第1話
一次創作難しい……
どうしても、説明文多目になっている気がする。
二次創作は、原作の設定を読めばいいから1から10まで説明しなくても伝わるけど、一次創作はそうもいかない。
「おお、着いた着いた。懐かしいな。里帰りなんて何年ぶりだろ」
「ここがご主人様の故郷ですか~。冬だっていうのにずいぶん暖かいですね~」
そりゃ、北国に比べれば暖かいだろ。
なんせ、今いる場所は大陸の最南端の国なんだから。
煙幕に突入した後、俺に密着したパッフェルと一緒に古代魔法【テレポート】を使って、大陸の最北端から最南端まで転移したというわけだ。
煙幕で視界を遮ってあるから、転移したことはまずわからない。
向かう先は関所、そしてその先は魔族の大陸。
魔族の大陸に行ったと思い込んで大陸を渡っても、俺たちを見つけるなんて不可能だろう。
俺たちはそこにいないんだから。
でも、追っかけ達は大陸の手前で見失ったことから、関所を抜けた場面が見えなくても大陸に渡ったと勝手に思い込むはずだ。
何より【テレポート】は古代魔法でも上位レベルの魔法だし、習得難易度も高い。
まず、俺が【テレポート】を使った。と言う発想は出てこないだろう。
その可能性を考えるくらいなら、何らかの方法で関所を超えた可能性の方がよっぽど現実的だ。
いやー、長かった。
魔剣を手に入れて、しつこい勧誘や襲撃が始まってから早1年。
冒険者になったのは故郷からだいぶ離れた国だし、故郷のことは誰にも話してないから故郷を訪ねることも出来ない。
さらに念を入れて、わざわざ最北端まで移動して行方を眩ました。
ここまでやれば、さすがに追っ手はないだろう。
というか、ここまで追いかけられたらキレない自信がない。
ストーカーに全力で魔法をぶち込んで、跡形もなく消し飛ばしてしまいそうだ。
「それで、これからどうするんですか~? ご実家に行くんですか~?」
街に入って、宿屋を目指しているとパッフェルがそう聞いてきた。
「ん? ああ、そういえば教えてなかったっけ。俺、孤児なんだよ」
「へ?」
「子供の頃に両親が死んでな。しばらく、路地裏で孤児やって、師匠に拾われて住み込みの弟子になったんだよ。で、一人前になってからは負担にならないように師匠の所を飛び出して、冒険者になって独り立ちしたんだ」
「……申し訳ありませんでした」
「ああ、気にしなくていいぞ。両親のことはとっくに吹っ切ってるし、師匠が親みたいなものだからな」
何より、同期の奴らがハチャメチャでな、感傷に浸かる暇なんぞなかったからな。
気が付いたら吹っ切ってたというか、完全に忘れてた。
「それで、当面はその先生の所にお世話になるんですか~?」
「いや、できるなら頼りたくないな。それじゃあ何のためにさっさと独立して冒険者になったのかわからないだろう? 幸い当面の生活費はあるし、何か仕事を探すさ。冒険者は足がつくかも知れないけど、ギルドを経由しない仕事なら魔剣と力さえ隠せば大丈夫だろ。魔剣なしでも腕に自信はあるしな」
魔剣を手に入れる前でも、師匠の教育のおかげで実力はあった。
もっとも、マイナーな魔法だったから都会の冒険者パーティーには入れてもらえず、1人で冒険することが多かったっけどな!
あ……自分で言って涙が……
「ん? 今のは……もしかして、アルディオ?」
「え?」
ちょっと自分の境遇に泣きそうになりながら宿を探し歩いていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
振り返ると、そこにはエルフの男が買い物袋を抱えて立っていた。
いくら辺境とは言え、それなりに広い街なのにどうしてこうもあっさり再会するかなぁ……
「一体いつ帰ってきたんだい? 帰ってきてるなら教えてくれてもよかったのに……」
「いえ、その……ついさっき戻ったばかりなので! ええっと、お久しぶりです。師匠」
「久しぶり。何年振りくらいかな。アルディオと再会するのわ」
ええっと、成人してすぐにここを離れてから4年。魔剣を手に入れて逃げ始めてからさらに1年。
もう5年か……
「で、そちらのお嬢さんは誰かな? よければ紹介してくれないかい?」
「初めまして~、ご主人様にお仕えしておりますパッフェル・ベルと申します~。気軽にパッフェルとお呼びください。なんならちゃん付けでも~」
いや、歳考えろよ。いくらなんでも『ちゃん』はないだろ。ちゃんは。
「ご主人様~? いま何か失礼なこと考えませんでした?」
「イエ、ナンデモアリマセンヨ?」
やっぱり、読心術出来るだろ。お前……
「ははは。仲がいいね。さあ、何もないところだがどうぞ」
師匠につかまってアレコレと独立してから今日にいたるまでの話(魔剣関連はなし)をしながら後をついて行ったせ。
すると、いつの間にか師匠の家の前に着いていた。
何を言ってるのかわから……りますよね。
ああ、そうだよ! のこのこ付いて行って自宅にお呼ばれしちゃったんだよ!
