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Unlucky!  作者: 木嶋隆太
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第十六話 詐欺


 葵は少し嬉しそうに口角を上げる。


「私としては今の心境が複雑ですね。今まで雑魚だと思っていた相手にあっさりやられたんですよ。心がザックザク」


「のわりに、結構平気そうだな」


「だって、気づいてたし」


「それだと、さっきお前が行っていた理論と相容れない気がするんだが」


 安寧のために一緒にいたんじゃないのか。


「もう、細かいこと気にしないでくださいよぉー。乙女心はふくざつーですから」


「見事な棒読みだな」


「あなたはゲーム世界でも人をバカにしたり、からかったりしているの」


「俺の生きがいだからな。ビバ! からかい」


「歪んだ人」


 こき下ろすと、葵は広場のほうへ歩いていく。

 葵の背中で上下左右に揺れるポニーテールを追いかけると、彼女は自分の商品を売りつけるように店に座りこむ。

 

「ふっふっふっ。最強の武器を作っている謎の鍛冶師の正体は美少女だった! そんな彼女の正体を見破ったあなたにもれなくプレゼント。鍛冶をしてあげよう」


 大きな胸がバインとはねる。

 美少女って自分で言うなよ。


「……そういや、お前ちゃっかり鍛冶師スキルを取得してたんだな。つーか、なんであんなにいい品があるんだよ」


「攻略組の鍛冶師をしていましたから。後は、まあ、極秘事項。はい、出す。今の貧相な装備の数倍レベルの高いモノを作ってあげるから」


 前線組のヤツはまず容姿に惹かれたんだと思う。それだけ、魅力的だからな。喋らなければ。

 猫かぶるのもうまいし。


「ああ、はいはい。お前もスキルレベルあげたいんだな。ドン・ゴブリンの素材があるんだが、頼めるか?」


「倒したの? なんだコミュ障じゃなかったのか」


「いや、一人で。あと、コミュニケーションはちゃんと取れる」


「ボスをソロで撃破したんですか……」


 なんだか考え込んでしまった。

 と思ったらウィンドウ画面を開いて俺の方に展開した。


「アップグレード素材は使いますか? あ、いりませんか?」


「なんだ、それは」


「そんなことも知らないのですか。稀に魔物が落とすアイテムです。前線組以外は中々お目にかかれない代物ですね。通常よりも強い装備品が作れます」


「ああ、だからお前のところのは全部いい品なのか」


「ええ、自慢するための努力は惜しみません」


「よし、俺の装備を最強にしてくれ」


 俺が腕を組んで言うと、葵は相変わらずの無表情でウィンドウを弄っていた。


「武器は何にする。ひのきのぼう?」


「すぐに売り飛ばすぞ。剣と銃だ」


「ナイフじゃないんですか?」


「出来れば短めの剣を作ってくれ」


「だったら、ナイフにすればいいじゃないですか、めんどくさい」


 とかいいながら、鍋のようなモノを出す。


「ここでパーティーでも始めるのか。牛肉はあるか?」


「何寝ぼけたことを言ってる。これは作成鍋っていうのですが、その腐った耳では聞き取れませんか?」


 鍋の蓋をあけて、中に素材を投入していく。

 俺が文句を返そうとしたら、こちらに手が伸びてくる。


「鉱石系素材はある?」


「……ウッドがあるぞ」


「それ最低ランク。私は今見つかっている中で最高のブロンズを持ってるけど、どうする?」


「使ってくれ」


 頼むとブロンズを手に出す。青に近い色をしていて六角形だ。

 鍋はなぜか湯気をあげながら、左右に震えている。その途中でブロンズを投入。


 さらにウィンドウを操作して、今度は橙の球を取り出す。

 俺の視線に気づいたのか、ちらと目が向く。

 

 うわぁ、バカにするように細くなっている。


「何か知りたいんですか? えぇ、これ知らないって本当に無能ですね。これがアップグレード素材ですよ。一つの装備に三個まで投入できますが、防具は全部一つでいいですね。武器は三つ。異論は認めない」


