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Unlucky!  作者: 木嶋隆太
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第三十九話 第二の街

 砂漠のオアシスを意識して作られた第二の街セカンズ。じめじめと太陽が照りつけ、なんだか暑さを感じる。

 服を脱ぎ去りたくなるようなほどではないが、他のエリアに比べて少々温度が高く設定されているのだろう。


 そこまで拘らなくてもいいのに、というのが俺の意見なのだが、他のプレイヤーはこれをどう受け入れているのだろう。


 さすがっ! とか思ってるのかもしれない。俺はどうでもいいんだがな。

 第一の街の次に訪れる人が多く、西の塔の攻略の拠点でもある。


 そのため、街を行き交う人々は強力そうな装備か貧弱そうな装備と極端になっている。

 中には、戦うための装備ではなくおしゃれに着飾っている者もいる。


 俺の装備は普通だ。それなのに、なぜか街の住人から見られることが多い。

 いくつかの考えられることは、この前のランキングに入賞したことだろうか。ただ、第一の街にいたときにはそんなことはなかった。


 それともあの街にいる人間はランキングに参加する人が少ないとかだろうか。

 あり得なくもないか。狩場とするなら第三の街か、アースドラゴンがいるダンジョンに近い第二の街だろう。


 後は装備が実は珍しいものかどうか。人目見ただけではわからないだろう。


 この街にいるというおっちゃんの母親。あの歳から考えて、相当老いぼれているだろう。

 俺の目的はそれだけだ。


 街のつくりは、中央に大きな湖のようなモノがある。そこがオアシスなのだろう。木などもあり、確かに涼しそうだ。

 とはいえ、いくら熱そうな景色でも所詮ゲームだ、汗が出ることはない。


 依頼を見るとどこにおばちゃんがいるのか分かる。地図に映るように設定してから歩き出す。

 湖から西に向かった場所にある民家が立ち並ぶ一角にあるのだ。


 小さな家だ。この世界の住人は鍵を閉めるという行為を知らない。タンスとか漁られる心配はしないのか。ビンを割られても知らないぞ。


 普通にドアを開けて、部屋に座っているおばちゃんの元まで行く。


「なんだい? ババアの金でも盗みに来たのかい?」


「そういうのは勇者の仕事だろ?」


 アイテム欄から手紙を取り出し、おばちゃんに渡す。

 怪訝そうにしながらも受け取り、おばちゃんは手紙に目を通す。


 ある程度読み終えたのだろうか。

 口元を押さえたり目の端を拭う仕草をする。感動しているようだ。脳筋のようなあの男でも人を感動させる文章をかけるようだ。


「あのバカ息子も、粋なことをしてくれるじゃないか……とっくに死んだと思ってたよ」


 おばちゃんは軽口を叩いてはいるが、嬉しそうに涙を浮かべている。

 人の涙は嫌いだ。たとえNPCであったとしても。


 なるべくみないように、顔を横に向ける。


「ああ、そうだった。どうやら、この手紙の中にあんたへの報酬が入ってるようだね」


「そうか」


 渡されたのは、アクセサリだ。

 毒の状態異常を50%の確率で無効化してくれるらしい。


 だが、俺のアクセサリ欄はすでに埋まっている。

 幼女の加護は外したくないから、こいつはそのままアイテム欄いきだ。


「もしも、あのバカ息子に会ったら伝えておいてくれないかい? 死にかけババアにかまってる暇があったら、もっと有名になってろってさ」


「ああ」


 それで依頼は完了のようだ。


 気がつけば、夕陽も落ち始めている。長い旅だったな。

 妙な達成感に包まれながら、街を歩く。さっさと宿に戻るか。


 一応ヒメの襲撃は免れるだろう。

 この街に長居するのはあまりよろしくないが、せっかくだから依頼をいくつか受けてから戻りたい。


 転移石の移動は金がかかる。痛手とは言えないが、何もしないで他の街に移動するのはもったいない。

 地図で宿を探していると、俺に視線がぶつかったのが分かった。


「……ソラソラ?」


 いや、長居するのはよくないな。今すぐ他の街に高飛びしよう。

 転移石を使えば移動はすぐに終わる。金なんて別にどうでもいいさ。


 どこに向かうか。第一の街も危険だし、第三の街もダメ。

 ……詰んだか?


