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どうやら勇者がくるらしい

 

 どうやら、この町に勇者が立ち寄るらしい。

 はらはらと空から舞い落ちる瓦版を手に、私はため息をついた。


 勇者召喚から早3年。

 そして王による魔王討伐の命はその1年後。

 魔王領にそれなりに近いこの町では、歴代勇者の最後の休息場所となることが多い。らしい。

 大きな街や城が周りにない為であるが、ここらで食料などを買い込むので町としては経済的にとても豊かになる。

 周りの人たちは歓喜の声を上げ、勇者達に買い占められる前に、と自分の家で必要な分だけを買いに走っていった。

 その雑踏の中で、大きく私を呼ぶ声が聞こえた。


 両手にいっぱいの花を抱え、満面の笑みを湛えながら歩いてくる少年に、小さく手を振る。

 この少年――シュウは、身寄りがないらしく、近所の私たちが面倒を見ている為にとてもなついてくれている。とても可愛い。


 シュウは普段、町のあれこれの手伝いをして生活をする小金を稼いでいるらしい。

 抱えきれないほどの色とりどりの花は、おそらく孤児院のシスターに頼まれたものだろう。

 大の花好きのシスターは、週に一回大量の花を仕入れて、孤児院や町をカラフルに染めるのだ。

 そのセンスがとてもよいので町の人はみんな、シスターの花飾りが好きだ。

 もちろん、私も。彼も。


 彼は、私の持っているものを覗き込むと、ぱちりと瞬いた。


「瓦版、号外?なにか特別なことでもあるの?」

「ん、ああ、勇者がこの町に来るんだって。

 町長があわてて歓迎の弾幕作ってる姿とか載ってて、結構面白いよ」


 さっきの笑顔はどこへやら。

 ふうん。と、興味なさそうに息が漏れて、静かに瓦版を見つめる。

 爽やかな風が彼の黒髪をさらっていき、無機質に鈍く光る瞳を隠した。


「魔王討伐、ねぇ」


 そう。彼が魔王である。

 そして異世界人でもある、らしい。

 証拠を見せてあげるよ!と先日、魔王のみが使えるという死の魔法を唱え、畑を荒らしまくっていた害獣を一瞬のうちに全滅させていた。

 それを見た町長も私も唖然。

 シュウは苦笑し、肩をすくめて両手を上げる。どうやら異世界での、敵意がないというアピールらしい。

 町長はそのまま気絶してしまったが、今ではシュウにも普通の少年として接しているあたり、とても肝が据わっていると思う。私も人のこと、言えないけど。

 彼自信も、こちらにとても友好的にしてくれるから、今まで問題は起こっていない。

 むしろ彼のおかげで魔物も寄り付かず、今日も平和だ。


「シュウ、どうするの?」

「とりあえず様子見かな。……でもさ、さすがに国王も何考えてるんだろうね。

 他国への権力誇示?意地?

 そんなもののために僕も勇者も利用されるんだと思うと、なんかイラっとくるね」


 シュウ付近の気温ががくっと下がる。

 口元は弧を描いているけど、目が、目が笑ってない!

 シュウの持っている花束の花弁に所々霜が降りている。

 こ、凍ってる……。


「魔王っぽく、恐怖感植え付けるために従者の1人でも殺してみる?

 ね、雰囲気でるでしょ」

「笑顔で恐ろしいこと言わない!

 ほら、とにかく、その花をシスターに届けに行きなよ。きっと待ってるから」


 ぽん、と背中を押すと、思い出したかのように慌てて花を確認して、霜を取り払う。

 枯れなかったことに安心したのか、ほっとしたように抱えなおした。

 黒い瞳はもう暗い色を内包しておらず、澄み切って私を映してくれたことが嬉しかった。


「そう、だね。うん。行ってくる」

「いってらっしゃい」


 石畳の道を転ばないように注意しながら、孤児院へと走っていく後姿を眺める。

 シスターは彼が魔王だと知っている数少ない人の1人であるから、きっと勇者が来ることについてのフォローをしてくれるだろう。

 問題なのは。

 先ほど彼が笑顔で告げた言葉を反芻する。


『魔王っぽく、恐怖感植え付けるために従者の1人でも殺してみる?』



 ☆


 数日後。

 勇者の従者一人(いいところの貴族だったらしい)が

 眠るように息を引き取ったのだと、風の噂で聞いた。


 シュウ……まさか、関与してないよね?



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