「頼んだ」


 グローブのようなモノを作ると、また素材を入れていく。

 防具は腕、上、下、足の四つだ。上っていうのはシャツで下はズボンだ。


 それとアクセサリが二つつけられるが、アクセサリは幼女の加護しか持っていないので、一つだけだ。 

 ただ、待っているのも暇だな。


「その鍋はなんなんだ?」


「これがないと鍛冶師スキルがあっても作成ができません。まあ、街の施設で最低ランクの鍋をタダで使用できますが。ちなみに私のはLv3作成鍋というモノで出回っている中で最高の品質です、えへん」


「隙あらば自慢するんだな」


「どうだ、くやしいだろー」


 えいえいと肘をぶつけてくるがなすがままだ。

 作り終えたようなので、メニュー画面を開きお金の準備をする。


「いくらだ?」


「100万ポイント」


「ぼったくりすぎだろっ」


「冗談冗談。本当は10万ポイント」


「……ぼ、ぼったくりすぎだろっ」


「これはマジ。アップグレード素材は最低でも一つ一万ポイントはする。……もしかして、お金ないんですか?」


 俺の全財産は6980ポイント。一番金になりそうなドン・ゴブリンの素材はすべて渡してしまったし。


「はんっ、単位お金じゃねーし」


「揚げ足取りが小学生レベルですね。本当に持っていないんですか? それならなんで、頼んだんですか? 詐欺ですか、そうですか。こんな可憐にして、儚い。神に愛された究極の美少女を毒牙にかけた、と」


 頼んだというより、お前が言ってきたんだろうが。


「美少女なんていない」


「見えないんですか? きっと罪の意識で目玉のあたりが炎症でも起こしたんじゃないですか? 今すぐその目玉をお金に換えてください」


「俺の目玉は?」


「卵でも入れれば?」


 もしかして、少し怒ってる?

 葵の表情は氷のような冷たさを放っている。


 ぐいぐいと寄せられる顔にぞくぞく。

 鳥肌が、できてきたぞ。夏だというのに、肌寒い。風邪を引いたかのようだ。


「冗談がきついぜ、ったくよぉ。俺たちの仲だろ? ツケで」


「あなたをぬかに漬けてやりましょうか? それとも漬物石で頭をかちわってやりましょうか?」


「お、落ち着け。人をからかうのもいい加減にしたほうがいいぜ」


「ビバ! からかい」


「人の生きがいをぱくるんじゃねえ!」


「私は人がわたわた慌てるのが好き。愛してるといっても過言ではないですね」


「俺よりも性質悪いな、おい」


 そこで、葵が思ったよりも怒っていないのに気づきそこから冷静に思考が構築されていく。

 生まれた疑問をそのまま口にだす。


「こういうのは普通、先に金額を言うもんじゃないのか?」


「ええ、そうですね」


「だったら、お前にも落ち度はあるだろ?」


「ええ、そうですね。では、こうしましようか。私に少し力を貸してくれませんか? その働きによって金額を下げますよ」


「……まあ、それが妥当なところか」


 元々俺に選択権はない。葵も失念したようだし、ここは素直に――


「ニヤリ」


「テメッ、わざとだなっ!」


 お得意の人を小ばかにしたようなニヤニヤを発動しやがった。


「いえいえ違いますよー。そんなことあるわけないじゃないですかー、やだなー、もうー」


「わざとらしい棒読みがかなりイラッと来る」


「でも、お金はありませんよね」


 威圧的な声と共に葵はしてやったりと笑う。

 こうなったら、後はこいつの言いなりになるしかないか。


「料金分しっかり働いてくださいね」


「……チッ、最悪なヤツに捕まっちまったぜ。どこに行くんだよ」


「ついてくれば分かるから。それじゃ、犬のように尻尾を振りながらついてきなさい。首輪は?」


「お前にやるよ」


 借金ざっと九万ポイント……詐欺られたぜ。

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