドで別れて、街に入った。
さっさと飯でもとって寝ようか。そう思っていたところで、前に立ちふさがる男。
見覚えのある姿。
そいつは先ほどボコボコにした男だ。
「テメェら、馬鹿なことしたな」
ひっひっひっと笑う。話が見えてこない。
「なにあんた? 笑い方気持ち悪いんだけど」
フィリアムがあからさまに嫌悪むき出しで睨む。
俺の気持ちを代弁してくれたよ。
「聞いて驚くなよ! お前らはマーダーキラーに目をつけられたんだよっ! もう、満足にゲームを楽しめるとは思うんじゃねえぜ!」
負け犬の遠吠えにしか聞こえない。
「アレだな。いじめられてる人間を助けたら、助けたやつがいじめにあう、見たいな感じだな」
「そう、ね。でも、いいわよ。ちょうどいいわ」
「ちょうどいい?」
フィリアムの放った単語に俺は首を傾げる。
「マーダーキラーは掲示板でも問題になってるギルドよ。ゲーム攻略をしようとしている人間の妨害。私もムカついてたのよ」
フィリアムの強気な視線に睨まれても男は気圧された様子など微塵もない。
それどころか、芝居がかったように笑う。
「当たり前だ。この世界を壊されたら、おれたちにはとんでもねえことだからな」
「なんでこの世界に固執するんだ?」
男に問いかけるがはんっと笑うだけで答えを教えてくれない。
代わりとばかりにフィリアムが馬鹿にするように言ってやった。
「さぁ? 全員現実世界に戻ってもロクな仕事がないんじゃないの? だから、この世界に少しでも長くいようとする」
「殺すぞ女!」
沸点の低い男だ。そしてそれは敵だけなく俺の仲間もそうだ。
「ならやってみなさいよ。さっきボコボコにしてあげたでしょ」
それ、俺な。くいくいと手を動かすフィリアム。
男が本気で怒っているにも関わらずフィリアムの表情から余裕な様子は消えない。
男はフィリアムの態度にイラついたのか顔を赤くしながら、アイテム欄から紙を取り出して見せ付けてくる。
「テメェら、マーダーキラーの邪魔者プレイヤーリストに登録させてもらったぜっ! これから満足にゲームを楽しめると思うなよ!」
以前見たことあるな。マーダーキラーね。
見せてきた紙には人が人を刃物で刺している絵がある。悪趣味だ。
どちらにせよだ。聞きたいことがあったので、男の頭を掴んで睨みつける。
「御託はいいんだよ、ハゲ。お前のギルドに強いヤツはいるのか?」
「な、当たり前だっ! オレ達のリーダーは強いんだぞ!」
凄んでやると、フィリアムの時とは違い少し怯える。直接手を下してやったからだろう。
言い方が子どもっぽい。案外ビビリなようだ。
「ならそのリーダーにいいな。高みの見物してねぇでテメェがかかってこいよ、腰抜けってな」
「……テメェ、覚悟できてんのか?」
「ゲームをするのに覚悟が必要だなんて思わなかったぜ」
男は俺の手を叩き、距離を開ける。
「そんな減らず口もいつまで持つだろうな?」
ひっひっひっと男は不気味な笑いを残して去っていった。
「マーダーキラーって、ゲーム攻略の邪魔をするギルドで私が一番気に入らない場所よ。なんでも、現実に戻りたくないって連中が多いらしいわ」
「そりゃ、また」
確かにこの世界は住み心地がいいかもしれない。
現実に比べれば色々と難しい問題もない。
ただ所詮すべてはまやかしだ。
どれだけリアルに近い造りであってもここは、ゲームなのだ。
それがわからないあの男たちはゲームをやるのには向いていない。
「もう今日は宿に戻るよな」
バカの相手をしたせいで疲れてしまった。
「そうよね。なら食堂に行くわよ師匠」
「弟子に命令される師匠ってのは嫌なものだな」
そもそも師匠と呼ばれること自体が嫌だが言っても聞いてくれない。
俺たちは飯を食べたあと同じ宿に泊まる。色々と銃弾を作ったあと、俺は眠った。
次の日。
一緒の宿に寝ていた俺たちはさっさと朝食をとって、街の外に出る。
今日もまだ一緒に行動するようだ。まあ、嫌ではないが。