師匠のことだから、きっと泊って行けとか言うんだろうしな……。
「って、デカっ!? え? ここが師匠の家?」
目の前に建っているのは、かつての住み慣れた一軒家ではなくどこかの豪邸と見間違うような豪邸だった。
「アルディオは知らなかったんだっけ? 実は2年ほど前にちょっとね。ああでもあそこは私の家と言うわけじゃないよ。あれは『学院』の寮だからね」
学院? 寮?
「この都市に魔法学院があることは知っているね?」
「え、ええ。俺は行ったことないですけど」
この都市は大陸中央部にある魔法の盛んな大国には劣るが、大陸南部ではおそらく随一だ。
そもそも、南部諸国に魔法を教える学校が他にあるかどうか。
貴族は大抵家庭教師として魔法使い(マジックユーザー)を雇うし、個人で教えるレベルでは自宅を使った私塾規模がせいぜいだろう。
都会に当たる大陸中央部でさえ、魔法大国か軍事大国以外で魔法学院など見たことがない。
そんな魔法学院がこの国には3つもある。
その中でも有名なのが、『グロワール高等魔法学院』通称『学院』。
他の2校とは比べ物にならないほど優秀な生徒が集まる学院で、もっぱら貴族が富豪の子息子女が通う。
貴族は大体魔法の適性が高いからな……
あとは、箔付けっていうのもある。この学院だけは、大陸中央部にも名が轟くほどだ。
もっとも、轟くようになったのはまだ最近だが。
「学院の拡張に伴って、私の家と持ってた土地を売ってほしいと言われてね。さすがに先祖代々の土地だから売り払うわけにもいかなかったから、一部を貸す代わりに妖精魔法の学科と住居を用意してもらったんだよ」
「で、今はこのデカい寮で暮らしながら学院で妖精魔法を教えてるんですか?」
「そうだよ。と言っても、相変わらず生徒は極僅かだけどね」
そう言いながら師匠は苦笑した。
妖精魔法は、魔法の中でもマイナーな部類で使い手も少ない。
ある程度の才能と努力でどうこうなる古代魔法やその派生魔法、信仰心次第で扱える神聖魔法と違って、妖精魔法は完全に才能に依る。学んで努力してどうこうなる物じゃない。
妖精魔法に求められるのはただ一つ。妖精との親和性だ。妖精魔法は妖精と契約することで初めて扱える。
妖精にはぞれぞれ属性があり、使い手は親和性のある妖精としか契約できないし、契約できる妖精の強さも親和性の高さに影響される。
親和性は努力でどうこうなるものじゃないし、属性も生まれた時からすで決まってそれが変わることはない。
火の適性しか持っていない者は、火の妖精としか契約できず、親和性が3しかなければ、3の妖精までしか契約できない。
これが、使い手が少ない理由だ。ランクが低かったり、決まった属性の妖精としか契約できない。
そんな偏った魔法を学ぶくらいなら、努力や信仰心次第でどうにかなって汎用性の高い古代魔法や人々から求められる神聖魔法の方が親和性が低い者にとっては有用だろう。
「さ、ここが私の部屋だ」
寮の中は静かだった。
他の教職員がいない所を見ると、授業中かな?
もしくは、よっぽど妖精学科とやらが暇なのか……たぶん後者だな。
「……相変わらずですね」
「これはひどいですね~。足の踏み場しかありませんよ?」
部屋の中は本が散乱していた。
よく見れば、点々と飛び石のように足場らしき場所が空いている。
かつて一緒に暮らしていたことによく見た光景だ。
懐かしい反面、またこのアスレチックもどきをやらなきゃいけないとは……
「い、いや、ここは仕事部屋だからね? 向こうの寝室とリビングはちゃんと片付いてるよ?」
「寝室には丁寧に積み重ねた本の山脈、リビングは本を汚さないから持ち込まないだけでしょう?」
「う゛っ……」
どうやら、独立する前も何も変わっていないらしい。
「じゃ、じゃあ、私はお茶の準備をしてくるから、そこら辺で寛いでいてくれたまへ」
おかしな口調でそそくさとリビングに逃げ込む師匠。
飛び石のような足場を気にするこもなく、すばやくリビングへ消えた。
「そこら辺ってどこでしょうね~?」
見渡す限り、足場以外は本の海。
「俺たちの仕事は、まず寛げる場所を作ることからだな」
「ですよね~」