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神聖独劇  作者: さとう
第一九章――英雄奇譚
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英雄伝

 幾多の戦場で血肉の花を咲かせてきた剣を腰に差し、代々伝わる気高き槍を握り締め、聖騎士は愛馬に跨がると東へ急ぎ走らせる。

 赴く先は雷鳴の轟く黒雲。不安を孕み吹き付ける暴風、無情にいたぶる暴雨はその身を冷たくする。しかし、神への怒りと怨嗟は紅蓮の炎と化し、心から燃え上がると、その炎は全身を巡り熱く滾らせる。

 やがて、禍々しく渦巻き、ゴロゴロと唸りをあげる巨大な黒雲近くへ辿り着くと、長きに渡る友を解放し、遠くへ駆けるのを見送った。

 友が見えなくなると雷鳴に向かって言葉を放つ。


 ――聞くのだ、いと高きものよ! 今から私の命を懸け、この槍と剣に誓い、運命の道と縛られない平和を人の手に取り戻すため、あなたに挑む! いざ尋常に、参らん!


 言葉を終えると英雄は黒雲の中心下へ向かい駆け出した。同時に世界をつんざく雷鳴が轟いたが、彼は怯むことなく走った。

 天は威嚇が無駄だと認識したのか、次には騎士目掛けて稲妻を落とした。彼は槍を振り回し稲妻を弾くが、槍は砕け折れ、使い物にならなくなってしまう。

 槍を打ち捨てると腰の剣を抜き、雷光に視界を奪われようが走りを緩めることなく、極限まで研ぎ澄まされた感覚をもってして稲妻を紙一重で避けた。

 そうして目的の中心下へ辿り着くと天を仰ぎ声を荒らげた。


 ――私はここにいるぞ! 見えない鎖によって自由を奪う威光、束縛の呪詛を紡ぐ言葉、隷属の象徴として統べる信仰心……それらを御名から解放するときが来た! さぁ、その姿を見せるのだ! あなたを葬り、ついで運命も消し去ろう!


 天に向かい英雄は大声を上げる。威嚇する剣の切っ先を黒雲に向けじっと返答を待つ。

 暫しの間があったあと、今までにない強い光が瞬いた。覚悟を決めた騎士ですら、瞼を閉じ顔を背けるほどに強烈な光であった。次の瞬間、音の無い雷が彼を貫いた。

 稲妻は心臓を抉り、魂を引きずり出すと、それを鷲掴みにして深淵を内包する黒雲へ投げ入れた。英雄の魂は己の肉体が無念に果て崩れ落ちるのを高き位置より捉えた。


 それも束の間に、魂は深淵を落下し始め、それから永い時を微睡み、その中で数々の物語を見た。絶望の中で這いつくばり彷徨うもの、狂気に触れ堕ちゆくもの、歓喜に溺れるもの、希望に導かれるもの、すべてのものが光に向かって進む。

 やがて終わりが訪れると、永遠の光に輝き、世界を照らす存在となって彼は再び生まれた。

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