「今日も狩りに行くのか?」
「ええ、今日は昨日とは別の狩り場に行くわよ師匠」
「だから師匠はやめろ」
変なロールプレイをしているみたいじゃないか。
「それで、どこの狩り場に向かうんだ?」
「フレイムドラゴンがいた場所の近くの森よ」
移動中簡単にフィリアムから話を聞く。
フレイムドラゴンがいたのは山の中らしい。マグマの中で戦闘を行う危険地帯とフィリアムは言っている。
フレイムドラゴンの話はどうでもいい。もう討伐されたからな。
フレイムドラゴンがいる火山のダンジョンに向かう途中にある、森はダンジョンになっていて今日の目的はその森だ。
大きな木の魔物トレント。
っと、魔物が向かってきた。
イモムシのまま羽が生えて空を飛ぶ気持ち悪いウィングイモムシ。
俺とフィリアムは武器を構える。
突っ込んできたウィングイモムシの攻撃を回避する。
枝のような腕を伸ばして攻撃するトレントは攻撃範囲が広い。先に潰す必要がある。
「フィリアム、ウィングイモムシは任せた」
俺は火弾を装填して放つ。木だけあり、火に弱いようであっさりと怯む。
接近と同時にガンエッジを発動させて斬りつけ、背後に飛びながら銃弾をぶつけて倒す。
「こっちも終わったわよ。って、また来たわね」
魔物の沸きがよくてうざいな。
トレントが二体近寄ってきたので、グレネード弾を装填する。
この前作っておいたのだが、試したことがなかった。
トレント二体を巻き込めるように狙いを定めて放つ。
着弾と同時に周囲を巻き込むように爆発する。
僅かな煙をあげ、敵を倒した。
「……何よ今の」
「グレネード弾だ。結構強いな」
一度戦闘を終えて、それからまた新たなスキルについて訊ねてみる。
「そういえば、フルバーストのスキルって知っているか?」
昨日寝る前にスキル欄を確認したら、新しく出現していた。
ショット系列からの進化だったのだが、ショット技がなくなるのは嫌だったので、スキルポイントを新たに消費して取得した。
「もちろんよ、残弾全部消費するスキルよ。私のショットガンフルバーストは大抵の敵を一撃で屠れるわよ」
ショットガンのフルバースト……身体が穴だらけになるな。
「効果はわかったし実践はいいか」
銃弾ももったいないのでやめた。
……。
「フィリアム、もう少し広い場所ないか?」
「確かに戦いにくいわね。こっちにあったはずよ」
フィリアムに道案内を任せる。
途中魔物が襲ってきたが、問題なく討伐する。
前を見ると、木々がないエリアが見える。森を抜けたわけではないようだが、開かれた場所だ。
森の中で切り開かれた場所。安全地帯ではないようだ。
魔物との戦闘のための場所ってことか。
「さて、やるか。フィリアムもしっかり武器を構えろよ」
「え?」
フィリアムが戸惑いながらも素直に指示に従ったのを確認して声を張り上げる。
「おい、隠れてるヤツら出てこい」
このゲームでは地図にプレイヤーは出てこない。だが、足音や木の揺れはリアルに再現されているので、感単に気づけた。
結構な人間が自分たちを追跡しているのだから、わからないほうが難しいか。
「よく気づいたね。専用のスキルか何かを持っていたのかな?」
森の中から出てきたのは一人の男。男の後を追うようにぞろぞろと多くのプレイヤーが出てくる。
「別に。ばれるように足音立ててればわかるだろ?」
さすがに気配まではわからないが、なんとなくデータが動くときには特有のブレがある。
何よりリアルに作られているので、地面に落ちている枝を踏めばパキッと音もする。
「それもそうか」
「それで、あんたたちは何者だ?」
俺の中で大体答えは出ている。
先頭に立っている男の背後には、昨日ボコボコにした男もいる。
街に戻ったところで文句をつけてきた男もいた。
「マーダーキラーのリーダー、って言えばわかるかな?」
「ああ、腰抜けか」
俺の挑発に対して、リーダーは笑うだけだ。




