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崇拝の喪失
青年は急進派地下組織の熱心な支持者の一人であった。
特に彼は組織の指導者である人物の思想や哲学に心酔し、親以上の尊敬と憧れの念を抱き、神以上の存在だとして崇拝している。
ある日、いつものように集会へと出掛け、彼の言葉に酔いしれようとしたが、なぜか足が進まなかった。それどころか、今まであんなにも高貴で神聖な存在だったものが、どうでもいい存在へと変わっていた。
首領の存在が馬鹿馬鹿しく思え、さらに、集会や組織自体が過去のものとなり、属していたことや心酔していたことが恥ずかしくなった。
そして問題は前を見つめたときに発生した。
“自分から組織が無くなったら何が残る?”
成長の著しい若い時期に、あまりにも熱心になりすぎて他のことが疎かになっており、年齢の割に一般常識がおぼつかず、組織で培われた偏った知識しか残っていない。
さらに、何か別なことに情熱を燃やす意志までもが削がれ失われていた。
青年の胸には大きな風穴が開き、寂寞の風が吹き抜け、空白の未来をただ傍観するだけであった