「待つ」


 一人でいるオレンジに見つかり、腕を掴まれてしまう。全身がオレンジに近い防具をつけている。鮮やかで、目がちかちかする。


 お尻の辺りから黒い尻尾がふりふりと揺れていて、なんだか可愛い。


 最悪だ。さっきまでの俺をぶん殴ろう。さっさと宿屋に引きこもっているか、転移石で移動していればよかった。


「どうした、仲間はずれにでもなったか?」


 仕方ない。振り返って、軽く皮肉を言うがううんと首を振られる。


「……プレイヤースキル特訓中」


「まだやってたのかよ」


 瑞希が以前やっていたはずだ。


「一回、終わって、みんなでアースドラゴン討伐部隊に向かった、けど。負けた。それからまた、各自で特訓」


「それで、調子はどうなんだ?」


 一人でいるのを見る限り微妙なようだ。


「だけど、その間にギルド『ブレイバー』がアースドラゴンを討伐した」


「へぇ、そりゃ初耳だな」


 いつの間に倒されていたのだろうか。


「掲示板は?」


「見ないんだ。ネタばれされるのは好きじゃないからな」


「そう」


 オレンジはそれからボーっと虚空を見つめ、


「そういえば、ソラもお一人で。……何か嫌なこと、でもあった?」


「現在進行形でな」


「確かに、ログアウト不能はいや」


 それもあるが、お前と出会ってしまったことが一番の残念だ。


「ヒメが、探してる」


「そ、その名前を出さないでくれ。俺が今もっとも恐れているワードだ」


 オレンジは意味が分からないと小首をかしげる。

 それから俺の両目をジッと覗き込んでくる。


 身長差があるおかげで、オレンジは爪先立ちだ。

 こいつ……小顔でやっぱり可愛いな。


 思わず見とれる。

 さっ。


「なぜ距離を取ったんだ」


「なんとなく、身の、危険」


「俺が何かするように見えたか」


「うん」


「……悲しいぜ」


 穏やかな気持ちにさせられるゆったりとした声と共にポンと肩を叩かれる。


「どんまい」


「あんたのせいだっ!」


「実力があるのを見込んでお願い。これから、一緒にクエスト受けて」


「誰の実力があるんだ?」


「あなた。瑞希が強い、って」


「俺のことならお前も知っているんじゃないか?」


「学校の成績はビリから数えたほうが早い」


「心にざっくりくる言い方だな。まあ、合ってるんだが」


 それでもオレンジは譲らない。

 俺は少し気になったことを口にする。

 

「仲間がいるだろ?」


「瑞希はどこかで休憩。ヒメは第一の街を歩き回ってる。フィリアムはフィールドに篭って悪鬼の如く魔物狩りに興じてる。私は一人で依頼をちまちましてるの……」


 なんだろう、俺に通じる部分があるぞ。

 だからといって一緒にパーティーを組むのはどうにも面倒だ。


「一人でやればいいだろ」


「それが、ちょっと試したいことがある」


「ペットでも連れてってくれ」


「あなた」


 なんてやろうだ。

 両腕で抱え込むようにぎゅっと腕を押さえつけてくる。


 現実なら胸が当たって喜ばしいのだが、あいにく何の柔らかさもない。

 そもそもあまり大きくもないし。


「私が受けたクエストは、限定クエスト。初めて聞く」


 俺もこの前聞いたのがはじめてだった。

 少し興味を持ったので、もう少し話を聞かせてもらおう。


 逃げようとしていた体を反転させ、彼女に向き合う。


「限定クエストか、俺もこの前受けたぞ」


「……ほんと?」


「嘘つくと思うか?」


「……思うない」


「曖昧だな」


 ジト目だ。疑いまくってるじゃねぇか。

 別に情報を独り占めするつもりはないので、詳しく説明をする。


「この前、新しくクエストが出たと思ったら限定クエストだったんだ」


「……私も。ほとんど終えて喜んでたら、新しく、出た」


 感情の起伏が少ない彼女が喜ぶってどんな感じなのだろうか。

 無表情のままスキップでもするのか。怖いな。


「どうやら、クエストをある程度やると出るみたいだな」


「うんソラの話とあわせるとそうみたい」


 そこで、オレンジはポンと手を打つ。


「一緒に限定クエスト受けるとなると、色々考える必要がある」


「誰が、受けると言った」


「……受ける?」


 まるでこいつが依頼人のように上目遣いでこちらを見てくる。

 く……年下だからって。


 お、俺は幼女じゃなきゃダメなんだ。


「断るに決まってるだろ」


「……うん。ヒメを呼ぶ」


 脅しだ。


「……受けてやるよちくしょう」


 あいつを呼ばれたら今の俺には対処法はない。


「よかった。これで、脅さなくて、すむ」


「十分脅されたんだが」


「別にいい。私はどちらかというとサポート系の職業だから。なら、これから宿に移動する」


「宿?」


「うん、私の部屋」


「男を連れ込むのはどうかと思うぜ」


「その時は、蹴り飛ばす」


「怖い女だ」


 ヒメとは違う意味のベクトルでな。


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