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神聖独劇  作者: さとう
第三章――静寂の地平
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信仰の喪失

 人類のすべての罪をその痩せた体で背負い、異端の者として殺された聖人がいた。彼は人類最後の時間に再び姿を現わし、迷える魂たちをよき世界へと導く救世主として崇め奉られている。

 その救世主が殺される前に人々に説いたことがあった。正しき道は善き行いのもとに、選択することを許される自由の未来は確固たる意志のもとに、希望の光は未来を信じる者に降り注ぐ、などといった具合に、すべての人に眠る善意を喚起する内容であった。

 さらに厳密に規定するための戒律もいくつかあり、

  一・人を殺すな

  二・人を敬え

  三・人を欺くな

  四・人を犯すな

  五・人を愛せ 

 などの戒めが掲げられている。もし戒めを破ったなら地下に閉じ込められ、光を仰ぐこともできなくなるといった罰もあった。時を越えた今では、その教えが世界中に広まり、教えと救世主に信仰が集まっている。

 信じる者は自由や希望を獲得出来るとされた。そして教えを守らないと厳しい罰が待っている。信仰により倫理の道が開かれ、道徳の源泉となっていたのだ。


 しかし、ある日のこと、人々の心に妖しい霧がかかり、信仰の心に穴を穿ち、ぼろぼろと崩していった。人は皆、新たに目覚め立ち上がり、盲目な信仰だったと、教えを守ったところで誰が希望や自由を与えるのか、かつての救世主もいないのに誰が罰を下すのかと考え始めた。

 一度疑い始めると、宗教は胡散臭くなり、信じるだけ無駄なことだという考えが広がった。

 

 そして、待つだけじゃ未来は来ない、自らの手で奪いとるものだと考え方が変化していき、やがて、信仰という倫理の繋ぎが切れ、行動に出るものが出てきた。

 一人が行動を起こしたら止めるものは居なくなり、我先にとあらゆる手段を使い、欲望のままに汚れた希望と歪んだ自由の獲得に乗り出した。

 

 正しき道は消え失せ、狂気に彷徨い、利己や私欲のためだけに動き、他のこと一切をやめてしまった。世界に倦怠と背徳の空気が蔓延し、着実に衰退を始めた。

 人々に残されたものは頽廃と破滅の道だけになり、静寂の地平はもうそこまで来ていた。

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